(だとすれば)
やはり、そうなってしまうか――灯澄は組んだ腕を離し、静かに、だが、深く吐息した。
我らは、妖では月代とは会うことすらできない。ならば、鍵は日向の力量、器次第、となる。どれだけの人物に成り、場を収められるか。もちろん、我らは支える。だが、すでに我らの中心は日向だった。
心配をして信を置けず、日愛の時のような失敗はもうしない。日向は我らの当主。我らは信じ、仕える。
「…………」
灯澄は切子を手にし、残っていた酒を一気に飲み干した。
トッと置き、月夜桜を見る。あの夜――日向が舞った桜舞の花へと。
まずは、これから。妖、月代の動きを警戒しつつ、日向の傷の癒えと日愛の目覚めを待ち、そして、日向へと話す。
時はすでに動いている。妖も月代も待ってはくれない。日向にはもう一度、決断してもらわねばならない。
これから歩む道――日向の進む道を。
――――――――――
――日愛は、優しさと暖かさに包まれながら静かに瞳を開いた。
暖かい――気持ちのいい温もり。また、眠たくなる。
ずっと、こうしていたいけれど――でも、今は少し我慢して眼をこすった。夢でないのなら、お話したかった。呼んで、ぎゅっと抱きつきたかった。
「ははさま……」
日愛は僅かに唇を開け、小さく囁いた。聞こえたかな、応えてくれるかな――
「――日愛」
優しい声が直ぐ近くから聞こえ、自分の頭を撫でてくれた。
ああ、やっぱり夢じゃなかった。よかった、これでまたずっと一緒だね――
「ははさま」
日愛はもう一度名を呼び、そして、応えてくれた人の着物をぎゅっと握り、顔を見上げた。
「日愛、おはよう」
「……ははさま……ははさま」
日愛は母にぎゅっと抱きつき、胸に顔を埋めた。
「日愛」
抱きつかれた母も呼びかけに応え、日愛をその腕に包み込む。お日様のように暖かくて、小春のように柔らかく、花のような優しい匂いのするははさま――
安らぎを与えてくれるその胸に自分の身体の全てを包まれ、日愛はますます強く抱きついた。