「…………」
日和は黙った。灯澄だけではない、皆の気持ちは痛いほど分かっている。
「ありがとうございます。そのお気持ちは共にあります、ずっと……」
だけれど、だからこそ……皆を不幸にするわけにはいかない。自分のことをこんなにも考え慕ってくれるからこそ、ここで……そう、ここで因縁を絶たねばならない。月代家との縁を、自らの代で。皆が自由に生きていけるように。
日和は一度瞳を閉じ――ゆっくりと開けた。
「灯澄さん、お願いします」
凛、と日和の声が鳴る。多くを語らず、その一言に全てを込めて。
日和の視線、声、姿――伝わる心、その強さと覚悟に。
「……どうあっても、一人で行くというのか」
「はい」
「例え、死ぬと分かっていても」
「はい」
――灯澄はもう何も言えなかった。これ以上は日和の心を裏切ることになる。生き方を汚すことになる。だから、灯澄は黙り、僅かに俯いた。悲しみと覚悟を受け止め、虚無に包まれそうになる自身に強く言い聞かせながら。
「――納得できぬっ! できるものかっ!」
灯澄が黙ったことを受け、燈燕は立ち上がり、纏っている着物、袴と同じく瞳を紅に染め、その激情を吐き出した。
「お前を殺すことなどさせぬ! お前を害するというのなら!!」
燈燕の紅が深と暗くなる。それは決して染まってはならぬ黒焔。だがしかし止められず、燈燕は重く沈んだ言葉を放った。
「月代を皆殺しにするまでだ。我ら全てを合わせれば、例え月代であろうと敵わぬ。日愛がいれば――」
「日愛に殺しをさせるおつもりですか」
「っ!」
息を飲む燈燕――日和は静かに、真っ直ぐに視線を向けた。穢れのない貫くような瞳で。
「答えてください。そうなさるおつもりなのですか」
日和は再度問いかけた――そして、
「もし今の言葉に偽りないのなら、いくら燈燕さんでもわたしは許しません。それを行うというのなら、まず始めにわたしを殺しなさい!」
肺腑を貫くように日和の凛とした声が静寂に響いた。飛燕から瞳を外さず、強く見つめたまま。