「…新聞部ないんだ。」
説明が終わり解散して、僕はとぼとぼ帰り道を歩いていた。予想外だ…。こんなに大きな学校なのに新聞部がないなんて。鞄の中のカメラを見る。これは前の学校の新聞部の友達と一緒に選んだお揃いのカメラだ。『一緒に記者になろう』と約束した友人。毎日、何か面白いことはないかと走り回ってたな…。担任の言葉を思い出す。
『うちは強制ではないけどね。』
ということはまだ部活に入ってない人はいるのでは?僕は考えた。
「僕が作るか!新聞部‼︎」
大声で宣言すると近くにとまっていたカラスたちが飛んで逃げて行った。驚かせてごめん。

「新聞部作りたいんですけど…」
翌朝、僕は早速職員室で担任に相談していた。
「いいじゃない!そういうガッツがある感じ、先生いいと思う!」
若くて元気のある女の先生と話題のうちの担任は、僕の考えに大賛成してくれた。
「でもね〜突然部活ってわけにはいかないのよ…。」
「そうですよね…」
「とりあえずね、人数がいるの。5人は必要かな〜。それまでは同好会という形になるから部費はでないんだけど、掲示板に新聞を貼るとかそういう許可は私がとるから!安心してね!顧問になってくれそうな先生も探しとく!」
「ありがとうございます…!」
この先生が担任で良かった…!担任は女子バレーの顧問なので兼任できないらしい。残念だ。でもなかなかにいい調子なのでは‼︎僕は希望に胸を膨らませ、教室に向かった。自席に行くと相変わらず後ろで黄野さんが寝ていた。
「黄野さん、おはよう。」
ぴくりと黄野さんが反応する。きょとんとした顔でこちらを見た。もう一度、挨拶する。
「えーっと…おはよう?」
にこりと笑いかける。
「おはよ、聖人(せいじん)くん」
今日もにこりと笑う。
聖仁(せいじ)だけどね…。」
起きてくれただけマシなのかな…。
「よっ、おはよ、聖仁!」
「おはよう、青山くん!」
「青山じゃなくて龍哉でいいぜ!だいたいそう呼ばれてるし。」
「じゃあ、龍哉くんで。」
「おう。」
龍哉くんが明るく声をかけてくれたので、他のクラスメイトも話しにくる。
「おー、龍哉、転校生と話してんの?どう?教室の場所とか難しくね?おれ、昨日1年の時のクラス行っちゃってさ〜!2年になったの忘れてたのやばくね?」
「入学したてとか迷子になったよな!四方くんも移動教室とかは誰かと一緒にいった方がいいよ!」
僕の席の周りが賑やかになった。そういえば、と思い出す。
「ねぇ、みんなは部活、入ってる?」
聞くとそれぞれ所属してる部活を教えてくれる。
「野球部に入ってる!そこのと…あとあいつも野球部!」
「サッカー部だよ。このクラスだと2人かな。」
「吹奏楽部なんだけど、自分以外だと、このクラスは女子の何人かが同じかな〜」
ふむふむ、みんな強制ではないと言ってもほとんどが部活に入っているようだ。
「龍哉くんは?」
「オレは入っているというかな〜…」
龍哉くんがぽりぽりと頬をかく。隣にいたクラスメイトが龍哉くんの背中を勢いよく叩く。
「いでっ‼︎」
「龍哉はな〜!剣道部の助っ人だ!」
「助っ人?」
剣道部、ではなく?クラスメイトが続ける。
「うちの学校は学年に数人だけ部活の助っ人がいるんだよ!助っ人は部員と同じように部活を毎日してもいいし、逆に全くしなくて試合だけとかもあり!実力が認められているやつしか選ばれない!その分、試合で優勝に導くような活躍をしたら成績にしっかり入れられて、進学や就職に繋がるってやつ!」
なるほど、スポーツ推薦を約束されるし、他の部員より少し特別な扱いというわけか。
「まぁ、龍哉は部活と道場を掛け持ちだもんな。」
「そうなの?」
龍哉くんを見ると
「じいちゃんが剣道の師範。」
龍哉くんが苦い顔で返した。
「こえーんだよ。こいつのじーちゃん。」
クラスメイトが笑った。
「ねぇ、邪魔なんだけど。」
聞くだけで凍えそうな冷たい声が聞こえた。クラスメイトの顔も少し凍った。
「おはよう…玉城さん…」
「おう、朱音。」
僕と龍哉くんが挨拶する。
「おはよ。」
興味なさそうに、でも返してはくれた。スススと全員で僕の席から移動して円になり、話す。
「おっかね〜…」
「でたよ、うちのクラスのもう1人の助っ人。」
「え?玉城さんも助っ人なの?」
玉城さんをもう一度見ると睨まれた。怖い。
「朱音は弓道部、の助っ人。」
龍哉くんが教えてくれた。
「龍哉は玉城さんと幼馴染だからいいけど、圧あるじゃん?こえーよ。」
「おれは結構好きかも。怖いけど、美人じゃん?」
こそこそと話し続ける。
「…ちなみに黄野さんは何部の助っ人?」
「「「「………」」」」
「え、僕、変なこといった?」
「いや、助っ人じゃないし、そもそも部活入ってねーよ。」
龍哉くんが返事した。そうなんだ。今聞いた中で唯一の帰宅部。ふーむ…。考えながら自席に近づく。クラスメイトと龍哉くんも一緒に移動する。席に座り、後ろを振り向く。
「ねぇ、黄野さん。」
「…?」
うとうとしていた黄野さんが集まっていた僕たちを見る。
「新聞部、一緒に作らない?」
「「「「「え…?」」」」」
黄野さんを含め、龍哉くん、クラスメイトたちが目を丸くしていた。そして僕は真後ろからとんでもない圧を感じた。もしかして、僕の後ろに赤髪ポニーテールの般若とかいたりする?