この家に来た時に感じた人の温もり。綺麗に掃除され整えられた部屋、清潔にされていた着物や布団、用意された米や山菜、自分たちを迎える準備の全てをスズがしてくれていたのだろう。そんな細やかな心遣いはスズの優しさや誠実さをよく現していた。
そのことを知り、日向もまた改めて姿勢を整えるとふわりと微笑み頭を下げお礼を伝えた。
「改めて、お礼をいわせてください。お世話になりました、ありがとうございます」
「いいえ、そのようなことは……それに、お世話をするのはこれからです」
「では、スズさんも……」
「はい、わたしも共に参ります。いえ、共にいさせてください」
「スズさん……」
「わたしだけではありません。今は散り散りになっていますが、あなたのお母様、日和様にお世話になった妖はたくさん居ります。いづれ慕って集まってくるでしょう」
「……そうですか」
日向は、少しだけ……ほんの少しだけ瞼を伏せると、見つめるスズに向かい重ねて御礼を伝えた。
「スズさん、ありがとうございます。宜しくお願いします」
「日向様……」
スズと……灯澄と燈燕は日向の僅かな変化を咄嗟に感じ取っていた。普段が名のように日向のような優しく暖かな雰囲気だけに、少しでも陰りがあると暗雲に包まれたように悲しく寂しく映ってしまう。
自身だけのことならば笑顔で耐えられただろう。または、日愛や灯澄、燈燕、陽織だけであれば迷いはなかったはずだ。だが、今回のスズの話は先程とは大きく違った。自身の非力を知っているからこそ、そして、優しく責任感の強い日向だからこそ逡巡した。月代と母の話を聞いた後だけに尚更。
「我らのことはお気になさらないでください」
日向の表情を見てそのことを知り、スズは嬉しく愛おしくなる気持ちとともに言葉を続けた。