体育大会当日。爽やかな晴れ。
「良い天気で良かったね〜。」
「だね。これで大丈夫?」
「田浦くん、ありがとう!」
じゃあ、今度は、と田浦くんとお互いに鉢巻を締め合う。
「いってぇ!本山、いてぇよ!」
「気合いだよ、気合い!」
ギャーギャー騒ぎながら隣で、龍哉くんと本山くんも鉢巻を締めていた。
「うちの組は赤組なんだね〜。朱音は赤似合うね〜。」
「凛、痛くない?」
朱音さんが凛さんの鉢巻を締めている。
「奇数が白組、偶数が赤組かぁ。」
2組だからうちのクラスは赤組。ということは。
「おう。」
「やほ♪」
テントに行くと隣のテントに武くんと白水くんがいた。
「2人は白組だよね。」
「晶は1組、俺は3組だからな。」
「見事に分かれちゃったね〜。」
白水くんはそういって凛さんたちのところに話しに行った。
「…の割には白水くん、元気じゃない?」
凛さんと同じ組じゃないのに。そう武くんに言う。
「あ〜…あいつはどっちの組が勝とうが関係ないし、料理が得意だから食券も魅力的ではない。強いていうなら黄野が食券を手に入れないようにすればいいだけだからな。」
「むしろ違う組が、好都合ってことかぁ。」
「あとは普段の授業と違って黄野と一緒にいられるし、今日は、でかい弁当箱を抱えていたぞ。」
「あぁ…。」
「おーい。開会式、始まるよ〜!」
凛さんの声が聞こえ、僕たちはテントから出るのであった。
『はじめの競技は100メートル走です。参加される生徒は入場口に集合してください。』
「田浦くん、ファイト!」
「やれるだけやるよ〜。」
田浦くんがテントから出る。本山くんと龍哉くんと1番見えやすいテントの前の方に移動した。
「なんやかんや速いんだよな〜。」
「サッカー部の中でも速い方らしいな。」
第一走が始まる。
「走れ走れ〜‼︎」
「いけぇ〜‼︎田浦!」
「走ってー‼︎」
本山くんと龍哉くんと僕が叫ぶ。
「「「ゴール‼︎」」」
1位の旗を渡される田浦くん。僕たちに向かって照れくさそうにピースをくれた。
「よっしゃ〜‼︎よくやった‼︎田浦‼︎」
ガッツポーズをする本山くん。第二走が続いて始まる。
『次は第三走の選手です。』
「あ、あれは…」
「かづ先輩だ‼︎」
凛さんが僕の横に飛び込んで座った。
「弥太郎と碧兄が6年1組、かづ先輩と美宇さんが6年3組だから、みんな白組なのよね。」
ぐいっと僕を押して凛さんの横に座る朱音さん。いや、狭いよ。乾いたピストルの音がした。第三走が始まる。
「わっ、速い…。」
「かづせんぱーい‼︎」
かづ生徒会長は、凛さんを見た。ひらりと手を振る余裕を見せる。
『ゴール!我が瑞桃の清水生徒会長が余裕の1位ゴールです!』
…この放送、かづ生徒会長のファンだな…。
「ちっ、やーな男だよね。」
白水くんが後ろで舌打ちをした。
『次の競技は玉入れです。選手は入場口に集まってください。』
「凛、行こう。」
「はーい。」
朱音さんが凛さんの手をひいて入場口に向かった。
「あ、あれ、美宇さんじゃね?」
龍哉くんが指さす先に美宇さんがいた。
「玉入れに出るんだね。」
「うーん…?」
龍哉くんがなんとも納得してなさそうにうなずいた。
『用意、スタート!』
合図があり、玉入れが始まった。朱音さんが下に落ちている玉を拾う。凛さんは玉を一つ拾い、投げた。
「ほい。」
その玉はふわっと柔らかく投げられ、綺麗にかごに入る。
「入った!」
僕の声に、ニヤ、と龍哉くんが笑う。と、思ったら、近くのテントから怒号が聞こえた。
「あーもー、ノーコン!なんでお前、玉入れいったんだよ!」
「弥太郎、大声出さないで。美宇は違うクラスじゃない。」
「白組が勝つにはここは抑えたいだろうが‼︎」
「美宇が嬉々として玉入れの選手になるって言ったからなぁ。」
「かづ!お前は白組が負けてもいいのかよ‼︎」
先輩方がテントの中で揉めている。
「ねぇ、あれ。」
「見んな見んな。」
ひらひらと手を振り、無視しとけ、と言う龍哉くん。
美宇さんはビュンビュンと玉を投げるけど、どれも見事に入らない。隣の女子生徒も引いている。
「姉さん…。」
「美宇さん、こういうの下手なのに好きだよね。」
武くんと白水くんが並んで見ている。
「凛!」
朱音さんが拾ってきた玉を抱えて、凛さんの元に行く。
「よーし、入れるよ〜!」
ぽいぽいと朱音さんから玉を渡してもらい、投げる凛さん。それは緩やかな曲線を描き、全てかごに入っていく。
「え⁉︎いや、上手すぎない⁉︎」
「凛、ドッヂボールは人に当てるほどの威力がないから下手に見えるけど、狙いは完璧なんだよな〜。」
玉入れは人に当てる必要もないから、と龍哉くんが言う。なるほど。コントロール勝負なのか。
『赤組、1番端のかご、もういっぱいです‼︎』
「凛、隣のかご行こう!」
「はーい。」
どんどん赤組のかごをいっぱいにする凛さんと朱音さん。
「すご…」
『赤組の勝利です‼︎3つもかごがいっぱいになりました!』
2人が戻ってくる。
「お疲れ、凛さん!朱音さん!」
「おっす。ほい。」
龍哉くんが、帰ってきた2人にポイッとスポーツ飲料を投げる。朱音さんが2つともキャッチした。
「汗かいた〜。」
「凛、水分。」
こくこくと凛さんと朱音さんがドリンクを飲んだ。
「は⁉︎まじか‼︎」
「「「「⁇」」」」
本山くんの声が聞こえた。
「なんだよ、本山。」
「やべぇ、龍哉!次の競技の二人三脚、お前のペア、熱中症で保健室らしい!」
「あ?」
龍哉くんが眉を顰めた。
「おれと本山は元々出る予定だったから代われないし…。」
「聖仁、代わりに出れねぇ?」
「ばか、聖仁は次、審判だよ。」
本山くんの言葉に田浦くんがあきれたように返す。そう、僕は準備係の仕事の一つでもある審判があたっていた。
「………。」
考え込む龍哉くん。
「それ、あたしが出るわ。」
頭にタオルをかぶっていた朱音さんがバサリとタオルを取った。
「龍哉の速さに合わせられて、まだ走る余裕もある。それに次はテントにいる予定。あたしが適任だと思うけど?」
「そ、そりゃ…玉城さんが出てくれるなら助かるけど…」
田浦くんが、もにゃもにゃと言うと、朱音さんが凛さんに自分の飲み物を渡す。
「凛、これ後で一緒にしまっておいて。」
「んむ。」
飲み物を飲みながら、頷く凛さん。
『次の二人三脚に出る選手は、入場口に集まってください。』
「んじゃ、行くか。」
放送を聞き、龍哉くんが立ち上がる。
「おれらも。」
本山くんと田浦くんも続く。僕は審判が集まるテントに向かった。
『二人三脚はリレー式になります。脚を紐で結んだペアは審判からバトンを受け取ってください。』
「よーし。」
「本山、紐貸して。お前、固結びするだろ。」
田浦くんが紐を結んでいる間に本山くんにバトンを渡す。
「2人とも、頑張って。」
審判なので大きい声では言えないが、こっそり2人にエールを送る。
「まかせろって。」
「ちゃんと龍哉たちに1位で渡せるようにするよ。」
『では、位置についてー!よーい!』
パン!と音が響いた。
『おぉ!みんないい勝負ですね〜!』
どの組もほぼ横並び。本山くんと田浦くんも速いけど、他の人たちも負けてない。
『現在の1位は2年2組、その次に5年3組、6年1組が続きます!』
「すごい!本当に1位でまわってきた!」
スタート地点で、龍哉くんがバトンを受け取るのが見える。
『おぉ!2年2組、最後は男女ペア!なるほど、剣道部と弓道部で運動神経抜群と名高い2人ですね!』
龍哉くんと朱音さんが走り出す。
『速い速い!2年2組、このまま、優勝か〜…?えっ⁉︎すごい勢いで追いついてる組が…えと、あ、6年…1組ですね‼︎』
朱音さんと龍哉くんが振り返る。
「あっ⁉︎」
「げ…」
背の高い2人組が、1位の2人の隣をビュンと駆け抜ける。
『6年1組!息ぴったりです!二人三脚とは思えないスピードです‼︎並んで走ってるわけじゃないですよね⁉︎脚くくってますか⁉︎』
「弥太郎先輩と碧ちゃん先輩⁉︎」
僕が見ている間にどんどんゴールに近づいてくる。
「ゴールテープ!ゴールテープ!」
他の審判に急かされて、ゴールテープを持つ。弥太郎先輩たちは、勢いよくゴールテープに突っ込んできた。
『ゴォォォォル‼︎6年1組、すごい勢いで1位をかっさらっていきました!続いて、2年2組!いい勝負でしたね〜‼︎』
「あ?聖仁じゃん。」
僕を見つけた弥太郎先輩が、体操服を伸ばし、汗を拭う。ちらりと見える腹筋に、近くのテントから黄色い悲鳴が聞こえた。
「「ま、負けた…」」
「2人とも!」
ベシャリと汗だくで崩れ落ちる龍哉くんと朱音さんに駆け寄る。
「くっそ…!」
「悔しい…!」
崩れたまま叫ぶ2人に弥太郎先輩と碧ちゃん先輩が近寄り、しゃがみ込む。
「まぁ〜流石に?まだお前らに負けねえっつーか?」
「ごめんなさいね〜?」
あ、煽りだ…。大人げない…。
「と、とりあえず、退場なので…」
僕があわあわと誘導する。
「おっ、そうだな。ほら立てよ。」
ぐいと2人を立たせる弥太郎先輩と碧ちゃん先輩。あんなに悔しそうな2人、初めて見たかもしれない…。
『今から、お昼休憩に入ります。再開は15分前に放送を流します。』
「おつかれ〜!流石、息ぴったり!聖人くんも審判おつかれ〜」
凛さんがニコニコとテントで出迎えてくれる。その隣では白水くんが凛さんを団扇で仰いでる。朱音さんがガバリと凛さんに抱きついた。
「凛〜!負けた‼︎」
「見てたよ〜。本当に、弥太郎と碧ちゃん、脚くくってた?」
「疑うレベルの速さではあったね…。」
凛さんの純粋な疑問に、僕は頷いた。
「とりあえず、飯食おうぜ。」
龍哉くんの一言にみんなが頷いた。
「…で、何これ?」
ムスッとした顔の白水くん。同じテントにいた生徒たちが、それぞれ友人や部活仲間のいるテントに移動している。その中で僕たちは大きな輪になっていた。
「飯食いにきた。」
「いや、弥太兄たちは自分の弁当食えよ。」
龍哉くんが言う。テントには、いつものメンバーに加えて、先代の四神たちも集まっていた。
「はぁ〜分かってねぇな、龍哉。おれは自分の弁当も食うけど、白水の弁当も、たかりにきたんだよ。」
「いや、普通に最悪なんだけど。」
白水くんがため息をつく。
「大所帯の方が楽しいだろ?」
かづ生徒会長がにこりと笑った。
「ほら、あんたたち、ここ入れて。」
「みんな、お疲れ様!お腹すいたね!」
碧ちゃん先輩と美宇さんも入ってくる。みんな一応各々のお弁当を持ってきているようだ。白水くんは、凛さんの目の前で何段もある重箱を開く。
「凛ちゃんもお弁当ひとつじゃ足りないでしょ?いっぱい食べてね?」
にこりと白水くんが笑う。その言葉に凛さんが、ビクッとした。
「あ!やだ…えと…そんないっぱいは…」
顔が真っ赤っかだ。凛さんの目線の先には、かづ生徒会長。視線に気づいたのか、かづ生徒会長がにこりと笑う。
「腹減ったよな。ぼくも白水の弁当もらおうかな。」
「お前は食べるな。」
かづ生徒会長の言葉に白水くんが冷たく返す。凛さんはほっとした顔をした。
「凛さん…生徒会長に大食い隠してるの?」
「本人は隠してるつもりだが、隠れてないな。」
武くんに聞いたら、即答だった。
「「「いただきます。」」」
みんなが食べ始める。僕もお弁当を開けた。自分で作ったけど、いつもより少し気合いを入れたお弁当だ。
「お、聖仁、唐揚げじゃーん。」
パンを食べていた龍哉くんが、ひょいと僕の唐揚げを奪う。
「あ!僕の唐揚げ!」
ひどい!龍哉くんは、白水くんのお弁当もひょいひょいつまむ。
「なに、龍哉、パンだけなの?これあげるわよ。」
朱音さんが龍哉くんの口に何かを放り込んだ。ジャリ、という音がする。
「〜〜〜⁉︎」
龍哉くんが悶絶する。
「玉城は龍哉に何を食べさせたんだ…?」
武くんが顔を青くする。
「タコさんウィンナーだけど?」
「そのお弁当、玉城が作ったの?玉城の弁当にしては一部だけ炭で、他はまともだよね?」
白水くんが言う。ほんとだ。
「朱音ちゃんは、今朝アタシと作ったのよね〜♡」
「碧ちゃんが一緒にお弁当作ろうって言うから…。」
碧ちゃん先輩がニコニコしながら言った。朱音さんは少し恥ずかしそうだ。まぁ、碧ちゃん先輩のせいで龍哉くんは死んだも同然なんだけど。
「おい、碧、朱音が作ってねぇおかずくれ。」
「失礼ね、あんた。」
碧ちゃん先輩が弥太郎先輩を睨んだ。
「弥太郎もお弁当足りないの?私の分けてあげる!」
「いい。お前の弁当、食品サンプルみてぇだもん。」
美宇さんがお弁当を差し出すと弥太郎先輩が即答する。
「え?美味しいよね?武?」
武くんのお弁当を見る。武くんのお弁当はすごく美味しそうだ。確かに食品サンプルみたい!
「これ、美宇さんが…?」
「そうだよ!お料理、結構好きなんだよね!聖仁くんもいる?」
美宇さんが、ずいとお弁当を差し出してくる。
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて…卵焼きもらっても…?」
「いいよ、いいよ〜!」
鮮やかな黄色が食欲をそそる。ぱくりと卵焼きを一切れ口に入れた。
「…?……?」
もぐもぐと口を動かす。ちらりと武くんを見ると、武くんも口をずっと動かしていた。僕と目を合わせない。こくりと飲み込む。
「どう?」
美宇さんが聞いてくる。
「これ、味付けを聞いても…?」
「?味付け?してないよ!素材の味が1番だと思って!」
「あ、なるほど…。」
もう一度、武くんを見た。やっぱり僕と目を合わせない。というか、遠い目をしてる。素材の味というか無味というか…。弥太郎先輩の「食品サンプルみたい」ってそういう意味…。
「美宇、相変わらず、見た目は綺麗なお弁当ね。」
碧ちゃん先輩が言った。あ…みんな知ってたんだ。
「黄野は自分で作った弁当?」
「うぇ⁉︎はい…‼︎」
かづ生徒会長が聞いた。こくこくと凛さんが頷く。
「へぇ、ぼくとどれか取り替えっこしないか?」
「え、えと…これ…」
「ハンバーグくれるのか。じゃあ、このつくねと交換。」
凛さんと、かづ生徒会長が、おかずを交換する。
「ん。うまいな!」
「え、えへ…昨日タネ作って…」
かづ生徒会長に褒められて、凛さんがうれしそうにする。
「な…⁉︎凛ちゃんの手作り…⁉︎」
かづ生徒会長を睨んでいた白水くんが、言葉を失っている。
「黄野の手作り、美味いよ。」
いたずらに、かづ生徒会長が白水くんに見せつけるように笑った。白水くんから、とんでもなくドス黒いオーラが出る。なんで、かづ生徒会長も白水くんをからかうんだ…。
「?晶も食べる?」
凛さんが、白水くんに言った。その瞬間、白水くんの黒いオーラが消える。
「食べる!!!」
「えへへ…晶には、いっつも作ってもらってばっかりだもんね。」
凛さんが、恥ずかしそうに白水くんにお弁当を差し出す。
「ぼくは好きでしてるから…ぼくのお弁当もいっぱい食べてね!凛ちゃんのために作ったんだし!…おいし…凛ちゃんの手作り…。」
じ〜ん…と感動しながら、白水くんはハンバーグを食べる。そんなこんなで騒ぎながらお昼ご飯の時間は過ぎていった。ちなみに龍哉くんは、無事に復活し、口の中の炭をかき消すように、白水くんのお弁当を食べていたし、武くんは白水くんのお弁当をおかずにして、美宇さんのお弁当を食べていた。
『お昼休憩がそろそろ終わります。応援合戦から始まりますので、参加の生徒は準備をして入場口まで集まってください。』
「じゃーな。後半も負けねーから。」
弥太郎先輩が言い、白組たちが一旦、自分のテントに戻る。龍哉くんが準備に向かったので、僕は凛さんと並んで座った。
「横断幕は武が書いたんだよ。」
凛さんが言う。流石、書道部。『応援合戦』と筆で書かれた横断幕が運動場に出てきた。体育大会らしい光景だ。1枚写真を撮る。
「新聞同好会の活動?」
「新聞部、の活動!」
凛さんに聞かれたので返す。新聞部ね、新聞部!凛さんは、やれやれとでもいうように肩をすくめた。
「出てきたわよ。」
朱音さんが言った。
『わぁぁぁぁぁあ―――‼︎』
「わ、すごい歓声…!」
学ランの生徒たちが出てくる。赤組には龍哉くん。白組は弥太郎先輩。しかも、弥太郎先輩は応援団長らしい。三三七拍子が始まる。
「あ!写真!」
カメラを向ける。白組と赤組それぞれと向かい合った2組を撮る。
「ねね、聖人くん…」
こそっと凛さんが声をかけてくる。
「どしたの?」
小さめの声で返す。
「あのね…龍哉の写真、印刷したらちょうだい…」
ぽしょぽしょと話す。えっ、いいけど、いいんだけど。凛さんが欲しいの?凛さんを見る。すると凛さんがちらりと朱音さんを見てから、僕にウインクをする。あっそういうこと。無言で頷く僕。朱音さんは僕たちに気づかず、応援合戦を見ていた。
「あ、晶だ。」
帰ってきた龍哉くんに水を渡してると、凛さんが運動場を指差した。応援合戦が終わり、次の競技が始まろうとしている。
「え、次の競技って…」
僕が言うと龍哉くんが砂利を噛んだような顔をした。
「まじかよ。」
次の競技は綱引きだった。僕たちは普段の白水くんを知っている。
『よーい、スタート!』
白水くんのいる白組と当たった赤組、もとい不幸な人たちは瞬く間に引きずり回されていた…。白水くんは涼しい顔をしている。白水くんのいるチームは彼の怪力を知らないのか、勝っても不思議そうな顔をしていた。
「綱引きは同じ組も戦うからね!晶こっちの方に来たよ!」
凛さんがきゃっきゃとテントから乗り出す。なにやら、綱引きはトーナメント制で1位2位3位…と上位であれば、多く点数をもらえるらしい。
「白組が上位に多いから白組に点数が多く入りそうだね。」
白組同士が争うということはMVPがここから出るかもしれないのか。写真、撮っておこう。
「待って、あれ…」
「うぉぉ…どんなカードだよ…」
朱音さんと龍哉くんが凛さんの横に座った。2人の見る先を確認する。
「あら、あんたのチームと当たったわね。」
「今年はこれにも出るんですね。」
バチバチと火花を散らすは白水くんと…碧ちゃん先輩。
「白組同士なはずなのにすごい迫力ね…」
「まぁ、2人は白組という枠じゃないところでの戦いだよな…」
朱音さんと龍哉くんがつぶやく。
『みなさん、位置についてくださーい。さて、これで優勝クラスが決まります!…よーい、スタート‼︎』
バッと両クラスが後ろに重心をかける。
「碧ちゃん先輩のクラスが優勢かな。」
「単純に考えて、碧兄の力以外に他のクラスメイトがね。」
僕の言葉に、朱音さんが答えた。仮に白水くんと碧ちゃん先輩が互角だとすると、学年が離れているので、他のクラスメイトの体格が影響してくるだろう。
「…。」
「龍哉くん?」
黙っている龍哉くんを見ると腕を組み、考えるポーズをしていた。
「もう少し、面白みがほしいよな。」
「え?」
僕が疑問符を浮かべていると、龍哉くんが凛さんと朱音さんを見てニヤリとした。悪い顔だ。
「おい、凛、朱音。応援してやんぞ!せーの!」
「えっ⁉︎あっ!」
「⁈ちょっと‼︎」
2人が慌てながら、龍哉くんの合図に合わせて叫んだ。
「「晶/碧兄、頑張れー‼︎」」
凛さんと朱音さんの言葉が分かれた。あっ、と顔を見合わせる2人。予想通りだったのか、ニヤリと笑う龍哉くん。
「「!!!」」
白水くんと碧ちゃん先輩が、目を見開く。どちらが先に力が入ったのだろうか。ギリリと音がしそうなほどに綱に負荷がかかったのが分かった。
「やっぱ勝負は底力まで出さねーとな!」
龍哉くんがうれしそうに言う。
「おい、なんかまずくないか?」
近くに来ていた武くんがつぶやいた。その瞬間、
『ブチブチブチィッ…‼︎』
「「「うぉぉぉぉぉ…⁉︎」」」
謎の歓声がおこった。
『な、な、なんと⁉︎綱引きの綱が千切れるハプニングです‼︎古くなっていたのでしょうか⁈すみません、ちょっとこちらで審議に入ります…‼︎せんせぇっ…』
慌ただしい放送が切られる。
「う、うわぁ…」
みんながハプニングだと思ってる中、先代四神と五神、そして僕はそれがハプニングではない、ということに怯えていた。当の本人である白水くんと碧ちゃん先輩以外は、少し顔が青い。全員腕をさすっていた。絶対この2人に引っ張られないようにしよう…。
『お待たせしました!審議の結果、引き分けという結果になりました…!』
その放送に碧ちゃん先輩と白水くんは面白くなさそうな顔をしていた。
「…や〜とんでもねぇもん見たな。」
龍哉くんの言葉に頷く。
「龍哉が煽ったようなものだろう。」
武くんが言った。
「良い天気で良かったね〜。」
「だね。これで大丈夫?」
「田浦くん、ありがとう!」
じゃあ、今度は、と田浦くんとお互いに鉢巻を締め合う。
「いってぇ!本山、いてぇよ!」
「気合いだよ、気合い!」
ギャーギャー騒ぎながら隣で、龍哉くんと本山くんも鉢巻を締めていた。
「うちの組は赤組なんだね〜。朱音は赤似合うね〜。」
「凛、痛くない?」
朱音さんが凛さんの鉢巻を締めている。
「奇数が白組、偶数が赤組かぁ。」
2組だからうちのクラスは赤組。ということは。
「おう。」
「やほ♪」
テントに行くと隣のテントに武くんと白水くんがいた。
「2人は白組だよね。」
「晶は1組、俺は3組だからな。」
「見事に分かれちゃったね〜。」
白水くんはそういって凛さんたちのところに話しに行った。
「…の割には白水くん、元気じゃない?」
凛さんと同じ組じゃないのに。そう武くんに言う。
「あ〜…あいつはどっちの組が勝とうが関係ないし、料理が得意だから食券も魅力的ではない。強いていうなら黄野が食券を手に入れないようにすればいいだけだからな。」
「むしろ違う組が、好都合ってことかぁ。」
「あとは普段の授業と違って黄野と一緒にいられるし、今日は、でかい弁当箱を抱えていたぞ。」
「あぁ…。」
「おーい。開会式、始まるよ〜!」
凛さんの声が聞こえ、僕たちはテントから出るのであった。
『はじめの競技は100メートル走です。参加される生徒は入場口に集合してください。』
「田浦くん、ファイト!」
「やれるだけやるよ〜。」
田浦くんがテントから出る。本山くんと龍哉くんと1番見えやすいテントの前の方に移動した。
「なんやかんや速いんだよな〜。」
「サッカー部の中でも速い方らしいな。」
第一走が始まる。
「走れ走れ〜‼︎」
「いけぇ〜‼︎田浦!」
「走ってー‼︎」
本山くんと龍哉くんと僕が叫ぶ。
「「「ゴール‼︎」」」
1位の旗を渡される田浦くん。僕たちに向かって照れくさそうにピースをくれた。
「よっしゃ〜‼︎よくやった‼︎田浦‼︎」
ガッツポーズをする本山くん。第二走が続いて始まる。
『次は第三走の選手です。』
「あ、あれは…」
「かづ先輩だ‼︎」
凛さんが僕の横に飛び込んで座った。
「弥太郎と碧兄が6年1組、かづ先輩と美宇さんが6年3組だから、みんな白組なのよね。」
ぐいっと僕を押して凛さんの横に座る朱音さん。いや、狭いよ。乾いたピストルの音がした。第三走が始まる。
「わっ、速い…。」
「かづせんぱーい‼︎」
かづ生徒会長は、凛さんを見た。ひらりと手を振る余裕を見せる。
『ゴール!我が瑞桃の清水生徒会長が余裕の1位ゴールです!』
…この放送、かづ生徒会長のファンだな…。
「ちっ、やーな男だよね。」
白水くんが後ろで舌打ちをした。
『次の競技は玉入れです。選手は入場口に集まってください。』
「凛、行こう。」
「はーい。」
朱音さんが凛さんの手をひいて入場口に向かった。
「あ、あれ、美宇さんじゃね?」
龍哉くんが指さす先に美宇さんがいた。
「玉入れに出るんだね。」
「うーん…?」
龍哉くんがなんとも納得してなさそうにうなずいた。
『用意、スタート!』
合図があり、玉入れが始まった。朱音さんが下に落ちている玉を拾う。凛さんは玉を一つ拾い、投げた。
「ほい。」
その玉はふわっと柔らかく投げられ、綺麗にかごに入る。
「入った!」
僕の声に、ニヤ、と龍哉くんが笑う。と、思ったら、近くのテントから怒号が聞こえた。
「あーもー、ノーコン!なんでお前、玉入れいったんだよ!」
「弥太郎、大声出さないで。美宇は違うクラスじゃない。」
「白組が勝つにはここは抑えたいだろうが‼︎」
「美宇が嬉々として玉入れの選手になるって言ったからなぁ。」
「かづ!お前は白組が負けてもいいのかよ‼︎」
先輩方がテントの中で揉めている。
「ねぇ、あれ。」
「見んな見んな。」
ひらひらと手を振り、無視しとけ、と言う龍哉くん。
美宇さんはビュンビュンと玉を投げるけど、どれも見事に入らない。隣の女子生徒も引いている。
「姉さん…。」
「美宇さん、こういうの下手なのに好きだよね。」
武くんと白水くんが並んで見ている。
「凛!」
朱音さんが拾ってきた玉を抱えて、凛さんの元に行く。
「よーし、入れるよ〜!」
ぽいぽいと朱音さんから玉を渡してもらい、投げる凛さん。それは緩やかな曲線を描き、全てかごに入っていく。
「え⁉︎いや、上手すぎない⁉︎」
「凛、ドッヂボールは人に当てるほどの威力がないから下手に見えるけど、狙いは完璧なんだよな〜。」
玉入れは人に当てる必要もないから、と龍哉くんが言う。なるほど。コントロール勝負なのか。
『赤組、1番端のかご、もういっぱいです‼︎』
「凛、隣のかご行こう!」
「はーい。」
どんどん赤組のかごをいっぱいにする凛さんと朱音さん。
「すご…」
『赤組の勝利です‼︎3つもかごがいっぱいになりました!』
2人が戻ってくる。
「お疲れ、凛さん!朱音さん!」
「おっす。ほい。」
龍哉くんが、帰ってきた2人にポイッとスポーツ飲料を投げる。朱音さんが2つともキャッチした。
「汗かいた〜。」
「凛、水分。」
こくこくと凛さんと朱音さんがドリンクを飲んだ。
「は⁉︎まじか‼︎」
「「「「⁇」」」」
本山くんの声が聞こえた。
「なんだよ、本山。」
「やべぇ、龍哉!次の競技の二人三脚、お前のペア、熱中症で保健室らしい!」
「あ?」
龍哉くんが眉を顰めた。
「おれと本山は元々出る予定だったから代われないし…。」
「聖仁、代わりに出れねぇ?」
「ばか、聖仁は次、審判だよ。」
本山くんの言葉に田浦くんがあきれたように返す。そう、僕は準備係の仕事の一つでもある審判があたっていた。
「………。」
考え込む龍哉くん。
「それ、あたしが出るわ。」
頭にタオルをかぶっていた朱音さんがバサリとタオルを取った。
「龍哉の速さに合わせられて、まだ走る余裕もある。それに次はテントにいる予定。あたしが適任だと思うけど?」
「そ、そりゃ…玉城さんが出てくれるなら助かるけど…」
田浦くんが、もにゃもにゃと言うと、朱音さんが凛さんに自分の飲み物を渡す。
「凛、これ後で一緒にしまっておいて。」
「んむ。」
飲み物を飲みながら、頷く凛さん。
『次の二人三脚に出る選手は、入場口に集まってください。』
「んじゃ、行くか。」
放送を聞き、龍哉くんが立ち上がる。
「おれらも。」
本山くんと田浦くんも続く。僕は審判が集まるテントに向かった。
『二人三脚はリレー式になります。脚を紐で結んだペアは審判からバトンを受け取ってください。』
「よーし。」
「本山、紐貸して。お前、固結びするだろ。」
田浦くんが紐を結んでいる間に本山くんにバトンを渡す。
「2人とも、頑張って。」
審判なので大きい声では言えないが、こっそり2人にエールを送る。
「まかせろって。」
「ちゃんと龍哉たちに1位で渡せるようにするよ。」
『では、位置についてー!よーい!』
パン!と音が響いた。
『おぉ!みんないい勝負ですね〜!』
どの組もほぼ横並び。本山くんと田浦くんも速いけど、他の人たちも負けてない。
『現在の1位は2年2組、その次に5年3組、6年1組が続きます!』
「すごい!本当に1位でまわってきた!」
スタート地点で、龍哉くんがバトンを受け取るのが見える。
『おぉ!2年2組、最後は男女ペア!なるほど、剣道部と弓道部で運動神経抜群と名高い2人ですね!』
龍哉くんと朱音さんが走り出す。
『速い速い!2年2組、このまま、優勝か〜…?えっ⁉︎すごい勢いで追いついてる組が…えと、あ、6年…1組ですね‼︎』
朱音さんと龍哉くんが振り返る。
「あっ⁉︎」
「げ…」
背の高い2人組が、1位の2人の隣をビュンと駆け抜ける。
『6年1組!息ぴったりです!二人三脚とは思えないスピードです‼︎並んで走ってるわけじゃないですよね⁉︎脚くくってますか⁉︎』
「弥太郎先輩と碧ちゃん先輩⁉︎」
僕が見ている間にどんどんゴールに近づいてくる。
「ゴールテープ!ゴールテープ!」
他の審判に急かされて、ゴールテープを持つ。弥太郎先輩たちは、勢いよくゴールテープに突っ込んできた。
『ゴォォォォル‼︎6年1組、すごい勢いで1位をかっさらっていきました!続いて、2年2組!いい勝負でしたね〜‼︎』
「あ?聖仁じゃん。」
僕を見つけた弥太郎先輩が、体操服を伸ばし、汗を拭う。ちらりと見える腹筋に、近くのテントから黄色い悲鳴が聞こえた。
「「ま、負けた…」」
「2人とも!」
ベシャリと汗だくで崩れ落ちる龍哉くんと朱音さんに駆け寄る。
「くっそ…!」
「悔しい…!」
崩れたまま叫ぶ2人に弥太郎先輩と碧ちゃん先輩が近寄り、しゃがみ込む。
「まぁ〜流石に?まだお前らに負けねえっつーか?」
「ごめんなさいね〜?」
あ、煽りだ…。大人げない…。
「と、とりあえず、退場なので…」
僕があわあわと誘導する。
「おっ、そうだな。ほら立てよ。」
ぐいと2人を立たせる弥太郎先輩と碧ちゃん先輩。あんなに悔しそうな2人、初めて見たかもしれない…。
『今から、お昼休憩に入ります。再開は15分前に放送を流します。』
「おつかれ〜!流石、息ぴったり!聖人くんも審判おつかれ〜」
凛さんがニコニコとテントで出迎えてくれる。その隣では白水くんが凛さんを団扇で仰いでる。朱音さんがガバリと凛さんに抱きついた。
「凛〜!負けた‼︎」
「見てたよ〜。本当に、弥太郎と碧ちゃん、脚くくってた?」
「疑うレベルの速さではあったね…。」
凛さんの純粋な疑問に、僕は頷いた。
「とりあえず、飯食おうぜ。」
龍哉くんの一言にみんなが頷いた。
「…で、何これ?」
ムスッとした顔の白水くん。同じテントにいた生徒たちが、それぞれ友人や部活仲間のいるテントに移動している。その中で僕たちは大きな輪になっていた。
「飯食いにきた。」
「いや、弥太兄たちは自分の弁当食えよ。」
龍哉くんが言う。テントには、いつものメンバーに加えて、先代の四神たちも集まっていた。
「はぁ〜分かってねぇな、龍哉。おれは自分の弁当も食うけど、白水の弁当も、たかりにきたんだよ。」
「いや、普通に最悪なんだけど。」
白水くんがため息をつく。
「大所帯の方が楽しいだろ?」
かづ生徒会長がにこりと笑った。
「ほら、あんたたち、ここ入れて。」
「みんな、お疲れ様!お腹すいたね!」
碧ちゃん先輩と美宇さんも入ってくる。みんな一応各々のお弁当を持ってきているようだ。白水くんは、凛さんの目の前で何段もある重箱を開く。
「凛ちゃんもお弁当ひとつじゃ足りないでしょ?いっぱい食べてね?」
にこりと白水くんが笑う。その言葉に凛さんが、ビクッとした。
「あ!やだ…えと…そんないっぱいは…」
顔が真っ赤っかだ。凛さんの目線の先には、かづ生徒会長。視線に気づいたのか、かづ生徒会長がにこりと笑う。
「腹減ったよな。ぼくも白水の弁当もらおうかな。」
「お前は食べるな。」
かづ生徒会長の言葉に白水くんが冷たく返す。凛さんはほっとした顔をした。
「凛さん…生徒会長に大食い隠してるの?」
「本人は隠してるつもりだが、隠れてないな。」
武くんに聞いたら、即答だった。
「「「いただきます。」」」
みんなが食べ始める。僕もお弁当を開けた。自分で作ったけど、いつもより少し気合いを入れたお弁当だ。
「お、聖仁、唐揚げじゃーん。」
パンを食べていた龍哉くんが、ひょいと僕の唐揚げを奪う。
「あ!僕の唐揚げ!」
ひどい!龍哉くんは、白水くんのお弁当もひょいひょいつまむ。
「なに、龍哉、パンだけなの?これあげるわよ。」
朱音さんが龍哉くんの口に何かを放り込んだ。ジャリ、という音がする。
「〜〜〜⁉︎」
龍哉くんが悶絶する。
「玉城は龍哉に何を食べさせたんだ…?」
武くんが顔を青くする。
「タコさんウィンナーだけど?」
「そのお弁当、玉城が作ったの?玉城の弁当にしては一部だけ炭で、他はまともだよね?」
白水くんが言う。ほんとだ。
「朱音ちゃんは、今朝アタシと作ったのよね〜♡」
「碧ちゃんが一緒にお弁当作ろうって言うから…。」
碧ちゃん先輩がニコニコしながら言った。朱音さんは少し恥ずかしそうだ。まぁ、碧ちゃん先輩のせいで龍哉くんは死んだも同然なんだけど。
「おい、碧、朱音が作ってねぇおかずくれ。」
「失礼ね、あんた。」
碧ちゃん先輩が弥太郎先輩を睨んだ。
「弥太郎もお弁当足りないの?私の分けてあげる!」
「いい。お前の弁当、食品サンプルみてぇだもん。」
美宇さんがお弁当を差し出すと弥太郎先輩が即答する。
「え?美味しいよね?武?」
武くんのお弁当を見る。武くんのお弁当はすごく美味しそうだ。確かに食品サンプルみたい!
「これ、美宇さんが…?」
「そうだよ!お料理、結構好きなんだよね!聖仁くんもいる?」
美宇さんが、ずいとお弁当を差し出してくる。
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて…卵焼きもらっても…?」
「いいよ、いいよ〜!」
鮮やかな黄色が食欲をそそる。ぱくりと卵焼きを一切れ口に入れた。
「…?……?」
もぐもぐと口を動かす。ちらりと武くんを見ると、武くんも口をずっと動かしていた。僕と目を合わせない。こくりと飲み込む。
「どう?」
美宇さんが聞いてくる。
「これ、味付けを聞いても…?」
「?味付け?してないよ!素材の味が1番だと思って!」
「あ、なるほど…。」
もう一度、武くんを見た。やっぱり僕と目を合わせない。というか、遠い目をしてる。素材の味というか無味というか…。弥太郎先輩の「食品サンプルみたい」ってそういう意味…。
「美宇、相変わらず、見た目は綺麗なお弁当ね。」
碧ちゃん先輩が言った。あ…みんな知ってたんだ。
「黄野は自分で作った弁当?」
「うぇ⁉︎はい…‼︎」
かづ生徒会長が聞いた。こくこくと凛さんが頷く。
「へぇ、ぼくとどれか取り替えっこしないか?」
「え、えと…これ…」
「ハンバーグくれるのか。じゃあ、このつくねと交換。」
凛さんと、かづ生徒会長が、おかずを交換する。
「ん。うまいな!」
「え、えへ…昨日タネ作って…」
かづ生徒会長に褒められて、凛さんがうれしそうにする。
「な…⁉︎凛ちゃんの手作り…⁉︎」
かづ生徒会長を睨んでいた白水くんが、言葉を失っている。
「黄野の手作り、美味いよ。」
いたずらに、かづ生徒会長が白水くんに見せつけるように笑った。白水くんから、とんでもなくドス黒いオーラが出る。なんで、かづ生徒会長も白水くんをからかうんだ…。
「?晶も食べる?」
凛さんが、白水くんに言った。その瞬間、白水くんの黒いオーラが消える。
「食べる!!!」
「えへへ…晶には、いっつも作ってもらってばっかりだもんね。」
凛さんが、恥ずかしそうに白水くんにお弁当を差し出す。
「ぼくは好きでしてるから…ぼくのお弁当もいっぱい食べてね!凛ちゃんのために作ったんだし!…おいし…凛ちゃんの手作り…。」
じ〜ん…と感動しながら、白水くんはハンバーグを食べる。そんなこんなで騒ぎながらお昼ご飯の時間は過ぎていった。ちなみに龍哉くんは、無事に復活し、口の中の炭をかき消すように、白水くんのお弁当を食べていたし、武くんは白水くんのお弁当をおかずにして、美宇さんのお弁当を食べていた。
『お昼休憩がそろそろ終わります。応援合戦から始まりますので、参加の生徒は準備をして入場口まで集まってください。』
「じゃーな。後半も負けねーから。」
弥太郎先輩が言い、白組たちが一旦、自分のテントに戻る。龍哉くんが準備に向かったので、僕は凛さんと並んで座った。
「横断幕は武が書いたんだよ。」
凛さんが言う。流石、書道部。『応援合戦』と筆で書かれた横断幕が運動場に出てきた。体育大会らしい光景だ。1枚写真を撮る。
「新聞同好会の活動?」
「新聞部、の活動!」
凛さんに聞かれたので返す。新聞部ね、新聞部!凛さんは、やれやれとでもいうように肩をすくめた。
「出てきたわよ。」
朱音さんが言った。
『わぁぁぁぁぁあ―――‼︎』
「わ、すごい歓声…!」
学ランの生徒たちが出てくる。赤組には龍哉くん。白組は弥太郎先輩。しかも、弥太郎先輩は応援団長らしい。三三七拍子が始まる。
「あ!写真!」
カメラを向ける。白組と赤組それぞれと向かい合った2組を撮る。
「ねね、聖人くん…」
こそっと凛さんが声をかけてくる。
「どしたの?」
小さめの声で返す。
「あのね…龍哉の写真、印刷したらちょうだい…」
ぽしょぽしょと話す。えっ、いいけど、いいんだけど。凛さんが欲しいの?凛さんを見る。すると凛さんがちらりと朱音さんを見てから、僕にウインクをする。あっそういうこと。無言で頷く僕。朱音さんは僕たちに気づかず、応援合戦を見ていた。
「あ、晶だ。」
帰ってきた龍哉くんに水を渡してると、凛さんが運動場を指差した。応援合戦が終わり、次の競技が始まろうとしている。
「え、次の競技って…」
僕が言うと龍哉くんが砂利を噛んだような顔をした。
「まじかよ。」
次の競技は綱引きだった。僕たちは普段の白水くんを知っている。
『よーい、スタート!』
白水くんのいる白組と当たった赤組、もとい不幸な人たちは瞬く間に引きずり回されていた…。白水くんは涼しい顔をしている。白水くんのいるチームは彼の怪力を知らないのか、勝っても不思議そうな顔をしていた。
「綱引きは同じ組も戦うからね!晶こっちの方に来たよ!」
凛さんがきゃっきゃとテントから乗り出す。なにやら、綱引きはトーナメント制で1位2位3位…と上位であれば、多く点数をもらえるらしい。
「白組が上位に多いから白組に点数が多く入りそうだね。」
白組同士が争うということはMVPがここから出るかもしれないのか。写真、撮っておこう。
「待って、あれ…」
「うぉぉ…どんなカードだよ…」
朱音さんと龍哉くんが凛さんの横に座った。2人の見る先を確認する。
「あら、あんたのチームと当たったわね。」
「今年はこれにも出るんですね。」
バチバチと火花を散らすは白水くんと…碧ちゃん先輩。
「白組同士なはずなのにすごい迫力ね…」
「まぁ、2人は白組という枠じゃないところでの戦いだよな…」
朱音さんと龍哉くんがつぶやく。
『みなさん、位置についてくださーい。さて、これで優勝クラスが決まります!…よーい、スタート‼︎』
バッと両クラスが後ろに重心をかける。
「碧ちゃん先輩のクラスが優勢かな。」
「単純に考えて、碧兄の力以外に他のクラスメイトがね。」
僕の言葉に、朱音さんが答えた。仮に白水くんと碧ちゃん先輩が互角だとすると、学年が離れているので、他のクラスメイトの体格が影響してくるだろう。
「…。」
「龍哉くん?」
黙っている龍哉くんを見ると腕を組み、考えるポーズをしていた。
「もう少し、面白みがほしいよな。」
「え?」
僕が疑問符を浮かべていると、龍哉くんが凛さんと朱音さんを見てニヤリとした。悪い顔だ。
「おい、凛、朱音。応援してやんぞ!せーの!」
「えっ⁉︎あっ!」
「⁈ちょっと‼︎」
2人が慌てながら、龍哉くんの合図に合わせて叫んだ。
「「晶/碧兄、頑張れー‼︎」」
凛さんと朱音さんの言葉が分かれた。あっ、と顔を見合わせる2人。予想通りだったのか、ニヤリと笑う龍哉くん。
「「!!!」」
白水くんと碧ちゃん先輩が、目を見開く。どちらが先に力が入ったのだろうか。ギリリと音がしそうなほどに綱に負荷がかかったのが分かった。
「やっぱ勝負は底力まで出さねーとな!」
龍哉くんがうれしそうに言う。
「おい、なんかまずくないか?」
近くに来ていた武くんがつぶやいた。その瞬間、
『ブチブチブチィッ…‼︎』
「「「うぉぉぉぉぉ…⁉︎」」」
謎の歓声がおこった。
『な、な、なんと⁉︎綱引きの綱が千切れるハプニングです‼︎古くなっていたのでしょうか⁈すみません、ちょっとこちらで審議に入ります…‼︎せんせぇっ…』
慌ただしい放送が切られる。
「う、うわぁ…」
みんながハプニングだと思ってる中、先代四神と五神、そして僕はそれがハプニングではない、ということに怯えていた。当の本人である白水くんと碧ちゃん先輩以外は、少し顔が青い。全員腕をさすっていた。絶対この2人に引っ張られないようにしよう…。
『お待たせしました!審議の結果、引き分けという結果になりました…!』
その放送に碧ちゃん先輩と白水くんは面白くなさそうな顔をしていた。
「…や〜とんでもねぇもん見たな。」
龍哉くんの言葉に頷く。
「龍哉が煽ったようなものだろう。」
武くんが言った。



