「テッド、あのくそガキ、もう連れてくるなよ」
「なんで?」
「何が『縁起の悪い』だ。てめぇ、何様のつもりだっていうんだよ」

 カウンターで一人、後から出された紅茶にジャムをたっぷり入れていたテッドは、ほがらかに笑い始めた。

 傾いた日が店の中に長い影を伸ばす。客は他になく、女店主は明日の準備にと、タマネギを刻んでいる。その小気味よい音が薄衣のように会話を包み込んでいた。

「あれでもマシな方だと思うよ」
「イシリアンテの慣習か。目を合わせただけで、吐きそうな顔をしていたヤツもいたっけ」

 苦笑が広がる。ふわぁっと黒猫があくびをかみ殺した。

「厄落とし……か。そんなこと言ったか?」
「ああ。……こうしてまた話ができるんだ。ある意味『ヤクオトシ』できてたんじゃないか。ソーイチ」

 黒猫は体に顔を埋めた。

 女店主が店の奥に入ったのを見計らい、テッドはささやいた。

「決まったよ」

 黒猫が耳を動かした。

「もう人選もだいたい終わった。同盟国出身のヤツもいるよ」
「国籍変えて、忠誠誓わされて……。ご苦労なこった」

 ピクリと持ち上がるひげは、あざ笑うかのように見える。黒猫はカウンターに体を横たえながらぐっと伸びをする。窓に見えるのは発射台。そびえ立つ鉄骨が、空に向かって手を伸ばしているように見える。

「仕方ない。表向きには開かれているけど、軍の一部だ。機密もれは困る」
「ふん……。後々の処理が簡単だもんな」

 背を向ける黒猫に合わせるように、テッドもまた、日を受けてきらめく発射台に目をやった。