かたつむりの群れのごとき老人達の集団を、ソーイチは屋根伝いに追いかけていた。

「う。屋根が途切れる」

 老人達は、今日は町から出るのか。

「なんだよ。やっぱり遠足かよ」

 町からゲートまでは多少距離がある。屋根もない。遊びなら付き合う必要もねぇや、とソーイチはきびすを返そうとした。

「さて、お茶にでもしようじゃないか」

 ゲートの手前で老婆が言った。

「そう言うと思ってましたよ」

 嘆息まじりにイーハンの父親が言うと、その友人達があきらめ顔で、担いできた長いすを組み始める。

「時間がかかるとわかってると、やっぱりこのひとときは必要だなぁ」
「心の余裕ってぇのは、大事なもんだ。いい取引につながる」

 老人達は思い思いに、イーハンの父親達が持ってきていた荷物をほどき始めた。
 かごに詰められているのは、カップとポット。そして大きなミルクのボトル。別のかごには、とても甘くて固い、焼き菓子が入っていた。人間だった頃、それにそのままかじりつこうとし、ミラに止められた覚えがある。
 固く焼きしめているのは、日持ちさせるための知恵であり、老人達は、合わせて持ってきた小さな木槌で、細かく砕いて口に運んでいた。
 たっぷりミルクの入った紅茶を飲み、時には水煙草を吹かしながら、ゆったりと会話を楽しむ。それが、アグノゥサ人の習慣である。そんな時間を共に過ごしながら、相手を見定め、取引を行うのである。
 刺繍の帽子の老人は、自分で持ってきた丸いすに腰掛け、いつもどおり吹かし始めた。

 ゲートのそばでくつろぎ始めた老人達を見て、イシリアンテ兵たちが駆け寄ってきた。が、それを、老婆達が紅茶を差し出し、焼き菓子を差し出し、あやす。腑に落ちないも、丸め込まれ、兵達は腰を下ろしてしまっていた。

「年は食っても女は女か。くわばらくわばら……」

 苦笑しながら、その様子をながめる。ふと、ソーイチは片眉を上げた。
 一番前にもう足腰が弱っている老人達。二列目はまだしっかりしている老人とイーハンの父親達。最後に老婆達。刺繍の帽子をかぶった老人はそのかたわらにいた。きれいに三列に並び、その幅はゲートと同じ長さである。
 あらたかの荷物は開けられているが、各自が肩から提げてきた長い袋はいまだ開けられていない。
 ソーイチは老人達のピクニックを横目に、ゲートそばにある兵達の詰め所へと走り始めた。