乾いた大地を蹴りあげて、ソーイチは詰め所から町へと一目散に走り込んだ。
 町では戦闘機の音に驚いた人々が、店から顔をのぞかせている。窓下のドアに飛び込むと、ミラはカウンターの前で地面に座り込み、両腕を抱え、震えを押さえ込もうとしていた。カウンターの上には薬の袋と水がある。

「ミラ、飲んだか?」

 頷くミラの膝の上に前足を乗せると、ソーイチはゆっくりと言いきかせた。

「大丈夫だ。この町はテッドと煙草のじいさん達が守ってくれる」
「おじいさん!?」

 ミラが目を丸くしてこちらを見る。穏やかな笑みを含んだ顔で、ソーイチは頷いた。

「驚くのも無理はねぇよな。じいさん達、なかなかやるぞ」

 ニヤッとひげをあげると、ミラは半信半疑の顔をして頷いた。意外な事に気を取られたせいか、心持ち震えが治まっている。
 膝に置いた前足に視線を落とした。足裏から伝わる温もりを手に含むように、指と指の間を押し広げる。爪が出てしまう寸前まで広げると、ゆっくりと閉じた。

「ミラ、オレ今から開発局に行ってくる」
「え?」
「ちょっと様子を見てくる。……すぐ帰ってくるから」

 薄く、口元に笑みをつくると、ソーイチはカウンターに飛び乗った。とたん、左足から全身にびりりと痛みが走る。思わずうめき声をあげると、ソーイチはその場にうずくまった。

「こんなときに……!」

 顔をゆがめ、左足をにらみつける。すると、ふわりと優しい匂いが身を覆いつくした。

「連れていってあげる」

 治まりつつあった震えがまた始まっている。それでもミラはソーイチを両腕で抱きかかえた。

「やめろ! ミラ! お前はここで待ってろ! すぐ帰ってくるから!」

 ミラを見上げ叫ぶ。だが、ミラは首を振ると、店の扉を引き開けた。
 ギュウゥゥゥン……、と戦闘機が町を舐めるように飛ぶ。ビクリと肩を震わせるが、ミラは一歩踏み出した。

「いいから戻ってろ! また倒れるぞ!」

 町の住人が表に出て、ゲートに驚きと不安げな目を向けている。辺りをはばかりながら、ソーイチはミラに言うが、ミラは聞かない。ソーイチをギュッと抱きしめると、ややうつむきながら、ミラは目抜き通りを歩き始めた。