凛さんに相談なしで危ない『あやかし』退治をした、ということで僕たちは罰として龍哉くんのおじいさんの道場で稽古と掃除をすることになった。
「ほら、入りなさい。」
大きな道場だ…。
「ただいま〜…」
龍哉くんが渋々入る。
「遅い!声に覇気がない!しっかり挨拶せんか!」
道場にいかにも厳しそうなおじいさんが立っていた。おじいさんとは言うものの背筋はまっすぐ伸びていて、上背もある。髪も後ろに撫でつけられていて、見た目が若い。怖い武道担当の体育の先生とかを連想する見た目だ。
「お久しぶりです。青山先生。」
「うむ。武、久しぶりだな。」
武くんが礼儀正しく挨拶する。
「あの…初めまして!四方 聖仁と申します!」
緊張しながらなるべく無礼のないような言葉を選んだ。
「おぉ、元気がいいな!龍哉から聞いている。聖仁くんだな?今回、3人で無茶したらしいな。」
龍哉くんのおじいさんが、一瞬、驚いた顔をしてから笑った。あ、ちょっと龍哉くんに似てるかも。龍哉くん、僕のことなんて話してるんだろう。
「武と聖仁くんは家に電話しなさい。今日はうちで飯を食うといい。ご両親が心配していそうなら私から説明してもいい。」
龍哉くんのおじいさんが言った。
「はい、道着に着替えて。」
龍哉くんのおじいさん…青山先生の隣に立っていた朱音さんが僕たちに指示をした。
「青山先生、よろしくお願いします。」
「任された。朱音はどうする?」
「あたしは一度学校に戻って凛とまた来ます。」
「2時間後に夕飯を準備するからそれくらいに来なさい。」
「分かりました。」
テキパキと僕たちを預け、朱音さんは帰っていった。僕たちは道着に着替える。
「着方、分からない…。」
「しゃあねぇな。見てろよ?こっちを前にして、こうして〜」
「俺たちは授業で着たりするんだが、聖仁は前の学校でなかったのか?」
「うーん…選択授業で…陸上とか選んでたかも。走るのは苦手じゃないから…。」
もたもたと着替えて道場に戻る。
「木刀を持ちなさい。素振りから。」
3人で木刀持ち、素振りをする。流石に龍哉くんは手慣れたもので涼しい顔をしていたし、武くんは力強い。僕はといえば
「聖仁くん、振り下ろす角度が浅い!もっとしっかり振り下ろすんだ!」
「はい…!」
腕が重い…。そのあとも打ち込み稽古などをする。
「休憩!休んだら掃除!」
青山先生がそう言ったときには僕は畳に突っ伏していた。だくだくと汗が流れる。僕は明日、無事に体は動くんだろうか…。
「おい、聖仁、大丈夫かよ。」
僕と違い爽やかな汗をかいた龍哉くんが話しかけてくる。
「ぜぇ…はぁ…なんとか…」
「素人にしては体力がある方だな。」
武くんも近寄ってきた。
「そういや…ぜぇ…武くんは…はぁ…」
「息を整えてから話せよ。」
龍哉くんに言われたので深呼吸をする。少し時間をおいた。畳に寝転んだまま武くんに話しかける。
「武くんはラグビー部ってこと?龍哉くん、今日言ってたよね?」
「そうだ。俺はラグビー部と書道部の助っ人だ。」
「えっ、2つ部活に入ってるの?しかも助っ人で?」
「ラグビー部は俺のガタイをみて分かるだろうが、助っ人を依頼されて入っている。書道部は家の都合上、お札や御朱印などを書くこともあるからな。そういうのも必要ということだ。ただラグビー部も入っているから毎日行けないことも多いと話したら助っ人を勧められたんだ。」
「そうなんだ。」
武くん、多才だな。確かに武くんをみたら、書道部だけだと勿体無いって運動部はいいそうだ。1人でうなずいていると道場の入り口から青山先生が叫んだ。
「話しながらでいいから、次は掃除!」
僕と武くんは走って掃除道具を取りに行った。龍哉くんは頭の後ろで手を組んでゆっくりと歩いていて青山先生に叩かれていた。痛そう。
「他にも聞いていい?」
「どーぞ。」
「ここまで関われば気になることもあるだろう。なんだ?」
僕が話しかけると、2人は手を止めずに答えた。
「加護のこととか…あと血筋って言ってたよね…?武くんも凛さんも言ってたし。」
「あぁ…それな。」
龍哉くんはちょっと武くんを睨んだ。武くんは少し申し訳ない顔をした。龍哉くんは、ふぅ…と一旦手を止める。
「加護を受ける人間は四神が基本って話はしたよな。」
「うん。凛さんの麒麟は100年に1度いるかいないかなんだよね?」
「そう。だから基本は四神。んで、瑞桃の町は学校を中心に『あやかし』が出やすいんだよ。」
瑞桃の町というのはここの地名だ。そして、地域で1番大きな学校が瑞桃高等学校附属中学校。
「人が多いから、だよね?はじめに凛さんが言ってたやつだね。」
「そうそう。『あやかし』が出やすいせいか瑞桃には5年おきに加護を与えられるものが存在する。そして学校や地域を守るんだよ。四神に加護を与えられた人間はその力を持つ者として、四神を名乗る。」
「でも5年ってことは学校に先輩はまだいるよね?」
「そう。武のねえちゃんは5歳上だから先代の玄武。まだ学校にいる。」
「その人たちはどうなるの?」
「先代は当代…今のオレらに引き継ぎとサポートをする。加護は受けると基本は力を失うことはない。けど、当代に引き継いだ後は、この地域ではない場所で活動したりするようになることも多いんだよ。だから、この地域を守るために継承してるんだ。ここに残ってる人もいるにはいるんだけどな。」
「俺の姉も実家の神社で巫女をする予定だから卒業後も残るしな。」
武くんが言葉を挟むと、龍哉くんはニヤリとした。
「残ってくれるの嬉しいんだろ?シスコン。」
「なっ‼︎…龍哉‼︎」
武くんが大声を上げたときにさらに大声で青山先生が叫んだ。
「手を動かせ‼︎」
龍哉くんは肩をすくめながら僕をみて話す。
「そこのおっかねーじじいもずっと前の瑞桃の四神だよ。」
「えっ‼︎青山先生も!あっ…それで血筋…」
青山先生が入り口から歩いて僕の目の前まできた。
「そうだ。60年近く前になるがな。わしも青龍の加護を受けた四神の1人だった。四神の加護を与えられる人間は歴代加護を受けた者の血族が多い。おそらくだが神が愛する血筋ということなのだろうな。」
「じゃあ、他のみんなも…?」
龍哉くんを振り返る。
「うちはじいちゃんとオレが青龍、従兄弟にも四神はいるぜ。朱音は兄貴が四神だ。」
「俺は姉と曾祖父さんがそうだったと聞いている。他にも遠縁にもいる。晶は…確か母親がそうだった気がするな。」
それで血筋が、と言ったのか。
「ということは凛さんは家族に四神がいないの?」
「あぁ、凛は血族に四神はいないし、麒麟の加護を受けた人もいないぜ。」
龍哉くんが言った。
「でも血筋で選ばれること多いなら学校に入る前に分からないの?次は自分の兄弟だ〜みたいな。」
青山先生が首を振る。
「それは出来ない。先代が当代を見つけることができるのは瑞桃高等学校附属中学校でだけだ。四神の力が強まる校内でお互いが引き寄せられるんだ。先代が存在することがない麒麟はまた別なんだがな。」
そうなんだ。小さい頃から血筋だからと思っていても学校に入るまでは分からないのか。青山先生が続ける。
「四神は血縁者が選ばれることが多いが、それ以上に加護を受けるに値する人間がいれば、そちらが選ばれる。選ばれた後は本人が加護を受けるか選ぶんだ。」
「えっ、もう選ばれたら決まりじゃないんですか?」
「大半は加護を受けることを選ぶ者が多いが…本人の意思なく力を与えられるのは加護じゃなく(のろ)いのようなものだからな。本人が意思なく力を与えられて人を守ることを強制されることはあってはならない。」
青山先生が噛み締めるように言った。武くんが説明を続けてくれる。
「継承自体は先代がする。一度だけ、継承の際に青龍、玄武、朱雀、白虎の四神が目の前に現れ、武器を授けてくれるんだ。」
「えっ!てことは見たことあるんだ⁉︎」
すごい!伝説の生き物を見たの⁉︎最近『あやかし』を見ることはあったけど、伝説の生き物となると興奮する。さらに話を聞こうとしたところで、道場の扉が開いた。
「罰は終わったのかしら?」
朱音さんが冷ややかに入ってくる。その後ろを凛さんが少し隠れるようにして歩いていた。すすすと青山先生の前に行く。
「青山先生…お久しぶりです。」
「凛、相変わらず体力があまりもたないらしいな。ヒダル神の話聞いたぞ。晶もだが、お前は体力が足らん!雑巾掛けして体力をつけなさい!」
「びぇっ!やだ!」
凛さんが逃げようとした瞬間に青山先生が足をかけた。転ぶ凛さん。
「びぇぇぇん!私、様子見に来ただけなのに!」
「凛⁉︎青山先生!あたしが雑巾掛けするので!」
「昔から言ってるが、朱音がしても凛に体力はつかんだろう!凛にやらせなさい!」
凛さん、朱音さん、青山先生の3人が騒ぐ。そして凛さんは朱音さんに手伝われながら泣く泣く雑巾掛けをしていた。
「ちなみに龍哉と玉城と黄野は幼馴染だ。青山先生には昔から稽古をつけてもらっていたらしい。黄野はしょっちゅう稽古から逃げ出していたそうだ。」
武くんが教えてくれた。掃除した後に食べた晩御飯は美味しかったけど、僕も稽古は懲り懲りかな…。