「具合はどうかな」
「そうだなぁ。いすが固い。今度からファーストクラスにしてくれないかな」

 ヴィクターの軽口が皆の笑いを誘う。その中でただ一人、ロイだけは無表情のまま、淡々と通信を続けていた。

「他に不具合はない?」
「大丈夫。問題はないわ」
「了解」

 ぷつり、と通信回路を切ると、ロイは襟を押し広げ、息を大きく吐き出した。

「どうした? 少し廊下に出てくるか?」

 隣に座るイーハンが声をかけてくる。「大丈夫です」と答えながら、ロイは前方に広がるモニターを見る。
 半分には、世界地図の上に、ロケットの予定軌道を描いたものが、残りの半分には船内の様子が映し出されている。三年前にはなかったシステムである。船内に異常があればこちらからも確認できるように、カメラを取り付けたのだ。
 宇宙服を着こみ、神妙な面持ちの二人がいる。

 何も、沸き上がってこない。

 ただ時が来るまで、悟られぬようにするだけだ。

 ロイは、モニター左端に浮かびあがっている時間を見る。――あと三十分だ。