「――――」
日和は弥音の出て行った後を見つめ――そして、深々とお辞儀した。
開け放たれた障子から、陽の閃光と穏やかな風が入ってくる中、日和はそのまま頭を下げていた。
心で謝し、お礼を言いながら――
――――――――――
「――やはり、考えていた通りであったか」
灯澄は腕を組み、静かに囁いた。時は夜、弥音が帰った日のことである。
布団にいる日和の周りに四人――灯澄、燈燕、陽織、そして、日愛。
大事を話す時は常にこの五人で話し決定をしていた。妖が関わることならば尚更。人間とは違い、妖の場合は格を優先させる場合がある。
日愛は天逆毎姫の血の者、月隠家と共に居てくれる妖の中では一番位の高い者だった。逆に言えば――日和の存在ももちろん大きいが、日愛が居る為、月隠に妖が集まり従っているともいえるかもしれない。
いや、日愛を治めた日和だからこそ、皆が慕い従っているのか。ともあれ――
「月代家からの呼び出しか……逃げられぬとは分かってはいたが、ついに来たというべきか」
「限界が来たのだろう。相手が近づいても来ないことをいいことに、何とか時を延ばしてはいたが」
息をつく燈燕に応えつつ、灯澄も沈む心を抑えられなかった。甘く考えていたわけでなく、覚悟もしていたが……出来得るならば、このまま時が過ぎればいいと望んでいた。叶わぬ願いと分かっていても。
「日和様……」
「わたしは大丈夫です」
陽織の呼びかけに、日和は一度瞳を閉じ僅かに頷いた。
日愛が不安そうに日和を見上げる。幼き身ながらも聡い子、いつもは童女のように遊び天真爛漫で元気な日愛でも、このような時は大人しく話を聞いていた。
その頭を優しく撫で、日和は灯澄と燈燕へと視線を向けた。
「灯澄さん、燈燕さん。お話ししていたように」
「……繰り返しだな」
灯澄は苛立ちを内に込め、静かに呟いた。