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 今までとは違う感覚に、思わず蒼装束は右足を起点に後ろへ左の回し蹴りを放っていた。顔に来る踵を、背に添えていた左腕で受け、日和はまた一歩、タンッと後ろへ退く。

 僅かだが、身体の感覚におかしなものが混じっていた。しかし、蒼装束は回し蹴りを戻す形で右足を前に左足を後ろにし、もう一度踏み込む。まだ違和感は明らかにしていない。力量を試せてもいない。
 鋭さを増させる。首を狙い放った拳は日和に捌かれるが、青装束はなお踏み込んだ。間合いを空けず、逃がさぬように日和の足へ自らの足を付ける。打ち合いを避けるなら足を付けられるのは嫌がるかと思ったのだが、日和は退かずに足を止めた。
 顔、首、胸、鳩尾。腕や足を鈍らせる為に肩や膝も狙う。日和は受け、弾き、流し、捌いていくが、度々、後ろへと退いた。自分の間合いに誘う為の退きではなく、明らかに避けるための退きで。

 それで、分かったこともある。間を外されていると思っていたのだが、日和は戦いを有利にする為に間を外していたわけではない。日和の戦いは純粋過ぎるほど真っ直ぐで、邪気がまったくなかった。駆け引きも狡猾さもまったくない。戦いに策を用いることなく、相手の全てを受ける戦いをしている。
 そこまで感じ、面白い、と思う反面、

(危ないな)

 とも蒼装束は思った。相手の全てを受けるのは余程の器がないとできぬことだが、例え全てが入る器でも器自体が壊される時もある――