「この学校の五神ってやつです。」
鈴の声の少女はそう言い、にっこり笑った。そして、ふわぁと気の抜けたあくびをする。その様子はまるでさっきの化け物は気のせいだったのかという錯覚を起こすほど呑気だ。すると少年と睨み合っていた少女が隣に寄り添って聞く。
「どうしたの?眠くなったの?…はい。解散、男ども、誰かこいつを送っておきなさいよ。あたしたちは帰るから。」
冷たい視線で僕とその場の少年たちを見て、サッサと帰ろうとする。
「あの!…この状況の説明願えますでしょうか…。」
勢いよく声を出したら、少女に睨まれたので声が小さくなる。もう1人の少女はうとうとしてこちらを振り返りもしない。後ろからぽんと肩に手を置かれたので振り返ると、刀を持っていた少年が僕の近くに立っていた。両手の刀はどこかに消えている。
「お前、転校生だろ?明日、放課後にここ集合な。」
それだけ言い、2人の少女を追って行った。青年も大きな男に向かって
「じゃ、あとはよろしく〜」
とだけ、言い残して緩やかな足取りで消えていく。僕と男は取り残された。
「…とりあえず、俺が送ろう。」
男は僕を家まで送ってくれた。帰り道、僕は僕自身を家まで送ることが罰ゲームのように扱われたようで、なんとも気まずい空気だった。男は家の場所以外は何も聞いてこなくって、重い空気に僕もほぼ無言だった。
翌日、学校に行った。校門で担任に会う。
「おはよう!四方君!どう?クラスの子とは仲良くなれそう?」
「おはようございます。まだ転校して3日なので…。」
「転校してきた日は一気に話しかけられてたもんね〜ゆっくりでいいんだよ!ここは人も多いし。」
「はは…」
昨日、夜の校舎に潜り込み、化け物に会いましたとは口が裂けても言えない。どんな問題児だ。
『瑞桃高等学校附属中学校』。中高一貫の学校で、規模はこの地域ではダントツで大きい。先日、僕はこの学校の2年2組に転校してきた。
「4月でクラス替えしたばかりだし、今日は委員会とかも決めるからね!仲良い子できると思うよ!」
「だといいなぁ…」
昨日の謎の少年少女たちが頭に浮かぶ。僕を押し付け合う様子を思い出し、ほろりと切なくなった。
「ほら!遅刻しちゃうよ〜!」
先生に急かされ教室へ向かいながら、昨日の刀を持った少年の言葉を思い出す。
『お前、転校生だろ?明日、放課後にここ集合な。』
どうしよう。ここと指定された部屋。闇雲に走ってたどり着いたから覚えてないんだよな…。あきらめるか?教室につき、自席に座る。
「もしかして、行かなかったら真っ二つにされるとかないよね…?」
「朱音なら八つ裂きにするかもしれねーけど、オレはねーよ。」
「うわあ⁉︎」
僕の独り言に突如返事した人物に驚く。振り返ると例の少年が立っていた。
「よっ。おはよう。」
そして僕の席から少し離れた席に鞄を放り投げて、またこちらに来た。
「…同じクラス?」
「おう。気づいてなかったろ。」
「ごめん…。」
「怒ってねーよ。」
少年はニッと笑った。そして僕の後ろの席の人の机をコンコンと指で突く。
「おーい。起きろ。」
「あっ、その人、僕の転校初日からずっと寝てるんだけど…」
本当にずっと寝続けていて、顔も見たことがない。起こされたことにより、怒ったりしないのか不安になる。
「…んん、ん…」
むくりと後ろの席の人が顔を上げる。その色素の薄い瞳には見覚えがあった。
「あ!昨日の…」
昨日、扇子を持っていた鈴の声の少女だ。気づいた瞬間に教室の入り口から鋭い声が聞こえた。
「もっと丁寧に起こしてあげなさいよ!」
ズカズカと席に近づいてきたのは昨日、冷たい視線を残して帰った少女だった。
「全員同じクラス…?」
「いや、残りの2人は違うクラスだけどな?」
少年が言う。そうなのか。でも3人も同じクラス、というか1人は後ろの席だったのか。後ろの席の少女はくしくしと目を擦って僕を見た。
「昨日ぶりだね。」
と言い、にこりと笑う。あ、笑った顔かわいい。
「凛をいやらしい目で見るな。」
首にヒタリと刃物が当たるような感覚があり、どきりとする。
「やめとけ。朱音。」
少年が言うと、朱音と呼ばれた冷たい視線の少女が、僕の首に当てていたものを離す。定規だ…。完璧に刃物だと思った。逆に定規で僕をどうするつもりだったんだ。青ざめていると担任が教室に入ってきた。
「はーい!みんな、席についてー!」
ガタガタと他の生徒も席に座る。僕の席の近くに来ていた2人も自席に戻り、後ろの席の少女は、スヤリ…とまた眠る姿勢になった。え、大丈夫なの?
「今日は委員会決めるよー!」
先生は僕の後ろの席の少女を気にすることなくホームルームを始めた。…え、寝てていいの?
ホームルームの後、休み時間に例の3人は自席にいなくて話すことが出来なかった。お昼休みは僕が担任に呼び出されていた。
「四方くん、これ渡しておくね!」
「入部届…。」
「そう!うちは強制ではないけどね。」
「入りたい部活はあるので見学して決めます!」
そういって職員室を出て、廊下を歩く。この学校、本当に大きいな。様々な生徒とすれ違いながら考える。やっぱり昨日の髑髏の化け物は気のせいだったんじゃないか。それかドッキリ…?教室に戻ってもまだ3人は教室にいなかった。
放課後、僕が教科書を鞄に詰めていると例の少年が僕の席に来た。
「んじゃ、行くか。」
鈴の声の少女はそう言い、にっこり笑った。そして、ふわぁと気の抜けたあくびをする。その様子はまるでさっきの化け物は気のせいだったのかという錯覚を起こすほど呑気だ。すると少年と睨み合っていた少女が隣に寄り添って聞く。
「どうしたの?眠くなったの?…はい。解散、男ども、誰かこいつを送っておきなさいよ。あたしたちは帰るから。」
冷たい視線で僕とその場の少年たちを見て、サッサと帰ろうとする。
「あの!…この状況の説明願えますでしょうか…。」
勢いよく声を出したら、少女に睨まれたので声が小さくなる。もう1人の少女はうとうとしてこちらを振り返りもしない。後ろからぽんと肩に手を置かれたので振り返ると、刀を持っていた少年が僕の近くに立っていた。両手の刀はどこかに消えている。
「お前、転校生だろ?明日、放課後にここ集合な。」
それだけ言い、2人の少女を追って行った。青年も大きな男に向かって
「じゃ、あとはよろしく〜」
とだけ、言い残して緩やかな足取りで消えていく。僕と男は取り残された。
「…とりあえず、俺が送ろう。」
男は僕を家まで送ってくれた。帰り道、僕は僕自身を家まで送ることが罰ゲームのように扱われたようで、なんとも気まずい空気だった。男は家の場所以外は何も聞いてこなくって、重い空気に僕もほぼ無言だった。
翌日、学校に行った。校門で担任に会う。
「おはよう!四方君!どう?クラスの子とは仲良くなれそう?」
「おはようございます。まだ転校して3日なので…。」
「転校してきた日は一気に話しかけられてたもんね〜ゆっくりでいいんだよ!ここは人も多いし。」
「はは…」
昨日、夜の校舎に潜り込み、化け物に会いましたとは口が裂けても言えない。どんな問題児だ。
『瑞桃高等学校附属中学校』。中高一貫の学校で、規模はこの地域ではダントツで大きい。先日、僕はこの学校の2年2組に転校してきた。
「4月でクラス替えしたばかりだし、今日は委員会とかも決めるからね!仲良い子できると思うよ!」
「だといいなぁ…」
昨日の謎の少年少女たちが頭に浮かぶ。僕を押し付け合う様子を思い出し、ほろりと切なくなった。
「ほら!遅刻しちゃうよ〜!」
先生に急かされ教室へ向かいながら、昨日の刀を持った少年の言葉を思い出す。
『お前、転校生だろ?明日、放課後にここ集合な。』
どうしよう。ここと指定された部屋。闇雲に走ってたどり着いたから覚えてないんだよな…。あきらめるか?教室につき、自席に座る。
「もしかして、行かなかったら真っ二つにされるとかないよね…?」
「朱音なら八つ裂きにするかもしれねーけど、オレはねーよ。」
「うわあ⁉︎」
僕の独り言に突如返事した人物に驚く。振り返ると例の少年が立っていた。
「よっ。おはよう。」
そして僕の席から少し離れた席に鞄を放り投げて、またこちらに来た。
「…同じクラス?」
「おう。気づいてなかったろ。」
「ごめん…。」
「怒ってねーよ。」
少年はニッと笑った。そして僕の後ろの席の人の机をコンコンと指で突く。
「おーい。起きろ。」
「あっ、その人、僕の転校初日からずっと寝てるんだけど…」
本当にずっと寝続けていて、顔も見たことがない。起こされたことにより、怒ったりしないのか不安になる。
「…んん、ん…」
むくりと後ろの席の人が顔を上げる。その色素の薄い瞳には見覚えがあった。
「あ!昨日の…」
昨日、扇子を持っていた鈴の声の少女だ。気づいた瞬間に教室の入り口から鋭い声が聞こえた。
「もっと丁寧に起こしてあげなさいよ!」
ズカズカと席に近づいてきたのは昨日、冷たい視線を残して帰った少女だった。
「全員同じクラス…?」
「いや、残りの2人は違うクラスだけどな?」
少年が言う。そうなのか。でも3人も同じクラス、というか1人は後ろの席だったのか。後ろの席の少女はくしくしと目を擦って僕を見た。
「昨日ぶりだね。」
と言い、にこりと笑う。あ、笑った顔かわいい。
「凛をいやらしい目で見るな。」
首にヒタリと刃物が当たるような感覚があり、どきりとする。
「やめとけ。朱音。」
少年が言うと、朱音と呼ばれた冷たい視線の少女が、僕の首に当てていたものを離す。定規だ…。完璧に刃物だと思った。逆に定規で僕をどうするつもりだったんだ。青ざめていると担任が教室に入ってきた。
「はーい!みんな、席についてー!」
ガタガタと他の生徒も席に座る。僕の席の近くに来ていた2人も自席に戻り、後ろの席の少女は、スヤリ…とまた眠る姿勢になった。え、大丈夫なの?
「今日は委員会決めるよー!」
先生は僕の後ろの席の少女を気にすることなくホームルームを始めた。…え、寝てていいの?
ホームルームの後、休み時間に例の3人は自席にいなくて話すことが出来なかった。お昼休みは僕が担任に呼び出されていた。
「四方くん、これ渡しておくね!」
「入部届…。」
「そう!うちは強制ではないけどね。」
「入りたい部活はあるので見学して決めます!」
そういって職員室を出て、廊下を歩く。この学校、本当に大きいな。様々な生徒とすれ違いながら考える。やっぱり昨日の髑髏の化け物は気のせいだったんじゃないか。それかドッキリ…?教室に戻ってもまだ3人は教室にいなかった。
放課後、僕が教科書を鞄に詰めていると例の少年が僕の席に来た。
「んじゃ、行くか。」