逢魔時に出会う誰そ彼

『次は借り物競争です!選手以外の皆さんもぜひご準備お願いします!』

放送が流れた。選手以外のテントに控える生徒も少しそわそわしているのを感じる。
「借り物ってどんなのなの?」
龍哉くんは審判が当たっていて不在なので、隣にいる本山くんと田浦くんに聞く。
「人なときもあるよな?」
「道具なら部活の道具が多いかな。ある程度、借りやすいものにしてると思うよ。」
「それでそんな感じなんだ…」
2人を見る。バットを抱えた本山くん、サッカーボールを持つ田浦くん。
「聖仁も『転校生』とかいうお題ならお前だから走る準備しとけよ〜。」
気合いが入ってるのかバットを軽く振る本山くん。危ないって。田浦くんが注意するように、本山くんの頭を叩いた。
『いちについて〜よーい!』
パンッと軽い音がして、選手が走り出す。
「ポニーテールの人〜!」
「ボ・ウ・ル!ボールじゃない!料理部〜!持ってない⁉︎」
「双子⁉︎難易度高いな⁉︎」
選手も選手以外の生徒も大盛り上がりだ。
「美宇さん、走ってるわね。」
朱音さんが言う。美宇さんがこちらに手を振った。
「朱音ちゃーん!こっちきて!」
「え⁉︎あたし⁉︎」
「朱音、名指しだよ?」
凛さんが朱音さんを見る。
「先輩命令発動でーす!10…9…」
「えぇ…⁉︎」
朱音さんがテントから出て、走り出した。美宇さんが満足気に笑う。
「朱音、何要員だろうね?」
「朱音さん確定ってことは、『弓道部』とか?」
「え?かづ生徒会長もこっち来てない?」
かづ生徒会長が、テントの前まで来た。
「黄野、ぼくと来てくれないか?」
「…え!私⁉︎…え、えと、私でよければ…」
凛さんは、生徒会長が差し出す手に、自身の手を乗せる。かづ生徒会長がにこりと笑い、凛さんを立たせようとした。
「ちょっと待ったぁぁあ‼︎」
声と共に、凛さんが後ろに体勢を崩す。振り返ると白水くんが凛さんの反対の手を掴んでいた。
「邪魔しないでくれ、白水。」
「お題次第では絶対離さない。」
かづ生徒会長が、少し困ったように…でも挑発的に口角を上げた。その余裕に苛立ちをあらわにする白水くん。
「何してるんですか。」
選手である武くんも通りがかる。武くんの手には日本人形。いや、お題だとして、それどうしたの?と言おうとしたら、日本人形が不自然に動いた気がした。絶対、家の付喪神だよね?
「お、黒岩、ちょうどいい。白水が黄野を離さないんだよ。このままだと黄野が綱引きみたいになる。」
「そんなことするか‼︎」
白水くんが言うけど、サァァァ…と凛さんの顔が青くなる。僕の頭に綱引きの光景が蘇る。
「晶、離してぇ…」
「うっ…‼︎」
目を潤ませながら懇願する凛さんを見て、怯む白水くん。
「まぁ、こっちでいいか。」
「へ?」
「は?」
かづ生徒会長が、急に凛さんから手を離し、白水くんの手を掴んだ。2人をぽかんとした顔で見る凛さん。
「はぁ⁉︎」
走り出したかづ生徒会長に抵抗できず、つられて走る白水くん。そのままゴールまで突っ切る。
『おーっと!生徒会長、ゴールに連れてきたのは、料理部の王子様こと白水くん!審判、お題確認してください!』
かづ生徒会長は、審判をしていた龍哉くんに、お題の紙を見せる。
「ぶっ!あっはははははは‼︎」
爆笑しながら、龍哉くんが両手で大きく丸をした。
『お!オッケーですね!ちなみにお題は…「可愛い後輩」!なるほど〜清水生徒会長が可愛がっている後輩ということで…羨ましい!3位おめでとうございます‼︎』
「誰が可愛いだぁぁぁあ‼︎」
「だはははははは‼︎かわいーって‼︎」
白水くんが、かづ生徒会長の手を払って叫んだ。龍哉くんは可愛い扱いをされた白水くんがツボだったのか笑い転げていた。凛さんだけは「私じゃなきゃダメってわけじゃなかった…」と落ち込んでいる。あ、ちなみに美宇さんは朱音さんと1位でゴール。お題は『ツンデレ美少女な後輩』だったらしい。なんで、そんなラノベみたいなお題があるんだ。

『さて、次はリレーです!リレーは1年生から3年生と、4年生から6年生がクラスごとに分かれて行います。選手の皆さんは入場口に集合してください。点数制の競技は次で最後です!』

「よーし、聖仁、行くぞ!」
「心臓バクバクする…」
「大丈夫だって‼︎な、田浦!」
「まぁ、いい線いくでしょ。」
4人でテントから出る。
「よっし!円陣円陣!」
本山くんが田浦くんと僕の肩を引き寄せた。それを見て龍哉くんも反対側から肩を掴む。「聖仁がアンカーだから気合い入れろ」と3人から言われて、息を吸った。
「1位!獲るぞ〜‼︎」
「「「おぉ‼︎」」」
円陣を崩すと、バン‼︎っと3人から背中を叩かれた。痛いけど気合いが入る。
「円陣というか、4人だったから四角だったね。」
「いや、冷めること言うなよ。」
僕がつぶやくと龍哉くんは僕の頭を叩いたのだった。

『位置について〜よーい!』

選手が同時に走り出す。徐々に速い1人が出てくるのが見えた。
「龍哉くん!」
飛び出してきたのは龍哉くんだ。
「田浦!」
「ナイス、龍哉!」
田浦くんがスムーズにバトンを受け取り走り出す。
『おぉ!2年2組!速いですね!ただ、他のクラスも負けてません!』
何人かが田浦くんの隣に並んだ。田浦くんが苦し気な表情をする。どの人も100メートル走で速かった人たちだ。1人に追い抜かれ、もう1人も田浦くんと並んだままバトンパス。
「ごめん、追いつかれた!」
「任せろ!」
本山くんが走り出すが、1位のクラスは陸上部のエースだ。この前、部活動取材で見た。2位をキープしたまま、こちらに近づいてくる。本山くんも十分に速いのに追いつかない。僕は、深呼吸をしてスタート地点に並ぶ。1位の枠に並んだ人を見て、少し息が詰まった。大柄の3年生…100メートル走の第二走で1位だった人だ。彼はジロリと僕を見た。お互い無言のまま、バトンを待つ。近づいてくる本山くんの存在に集中した。隣の3年生がバトンをもらったのを肌で感じる。
「聖仁!あとは頼んだ‼︎」
「うん‼︎」
バトンを持ち、走り出す。なんだか、身体が軽いようなバラバラになるような感覚だ。足が地面についているのかさえ分からない。大きい背中に追突するように走る。3年生が、少し驚いた顔で振り返った。そして、グンと足に力を入れ、加速した。速すぎる。追いつく気がしない…!そのまま、彼も僕もゴールテープに突っ込んだ。
『っ…ゴール‼︎ギリギリ…ギリギリ、3年4組が1位‼︎2年2組が2位ですね⁉︎』
確認するような放送。
「ま、負けた…」
疲労で崩れ落ちそうになった時に、龍哉くんと田浦くんが両側から支えてくれる。
「よくやった!」
「聖仁、速かったよ!」
「あ、ありがと…」
「聖仁、お疲れ‼︎」
本山くんも駆け寄ってくる。
「…でも、悔しいなぁ!」
「本山くん…」
悔しそうに顔を歪める本山くん。龍哉くんが本山くんを慰めるように手を伸ばした。
「だってさぁ‼︎あれ見ろよ‼︎」
「「「え?」」」
本山くんの指さす先には、1位を取った3年4組のアンカーが女子生徒に抱きしめられていた。
「最高!本当にかっこいい〜‼︎ダーリン、愛してる!」
「おい、目立つだろ!」
「「「…」」」
「悔しいだろ⁉︎」
龍哉くんは伸ばした手をグーにして、本山くんを殴った。

「次でラストね。」
朱音さんの言葉にみんなが頷く。次は最後の種目『フォークダンス』だ。学年で円になり踊るので、僕たちは2年生同士がペアだ。
「あんまりダンス、得意じゃないなぁ…」
凛さんが小さく呟いた。みんな大人しく整列を始める。本山くんが、「美人と当たりますように…」と願っている。田浦くんは呆れた顔で見ていた。音楽が始まる。
「あ、朱音さん。」
「四方、足引っ張らないでよ。」
ツンとした言葉を投げられる。こく、と頷いて、手を差し出す。朱音さんの手は思ったより小さかった。朱音さんが次のペアの元へ行く。
「おぉ。」
僕の声に気づいたのか、本山くんと田浦くんがニヤニヤした顔を向けてきた。僕たちの視線の先には、龍哉くんと朱音さん。
「朱音、ちゃんと手を握れよ!」
「龍哉が力強すぎるのよ!」
喧嘩しながら踊っている…。2人の顔は平静を保っているものの、耳が赤いのを僕は見逃さなかった。他のメンバーも気になり、視線を動かす。
「美宇、足踏むなよ⁉︎」
「楽しければ大丈夫!」
あ、弥太郎先輩と美宇さん。弥太郎先輩は、分かりやすく顔が赤い。それを一切気にしない美宇さん。
「なんで、碧、そっちなの?」
「人数調整よ。アタシだって、踊るなら可愛い子とがいいわよ。」
かづ生徒会長と碧ちゃん先輩が踊る。その周りで、一部の女子生徒たちが黄色い声をあげていた。
「ねぇ、武、顔怖い。」
「…っ、しょうがないだろう!慣れてないんだ!」
凛さんと武くんの声が聞こえた。緊張で引き攣った声の武くんと、苦手なダンスにあわあわする凛さん。体格にも差がある2人は、なかなか息が合わず、息を合わすため、凛さんが目を合わそうとすると、武くんが顔を赤くして背けた。
「もう!」
凛さんが頬を膨らませたまま、ペアが変わる。きゃあ、と周りの女子の声が聞こえた。凛さんが驚いた顔をする。みんながギクシャク甘酸っぱく踊る中、凛さんを抱き寄せるようにして、リードしたのは白水くんだった。
「晶⁉︎」
「ねぇ、笑って?楽しく踊ろうよ。」
優しく笑う白水くんは、さながらシンデレラをダンスに誘う王子様だ。
「わ、わ、わ…!」
「そう、足、こっちに…」
凛さんの足がふわりふわりと踊る。余裕が出来たのか、凛さんの顔が明るくなり、顔をあげた。凛さんの目の前には、溶けるように優しく笑う白水くん。凛さんのアーモンド型の目が白水くんを映した。
「?」
「あ、晶、ありがとう!」
凛さんが焦ったようにペアを変わる。数組ペアが変わった後に凛さんが僕の目の前にきた。
聖人(せいじん)くん!」
ぱぁ、と凛さんがうれしそうな顔をする。きゅっと握られた手に少しドキッとした。可愛い笑顔に何か言いたくて。
「凛さん、今日も楽しいね!」
「…!そうだね!」
僕が言うと、凛さんは目をぱちくりさせた後、茶目っ気たっぷりに笑った。

『これで瑞桃高等学校附属中学校の体育大会を終了します。生徒は一度教室に戻り…』

体育大会終了の放送が流れた。
「私たちも教室に戻ろっか。」
凛さんがはらりと鉢巻を取る。朱音さんが隣で凛さんの鉢巻を回収し、畳み始める。
「あたし、まとめて回収担当に渡しておくわ。」
「ありがとう。」
僕は田浦くんと本山くんの鉢巻ももらい、畳んでから朱音さんに渡した。龍哉くんだけ、頭に手を伸ばしたままだ。
「…?……」
「龍哉、何してんの?早く取りなさいよ。」
「わぁってる…」
朱音さんに言われるが、龍哉くんは不思議そうな顔でハチマキを触っている。少しの間の沈黙。
「ふっざけんなよ!本山!固結びじゃねぇか‼︎」
何も考えてなさそうな、からりとした秋の空に、龍哉くんの怒号が響いた。