翌夕刻、管制室の幾人かが会議室に集められた。
顔なじみの管制官と世間話をしながら会議室に入る。そこでロイは一瞬足を止めた。
会議室前方に見知った顔が並んでいる。その中でただ一人の女性飛行士候補であるスバルは、ロイを見つけるとまた目を合わせてきた。
責めるでもなく、かといって、全てを受け入れるわけでもなさそうな複雑な表情は、喉の奥に塊をこさえる。ロイは目をそらすと、すみに座り込こんだ。ほぼ人が集まった会議室を見渡すと、運行指揮官見習いで呼ばれているのはロイだけだった。
定刻になり、再び会議室のドアが開く。宇宙開発局のアグノゥサ支部局長を始めとする上層部が入ってきた。その中にはスズカやテッドの姿もある。ロイは首をかしげた。
「皆、忙しいところ集まってもらって申し訳ない。大きなプロジェクトが決まったため、それを伝えるために集まってもらった」
支部局長が通り一遍のあいさつを済ませると、話し手はテッドに移った。昨日とはうって変わって凜とした姿を見せるテッドに、ロイも襟を正した。
「大きなプロジェクトとは他でもない、第八期有人飛行計画が正式に決定した」
ロイの目が見開かれた。
「みんなも知っているとおり、前回は非常に悲しい結末となった」
その言葉を聞き、それぞれに視線を落とした。
第七期有人飛行計画は、イシリアンテ王国宇宙開発局始まって以来の大惨事となった。
打ち上げ直前にロケットが爆発・炎上したのである。搭乗していた三人は死亡。また、ロケットからもれ出た有害物質による汚染の可能性があるため、この町も、住民を避難させ、ひと月の間閉鎖されたのである。士官学校最後の年だったロイは、食堂のテレビでその事を知った。
「あれから三年。開発局が総力を挙げて原因究明に努め、修正と開発に力を注いできた。その結果の一端が昨日のIE―F4の打ち上げ成功だ」
静かだが、じょじょに熱が込められるテッドの言葉に、ゆっくりと顔を上げる。
「三ヶ月後、我々はもう一度宇宙を目指す。以上だ。」
力強い返事が、会議室に満ちあふれた。
会議室から出ると、ロイ! とひときわ大きな声で呼び止められた。ほがらかに笑うその相手だけには、気まずそうな、照れくさそうな表情を隠すことなく見せた。
「やったな! 見習いで選ばれるなんて、すごいじゃないか!」
いたずらが成功したときと同じ、屈託のない笑顔を見せる。
「ヴィクター、お前もな。がんばったよな」
ああ、と返事をしながら、ヴィクターは表情を引き締めた。
「お前の分も飛ぶと決めてるんだ。まかしておけ」
廊下の大きな窓から見える太陽は、地平線の向こうに行こうとしていた。
追いかけるように、細い月が西の空を滑り始める。その冴えた明るさにすがった日のことを、ロイは思い出した。
顔なじみの管制官と世間話をしながら会議室に入る。そこでロイは一瞬足を止めた。
会議室前方に見知った顔が並んでいる。その中でただ一人の女性飛行士候補であるスバルは、ロイを見つけるとまた目を合わせてきた。
責めるでもなく、かといって、全てを受け入れるわけでもなさそうな複雑な表情は、喉の奥に塊をこさえる。ロイは目をそらすと、すみに座り込こんだ。ほぼ人が集まった会議室を見渡すと、運行指揮官見習いで呼ばれているのはロイだけだった。
定刻になり、再び会議室のドアが開く。宇宙開発局のアグノゥサ支部局長を始めとする上層部が入ってきた。その中にはスズカやテッドの姿もある。ロイは首をかしげた。
「皆、忙しいところ集まってもらって申し訳ない。大きなプロジェクトが決まったため、それを伝えるために集まってもらった」
支部局長が通り一遍のあいさつを済ませると、話し手はテッドに移った。昨日とはうって変わって凜とした姿を見せるテッドに、ロイも襟を正した。
「大きなプロジェクトとは他でもない、第八期有人飛行計画が正式に決定した」
ロイの目が見開かれた。
「みんなも知っているとおり、前回は非常に悲しい結末となった」
その言葉を聞き、それぞれに視線を落とした。
第七期有人飛行計画は、イシリアンテ王国宇宙開発局始まって以来の大惨事となった。
打ち上げ直前にロケットが爆発・炎上したのである。搭乗していた三人は死亡。また、ロケットからもれ出た有害物質による汚染の可能性があるため、この町も、住民を避難させ、ひと月の間閉鎖されたのである。士官学校最後の年だったロイは、食堂のテレビでその事を知った。
「あれから三年。開発局が総力を挙げて原因究明に努め、修正と開発に力を注いできた。その結果の一端が昨日のIE―F4の打ち上げ成功だ」
静かだが、じょじょに熱が込められるテッドの言葉に、ゆっくりと顔を上げる。
「三ヶ月後、我々はもう一度宇宙を目指す。以上だ。」
力強い返事が、会議室に満ちあふれた。
会議室から出ると、ロイ! とひときわ大きな声で呼び止められた。ほがらかに笑うその相手だけには、気まずそうな、照れくさそうな表情を隠すことなく見せた。
「やったな! 見習いで選ばれるなんて、すごいじゃないか!」
いたずらが成功したときと同じ、屈託のない笑顔を見せる。
「ヴィクター、お前もな。がんばったよな」
ああ、と返事をしながら、ヴィクターは表情を引き締めた。
「お前の分も飛ぶと決めてるんだ。まかしておけ」
廊下の大きな窓から見える太陽は、地平線の向こうに行こうとしていた。
追いかけるように、細い月が西の空を滑り始める。その冴えた明るさにすがった日のことを、ロイは思い出した。