助けられると伝えられてほっとする元夫をよそに、彼女は聴集者達に向かって告げた。
「みんな、お別れは出来た? いままで生き返らせたみんなの命も、天に還していくね」
「なんですって!?」
「や、やめろ! せっかく金儲けができたというのに!! そんなことしたら今までの苦労が水の泡になるだろうが!!」
竜胆に押さえつけられながらも暴れる元夫を無視し、すずは両手を組み、祈る。
「ごめんなさい……」
彼女の謝罪は、決して元夫に対して告げたものではない。
これまで彼女が黄泉還らせた者、そして彼らに関わった者すべての者に対しての言葉だった。
「一緒に、還ろう」
彼女が祈り始めると、心の準備が出来た者の身体が淡く光り始め、天へと昇っていく。
残された者は名残惜しんだり、泣き叫んだり……悲しみに暮れる者もいれば、生き永らえることの出来た喜びを感謝する者もいる。
黄泉還しを遂げた多くの命が天に昇っていく中、元夫は相変わらず叫び続けている。
「やめろと言ってるだろうが! すず!」
「あなた! 身体が……! ど、どうして!?」
「……あ?」
恋人の驚愕に溢れた声と表情に、元夫が自身の身体を見ると、四肢がゆっくりと溶けていくように砂になっていた。
「な、なんだよ、これ!?」
「黄泉還し後に本人の意志によって悪意を成した者は、他の魂と同じ場所に逝くことは出来ない。……地獄逝きだ」
鬼からの宣告に、元夫がごくりと唾を飲んだ。
「俺、まさか……」
「……死んでいたんだよ」
「解放するって、まさかそういう……!?」
三年前のあの日、元夫は死んでいた。彼はその自覚がないまま、これまで過ごしていたのだ。
「うそだろ!」
「あなたの父さん……前の村長さんが、生き返らせて欲しいって頼んだの」
「親父が……?」
「父は子の存命を祈ったのに。その父の子は……あなたは、父の蘇生を願わなかったね……」
すずは悲しそうな瞳で、かつて夫であった人物を見つめる。
「いやだ! 俺はまだ死にたくない!! いや、百歩譲って死ぬのは良いが、地獄は嫌だ!!」
「わ、私も、身体が砂に!? いやあ!!」
元夫だけでなく、その恋人までもが身体が砂になっていく。
「助けなさいよ、すず!!」
「そうだ! すず!!」
地獄逝きが決まった今となっても、すずを虐げて来たふたりは以前と変わらず強気に命令をするが、彼女は頭を振った。
「……私には、そんな力ないよ。それに、あなたたちにとって、この力は不気味なんでしょう?」
彼らの全身の大半が砂と化していく。
元夫を押さえつける必要もなくなり、竜胆は彼から手を放して立ち上がる。
「もし地獄逝きを止められる力があったとしても、竜胆様からもらった力を蔑むあなたたちのためになんか、もう使いたくない!」
彼らの結末を、すずはこの状況を引き起こした者として見届けなければいけない。
彼女は目を背けずに真っ直ぐな視線で、砂と消えて行く因縁の相手の末路を追った。
「いやあああああ!!!」
「すず!!!! お前を呪ってやる!!!!」
すずを呪う断末魔を聞かせまいと、竜胆が彼女の耳を塞ごうとする。
すずはそんな彼の手に触れて、制止した。
「竜胆様。大丈夫だよ。ちゃんと、見届けるから」
「無理はするな」
「こんなの、村長の家にいた頃に比べれば、なんてことはないよ」
元夫とその恋人が完全に砂となって崩れ落ちたのを見届けた頃、すずの身体が淡く光り始める。
「私は……地獄逝きじゃないんだね」
「ああ」
「竜胆様……。私と一緒に生きてくれるって……本当?」
「待っている」
「うん! 三途の川に、竜胆様に会いに行くよ!」
すずの全身が光になると、他の魂と同じように天に昇っていく。
鬼の竜胆は、彼女の魂を追いかけるように村から姿を消す。
村に残されたのは、一握りの生存者のみ。
誰も彼も、みな自分たちのことしか考えておらず、すずが苦しい境遇にいたことなど気付いていなかった。
この結末は彼女への仕打ちに対する報いだろうと、残された者は悟った。
「みんな、お別れは出来た? いままで生き返らせたみんなの命も、天に還していくね」
「なんですって!?」
「や、やめろ! せっかく金儲けができたというのに!! そんなことしたら今までの苦労が水の泡になるだろうが!!」
竜胆に押さえつけられながらも暴れる元夫を無視し、すずは両手を組み、祈る。
「ごめんなさい……」
彼女の謝罪は、決して元夫に対して告げたものではない。
これまで彼女が黄泉還らせた者、そして彼らに関わった者すべての者に対しての言葉だった。
「一緒に、還ろう」
彼女が祈り始めると、心の準備が出来た者の身体が淡く光り始め、天へと昇っていく。
残された者は名残惜しんだり、泣き叫んだり……悲しみに暮れる者もいれば、生き永らえることの出来た喜びを感謝する者もいる。
黄泉還しを遂げた多くの命が天に昇っていく中、元夫は相変わらず叫び続けている。
「やめろと言ってるだろうが! すず!」
「あなた! 身体が……! ど、どうして!?」
「……あ?」
恋人の驚愕に溢れた声と表情に、元夫が自身の身体を見ると、四肢がゆっくりと溶けていくように砂になっていた。
「な、なんだよ、これ!?」
「黄泉還し後に本人の意志によって悪意を成した者は、他の魂と同じ場所に逝くことは出来ない。……地獄逝きだ」
鬼からの宣告に、元夫がごくりと唾を飲んだ。
「俺、まさか……」
「……死んでいたんだよ」
「解放するって、まさかそういう……!?」
三年前のあの日、元夫は死んでいた。彼はその自覚がないまま、これまで過ごしていたのだ。
「うそだろ!」
「あなたの父さん……前の村長さんが、生き返らせて欲しいって頼んだの」
「親父が……?」
「父は子の存命を祈ったのに。その父の子は……あなたは、父の蘇生を願わなかったね……」
すずは悲しそうな瞳で、かつて夫であった人物を見つめる。
「いやだ! 俺はまだ死にたくない!! いや、百歩譲って死ぬのは良いが、地獄は嫌だ!!」
「わ、私も、身体が砂に!? いやあ!!」
元夫だけでなく、その恋人までもが身体が砂になっていく。
「助けなさいよ、すず!!」
「そうだ! すず!!」
地獄逝きが決まった今となっても、すずを虐げて来たふたりは以前と変わらず強気に命令をするが、彼女は頭を振った。
「……私には、そんな力ないよ。それに、あなたたちにとって、この力は不気味なんでしょう?」
彼らの全身の大半が砂と化していく。
元夫を押さえつける必要もなくなり、竜胆は彼から手を放して立ち上がる。
「もし地獄逝きを止められる力があったとしても、竜胆様からもらった力を蔑むあなたたちのためになんか、もう使いたくない!」
彼らの結末を、すずはこの状況を引き起こした者として見届けなければいけない。
彼女は目を背けずに真っ直ぐな視線で、砂と消えて行く因縁の相手の末路を追った。
「いやあああああ!!!」
「すず!!!! お前を呪ってやる!!!!」
すずを呪う断末魔を聞かせまいと、竜胆が彼女の耳を塞ごうとする。
すずはそんな彼の手に触れて、制止した。
「竜胆様。大丈夫だよ。ちゃんと、見届けるから」
「無理はするな」
「こんなの、村長の家にいた頃に比べれば、なんてことはないよ」
元夫とその恋人が完全に砂となって崩れ落ちたのを見届けた頃、すずの身体が淡く光り始める。
「私は……地獄逝きじゃないんだね」
「ああ」
「竜胆様……。私と一緒に生きてくれるって……本当?」
「待っている」
「うん! 三途の川に、竜胆様に会いに行くよ!」
すずの全身が光になると、他の魂と同じように天に昇っていく。
鬼の竜胆は、彼女の魂を追いかけるように村から姿を消す。
村に残されたのは、一握りの生存者のみ。
誰も彼も、みな自分たちのことしか考えておらず、すずが苦しい境遇にいたことなど気付いていなかった。
この結末は彼女への仕打ちに対する報いだろうと、残された者は悟った。