灯澄、燈燕、日愛と出会ってからの毎日――それは、日和にとって本当に幸せな日々だった。何より、日愛のおかげで妖と戦うことが少なくなり、大人しく退いてくれる者、友となってくれる者が多くなった。
今では妖と共に過ごすことが日常となっている――それが月代に叛くことと分かっていても、日和には大切な友人たちであり大事な生活だった。
だけれど……だからこそ、
「大小母様の恩、月代家への恩、そして、皆さんの恩……わたしに恩返しをさせてください」
これは、自分の我侭――そう知っていても、日和は願い頭を下げた。灯澄へ、燈燕へ、日愛へ、そして、陽織に向かって。
「……恩返しなどしなくていい。我らは、お前と共に居たいだけだ」
「ありがとうございます。その言葉、本当に嬉しいです……ですが」
日和は頭を上げ、今一度灯澄へと視線を向けた。辛い問答……お互いに苦しいと分かっていても、なお話さなければならない。伝えなければならない。
自分の気持ちを、退けぬ覚悟を――だから、日和は言葉を続けた。
「わたしは、悲しみを増やしたくありません。今、上首と会わなければ、謀反の恐れありとしてここへと押し寄せてくるでしょう」
「ならば、逃げればいい」
「逃げれば追われる身となります。安まる時はなく日々を怯え、そして、いずれ争いとなる。皆さんにそんな思いをさせるわけにはいきません。当主として」
「だがっ!」
灯澄は思わず声を荒げた。日和に掴みかかりそうになる身体をぐっと押さえ、奥歯を噛み拳を握り声を絞り出す。
「……だが、我らは、お前の一族はそれで良いと思っている。日和と共にならば」
どうしてそれが分からない!――灯澄は内で叫び、日和を見つめた。