ドアを開けると、雲一つない空が広がっていた。
 見上げ、まぶしそうに目を細めると、ロイは部屋を出て鍵を差す。がちゃり、と歯車が組み合わさる。見えることのない動きを、しばらくじっと見つめていた。

 八期当日の担当者は二週間前から通常業務を外されている。その代わり、他のメンバーにスムーズに仕事を回せるよう、入念に準備しろとのお達しが下されていた。昨日も帰宅したのは深夜になってからである。「まともな休暇はあげられない」と、スズカが言ったことは本当だった。

 階段に向かおうと足を踏み出すと、町が見える。いつもより静かな町だ。小さな旗が風になびき、「祝・第八期有人飛行」の文字がかすかに見える。自分たちの世話をするために収容されたような人々が、この出来事を喜んでくれている。大人達はともかく、イステアたちは心の底から楽しみにしているのだ。

 ふと、町の妙な動きが目に留まった。老人とおぼしき人々が歩いている。遠くから見ればカタツムリにも似た一群は、ゲートに向かっている。

「……ま、いいや」

 ポツリとつぶやくと、手にしたカバンの持ち手をギュッと握りしめた。