「では本題に入ろうか。」
黄野さんが扇子をパッとひらいて口元に当てた。
「聖人くん、昨日、君が見たのはいわゆる、妖怪や幽霊、怪異とか言われるものだよ。私たちはまとめて『あやかし』と呼んでる。アレの名前はがしゃ髑髏。埋葬されなかった死者たちの骸骨や怨念が集まって生まれる。どういうところにああいうものは現れると思う?」
突然の問題形式だ。うーん…と考えてから返す。
「やっぱ、お墓とか…?」
「定番だね。それもあるけど、あやかしは人が多いところに現れるんだ。ああいうのは生が集まる場所に現れる。つまり、うちのような生徒数が多い学校にも集まりやすいんだよ。」
そして僕を見て、すぅ…と黄野さんが鋭く目を細める。まるで見定めるような視線に背筋が伸びる。
「不思議なものでね。この世のバランスは均衡になるように出来ている。善と悪は同じように増えたり減ったりする。」
武、と黄野さんが黒岩くんに声をかけると黒岩くんが大きな巻物を持ってきた。机に広げて見せてくれる。生き物…龍や鳥?が描かれている。
「つまり、あやかしが増えると自然と対抗するものも現れる。それが私たち。五行って分かる?」
「中国とかの…自然とかと絡めて考える…方角とかの」
「おっ、十分十分。」
黄野さんの質問に自分の分かる情報を部分的に言うと白水くんが褒めてくれる。へへ、と照れると興味なさそうに玉城さんと青山くんがクッキーをかじる。黄野さんが続ける。
「そう、それが元になった五神というものがあってね、青龍、朱雀、白虎、玄武、麒麟。彼らは瑞獣とも言われてて、私たちは五神である瑞獣たちの加護を受けてるんだ。」
巻物を指でなぞりながら説明してくれる。方角が書かれていて、それぞれの場所に生き物が描かれている。龍、鳥、虎と亀、真ん中の生き物が麒麟…。
「それが、昨日の不思議な力…?」
「そう。この街、特にこの学校はあやかしを引き寄せるらしくてね。加護を受けている者が学校の守り神になるんだよ。」
青山くんがクッキーを飲み込み、声をかけてくる。
「オレは青龍、朱音は朱雀、白水は白虎、武は玄武、凛は麒麟の加護を受けてる。それでこの学校の五神ってなるわけ。」
「へぇ…」
信じがたい話だけど、昨日のことを考えたら納得できる。僕を襲う『あやかし』、それを退治する『学校の五神』。なるほど。
「でもあんなに露骨にあやかしに襲われてるやつも初めて見たけどな。」
青山くんが言う。
「いつもなら気づかないとか、不思議な出来事くらいで終わるんだよ。例えばちょっと怪我をする人が続く、とかそんな程度の間に私たちがあやかしを見つけ出すからね。だから、ほとんどの生徒はあやかしや五神のことは知らない。」
黄野さんが言うと、玉城さんが僕から鞄を奪い、漁る。
「ちょっと…!!」
僕の人権は⁉︎玉城さんが僕の鞄から取り出したのはスマホだった。
「ちょいちょいちょい!」
それはダメだ!人のスマホは見ちゃダメだろう⁉︎いや、やましいことはないんだけども!僕が焦ると、玉城さんはスマホについている御守りを外して、ポイとスマホを返してきた。僕のスマホォ‼︎そして御守りを黒岩くんに見せる。黒岩くんは、ううむ…とつぶやきながら御守りを見た。
「おい、四方、この御守り、使ったな?」
「使った…?」
つけてる、という意味ではなさそうだ。…あ、がしゃ髑髏から守ってくれた火花。スマホから出たと思ってたんだけど、もしかして?
「あの…がしゃ髑髏に追いかけられて捕まりそうになった時、火花が出て、なんか模様みたいな…」
黒岩くんがうなずいて、黄野さんを見た。玉城さんが黄野さんのところに僕の御守りを持っていく。
「命拾いしたんだね。武にお礼を言っておくんだよ。」
御守りの紐を持ってぷらぷらさせながら黄野さんが言った。
「この…うちの学校に入ったお祝いに渡される御守りはね、瑞桃の守りと言うんだ。生徒は絶対持ち歩くように言われていたでしょ?これは玄武の加護がほどこされていて、あやかしから守ってくれるんだよ。」
「御守りの形が六角形なのは玄武の甲羅、桃の刺繍は桃には魔除けの力があるからね。」
白水くんが御守りの形の説明をしてくれる。変わった形の御守りだとは思ってたけどそういう理由があるんだ。
「今回のような『あやかしを退ける』ために使えるのは3回までだ。普段は低級のあやかしを避けることができる程度だ。」
いや、十分効果があるだけですごいけど。
「…で、低級ではないがしゃ髑髏を退けるために僕は1回使ったということですか…」
「そういうこと、あと2回。気をつけるんだよ。」
軽く白水くんが言う。黒岩くんをチラリとみて
「ちなみに〜もう一個もらえたり?」
というと玉城さんが
「3回も危ない場所に突っ込んで行くやつは面倒見きれないってこと。自業自得。」
と言った。そんなぁ。
「まぁ、そういうことだから大切にするんだよ。あと今日、説明したことは言うなとは言わないけど混乱を招くからね。なるべく口外禁止ってことで。」
ポンと黄野さんが僕の手に御守りを置いた。スマホに付け直す。
「説明ありがとうございます。」
「他に聞きたいことは?」
「あ、新聞部の部室の場所教えてくれません?僕、将来記者になりたくて…前の学校でも新聞部だったから。入部希望なんです。」
5人が顔を見合わせる。白水くんが気まずそうに笑う。
「あの、この学校…新聞部はないんだけど…」
「えぇ⁉︎嘘⁉︎」
大きな声で叫んだら、うるさいと青山くんと玉城さんに怒られた。
黄野さんが扇子をパッとひらいて口元に当てた。
「聖人くん、昨日、君が見たのはいわゆる、妖怪や幽霊、怪異とか言われるものだよ。私たちはまとめて『あやかし』と呼んでる。アレの名前はがしゃ髑髏。埋葬されなかった死者たちの骸骨や怨念が集まって生まれる。どういうところにああいうものは現れると思う?」
突然の問題形式だ。うーん…と考えてから返す。
「やっぱ、お墓とか…?」
「定番だね。それもあるけど、あやかしは人が多いところに現れるんだ。ああいうのは生が集まる場所に現れる。つまり、うちのような生徒数が多い学校にも集まりやすいんだよ。」
そして僕を見て、すぅ…と黄野さんが鋭く目を細める。まるで見定めるような視線に背筋が伸びる。
「不思議なものでね。この世のバランスは均衡になるように出来ている。善と悪は同じように増えたり減ったりする。」
武、と黄野さんが黒岩くんに声をかけると黒岩くんが大きな巻物を持ってきた。机に広げて見せてくれる。生き物…龍や鳥?が描かれている。
「つまり、あやかしが増えると自然と対抗するものも現れる。それが私たち。五行って分かる?」
「中国とかの…自然とかと絡めて考える…方角とかの」
「おっ、十分十分。」
黄野さんの質問に自分の分かる情報を部分的に言うと白水くんが褒めてくれる。へへ、と照れると興味なさそうに玉城さんと青山くんがクッキーをかじる。黄野さんが続ける。
「そう、それが元になった五神というものがあってね、青龍、朱雀、白虎、玄武、麒麟。彼らは瑞獣とも言われてて、私たちは五神である瑞獣たちの加護を受けてるんだ。」
巻物を指でなぞりながら説明してくれる。方角が書かれていて、それぞれの場所に生き物が描かれている。龍、鳥、虎と亀、真ん中の生き物が麒麟…。
「それが、昨日の不思議な力…?」
「そう。この街、特にこの学校はあやかしを引き寄せるらしくてね。加護を受けている者が学校の守り神になるんだよ。」
青山くんがクッキーを飲み込み、声をかけてくる。
「オレは青龍、朱音は朱雀、白水は白虎、武は玄武、凛は麒麟の加護を受けてる。それでこの学校の五神ってなるわけ。」
「へぇ…」
信じがたい話だけど、昨日のことを考えたら納得できる。僕を襲う『あやかし』、それを退治する『学校の五神』。なるほど。
「でもあんなに露骨にあやかしに襲われてるやつも初めて見たけどな。」
青山くんが言う。
「いつもなら気づかないとか、不思議な出来事くらいで終わるんだよ。例えばちょっと怪我をする人が続く、とかそんな程度の間に私たちがあやかしを見つけ出すからね。だから、ほとんどの生徒はあやかしや五神のことは知らない。」
黄野さんが言うと、玉城さんが僕から鞄を奪い、漁る。
「ちょっと…!!」
僕の人権は⁉︎玉城さんが僕の鞄から取り出したのはスマホだった。
「ちょいちょいちょい!」
それはダメだ!人のスマホは見ちゃダメだろう⁉︎いや、やましいことはないんだけども!僕が焦ると、玉城さんはスマホについている御守りを外して、ポイとスマホを返してきた。僕のスマホォ‼︎そして御守りを黒岩くんに見せる。黒岩くんは、ううむ…とつぶやきながら御守りを見た。
「おい、四方、この御守り、使ったな?」
「使った…?」
つけてる、という意味ではなさそうだ。…あ、がしゃ髑髏から守ってくれた火花。スマホから出たと思ってたんだけど、もしかして?
「あの…がしゃ髑髏に追いかけられて捕まりそうになった時、火花が出て、なんか模様みたいな…」
黒岩くんがうなずいて、黄野さんを見た。玉城さんが黄野さんのところに僕の御守りを持っていく。
「命拾いしたんだね。武にお礼を言っておくんだよ。」
御守りの紐を持ってぷらぷらさせながら黄野さんが言った。
「この…うちの学校に入ったお祝いに渡される御守りはね、瑞桃の守りと言うんだ。生徒は絶対持ち歩くように言われていたでしょ?これは玄武の加護がほどこされていて、あやかしから守ってくれるんだよ。」
「御守りの形が六角形なのは玄武の甲羅、桃の刺繍は桃には魔除けの力があるからね。」
白水くんが御守りの形の説明をしてくれる。変わった形の御守りだとは思ってたけどそういう理由があるんだ。
「今回のような『あやかしを退ける』ために使えるのは3回までだ。普段は低級のあやかしを避けることができる程度だ。」
いや、十分効果があるだけですごいけど。
「…で、低級ではないがしゃ髑髏を退けるために僕は1回使ったということですか…」
「そういうこと、あと2回。気をつけるんだよ。」
軽く白水くんが言う。黒岩くんをチラリとみて
「ちなみに〜もう一個もらえたり?」
というと玉城さんが
「3回も危ない場所に突っ込んで行くやつは面倒見きれないってこと。自業自得。」
と言った。そんなぁ。
「まぁ、そういうことだから大切にするんだよ。あと今日、説明したことは言うなとは言わないけど混乱を招くからね。なるべく口外禁止ってことで。」
ポンと黄野さんが僕の手に御守りを置いた。スマホに付け直す。
「説明ありがとうございます。」
「他に聞きたいことは?」
「あ、新聞部の部室の場所教えてくれません?僕、将来記者になりたくて…前の学校でも新聞部だったから。入部希望なんです。」
5人が顔を見合わせる。白水くんが気まずそうに笑う。
「あの、この学校…新聞部はないんだけど…」
「えぇ⁉︎嘘⁉︎」
大きな声で叫んだら、うるさいと青山くんと玉城さんに怒られた。