「こんにちはー!」
とある日曜日、僕は玄岩神社…武くんの家に来ていた。
「聖仁、こっちだ。」
神社に入ると武くんがいた。今日は家の手伝いではないようで、ラフな格好だ。
「こっちがお家になんだね!広いね〜。」
神社の近くの建物に入る。大きくて和風だが、生活感のある内装だ。
「五神やあやかしに関する本が集められた書斎もあるぞ。」
「へぇ〜!」
「まぁ、とりあえず約束してた方な。」
「うん!」
「ここだ。」
武くんが少し古めかしい部屋に案内してくれる。
『……〜〜〜』
「あ、誰か話してる?」
「ほぉ…」
僕が言うと武くんが少し驚いた顔をした。ガラリと扉を開ける。シーンと静まり返った部屋。年代物のお茶碗や書道の筆、置き物があり物置のようだ。
「おい、お前ら、聞こえてたそうだぞ。」
武くんが部屋に向かって話しかける。すると、急に静かな部屋に様々な存在感を感じた。
『え!聞こえてた⁉︎』
『ということは、その子が武が話してた子だ!』
『そうだ!今日がその日だ!』
『武に新しい友達ができた!』
ザワザワと声が聞こえた。
「…すごい…。」
目を凝らすといくつかの道具には目と口が見えた。キョロキョロと動く目は合成のようで不思議な感覚だ。
「うるさくてすまない。付喪神になりかけのものも目や口はなくとも話せたりするんだ。」
武くんが言う。
「鈴彦姫はどこだ?」
『はい、ここに。』
チリンと鈴の音と小さな声が聞こえた。声の方を見ると頭に鈴をつけた小さな雛人形のような付喪神がそこにいた。
「あなたが、鈴彦姫?」
『えぇ。はじめまして。』
にこりと微笑まれる。品のある笑みが長くときを過ごしたものの余裕を感じさせた。
「はじめまして。僕は聖仁って言います。あなたにお礼が言いたくてここに来ました。」
そう、今日は鈴彦姫に会いに来たのだ。以前、付喪神になりすました鬼に騙されかけた僕は間一髪、鈴彦姫により救われた。そのお礼を言いたくて武くんにお願いしたのだ。
「あの、あなたのおかげで鬼に騙されていることに気づけて…本当にありがとうございます。」
座卓の上に座る鈴彦姫と目線をあわすため、正座をして頭を下げる。
『あら…いいのよ。無事で何よりだわ。』
鈴彦姫は小さな手で僕の頭を撫でる。小さい子扱いをされているようだ。
「これ、お礼というか…一応、人から聞いてこれにしたんだけど…」
鞄からお礼を取り出す。
「聖仁、気にしなくていいと…いや、なんだそれ⁉︎」
『あら!』
鈴彦姫が嬉しそうな声をあげる。武くんは動揺した声をあげた。それはそうである。僕が鈴彦姫に渡したのは部活の試合や学校行事で活躍する武くんの写真のアルバム。
「なんだこれ⁉︎」
もう一度、武くんが言う。
「いや…武くんに聞いた時に『いや、そういうのはいいんだ。言葉で伝えろ。』って言ってたけど、そう言ってもなぁ〜って悩んでたらさ、龍哉くんと白水くんが『武の家にいる付喪神たちは武のことを曾孫みたいに思ってるから、武の学校での様子がわかる写真がおすすめ。どうせ、聖仁なら撮ってるだろ?』『あ〜確かに。ぼくも家に行った時に武は学校でどう?みたいなの聞かれるよ。』って。」
「声真似、似てるな…まぁ、いいか。」
武くんがため息をつく。
『鈴彦姫、こっちにも見せて!』
『おぉ!これはよく撮れとる!』
『これなんか曾祖父さんによく似て凛々しくて…!』
『これは美宇も映ってるよ!』
盛り上がる付喪神たち。喜んでくれているようだ。
『ありがとう、素敵なお礼ね!聖仁!』
ニコニコと鈴彦姫が僕にお礼を言う。気に入ってもらえたようで何よりだ。盛り上がる付喪神たちにもう一度お礼を言うと『武を今後もよろしくな!』と言われた。噂通り、武くんを曾孫のように可愛がっているらしい。付喪神たちの部屋をあとにする。
「愛されてるね、武くん。」
「まぁな。家族同然ではある。」
少し顔を赤くした武くんが頭をかいた。まぁ、家族に可愛がられる姿を友達に見られるって恥ずかしいよね。
「ここが俺の部屋だ。」
「お邪魔しまーす。」
部屋は整理整頓がしっかりされてて、その中でダンベルやあやかしの本を広げた机があり、まさに武くんらしい部屋だった。
「適当にクッションにでも、座っててくれ。飲み物を取ってくる。」
「ありがとう!」
武くんが部屋を出た。机に置いてある本が目に入る。
「ふ〜ん…流石あやかしに詳しいだけあって普段から本で調べたりしてるんだ…。そういえば、凛さんもあやかし関連の本よく読んでるよな〜。これは手書き?」
古めかしい手書きの本が開いてあった。ページを見失わないように手を差し込んだまま、ページをめくる。
『瑞桃の均衡を守るもの 五神。五神は瑞獣。四年に一度 常は四神。麒麟は稀なり。均衡に生きるもの その中央は聖人なり。五神の中央である麒麟が存在するとき また対の聖人もあり。常の聖人とは異なる者。均衡を崩すもの・均衡を守るもの・均衡に生きるもの それぞれは救いを求め混ざりあう。』
ペラ…ページを戻した紙の音が大きく聞こえた。
「う〜ん、僕が読んでもイマイチ分からないけど…武くんなら分かるのかな?」
カーペットの上に置いてあるクッションを借りて座る。
「聖仁、麦茶でよかったか?」
武くんが帰ってきた。
「ありがとう。じゃあ、夏休みの予定立てよっか。」
「あぁ。」
もうすぐ夏休み。僕と武くんは計画を立てて過ごす組だったので一緒に決めて、課題をしようということになった。ちなみに他のメンバーに聞くと
「あぁ、ぼくは配られた日から進めてるから夏休み入る頃には半分は終わってるかな。」
「夏休み前半には終わらせてるわね。」
「後半からやれば間に合うだろ。前半は部活もあるし。」
「私は朱音とやる〜。朱音よりペース遅いけど。私は部活もないしね〜。」
とのことだった。うーん、バラバラ。自由人たち。
「武くんは部活もあるよね。」
「あぁ。部活の日程がこの表で…」
2人で話し合い、予定を立てる。予定を立ててから少し課題を進めた。
「あ、もう15時。」
「そんな時間か。何か軽く食べるか。」
「あ!この近くコンビニあったよね!この前、凛さんがオススメのコンビニスイーツ教えてくれたから買いに行かない?」
「あぁ、あの後ろで聞いてた晶がすごい顔してたアレか。」
「あれは、怖かったね…。」
思い出すだけで冷や汗がでる。武くんの部屋を出たら、廊下に美宇さんがいた。
「あら、聖仁くん、いらっしゃい。」
美宇さんも私服だ。柔らかな素材のシャツに爽やかな水色のロングスカートが似合っている。
「こんにちは、お邪魔してます。」
「どこか行くの?」
「近くのコンビニに行ってくる。姉さんも何かいるか?」
「あら!コンビニ限定のアイスを買いたいから一緒に行くわぁ〜!」
「買ってきますよ?」
「いいから、いいから。お姉さんに着いてきなさーい!」
美宇さんがうれしそうに靴を履く。武くんと僕はその様子を見て、おとなしく着いていくことにした。
コンビニに行くと、そこには見知った人がいた。
「あれ?囲夜くん?」
本当にふらっと立ち寄ったという感じのラフな格好。少し近寄るとこちらに気づいた。
「あ…四方先輩!」
ぱぁ…とうれしそうな顔で手を振る。
「ここら辺がお家なんだ?」
「あ、そうなんです。えと、四方先輩は?」
「あっ、僕はここら辺じゃないよ〜!遊びに来てて!」
「聖仁、知り合いか?」
武くんと美宇さんが僕の後ろから覗き込む。
「うん、学校の後輩だよ〜。」
「あらぁ、はじめまして。」
美宇さんがにこりと笑った。囲夜くんが少し驚いたように目を見開く。
「…あ、黒岩先輩ですよね?あっ、えと、どちらも…。」
囲夜くんが少し困ったように言った。黒岩姉弟が顔を見あわせる。
「あぁ、どちらも同じになるよな。俺は名前の方でいい。武、と言う。」
武くんが言う。
「にしても、私たちのこと知ってるの?神社に来たことがあるのかしら?学校でも会ったことないわよね?」
美宇さんが首を傾げた。
「お二人とも有名なので…。玄岩神社でも、校内でも…。」
確かに神社の子というのはだいたい噂になるものだ。あと武くんはよく部活関連の表彰もされている。美宇さんも美人巫女として有名でもおかしくないし。今考えるとこの2人は属性盛り盛りってやつだ。
「武先輩と四方先輩は仲がいいんですね…?」
「うん!今日も武くんのお家にお邪魔してて、それで一緒にコンビニに。」
「そうなんですね。」
「あ、武くんも武先輩だし、僕も四方じゃなくて聖仁って呼んでほしいな!」
新聞部に入ってくれる後輩になるかもしれないし、という願望は心の中に留めておく。
「じゃあ、聖仁先輩…あ、ボクのことも透って呼んでほしいです…。」
「透くんね!」
名前を呼んだら透くんはニコリと笑った。
「あ!ボクこの後、用事があって…」
「あら、引き止めてごめんなさいね?」
美宇さんが言うと透くんはふるふると首を横に振った。
「いえ、お話できてよかったです!じゃあ!」
そう言うと、コンビニから出て行った。僕たちもコンビニで買い物を済ませ、黒岩家に戻った。
「お邪魔しました!」
「あぁ、また来るといい。鈴彦姫たちも喜ぶ。」
「美宇さんにもありがとうございましたってもう一度伝えといてほしいな。」
「あぁ。」
結局、コンビニでの買い物を美宇さんが払ってくれたのだ。『巫女の手伝いでお小遣いもらってるから遠慮しないで。』と言ってくれた。おやつを食べて、勉強を再開した僕らは予定よりも順調に課題が進んだ。
「今度は晶の家のケーキでも買っておくよ。」
「え!それは興味あるかも…」
この辺では有名なケーキ屋である白水くんの家のケーキ。普段も白水くんのケーキを食べることはあるけど、お店のも美味しいんだろうな。
「今度は僕の家にも来てね。」
「いいのか?」
「もちろん!」
そう約束し、玄岩神社をあとにした。
「あ、机の本のこと聞きそびれちゃった。」
夕焼けの中、思い出す。
「まぁ、いっか。」
僕は瑞桃に来て、はじめて友人の家に行って遊んだことに浮かれていた。龍哉くんのお祖父さんの道場に行ったこと?あれはノーカン。罰を受けただけだからね…。
とある日曜日、僕は玄岩神社…武くんの家に来ていた。
「聖仁、こっちだ。」
神社に入ると武くんがいた。今日は家の手伝いではないようで、ラフな格好だ。
「こっちがお家になんだね!広いね〜。」
神社の近くの建物に入る。大きくて和風だが、生活感のある内装だ。
「五神やあやかしに関する本が集められた書斎もあるぞ。」
「へぇ〜!」
「まぁ、とりあえず約束してた方な。」
「うん!」
「ここだ。」
武くんが少し古めかしい部屋に案内してくれる。
『……〜〜〜』
「あ、誰か話してる?」
「ほぉ…」
僕が言うと武くんが少し驚いた顔をした。ガラリと扉を開ける。シーンと静まり返った部屋。年代物のお茶碗や書道の筆、置き物があり物置のようだ。
「おい、お前ら、聞こえてたそうだぞ。」
武くんが部屋に向かって話しかける。すると、急に静かな部屋に様々な存在感を感じた。
『え!聞こえてた⁉︎』
『ということは、その子が武が話してた子だ!』
『そうだ!今日がその日だ!』
『武に新しい友達ができた!』
ザワザワと声が聞こえた。
「…すごい…。」
目を凝らすといくつかの道具には目と口が見えた。キョロキョロと動く目は合成のようで不思議な感覚だ。
「うるさくてすまない。付喪神になりかけのものも目や口はなくとも話せたりするんだ。」
武くんが言う。
「鈴彦姫はどこだ?」
『はい、ここに。』
チリンと鈴の音と小さな声が聞こえた。声の方を見ると頭に鈴をつけた小さな雛人形のような付喪神がそこにいた。
「あなたが、鈴彦姫?」
『えぇ。はじめまして。』
にこりと微笑まれる。品のある笑みが長くときを過ごしたものの余裕を感じさせた。
「はじめまして。僕は聖仁って言います。あなたにお礼が言いたくてここに来ました。」
そう、今日は鈴彦姫に会いに来たのだ。以前、付喪神になりすました鬼に騙されかけた僕は間一髪、鈴彦姫により救われた。そのお礼を言いたくて武くんにお願いしたのだ。
「あの、あなたのおかげで鬼に騙されていることに気づけて…本当にありがとうございます。」
座卓の上に座る鈴彦姫と目線をあわすため、正座をして頭を下げる。
『あら…いいのよ。無事で何よりだわ。』
鈴彦姫は小さな手で僕の頭を撫でる。小さい子扱いをされているようだ。
「これ、お礼というか…一応、人から聞いてこれにしたんだけど…」
鞄からお礼を取り出す。
「聖仁、気にしなくていいと…いや、なんだそれ⁉︎」
『あら!』
鈴彦姫が嬉しそうな声をあげる。武くんは動揺した声をあげた。それはそうである。僕が鈴彦姫に渡したのは部活の試合や学校行事で活躍する武くんの写真のアルバム。
「なんだこれ⁉︎」
もう一度、武くんが言う。
「いや…武くんに聞いた時に『いや、そういうのはいいんだ。言葉で伝えろ。』って言ってたけど、そう言ってもなぁ〜って悩んでたらさ、龍哉くんと白水くんが『武の家にいる付喪神たちは武のことを曾孫みたいに思ってるから、武の学校での様子がわかる写真がおすすめ。どうせ、聖仁なら撮ってるだろ?』『あ〜確かに。ぼくも家に行った時に武は学校でどう?みたいなの聞かれるよ。』って。」
「声真似、似てるな…まぁ、いいか。」
武くんがため息をつく。
『鈴彦姫、こっちにも見せて!』
『おぉ!これはよく撮れとる!』
『これなんか曾祖父さんによく似て凛々しくて…!』
『これは美宇も映ってるよ!』
盛り上がる付喪神たち。喜んでくれているようだ。
『ありがとう、素敵なお礼ね!聖仁!』
ニコニコと鈴彦姫が僕にお礼を言う。気に入ってもらえたようで何よりだ。盛り上がる付喪神たちにもう一度お礼を言うと『武を今後もよろしくな!』と言われた。噂通り、武くんを曾孫のように可愛がっているらしい。付喪神たちの部屋をあとにする。
「愛されてるね、武くん。」
「まぁな。家族同然ではある。」
少し顔を赤くした武くんが頭をかいた。まぁ、家族に可愛がられる姿を友達に見られるって恥ずかしいよね。
「ここが俺の部屋だ。」
「お邪魔しまーす。」
部屋は整理整頓がしっかりされてて、その中でダンベルやあやかしの本を広げた机があり、まさに武くんらしい部屋だった。
「適当にクッションにでも、座っててくれ。飲み物を取ってくる。」
「ありがとう!」
武くんが部屋を出た。机に置いてある本が目に入る。
「ふ〜ん…流石あやかしに詳しいだけあって普段から本で調べたりしてるんだ…。そういえば、凛さんもあやかし関連の本よく読んでるよな〜。これは手書き?」
古めかしい手書きの本が開いてあった。ページを見失わないように手を差し込んだまま、ページをめくる。
『瑞桃の均衡を守るもの 五神。五神は瑞獣。四年に一度 常は四神。麒麟は稀なり。均衡に生きるもの その中央は聖人なり。五神の中央である麒麟が存在するとき また対の聖人もあり。常の聖人とは異なる者。均衡を崩すもの・均衡を守るもの・均衡に生きるもの それぞれは救いを求め混ざりあう。』
ペラ…ページを戻した紙の音が大きく聞こえた。
「う〜ん、僕が読んでもイマイチ分からないけど…武くんなら分かるのかな?」
カーペットの上に置いてあるクッションを借りて座る。
「聖仁、麦茶でよかったか?」
武くんが帰ってきた。
「ありがとう。じゃあ、夏休みの予定立てよっか。」
「あぁ。」
もうすぐ夏休み。僕と武くんは計画を立てて過ごす組だったので一緒に決めて、課題をしようということになった。ちなみに他のメンバーに聞くと
「あぁ、ぼくは配られた日から進めてるから夏休み入る頃には半分は終わってるかな。」
「夏休み前半には終わらせてるわね。」
「後半からやれば間に合うだろ。前半は部活もあるし。」
「私は朱音とやる〜。朱音よりペース遅いけど。私は部活もないしね〜。」
とのことだった。うーん、バラバラ。自由人たち。
「武くんは部活もあるよね。」
「あぁ。部活の日程がこの表で…」
2人で話し合い、予定を立てる。予定を立ててから少し課題を進めた。
「あ、もう15時。」
「そんな時間か。何か軽く食べるか。」
「あ!この近くコンビニあったよね!この前、凛さんがオススメのコンビニスイーツ教えてくれたから買いに行かない?」
「あぁ、あの後ろで聞いてた晶がすごい顔してたアレか。」
「あれは、怖かったね…。」
思い出すだけで冷や汗がでる。武くんの部屋を出たら、廊下に美宇さんがいた。
「あら、聖仁くん、いらっしゃい。」
美宇さんも私服だ。柔らかな素材のシャツに爽やかな水色のロングスカートが似合っている。
「こんにちは、お邪魔してます。」
「どこか行くの?」
「近くのコンビニに行ってくる。姉さんも何かいるか?」
「あら!コンビニ限定のアイスを買いたいから一緒に行くわぁ〜!」
「買ってきますよ?」
「いいから、いいから。お姉さんに着いてきなさーい!」
美宇さんがうれしそうに靴を履く。武くんと僕はその様子を見て、おとなしく着いていくことにした。
コンビニに行くと、そこには見知った人がいた。
「あれ?囲夜くん?」
本当にふらっと立ち寄ったという感じのラフな格好。少し近寄るとこちらに気づいた。
「あ…四方先輩!」
ぱぁ…とうれしそうな顔で手を振る。
「ここら辺がお家なんだ?」
「あ、そうなんです。えと、四方先輩は?」
「あっ、僕はここら辺じゃないよ〜!遊びに来てて!」
「聖仁、知り合いか?」
武くんと美宇さんが僕の後ろから覗き込む。
「うん、学校の後輩だよ〜。」
「あらぁ、はじめまして。」
美宇さんがにこりと笑った。囲夜くんが少し驚いたように目を見開く。
「…あ、黒岩先輩ですよね?あっ、えと、どちらも…。」
囲夜くんが少し困ったように言った。黒岩姉弟が顔を見あわせる。
「あぁ、どちらも同じになるよな。俺は名前の方でいい。武、と言う。」
武くんが言う。
「にしても、私たちのこと知ってるの?神社に来たことがあるのかしら?学校でも会ったことないわよね?」
美宇さんが首を傾げた。
「お二人とも有名なので…。玄岩神社でも、校内でも…。」
確かに神社の子というのはだいたい噂になるものだ。あと武くんはよく部活関連の表彰もされている。美宇さんも美人巫女として有名でもおかしくないし。今考えるとこの2人は属性盛り盛りってやつだ。
「武先輩と四方先輩は仲がいいんですね…?」
「うん!今日も武くんのお家にお邪魔してて、それで一緒にコンビニに。」
「そうなんですね。」
「あ、武くんも武先輩だし、僕も四方じゃなくて聖仁って呼んでほしいな!」
新聞部に入ってくれる後輩になるかもしれないし、という願望は心の中に留めておく。
「じゃあ、聖仁先輩…あ、ボクのことも透って呼んでほしいです…。」
「透くんね!」
名前を呼んだら透くんはニコリと笑った。
「あ!ボクこの後、用事があって…」
「あら、引き止めてごめんなさいね?」
美宇さんが言うと透くんはふるふると首を横に振った。
「いえ、お話できてよかったです!じゃあ!」
そう言うと、コンビニから出て行った。僕たちもコンビニで買い物を済ませ、黒岩家に戻った。
「お邪魔しました!」
「あぁ、また来るといい。鈴彦姫たちも喜ぶ。」
「美宇さんにもありがとうございましたってもう一度伝えといてほしいな。」
「あぁ。」
結局、コンビニでの買い物を美宇さんが払ってくれたのだ。『巫女の手伝いでお小遣いもらってるから遠慮しないで。』と言ってくれた。おやつを食べて、勉強を再開した僕らは予定よりも順調に課題が進んだ。
「今度は晶の家のケーキでも買っておくよ。」
「え!それは興味あるかも…」
この辺では有名なケーキ屋である白水くんの家のケーキ。普段も白水くんのケーキを食べることはあるけど、お店のも美味しいんだろうな。
「今度は僕の家にも来てね。」
「いいのか?」
「もちろん!」
そう約束し、玄岩神社をあとにした。
「あ、机の本のこと聞きそびれちゃった。」
夕焼けの中、思い出す。
「まぁ、いっか。」
僕は瑞桃に来て、はじめて友人の家に行って遊んだことに浮かれていた。龍哉くんのお祖父さんの道場に行ったこと?あれはノーカン。罰を受けただけだからね…。



