1学期最終日。
「ねぇ、2人とも。今週、うちに遊びに来ない?」
龍哉くんと武くんに声をかける。
「お!いいな!オレも武も今週の日曜、部活ないし。」
「いいのか?」
龍哉くんと武くんが嬉しそうな顔をする。
「うん!」
「龍哉は一度俺と合流しよう。俺は聖仁の家まで行ったことあるから。」
「あ、そっか。覚えてる?」
「あぁ。」
みんなと初めて会った日。『あやかし』に襲われた僕を家まで送ってくれたのは武くんだった。
「じゃあ、日曜日ね!」
好調に僕の夏休みが始まった。

日曜日。
「おっじゃましまーす!」
「お邪魔します。」
「いらっしゃい!」
龍哉くんと武くんは朝、僕の家に来た。
「10時に来てもよかったのか?早くないか?」
武くんが心配そうに言う。
「大丈夫!僕の親、結構多忙で、ほぼ家にいないんだよね〜。だからうれしいよ!」
武くんが安心した顔をする。
「うっわ、すげぇ!むちゃくちゃゲームあんじゃん!」
「おい、龍哉!」
リビングに入り、キョロキョロする龍哉くんを叱る武くん。
「家にいるんじゃつまらないだろうって、色々買ってくれて…やりたいのある?」
「まじで⁉︎うち、じーちゃんが厳しいからこういうのねぇんだよな〜!」
「俺も見たことないものばかりだ…」
結構メジャーなものを持っているはずなんだけど、2人は物珍しそうにゲームの箱をまじまじと見ていた。
「僕も1人でやることはあるけど、対戦とかはあんまりしたことないから色々しよう!」
3人でとりあえず簡単なものから色々やった。龍哉くんは持ち前の勘の良さでどんどん上達し、武くんはゲームの画面にあわせて体が動いていた。
「やば…楽しい…1人でやるより断然楽しい。」
あっという間にお昼になる。
「昼ご飯どうする?なんか買いに行く?」
2人と相談しようとするとスマホが鳴った。それも3人同時に。
「「「???」」」
スマホを見ると『流しそうめんするよ!学校の中庭に集合★』と凛さんから連絡が来ていた。僕たちは顔を見合わせた。

「よく来たねぇ〜。」
ふうふうと汗をかきながら竹を運ぶ白沢先生が僕たちを出迎えてくれた。白沢先生の隣の白水くんは涼しい顔で竹を担いでいる。
「なんで流しそうめん?」
龍哉くんが聞いた。
「いやぁ、校長先生が色んな方からお中元でいただいてて…。『あなたもぜひ食べなさい』って分けてもらったんだけど、多すぎてね。夏休み3食全部そうめんになっちゃうんじゃないかってくらいで。それなら食べ盛りな子どもたちに食べてもらおうかなって。」
「どんな量だよ。」
白沢先生の言葉に龍哉くんが返した。
「というか、なんで晶が土台作りなんだ。黄野と玉城はどうした?」
武くんが言った。
「2人はそうめんゆがいてるよ。」
「「なんで⁉︎」」
僕と龍哉くんが叫ぶ。なんで朱音さんを料理側にまわしたんだ‼︎
「流石に失敗しないでしょ、って言いたいとこだけど、玉城はやりかねないから凛ちゃんがゆがいたそうめんを水でほぐす役だよ。」
僕と龍哉くんはほっと胸を撫で下ろした。
「ほらほら、みんなも手伝って〜」
白沢先生に言われ、僕たちは動き出した。
「武くん、器用だね。」
「流しそうめんなら、うちも神社で地域の子どものイベントとしてやるからな。土台の作り方は分かっている。」
ぎゅぎゅと器用に竹を縄で結び、土台を作り上げる武くん。
「竹、真っ二つにすりゃいいんだろ?」
「青山、刀出すなよ?」
事前に龍哉くんの行動を防ぐ白水くん。
「そうですよ〜!青山先輩、ウチのノコギリ使ってください!メンテもバッチリですよ!」
「お、サンキュー…どわぁぁぁあ‼︎」
突然、真後ろに現れた平賀さんに悲鳴をあげる龍哉くん。平賀さん、神出鬼没だな。
「こんにちは。平賀さんも流しそうめん呼ばれたの?」
「あ、四方先輩、こんにちは〜。そうですよ〜!父が職員室にいるんで、白沢先生が父に言って、ウチに連絡くれたんです!これは青山先輩も来る‼︎と思いまして…」
きゃっ♡と頬を染める平賀さん。
「おい、龍哉、早くしろ。土台出来てるぞ。」
「なんでオレが怒られてるんだよ…」
ぶつぶつ言いながらも龍哉くんは作業に戻った。その様子を平賀さんはじっと見ていた。

「「「出来た‼︎」」」
これは長い…大作だな。途中、平賀さんが組み方を指示してくれたおかげで安定感もバッチリだ。
「ど?出来た〜?」
そうめんを抱えて凛さんと朱音さんが現れる。
「おぉ〜‼︎すごい‼︎」
「大作ね…」
「オレ、腹減ったぁ…」
「龍哉、水分もとっとけよ。」
「ぼく、麦茶持ってきたよ〜」
わらわらとみんなで器を手に取る。
「は〜い!流しますよぉ〜」
白沢先生の掛け声で流しそうめんが始まった。
「美味しい〜!」
「よっ…と。」
「武、こういうの上手いよね。」
「箸の持ち方か…?おい、武、場所代わって。」
「はい、凛。ピンクのあったわよ。」
「器用に色つきだけ取らないで⁉︎」
「四方も普通のは食べれてるでしょ。」
「ウチ、味変しましょうかね〜。」
「私も別で置いといて食べようかな。流しそうめん、取れる自信ないよ。」
「白沢先生は流しそうめんにしない方が安全に食べれそうですよね…。」
にぎやかに時が過ぎていく。
「誰だよ、揚げ麺混ぜたやつ。パリパリの麺を水に流すんじゃねぇよ。」
龍哉くんがパリパリの麺を箸で掴む。パラパラと少し崩れて麺のかけらが落ちる。
「それあたしがゆがいたそうめんよ。」
「ダメって言ったのにやるって言うから1束だけやってもらった。」
朱音さんと凛さんが龍哉くんの手元を覗き込む。「でも食べてくれるよね?」という幼馴染2人の圧を感じた龍哉くんは揚げ麺、もとい揚げそうめんを口にした。
「…パリッパリ…」
「だろうね。」
龍哉くんの感想に返す。僕はちゅるりとそうめんをすすった。

「はぁ〜、お腹いっぱい!」
僕が中庭のベンチに座ると龍哉くんと武くんが隣に座る。
「いやぁ、減った減った!これで夏3食全部そうめんは、まぬがれたよ〜」
ニコニコと白沢先生が言う。
「ご馳走様でした!」
むぐむぐと流しそうめんラストのさくらんぼを口にしながら凛さんが言った。白水くんと朱音さんは洗い物をしに行ってくれたらしい。
「私と朱音はこの後用事あるし、晶はお家の手伝いで帰るってさ?」
「平賀さんもお父さんと一緒に帰るって言ってましたね。私はこのあと校長に呼ばれていて…」
「あぁ、オレと武は聖仁の家に行ってたからそっち戻るわ。」
流しそうめんを片付けて、僕の家に戻る。途中で公園に寄ってみたり、本屋に行ったりしてたら、夕暮れになっていた。
「ただいま〜。」
家の扉を開ける。
「「おかえり‼︎」」
「「「⁉︎」」」
返ってくるはずのない言葉に驚く。
「あれ⁉︎今日、早いね⁉︎」
お父さんとお母さんがリビングにいた。
「たまたま2人とも早く帰ってきてね〜。」
お母さんがニコリと笑ってこちらを見る。
「初めまして!聖仁の母です。」
「初めまして、聖仁の父です。」
龍哉くんと武くんが顔を見合わせる。
「うっす!オレ、青山 龍哉です。同じクラスで、親友です!」
「初めまして。黒岩 武です。聖仁くんとは仲良くさせていただいてます。」
「うんうん。聞いてるわよ〜!聖仁と仲良くしてくれてありがとうね〜!私たち、しょっちゅう家にいなくて…」
「お仕事忙しいんですか?」
龍哉くんが聞く。「おい、」と武くんが注意した。
「私が記者で、お父さんがコピーライターなのよ!仕事柄、不規則な生活だからいないことも多くてね〜!」
「じゃあ、こういう日も珍しいんですね。家族の団欒だし、俺たちは帰らせてもらおう。龍哉、行くぞ。」
武くんがカバンを掴もうとする。
「いやいや、聖仁のお友達と話せるのも珍しい。君たちさえ良かったら晩御飯食べていかないか?」
お父さんが言うと、お母さんが両手を叩いた。
「それ、いいわね!どうかしら⁉︎」
両親の提案で2人は一緒に晩御飯を食べることになった。

晩御飯を食べ終わり。お茶を飲む。
「泊まっていってもいいんだけどな〜。」
「お母さん。」
お母さんを咎めるように言う。
「あはは、オレもそうしたいくらいだけど、明日は部活なんだよなぁ〜。」
「俺も家の神社の掃除当番で…。」
「あまり遅くなりすぎると良くない。僕が車で送ろう。」
お父さんが車を出してくれる。武くんを家に送り、龍哉くんを送った。ガチャリと車を降りる龍哉くん。
「ありがとうございます!聖仁のお母さんにもごちそうさまでしたって伝えといて!」
カバンを肩にかけながら、龍哉くんが、「あ」という。くるりと振り返って僕を見た。
「またな!今度はお泊まり会もしよーぜ!」
ニカッと笑う龍哉くん。
「うん!またね!」
龍哉くんが家に入ったのを見て、お父さんが車を発進させる。
「聖仁、仲のいい友達できて、良かったな。」
「うん。」
「ここに引っ越すってなったときは変わった土地だという噂を聞いていたけどいい場所だな。」
「変わった土地…?」
「『不思議が常に顰み 禍あるとき また奇跡も起きる』と言われているそうだ。僕とお母さんがこっちに同時に異動になって、引っ越すことになったときも、何かの運命かと思ったよ。運命は運命でも聖仁が友達に会える良い運命だったのかもな。」
「運命…」
はは、とお父さんが笑った。
「ね、今日流しそうめんしてさ。写真、あとから見てよ。」
「お!いいなぁ。聖仁はいつもいい写真を撮るから、見た僕も体験してるみたいで楽しいよ。」
「今度は家族でもやろうよ!」
「庭で出来るかなぁ〜。」
その日、僕はお父さんとお母さんと、机に写真を広げ、久しぶりにいっぱい話したのだった。