会議室をそろりと見渡した。周りにいるのは中堅やベテランばかりである。下っ端は一人。ロイの心の芯はキュッと締め上げられた。

 運行指揮官とは、ロケットや衛星の打ち上げや運行などの進行統括を行う責任者である。常時二~三人が二十四時間三交替でその任に就く。

 三年ぶりの有人飛行で、否が応でも士気が上がっている。そのなかで、まだ研修中の自分が一体何ができるのか。その事を思うと、妙に息苦しくなる。ロイは襟元に人差し指を入れ左右に動かす。こうすると、首回りが少し広がり、息が楽になるように思えるのだ。

「以上の研修をこれからひと月間行います。通常業務もあるから忙しいと思うけど、がんばってください。ここまでで何か質問は?」

 相変わらず表情の乏しいスズカが、メガネを引き上げながら振り向く。すると、斜め前の席から手が上がった。

「今回ですが、どうして見習いが含まれているのですか? すでに研修を終えて、一人前になっている運行指揮官は他にもいます。わざわざ通常より一人多くする必要はないと思いますが」

 責められるいわれはないのだが、ロイは心持ち肩をすぼめた。

「ベテランだけで固めては、経験を後に伝えることはできない。特に、ロイは元飛行士訓練生。飛行士のことも熟知している。うってつけだと思ったから加えたのよ」

 表情をのせずスズカはつけ加えた。

「ただし、研修の経過によっては、メンバーから外れてもらう場合もあります。心してください」

 あからさまな敵意が斜め前から注がれる。うつむきながらロイはまた、襟首に指を差し入れ、心持ち広げた。

 運行指揮官の会議が終わり、ロイは一番に廊下に出た。深く息を吐き出し、襟のボタンを一つ明ける。すると、後ろから追い抜きざま、むき出しの敵意をぶつけられた。

「ふーん、訓練生崩れか。せいぜい手本にさせてもらうよ」
「……イーハンさん」

 浅黒い肌、彫りの浅い顔。アグノゥサ人のイーハンは、一瞥を残し、その場を後にした。