「海に行かないか?」
いつも通り、隠し部屋に集まった放課後に武くんが言った。外を見ると夕方なのにまだ明るい。もう夏だ。図書室の奥にあるこの部屋は涼しいけど、確かに最近登下校は暑い。
「いいじゃない。」
「ありだな。まだそんな混まないだろうし。」
朱音さんと龍哉くんが同意する。
「いいね!ここら辺の海、綺麗って聞くし、いい写真撮れそう!」
僕も返す。武くんが小さく頷いた。
「え、いや、ぼくは…」
水出しの紅茶を机に置きながら、白水くんが躊躇うように言う。
「あら、運動音痴に海はきついかしら?」
朱音さんが煽る。
「あ〜そりゃあ、行きたくねぇか。」
ニヤリと龍哉くんが笑った。今日の2人はこういう気分らしい。噂によると今回の期末テストも白水くんに勝てなかったようだ。逆恨みすぎる。あと朱音さんや龍哉くんと比べたら、僕だって運動音痴だ。
「晶、お前、カナヅチではないだろう。一緒に海で、曾祖父さんと青山先生の特訓を受けたし。」
武くんがいうと、白水くんがバッと武くんを振り返った。
「それだよ!あんな乱暴に『泳いで帰ってこい』って海に放り投げていって…どの時代の訓練だよ!トラウマだよ!」
白水くんが叫ぶ。全てを察する僕。
「凛ちゃんも青山先生に海に放り投げられたんじゃない⁉︎…ねぇ⁉︎」
白水くんが凛さんを振り返る。
「え。」
静かだった凛さんがスマホを片手に顔を上げた。スマホ画面には『海を楽しむ!特大スイカ割りセット!』と『花柄浮き輪』が表示してある。というか、購入済画面じゃん、それ。
「凛は海好きよ。」
朱音さんが言った。
「じいちゃんに放り投げられたときも大喜びだったぞ。」
龍哉くんも追撃する。白水くんがダラダラと汗をかく。この汗は暑さのせいではない。
「うぐ…凛ちゃん、が喜ぶ…なら…。」
ガクリ、と項垂れる。
「決定だな。じゃあ、来週の土曜でどうだ?」
白水くんの説得が終われば、そのあとはとんとん拍子で計画は進み、僕たちは海に行くことになった。

「「「「海〜!!!」」」」
僕、凛さん、龍哉くん、朱音さんが砂浜を走る。
「おい、まだ着替えてないから飛び込んだりするなよ。」
「「「「はーい!」」」」
武くんが、僕たちの後ろを白水くんと一緒に歩きながら注意する。集合場所を決め、男女に分かれて着替えに行く。
「人、ほとんどいないね〜。」
「な。時期的にまだ早いのかもな。」
龍哉くんと話しながら着替える。
「武?白水?」
静かな2人を不思議に思った龍哉くんと僕が振り返る。
「ん?あぁ。」
武くんが返事する。白水くんは僕たちを気にすることなく、せっせと…日焼け止めを塗っていた。
「おい、晶…」
武くんが少し呆れながら声をかける。
「武も青山もどうせ、日に焼けたって、スポーツマンって言われるだろうけど、ぼくは髪色も相まって、チャラい海の男になるんだよ‼︎」
白水くんは手を止めずに言う。結局白水くんが納得するまで日焼け止めを塗ってから更衣室を出た。

「いや、男子の方が時間かかるって、なに?」
更衣室を出てすぐに朱音さんが言い放つ。
「…」
「おぉ…」
「何よ。」
龍哉くんと僕の反応に朱音さんが訝しげにこちらを見る。
「朱音さん、水着可愛いな、と思って…!ね、龍哉くん!」
「…はぁ?俺は女は色んな水着があるんだなって思っただけだっつーの…!」
僕が言うと龍哉くんがプイッと顔を背けた。耳が少し赤いから絶対見惚れてたのに。龍哉くん…。
「朱音さんならスポーティなの着そうだけど、おしゃれな水着にしたんだね。パレオってやつ?」
話を続けると朱音さんが、ふふん、と笑う。
「凛とお互いに選びあったの。」
あ、なるほど。少し大人っぽい雰囲気が朱音さんにぴったりだ。
聖人(せいじん)くん、私は褒めてくれないの?」
ぴょこりと朱音さんの後ろから凛さんが現れる。
「ど?」
ふりふりのいかにも可愛いビキニを着た凛さんが目の前でくるくるまわる。
「凛さんも似合ってて可愛いよ!」
「お、いいじゃん。」
「…可愛いっ‼︎」
僕と龍哉くんの後ろから白水くんが飛び出してきた。というか、僕と龍哉くんを遠慮なく突き飛ばした。
「本当に似合ってて…最っ高に可愛いよ!」
白水くんが凛さんを褒めながら、持ってきたスイカを抱きしめる。ミシリと音が聞こえた。やめてやめて。割れちゃう。
「ふふふ♪ありがとう〜!武、どう?」
凛さんはご機嫌にくるくるまわりながら武くんにも聞く。凛さんがまわるたびにフリルがふわふわと揺れる。
「っな…!熱中症にならないよう、帽子もかぶっておけ…‼︎」
「わぶっ‼︎」
熱中症レベルに真っ赤になった武くんが持ってきていた麦わら帽子を凛さんに無理やりかぶせた。
「もう…なに⁉︎龍哉も晶も聖人(せいじん)くんも褒めてくれたのに!」
ぷく!と頬を膨らませて凛さんが怒った。
「素直に褒めればいいのに。」
「こればかりは同意。」
白水くんと朱音さんが、ぼそりとつぶやいた。僕も頷く。(龍哉くんもね…。)と心の中でつぶやいた。
「さーて、泳ぐか!」
「準備運動はしろよ?」
龍哉くんと武くんが準備運動を始めた。
「ちょっと僕、写真撮るね!」
僕は持ってきたカメラで海を撮った。キラキラ光る海の鮮やかさを画面におさめる。
「…ん?」
撮った写真を確認する。この光って…?少し考えてから首を振る。いやいや、他のみんな何も言ってないんだし。武くんと凛さんを見る。2人と目が合った。
「聖仁?」
「早くおいで〜!スイカは後から食べようね!」
凛さんが手招きする。
「あ、待って〜!」
僕は慌ててカメラをしまい、みんなの方に走った。
「聖仁!武!誰が泳ぐの速いか競おうぜ!」
「おう、聖仁は泳ぐの得意なのか?」
「まぁまぁかな!」
「ねぇ〜見て、朱音。カニ!」
「あら、可愛い。」
「凛ちゃん、こっち桜貝あるよ!」
それぞれが自由に楽しむ。泳いでいたら朱音さんが参戦して、龍哉くんと朱音さんの競争がヒートアップしたり、凛さんが乗った浮き輪を白水くんが引っ張っていたら、甘やかすなって武くんが凛さんの浮き輪をひっくり返したり…あっという間に時間が過ぎていった。
「うぁ〜!海は冷たいけどやっぱ砂浜はあちぃな!」
龍哉くんがパラソルに入る。
「そろそろスイカ食べようか〜!じゃーん!」
冷やしていたスイカを凛さんが抱える。足元にはブルーシートと木の棒。
「スイカ割りしよー!」
にこにこの凛さん。目隠しまで持参してるらしい。
「誰がやるの?」
「ぼくはパス。スイカが爆散するかもしれないし。」
早々に白水くんが断る。凛さんが指差しぶつぶつ呟く。
「神様の言うとおり〜…きーめた!聖人(せいじん)くん、いってみよー!」
「ぼ、僕?」
テキパキと準備される。
「よし、聖仁、オレらの声で当てるんだぞ。」
聖人(せいじん)くん、こっちだよ〜!」
凛さんの声が聞こえる方に歩く。
「聖仁、丑の方角に十五歩、寅の方角に三歩だ!」
「いや、分かるか‼︎」
武くんの真面目なアドバイスにキレる僕。
「やぁ‼︎」
『ズシャ!』
当たった感覚がない。目隠しを外す。
「外れちゃった〜」
僕が目隠しと棒を凛さんに渡す。
「じゃあ、次は私!」
朱音さんに目隠しをしてもらいながら、ブンブンと棒を振る。気合い十分だ。
「凛ちゃん、こっちだよ!」
「凛!卯の方角に二歩、丑の方角に二十歩!」
「だから、それ…」
「まかせろ〜!」
「いや、分かるんかい!」
五神にとって普通の指示だったんだ⁉︎凛さんがスタスタと歩き、スイカの目の前にくる。
「とりゃ!」
『ポコン!』
凛さんがスイカを叩いて、目隠しを外す。
「あちゃ〜当たったけど割れてないや…」
少し力が足りなかったのかスイカは割れていない。
「次は、オレか?」
龍哉くんが凛さんから棒を預かる。凛さんがぎゅっぎゅと龍哉くんに目隠しをする。
「まぁ、見てろよ。綺麗に六等分にしてやるよ。」
「それ、棒だからね?」
ふふん、と笑う龍哉くん。棒で綺麗に六等分出来るなら人類は包丁を作ってないんじゃない?
「ねぇ、力加減してよね?」
「へぇへぇ。」
朱音さんが龍哉くんに注意する。目隠しをしてるはずなのにスタスタとスイカの位置まで、ほぼヒントなしで歩く龍哉くん。
「ここだ‼︎」
『ドチャ…!』
龍哉くんが目隠しを外すと、スイカはヒビが入っていた。力加減をし過ぎたのか割れるまでにはなっていない。龍哉くんはブンブンと棒で空を切って、もう一度、棒をしっかり見た。
「…。」
「どした?龍哉?」
凛さんが顔を覗き込む。
「なんだ、このなまくら。スイカ、オレの刀で斬ろうぜ。」
龍哉くんが手を振り、刀を出そうとする。
「やめて⁉︎ヒビ入ったからここから割って食べよう!十分だよ!」
僕の悲鳴によってスイカは無事に刀を使わずに分けられることになった。何斬ったか分からないような刀で斬ったスイカは食べたくない!パラソルの下でスイカを食べる。もう海には僕たちだけになっていた。少し涼しくなったので皆パーカーを羽織る。
「でも、珍しいよね〜。武が皆に遊びに行こうって言うなんて。誘ったら来てくれるけど、自分からってことないし。」
スイカ一切れを食べ終わったらしい凛さんがゴロゴロしている。朱音さんと白水くんが、凛さんが次食べるスイカの種をとってどちらが先に渡せるかを競う。何してるんだ…。
「あぁ…まぁ、確認したいことがあってな。」
武くんがスイカの皮を皿に置いた。龍哉くんが二切れ目に手を伸ばし、一口かじる。
「へぇ〜海で?」
「あぁ、あれだ。」
武くんが指さす方を、僕、龍哉くん、凛さんが見る。
『ヴァァァ…ホシイ…カワリ…ホシイ…』
海から人のようであり、人のようでないものがこちらを見ていた。
「「「⁉︎⁉︎」」」
「やっぱり、でたか。」
武くんが立ち上がる。
「んぐっ⁉︎嘘⁉︎あれって…⁉︎」
「げほっ⁉︎種、飲んだ…!『あやかし』かよ‼︎」
「嘘〜…『7人ミサキ』…」
凛さんが、ひくりと口を歪ませた。というか、スイカの種、飲んじゃった…。
「凛!次のスイカ!」
「あぁ…あと少しなのに…!」
「お前ら、それどころじゃねーよ‼︎」
朱音さんと白水くんがまだスイカの種を取っていた。龍哉くんに怒鳴られて海の方を見る。
「え!7人ミサキ⁉︎」
「どういうこと⁉︎」
「とりあえず、一旦、距離取るよ!」
凛さんの指示で僕たちは海の家に走った。

「無人だね…」
「まぁ、もうみんな帰る頃だったからな。」
僕が言うと龍哉くんが頷いた。凛さんが武くんの胸元を掴む。
「『あやかし』だよね⁉︎」
「パーカーが伸びる。掴むな。…噂には聞いてたんだがな。人数が欲しくて。」
「「「「「いや、普通に教えてて⁉︎」」」」」
武くん以外の全員が声を揃える。
「というか、2人は分かるのでは⁉︎」
凛さんと龍哉くんを見る。
「「海なんて無害の『あやかし』もわんさかいるから!」」
2人が声を揃えて反論する。
「俺だって『あやかし』がいるかいないかくらいは分かる。悪意があるかと相手が7人いるというのが問題だ。」
武くんがムッとする。それで皆で行けばいいか〜ってなる⁉︎
「なんで普通に手伝って、とか、助けて、とか言えないわけ⁉︎武、昔からそういうとこあるよね⁉︎」
白水くんが武くんに言う。ふい、と他所を向く武くん。あ〜、これはあれだ〜。凛さんに頼りたくないモードの武くんだ…。というか…。
「あ〜…やっぱあれ…」
「あれ?」
僕が呟くと龍哉くんが反応する。
「来た時に写真撮ったんだけど…いやにフレアとか気になるな…オーブ的な…とは。」
あれは『玉響(たまゆら)』だったんだ。転校してすぐにも見たやつだ。僕は頭を抱えた。
「はぁ…まぁいいよ。これはどちらにしても全員が出てこないと対処できないやつだろうし。聖人(せいじん)くんも連れてきちゃったけど…。」
凛さんの手に扇子が現れた。
「ここで倒すよ。」

『ヴァァァ…カワリ…』
海をうろうろしている『7人ミサキ』を海の家から見る。
「1、2、3、4…本当だ。7人いる。」
僕の後ろから武くんが顔を出す。
「あぁ。7人ミサキは代わりを探してるんだ。命を奪えば、命を奪ったやつは解放され、成仏できる。奪われたやつが新しい『7人ミサキ』ってわけだ。」
「ハハッ、7人だとこっちを全員代わりにされても1人足りないな。」
「いや、縁起でもないな‼︎」
後ろにいる龍哉くんの言葉にゾワっとする。
凛さんも顔を出す。
「うーん…どうするかな…」
むむむ、と腕を組んで考える。
「ちょっと皆、耳貸して。」
凛さんが皆を集めた。

「おい!7人ミサキ!オレが相手だ!」
龍哉くんが7人ミサキの目の前に現れる。それぞれの方向を向いていた7人ミサキが龍哉くんを一斉に見る。
龍燈(りゅうとう)!』
まるで龍の目玉のような火の玉が連なり、7人ミサキに襲いかかる。1体に当たりそうになった時、他の7人ミサキから声が聞こえた。
『…煩イ溺ル溟海(めいかい)
真っ黒の海水が7人ミサキの1体を守る。
「凛の予想通りだな…」
タンッと跳ねて僕たちの方に駆け戻ってくる龍哉くん。
「ありがとう。龍哉。やっぱり7人ミサキは海から遠く離れないし、お互いを守りあう可能性がある。ということで、話した通りでいこう。」
武くんが頷く。
「聖仁、玉城から離れるなよ。」
「うん!」
五神たちが走り出した。僕と朱音さんが海から離れる。
「ここまで離れて大丈夫?」
「ここぐらいまで離れないと、あんたが危ないわよ?」
海の方を見ながら朱音さんが答えた。
「ここなら、いけるわね。」
きりりと狙いを定める。
『咲き乱れよ遠花火(とおはなび)―――』
朱音さんが矢を離した瞬間に矢が増え、飛び散る。それは遠くの7人ミサキを狙いながらも避けられ、捕えきれずに海に落ちた。
「惜しい!」
僕が言うと朱音さんは僕の方を見ずにつぶやく。
「狙い通りよ。」

「おっ、おっし!オレだな!」
7人ミサキが朱音の矢を避けていく。避けたことにより7人ミサキ同士が近づく。
(よし)の牙!』
砂浜に刀を突き刺した。見えないが、自分のまじないの力が刀を通り、地面の下を這っていくのを感じる。集中し、予定通りの場所にぐるりと力をまとわせた。

「―――お、きた?」
「あぁ。」
凛ちゃんの反応に武が頷く。相変わらず、ぼくにはさっぱり分からない。
「青山のまじないの力が7人ミサキを囲ってるの?」
「そう。」
あやかしの力を感じにくいのは玉城とぼくだけど、五神同士の力はさらに感じにくい。親和性が高すぎるのか馴染んでしまって違和感を感じにくいらしい。なので、より力を繊細に感じとれる凛ちゃんと武がこの場所に必要だった。
「私の出番だね。」
凛ちゃんが扇子を開き、にこりと笑った。あ、かわいい。
紅鏡(こうきょう)よ、うらうらと光の恵みを。木叢(こむら)よ、光による清浄な気を生み出せ―――』
キラキラと海に差し込む凛ちゃんの真言による太陽の光は、青山のまじないの葦の成長を急速に進める。真上にいたらかじりつかれたようになりそうな勢いで海から葦が伸びた。
『⁉︎』
7人ミサキが葦に囲まれ、動揺する。葦の間をかき分けようとしたとき―――
何時迄草(いつまでぐさ)
凛ちゃんのまじない。植物の蔦が葦の間をくぐり、籠のように織り込んでいく。この繊細なまじないの操作は武にも到底できない、いわゆる鬼才。歴代の麒麟の中でも随一だ。逃れられない壁の中で7人ミサキが暴れる。
「晶、構えろ。」
「ん。オッケー。」
少し悔しそうな顔の武がぼくを呼ぶ。ぼくは薙刀を握りしめた。

「おおぉ⁉︎」
「伏せて!」
7人ミサキが急に植物の壁で囲まれた。朱音さんに勢いよく頭を抑えられていると、凛さんの大きな声が聞こえる。
「いくよ!最大出力!」
凛さん、武くん、白水くんがそれぞれの武器を構えた。その瞬間、空気がパリパリと音を立てる。
神解(かみと)け!』
『雪起こし!』
百篝(ももかがり)!』
3人が同時に叫んだ。その瞬間、黒い雲が立ち込め、雷鳴が轟く。3人のそれぞれの雷が連なりとんでもない大きさの雷が落ちる。
『バリバリバリィィィイ‼︎』
「うわわわ…」
ぐらぐらする地面に耐える。朱音さんも伏せながら、僕の腕を掴んでくれた。
『ヴァァォォォ…!』
7人ミサキに雷が直撃し、苦しんでいるのが見える。海水に当たった雷の電流もあわさって7人ミサキはとんでもない電撃を受けているようだ。
『ヴォォォォォ…』
徐々に7人ミサキの悲鳴が小さくなる。7人ミサキと共に電撃が当たったであろう葦と蔦の壁が焦げ崩れた。そこにはもう7人ミサキの姿はなかった。まるで深い海に溶けてしまったように。
「って、寒っ⁉︎え、嘘…‼︎」
はらりはらりと目の前に降ってきたのは雪。今は夏だ。
「武のまじないね…。」
朱音さんがぶるりと震えた。

「すまない。」
鼻水を垂らす僕を見て、早々に武くんが謝る。
「や〜、ズビッ。まじないの影響ならしょうがないよね…。」
ズズッと鼻をすする。水着から着替えたものの夏服なので大して水着と変わらない。
「あわ〜…寒そうだね?」
凛さんが心配そうに僕を見る。そんな凛さんはパーカー3枚重ねだ。凛さんと武くんと白水くんの分。凛さんの少し小柄な体型だと2人のパーカーは結構大きい。
「…っ、くしっ!」
朱音さんがくしゃみをする。
「朱音、ん。」
龍哉くんが朱音さんに自分のパーカーを脱いで羽織らせる。
「あたしより凛に…」
「いや、あいつもういらねぇだろ。」
確かに凛さんはもう寒くなさそうだ。歌を歌いながら降ってる雪を掴もうとしていた。
「ゆ〜きや、こんこん♪」