逢魔時に出会う誰そ彼

「みんな!気合い入ってるかー⁉︎」
「「「おおお‼︎」」」
この光景、見たことあるなぁ…。秋の何でもない日。僕はクラスの盛り上がりを見ていた。
「ついに体育大会だからな〜。」
田浦くんが言う。
「そういえば、球技大会のときには聞かなかったけど、体育大会の優勝って何かあるの?」
「特に活躍したクラスには学食で使える食券、1人20枚。担任の先生も貰える。」
「早く教えて⁉︎」
僕は盛り上がるクラスメイトの円陣に入りに行く。龍哉くんと本山くんが間を開けてくれた。
「お、聖仁も気合い入った感じ?」
「正直、すごい助かる。」
簡単に言うと約1ヶ月お弁当いらず。こんなの大喜びでしょ。先生が息を吸った。
「勝つぞー‼︎」
「「「うぉぉぉお‼︎」」」
僕たちが盛り上がる中、凛さんはあくびをしていた。あ、イベントだし、新聞部としての撮影許可も取らなきゃ。

「ということで、でる種目決めようか!」
先生が黒板に種目を書く。流石6学年が揃う体育大会、種目が多いな…。
「立候補でも推薦でも良いよ!」
バン!と先生が黒板を叩いた。
「はーい。」
田浦くんが手を挙げる。
「リレーのアンカーは聖仁がいいと思います。」
「えぇ⁉︎」
僕は驚きの声をあげた。
「オレ、じゃあ、最初。」
「おっ!いいじゃん!じゃあ、3走目〜。田浦も2走目な。」
龍哉くんがいい、本山くんも話にのってくる。田浦くんが本山くんに頷いた。
「いいね〜!リレーは花形だぞ!」
先生がニコニコと笑う。
「龍哉くん、僕と代わってよ!」
「合計したら結果かわんねぇし、いいじゃん。お前、足速いだろ。」
龍哉くんがグッと親指を立てた。
「私、玉入れがいいなぁ〜。」
「はい。先生、あたしと凛は玉入れにいきます。」
「ほいほい。」
先生が手際よく名前を書いていく。自分の名前が書かれたのを見てパタリと眠る凛さん。
「あ!応援合戦!書き忘れてた!あぶないあぶない。」
先生が種目の欄を増やす。
「そりゃ〜!うちのクラスなら、な!」
本山くんが言うと田浦くんがニヤリと笑った。
「「応援合戦は、龍哉がいいと思いまーす!」」
「え⁉︎オレかよ!」
龍哉くんがぎょっとする。
「ったりめーだろ!というか、これは去年やったし今年も龍哉だろ。」
本山くんが言うと、後ろで田浦くんがうんうんと頷いていた。
「応援合戦?」
「そう、学ランに鉢巻巻いてやるんだけど、異様に似合うんだよね、龍哉。」
田浦くんが言う。瑞桃は元々学ランだけど、自由にアレンジしている生徒も多い。龍哉くんは比較的そのまま着てるけど、かっちり着て鉢巻を巻いた姿は…う〜ん、似合うな。絵になる。想像して思わず頷いてしまった。
「毎年、弥太郎もいるわよ。」
朱音さんが言う。弥太郎先輩の学ランも想像する。弥太郎先輩はかなり着崩し…というか、上はシャツだけとかセーターの姿を見ることが多い。でもちゃんと着たら似合うのだろう。学ランの似合う家系だ…。
「はいはい。他も埋めてくよ〜。種目多いから得意な人は何個かでてね〜。」
先生が言うと他のクラスメイトも出たい種目を決めていく。意外に揉めることなく手際よく決まっていく。
「よーし、これでOK!…最後にもう一つ役割決めしようか。」
先生は、ぷうぷう寝てる凛さんを見た。

「…で、これは…?」
「体育大会は、クラスで準備係が4人ずつ決められるのよ。」
「男子2人、女子2人ずつな。」
僕、龍哉くん、朱音さん、凛さんは、放課後に体操服で体育館に集合していた。
「先生に寝てたのばれちゃったからなぁ〜。」
「むしろ、いつもの授業で怒られないのが不思議だよ…。」
凛さんが最初に先生に選ばれたことによって、朱音さんが立候補する。続いて、龍哉くん。そして、僕、本山くん、田浦くんが3人でじゃんけんをした結果、僕になった。もちろん、負けたのである。
「まぁ、想像してるほどめんどくせぇ役回りでもないからさ。」
龍哉くんに慰められる。
「説明、始まるわよ。」
朱音さんの声で僕たちはクラスの場所に並び、座った。

「さて、テントとか出しておけばいいんだよな?」
「球技大会のこと思い出すな〜。」
「変な付喪神に話しかけられても返事しないでよね。」
「はぁい…。」
朱音さんに釘を刺される。倉庫に向かうと何人か生徒がいた。なにやら、体操服ではなく、制服を着た上級生が指示をしている。
「あの人は…生徒会長だよね?」
まだここに来て1年経ってない僕でも分かる。学校行事で挨拶してる姿を何度か見た。生徒会長は下級生に指示を出した後、確認するようにスケジュールの紙を開いた。
「あ〜っ‼︎」
生徒会長を見た瞬間、少し眠そうだった凛さんの顔がうれしそうに輝く。
「かづ先輩だ〜!♡」
凛さんが生徒会長に駆け寄る。生徒会長が紙から顔をあげる。
「お。黄野、久しぶり。元気だったか?」
「はい♡」
「頑張ってるんだな。話は聞いてるよ。」
「はい♡」
「黄野はえらいな。ぼくは黄野に五神を任せて安心してるよ。」
「えへへ♡」
り、凛さんが、かわいこぶってる…。通常モードの凛さんと戦闘モードの凛さんってギャップがあるんだけど、それとはまた違う感じだ。
「げ、清水生徒会長…」
僕の後ろから声が聞こえた。
「あ、武くん、白水くん。2人も?」
2人揃っている。ちなみにさっきの声は白水くんだ。
「あぁ。おい、晶。げ、は失礼だろう。」
武くんが注意する。
「ぼく、あの人嫌いなんだけど。この準備も女の子たちが一緒にしよ〜って無理やり担当にしたから、逃げて武と合流したのに。最悪。」
「黄野は懐いてるじゃないか。」
「だからだよ。」
「凛さんは生徒会長が好きなんだね。」
僕の一言に白水くんの目つきが鋭くなる。
「好きというよりは憧れだろう。黄野は一人っ子だから、かづ生徒会長みたいな兄が欲しかったらしい。」
「へぇ〜。」
武くんと話していると凛さんと話していた生徒会長がこちらに気づいた。
「お、白水!」
「どうも…」
手を振って近づいてきた生徒会長に、嫌そうな顔を隠しもしない白水くん。武くんが注意するように、白水くんを肘で小突く。
「ははっ。相変わらずだな。」
「すみません。かづ生徒会長。」
態度の悪い白水くんの代わりに謝る武くん。
「いいよ。誰にでもいい顔をするのは疲れるからな。気を許してくれてる証拠だろ?」
生徒会長はニコニコしながら、嫌そうな顔の白水くんの肩に手を置く。深いため息をつく白水くん。
「生徒会長は白水くんを可愛がっているように見えるけど…」
「あの人は、晶の頭の良さや要領の良さを気に入ってるからな。俺らが1年の頃から、しつこいくらいに生徒会に誘っていたし。」
瑞桃の生徒会は優秀で人望のある生徒であれば学年問わずなれるらしい。
「でも、ならなかったんだ?」
「生徒会に入るとかなり多忙になる。黄野に会えない上に黄野以外の下で働く気はない晶にとってはデメリットでしかない。」
確かに6学年ある学校の生徒会は忙しいだろう。
「かづ先輩と一緒なら頑張れちゃうな〜♪」
凛さんがニコニコと三角コーンを抱えている。
「こーら、ぼくがいなくても担当になったなら頑張らなきゃ、だろ?」
コツン、と凛さんの頭を優しく小突く生徒会長。凛さんがキャ〜と笑う。そのキャッキャした空気とは真反対の禍々しい空気を、真横と凛さんの奥から感じた。
「落ち着け、晶‼︎」
「武も見ただろ‼︎あいつ、気安く凛ちゃんに触ったじゃん‼︎」
「だぁぁあ!やめとけ、朱音!勝てる相手じゃねぇよ‼︎」
「離して!龍哉‼︎」
白水くんと朱音さんが暴れる。白水くんを武くんが、朱音さんを龍哉くんが抑えた。生徒会長が、龍哉くんと朱音さんを見る。
「あぁ、青山に玉城か。なんだ。みんな揃ってるじゃないか。」
ははっ、と笑った後に僕を見る。
「ということは…君が訳ありくん、かな?」
「え?」
「かづ先輩。聖仁は、オレらのことを知ってるだけ。聞いただろ?」
龍哉くんが、少し怒ったように言った。
「あぁ、悪かった。ぼくは6年の清水 神月(しみず かづき)。瑞桃高等学校の生徒会長だ。黄野たちが呼んでいるのを聞いていたと思うけど、かづ、と呼ばれているからそう呼んでくれ。」
「あ、2年の四方 聖仁です。聖仁って呼ばれてます。」
手を差し出されたので、握手する。かづ生徒会長の手は大人っぽい大きな手で、ほんの少し冷たかった。
「あ、6年で凛さんたちの知り合いってことは…」
「他のやつらには会ったんだろう?美宇、弥太郎、碧はぼくの同期の四神だ。」
美宇さんが玄武、弥太郎先輩は朱雀、碧ちゃん先輩は白虎…ということは。龍哉くんを見る。
「あぁ、この人はオレの先代だよ。」
もう一度、かづ生徒会長を見る。年齢より少し大人っぽく見える。老けてるとかじゃなくて、大人っぽい。大学生と言われても納得するだろう。癖のない黒髪を爽やかに整えていて、清潔感がある。制服の着こなしも、全てが模範生って感じだ。細いフレームのメガネの奥に見える目には、人間としての余裕が見えた。
「優しそうに見えて、怖い男だから気をつけた方がいいよ。」
白水くんが横から囁いてきた。それは白水くんもでしょ。他のメンバーを見ると、朱音さんは深く頷き、龍哉くんと武くんは、少し顔を青くし、僕から目を逸らした。
「ひどいな。ところで、白水はまだ黄野が好きなんだろう?生徒会に入れば、好かれるかもしれないぞ?」
少し眉を下げながら、ニコニコと勧誘する生徒会長。白水くんの顔が嫌そうに歪んだ。
「やだね。凛ちゃんは、あんたが生徒会長だからじゃなくて…あんた自身を…気に入ってるんだから。…くっ!」
言いながら、悔しそうにする白水くん。自分で言いながら悔しくなってるじゃん。
「それは残念。」
とても残念そうには見えない言い方で、かづ生徒会長は肩をすくませた。凛さんを見る。ニコニコと三角コーンの数を数えていた。
「かづせんぱーい!数えましたよ〜!」
ペンと紙を持って駆け寄る凛さん。
「お、ありがとう。力仕事は男子生徒に頼むから、な?」
かづ生徒会長が僕たちを見た。
「「はい。」」
「はーい。」
「…っち。」
僕と武くん、龍哉くんが返事し、白水くんの舌打ち。
「白水。」
「はいはい。」
かづ生徒会長の言葉に白水くんが渋々返事した。

「怖い、と思ったことはないのか?」
「え?」
かづ生徒会長とテントの布を運んでいると、そう言われた。
「怖い…?」
「なんで不思議そうなんだ。『あやかし』、それを退治する『加護の力』。どちらも自分に何か及ぼしかねない、と考えたことはないか?」
「えぇ…『あやかし』は怖いです。これまでも危ない目にあってるし…でも『五神』のメンバーは守ってくれるじゃないですか?」
「『神の力』は正義で、いつでも味方でいてくれる存在?」
すぅ…と目を細める、かづ生徒会長。
「え…」
その言葉に思考が固まる。無言の時間が続いた。
「…悪い。困らせたね。いや、この間、五頭竜と会ったと聞いて。あれも『神』だからさ。」
「あ…なるほど。」
「各々の正義があるとするのなら…最終的には勝ったものが正しいとされるのか、たまに考えるんだよ。」
かづ生徒会長の顔を見る。ほんの少し見上げる形になった。かづ生徒会長も僕を見る。
「ぼくは四神が遠縁でね。家系にはいるんだけど、弥太郎や美宇ほど四神の感性が身近じゃないというか。碧は妹命だから、また別だけど。」
かづ生徒会長が少し遠くにいる五神のメンバーを見た。
「四方くんは『この土地を守る!これは正義で、君の使命だ!』ってある日、突然言われたらどう思う?」
「えと…」
「『何が正義なのか』。各々の国で伝えられる戦争の歴史は、『その国視点の正義』だ。『あやかしは人を襲うもの』。これに理由が存在したら?それが人でも同情してしまう理由だったら?」
「………」
「うちのリーダーは美宇だけど、初めて四神として会ったときに『自分はこだわらないから、リーダーを任せてもいい』と言われたことがあるよ。」
「え⁉︎」
武くんがこだわる四神としての立ち位置。こだわらないからといって、その役割を任せていいのだろうか。
「それって…」
「断ったよ。ぼくは()()()リーダーには相応しくないからね。」
「そうなんですか?生徒会長になるくらいなのに?」
「生徒会長とは訳が違うよ。自分のやることが正義だという確固たる自信。それが、ぼくにはなかった。」
「…」
僕は黙る。
「美宇や弥太郎は、仮に『あやかしが人を襲う』理由があったとしても四神としての役割を果たす…と、ぼくは思う。」
かづ生徒会長の言葉は、なんとなく、分かる。当代のメンバーで、それが現れているのは武くんだ。何がどうであれ、正義として歴代続けてきた仕事をまっとうする。その意志は強い。
「だから、ぼくは黄野を気にかけているんだよ。黄野は…リーダーを引き受けた自分の姿なんじゃないか、と思って。まぁ、黄野は、ぼくと違ってリーダー確定だったんだけどね。」
眉を下げて笑う姿は、妹を心配する兄のようだ。
「碧と白水もよく似ているよ。」
碧ちゃん先輩は…多分、朱音さんのため。白水くんは凛さんのため。おそらくそれが本人たちの意志なんだろう。
「黄野が神による『盲目の正義』の中で苦しまないよう…純粋な『人』である君が近くにいてあげてほしい。」
かづ生徒会長が、僕を見た。
「僕…?」
「あぁ。世界の外側から見てあげてほしいんだ。」
世界の外側。壮大な話だと思ったけど、なんとなく彼の言っている意味が分かる気がする。僕はこくりと頷いた。かづ生徒会長が、安心したように微笑む。
「まぁ、そんな深く考えなくていい。とりあえず今はこれを頑張るか。」
腕の中のテントの布を見せられる。
「はい!」
僕が返事すると、かづ生徒会長はニッと笑った。
「ちなみに君は何の競技に出るんだ?」
「誰にも言うんじゃないって言われてるので、生徒会長相手でも言えません。」
「お、転校生と聞いていたけど、もう対策済みか。」
少し意地悪そうな笑みを浮かべる、かづ生徒会長。彼のこの考えが僕に大きな決断させることは、この時、誰も知らない。