「すみませーん!」
とある金曜日のお昼休み、僕は校内にある飼育小屋に来ていた。この学校では兎、インコ、鶏、鯉など様々な動物を飼っている。今日は『学校のアイドル!可愛い動物たち特集!』という新聞記事のため飼育小屋に取材の予定だ。月曜日にクラスの飼育委員に取材のお願いをしたところ、案内は飼育委員長がしてくれるとのこと。お昼休みに飼育委員長がいるからその間に取材をする約束だ。
「はーい。」
飼育小屋の近くから動物の餌らしきものを抱えた人物がひょこっと顔をだした。
「今日、取材の約束で来ました!四方です。」
「あっ、どうも〜いらっしゃい。」
飼育委員長ということは高学年の人だろう。にこやかに返事をしてくれた。
「あの…あとからお話も聞きたいんですけど、写真、先にいいですか?うさぎとか可愛い写真撮れそうですし!」
すると飼育委員長が少し顔を曇らせた。
「あっ、えっとね…ちょっと怪我しちゃってる子が多くて…傷が目立つから可哀想な感じになるかも…」
「え?うさぎ同士で喧嘩でもしたんですか?」
「ううん…。」
飼育委員長が悲しそうな顔をする。
「あのね、ここ、うさぎ小屋の扉。少し壊れてるでしょ?いつ壊れたかも分からなくて…それでこの前、ふくろうがね、入ってきてて…」
「え!食べられたり…」
「ううん!食べられそうになってたときに私が来て…放課後だったんだけどたまたま通ったから…それで焦って小屋に入ってふくろうを追い返したんだけど、怪我しちゃってて…」
うるうると目を潤ませている。ほら、と指差したうさぎを見ると酷い傷を負っていた。
「本当に大きくて乱暴なふくろうでね、追い返そうとしたら私にも襲いかかってきて…運がいいのか悪いのか私はうさぎの穴に足を取られて転んでね、それで避けることは出来たんだけどちょっとふくろうの爪で引っ掻かれちゃって…」
飼育委員長が包帯を巻いた腕を見せる。僕はカメラを仕舞った。
「あの…傷が治るまで延期します。僕個人の活動ですし…。今のところはですけど。それより餌、持ちますよ。腕を怪我してるのにそんな重いの持つの大変ですよね、手伝わせてください。」
「えっ!いいの?すごく助かる!」
僕は飼育委員長の手伝いをして、解散した。午後の授業中に少し考える。
「人を襲うくらい大きなふくろう、ね…」

「そんなの分かるはずないじゃない。」
「ですよね〜」
朱音さんにバッサリと切り捨てられ、肩を落とす。書く記事もなくなった僕は隠し部屋にきていた。「飼育小屋に来た大きなふくろうって『あやかし』だったりしません?」と聞いたところ、先ほどのバッサリとした言葉が返ってきた。
「あのね、ふくろうがうさぎを食べるのは自然の摂理でしょ。『あやかし』だけが何かを襲うという考えは間違いよ。」
確かに。僕は朱音さんに定規で襲われそうになったことがあるしな…と返せるわけもなく。
「まぁ、確認くらいはしてあげたら?」
白水くんがお茶を用意しながら話に入ってきた。
「じゃあ、あんたが確認に付き合ってあげたら?」
「朱音は自称リーダーの右腕じゃないの?行ってあげなよ。」
「自称」を強調して白水くんが返した。僕の頭の中でコングのカーン!という音が響く。
「白水、あんた自分が凛のお世話係なかなか出来ないからって恨んでるの?」
「そんなことないよ。玉城こそ、今日ぼくがお菓子とか作ってるのちらちら見てるよね?玉城の料理下手は手がつけられないから、ぼくレベルは諦めた方がいいんじゃない?」
今日はこの部屋、僕を含め3人なんだよなぁ…勘弁してほしい。ずずっとお茶をすする。そしてスマホを開く。
「はぁ⁉︎見てないですけど⁉︎あぁ〜またこいつは凛に気に入られるのに必死だな〜って思ってただけですけど⁉︎」
「なっ⁉︎見てるのは見てるよね?だいたい気に入られるとかじゃなくて凛ちゃんにはこれが必要だし!そりゃ、ぼくの作るお菓子が1番って思ってほしいけど…なんならぼくの作るもの以外は食べないでほしいし…」
「〜〜〜‼︎化けの皮が剥がれたわね⁉︎この束縛野郎!」
まだ口喧嘩だけどそろそろ乱闘になりそうだ。
「ねぇ、2人とも。」
制止の声をかける。
「「止めないで‼︎」」
「凛さんからの連絡。」
2人が反応する。僕はずいっと2人の真ん中にスマホを置いた。
『朱音、晶、2人で飼育小屋に現れるふくろうの調査お願い〜!』
凛さんからの連絡だ。
「「……」」
2人が静まる。ピロンピロンとおって連絡がくる。
『朱音、土曜日におでかけ行く約束、楽しみにしてるから怪我はしないようにね!』
『晶、ご近所さんにフルーツもらったから今度持っていくね!晶にフルーツのはちみつ漬け作ってほしいよ〜』
「「………」」
2人のピリピリした雰囲気が柔らかくなる。ぽわぽわと嬉しそうな空気がでている。
「まぁ?多分普通のふくろうだと思うけどね?凛が確認してって言うなら…」
「リーダーの指示だしね?2人でって言ってるなら1人が行くより2人で行った方がいいだろうし。」
とんでもなく効果があった。凛さんありがとう。2人には途中からしか連絡を見せてないが、ふくろうの件を確認してもらえるように上手いこと連絡を送ってほしいとお願いしたのだ。
「あ、案内は僕がするよ。飼育小屋の扉の壊れたとことか見てもらった方がいいかも。」
2人がこくりと頷いた。

「ここなんだけど…」
運動部もそろそろ帰っている時間帯、飼育小屋に行く。ふくろうは夜行性だからこれくらいの時間なら現れるかもしれない。
「ほら、ここ…なんか壊れたというより、壊された感じがして…」
扉の壊れた部分を指さすと2人がじ〜っと見る。
「う〜ん…ねぇ、玉城。」
「あたしに聞かないで。」
「どうしたの?」
2人がもだもだし始めたので話しかけると白水くんは笑顔で、朱音さんは素っ気なく、気まずそうな反応をする。
「いや〜武とか凛ちゃんとかはこういうの見ただけで『あやかし』の仕業か分かったりするんだけどね?」
「龍哉は野生の勘で違和感くらいなら感じ取るんだけど…」
「えっと、もしかして…」
「「見てもさっぱり分からない。」」
嘘でしょ⁉︎なんとなくこの2人に任せてたら大丈夫か〜って思っちゃってたよ!
「ちなみにこのうさぎ見ても…」
怪我したうさぎを指さす。
「「怪我してるなぁ。引っかかれたのかなぁ。としか。」」
普段仲悪いのにこんなに息ぴったり!それは僕と変わらないレベルの感想!僕の心の声に気づいたのか白水くんと朱音さんが焦って弁解する。
「武とか凛ちゃんみたいなのが特例なんだよ⁈歴代の四神も言ってたし!」
「先代も黒岩家は四神にならなくても『あやかし』についてを学ぶからそういう人間じゃないと分からないことも多々あるって…」
「いや、責めてないんで焦らないでください…」
「焦ってないよ!ほら、凛ちゃんに調査を頼まれてるからね⁉︎こういう木とかに、そのふくろうがとまってるかもしれないよね⁉︎」
「確かに、白水!珍しくいいこと言うわね!分からなければ見つけ出せばいいのよ、そのふくろうを‼︎」
白水くんが飼育小屋の近くの大きな木を揺すり、朱音さんが木の根元を蹴る。
「いや!ちょっとそれは無理があるというか…ちょ!2人とも本当に木が揺れてるし!やめて〜!」
『ボトリ』
「「「え…???」」」
目の前に黒い影が落ちてきた。それは人を攫うことさえ出来そうなサイズの鳥…。まさか木から落とされると思ってなかったのか、ワタワタと飛ぼうとしている。
『バサッ…』
羽を広げて…飛び立つ。
「「「いたぁぁぁあ‼︎」」」
全員で声をあげる。
「山の方に行こうとしてる!2人ともどうしよう⁈」
「あのサイズはおかしいでしょ!玉城!追いかけるよ!」
「先追いかけて!あたしはここから狙う!」
いつの間にか手にしていた弓矢でキリリと山に向かっているふくろうを狙う朱音さん。
遠花火(とおはなび)!』
ビュンと矢がふくろうを狙い、羽を掠めた。羽から一瞬炎がでて、ふくろうがバランスを崩し、ふらふらと落ちていく。
「ちっ、外した!」
「玉城!そんなことしたらどこに落ちたか分からないだろう⁉︎」
「逃げられるよりマシでしょ⁉︎」
ここでも歪み合う2人。
「僕、落ちるまでに追いつくよ!」
「「え⁉︎」」
揉める2人を置いて走り出す。カメラや荷物を持ってない分、全力で走る。校舎の裏門をでて、山の方へ走る。まだふくろうは落ちきっておらず、羽を必死に動かして少しでも遠くに行こうとしている。ふくろうの真下に追いついた。
「こっちにいるよー‼︎」
全力で大きな声を出す。
「「了解‼︎」」
少し遠くから2人の声がした。
『ドサリ』
ふくろうが落ちてきた。木の影に隠れて監視する…つもりが先ほどの大声を聞いていたのか、ふくろうが恨めしそうな目で僕を見ていた。ギラギラと光る金色が恐怖を煽る。
「いや〜さっきの矢は朱音さんなんですけど…」
『ホゥゥウ…ギャァァア!!!』
「そうですよね⁉︎言葉通じませんよね⁉︎というか、僕も同罪ですよね‼︎」
ふくろうに威嚇されてしゃがみ込む。ふくろうがこちらに爪を伸ばした。
獅子乱刀(ししらんとう)!』
ザッ!と音が聞こえて、ふくろうが後ろに下がった。しゃがんだ僕の目の前には薙刀をもつ白水くん。
「ふぅ…聖仁くん、足速いね…」
少し息があがっている。先ほどの白水くんの攻撃をふくろうはうまく避けたのか羽が少し散ってるくらいだった。規格外のサイズの猛禽類というだけあってふくろうは爪もくちばしも鋭く、近づいたら一瞬で八つ裂きにされそうだ。
「『あやかし』なんだよね…」
「どう考えてもそうでしょ。あんなのうさぎと言わず、人を食べるレベルよ?」
後ろを振り向いたら朱音さんがいた。
「大きいけど素早いわね…」
ふくろうはこちらを威嚇しながら飛ぶ。また逃げるかもと追いかけようとすると、もう逃げるつもりはないのか、飛んだと思ったら低空飛行をして僕たちに向かってきた。
「わぁぁあ⁉︎」
白水くんが僕と朱音さんの前に立ち、薙刀の石突で地面を叩いた。
百篝(ももかがり)!』
その瞬間、稲妻が目の前に落ちる。それを避けるためにふくろうは軌道を変えた。
「あんった…!白水!そういう危ないのやめてくれる⁉︎」
「あのふくろうに当てるか軌道を変えさせるためにやったんだけど!」
「2人とも喧嘩してる場合じゃないよ!」
ふくろうはくるりと周って今度は後ろにいた朱音さんの方へ向かって来ている。
『火の(いん)!』
朱音さんが以前凛さんがやっていた印を結ぶとボゥッと炎があがる。『あやかし』だが、野生動物でもあるのかふくろうは炎を怯え、また距離をとる。
「玉城のやる、火の(いん)は火力が異常なんだから山火事になるだろ!」
「うるさい!とりあえず、あたしは距離のあるとこから狙う!四方を守りながら上手くやって!」
「四方を守りながら」。自分が守るわけではないけど…僕の心配をしてくれるのか。そんな場合じゃないけど、じ〜ん…としてしまう。はじめはこんなこと言ってくれなかったもんな…。
「怪我させたら凛が心配して、四方の怪我みるからとかで土曜の約束がパーになるかもしれないから、怪我させるんじゃないわよ!」
前言撤回。感動の涙も引っ込んじゃったよ。自分の身はなんとか自分で守ろう。うん。
「白水くん、なるべく邪魔にならないようにするので…」
「あの木の近くにいて。そこには絶対近づかせないから。」
頼もしい。指示された木の近くで姿勢を低くする。白水くんがブンッと力強く薙刀を回してふくろうの方へ駆ける。朱音さんを見ると真上に弓を構えていた。
『夏の(しも)!』
朱音さんの放った弓が上に飛び、見えなくなったと思ったら何本にも増えて降ってきた。そして、降り注ぐ。ふくろうと…白水くんに。
「うわっ!!!」
白水くんがギリギリのところで薙刀で矢をはらう。
「玉城、ぼくに当てる気だろ!」
「そいつ素早いからこういう攻撃がいいと思っただけ!あんたが飛び込んできたんでしょ!」
このペア、本当に仲悪いな…。頭の中の龍哉くんが「な、言ったろ?」と言ってくる。
桃花鳥(とうかちょう)の風切り――』
虎落笛(もがりぶえ)!』
今度は朱音さんの矢が『あやかし』に当たりかけたときに白水くんが斬撃で矢を斬ってしまう。
「さっきの当たりそうだったのに何すんのよ!」
「たまたま斬っちゃったんだよ!」
ふくろうは2人が歪み合うことで致命傷を避け続けている。僕が頭を抱えていたらピロンとスマホが鳴った。
「だいたいあんたとペアになるの嫌なのよ!あんたが近くに行くから狙いづらいし!」
「ぼくだって容赦なくこっちに当てるつもりだから迷惑なんだよね!同じ中距離や遠距離の攻撃でも凛ちゃんは上手く合わせてくれるし!」
「はぁ⁉︎こっちだって近距離でも龍哉の方がよっぽどマシよ!」
2人は『あやかし』に攻撃を繰り出しながら喧嘩を白熱させている。僕は立ち上がった。
「あのーーー!!!凛さんから『2人のことだから頑張ってくれてるよね?応援してるよ♡』とのことです!」
スマホを持ちながら大声で叫ぶ。
「「!!!」」
2人が振り返る。
「〜〜〜!白水!私が合わせる!」
「分かった!頼む!」
白水くんが薙刀で激しい斬撃を食らわせる。薙刀の重さを感じさせない連続の攻撃。だが、ふくろうは当たりながらも致命傷を避けている。
虎爪(こそう)のごとき荒まし白刃、前に交われば流矢を顧みず―――』
真言を紡いで、大きく薙刀を振ったときにふくろうが攻撃の間をぬい、白水くんに爪を伸ばし、威嚇しながら飛びかかる。
『ギャァァア!』
「白水くん!」
僕が叫んだ時、白水くんの口元は笑った。白水くんの瞳がアイスブルーに輝いている。
『ただそのゆくりなき流矢、(なんじ)の命までを奪う。侮るなかれ―――』
響いた声につられて、朱音さんの方を向くと朱色の瞳が一層強く光った。その手に矢は見えないのに弓を引いている。
『『野分(のわき)驟雨(しゅうう)!!!』』
ふくろうがいる位置に突然矢が現れて、心臓を貫く。
『ギィィィイ!ギャァァア!!』
ふくろうが苦しそうに鳴く。だが、その矢は抜けることなく深く突き刺さっている。やがて、ふくろうは黒くなりどろりと崩れていった。

「2人ともお疲れ様!」
どろりとした黒いものが地面に流れる様子を見ている2人に駆け寄る。朱音さんがパッと僕の手元にあったスマホを取り上げた。
「スマホ、部屋に置いてきたから貸して。凛に連絡する。」
「あっ、ちょっと待って!」
朱音さんが僕のスマホで凛さんに連絡しようとする。そこには先ほどの凛さんからの連絡。
『どうせ、2人、喧嘩してるでしょ?なんか上手いこと言って上手くやっといて〜。』
「「………」」
かたまる朱音さん。そしてスマホを覗き込み同じようにかたまる白水くん。
「…いや〜『応援してるよ♡』って凛さんなら言うかなって…」
僕はだくだくと滝のような汗をかく。『2人のことだから頑張ってくれてるよね?応援してるよ♡』という連絡があったというのは真っ赤な嘘だ。嘘をついて、2人をやる気にさせたのがバレた。今日が僕の命日になるかもしれない。龍哉くん、武くん、僕のお墓にはハンバーガーとかも供えてね…。
「「…っ、あはは!」」
2人が急に笑い出した。もう辞世の句を心の中で読み上げていたので、ぎょっとする。
「えぇ〜?普通、上手くやっといて〜だけで、あれでる?聖仁くん、人使うの上手いね!あはは!」
「ふふっ!あたしたちにバレたらどうなるか大体予想できたのに大胆に言ったわね!あははっ!」
ケラケラと2人があまりにも笑うので、僕もへへっと笑った。
「はぁ〜、笑った。まぁ、それはそれとしてよくも騙してくれたね。」
「凛を使って嘘をつくなんて言語道断。」
急に空気が変わる。白水くんは黒い笑顔だし、朱音さんからは冷たいオーラが立ち上っている。
「「ちょっと部屋で話聞こうか。」」
部屋に戻る道のりは僕にとって処刑台の階段のようだった…。

「それは『たたりもっけ』かな〜。」
「詳しくいうと『たたりもっけ』になりかけだったんだろうな。」
月曜日に隠し部屋に行き、起きた出来事を話すと、凛さんと武くんが言う。ちなみにあの後、部屋で紅茶を飲みながら色々責められていた僕だが、途中で朱音さんと白水くんがまた喧嘩を始めたのでこっそり逃げ出した。
「『たたりもっけ』になりかけって?」
「『たたりもっけ』とは赤子の死霊のことを指すんだが、その死霊はふくろうに魂を宿すことがある。おそらくそれが中途半端な状態だったんだろう。それで人を襲うサイズにも関わらず、うさぎを狙ったりしてたんだ。そのまま放っておいたら人も襲っていただろうな。聖仁、よく見つけてくれた。」
僕が聞くと武くんが説明してくれた。
「いや…たまたま『あやかし』かもしれないって思っただけだし…」
「その勘は大切だ。違和感や自分の勘を信じて動くことで『あやかし』を退治し、大きな被害を起こさず済んだ。」
武くんは朱音さんと白水くんを見た。
「これに関しては本能的なものがあるからお前たちが分からなかったのが悪いとは言わない。だが、はじめに聖仁が話した時に取り合わなかったり、確認を押し付けあったらしいな。」
2人がだらだらと汗をかく。武くんの圧がすごい。事の成り行きを凛さんに話したら武くんにも伝わっていた。
「お前たちが一般生徒の意見をないがしろにしたら、黄野に迷惑がかかるかもしれないことくらい考えろ!」
ビリビリと声が響く。凛さんに迷惑という、2人に1番ダメージがいく形での武くんのお説教だ。
「いつもは、すましてるやつらが怒られてやんの。」
龍哉くんがニヤニヤと2人を見る。この前のバックチョークの件をまだ恨んでいるんだろう。小気味いい、と顔が言っている。じとりと2人が龍哉くんを睨むと、龍哉くんは口笛を吹きながら、顔を逸らした。
「さて、龍哉、聖人(せいじん)くん。帰ろうか。」
「おぅ。」
「えっ?3人は?」
「あれは今回長いぜ?」
龍哉くんが指さす先で、武くんが白水くんと朱音さんに向き合って説教を始めていた。
「武のお説教〜第一章一節 五神の心得〜って感じだね。あぁなると長いし私は帰りたいかな。」
さっさと片付ける2人。3人を見ると武くんが「そもそもだな、俺たちは五神の加護を受けていて、それは人を守る力を得ているんだ。それなのにお前らは〜〈以下略〉」とお説教を続けている。小さくなっていく白水くんと朱音さん。うん、僕も帰ろうかな…。メンテナンスしていたカメラを仕舞う。

帰り道、凛さんと龍哉くんがソフトクリームを奢ってくれた。『あやかし』を見つけたお礼と白水くんと朱音さんの喧嘩に付き合わされたお詫びらしい。