「…………」

 蒼装束の女は一度だけ瞳を伏せ、内でふっと息をついた。どう考えても、このまま戦ったとて面白いことになりそうにない。いや、日和を「知る」面白さはあるが、倒すという戦いの面白さはすでに無く困惑だけが膨らんでいた。できうるなら、内の苦しい戦いなどあまりしたくはない。

(いや)

 と、蒼装束の女は思い直し瞳を開いた。そもそも、なのだ。そもそも、こちらは戦いと臨んでいたが果たして相手はどうだったか。日和は戦いを臨んでいたのか。その心底は――

「童女。お前は何をしにここへ来た?」

 蒼装束の問いに日和は笑みを消し……少しだけ、ほんの少しだけ間を空け、凛と答えた。

「戦いに」
「嘘だろう」

 蒼装束は見逃すことなく即座に否定した。自ら触れ戦ったからこそ分かる。この童女は真っ直ぐすぎるほど純粋で偽りをできぬ人間だった。だからこそ確信を込めて続けた。

「視線に圧はなく、殺気すらない。戦う気配すらない」

 向けられる鋭い視線に日和は困ったように視線を落とし、そして、

「そうですね」

 静かに頷いた後、ニコリと微笑んだ。

「戦いには来たのですが、出来得るなら傷をつけるようなことはしたくないと思っていました」
「何故」
「傷をつけるのは好きではありません」

 続けての問いに、日和は迷いなく答える。その瞳は本当に真っ直ぐで、心底から思っている言葉だった。