ふぅ、と大きな息を吐くと、底に残った紅茶を飲み干した。かたわらではイーハンが、同じように紙コップの紅茶をすすっている。
 後ろの会議室には、突き合わせた机の上に大量の紙が広げられたままだ。「もー無理だー!」と同時に叫び、二人して廊下に飛び出して、一息ついていたのである。
 高く、広い窓の右側が、濃い橙色に染まり始めていた。

「間に合うかなぁ」
「間に合わせるんだよ」

 コンと頭をこづかれる。痛てぇ! と笑いながら大げさに言った。

「打ち上げと帰還の時はどうしてもトラブルが起きやすい。……前回のこともある。用心に越したことはないさ」

 黙って頷くと、ロイは襟元を押し広げた。

 部品については今、スズカが徹底的に洗い直している。部品メーカーの社員がアグノゥサにほぼ泊まり込みで対応していた。
 一度だけ、スズカとメーカーの会議に参加した。いつもとは違う、好戦的なスズカにロイはかなりとまどった。そのためか、メーカー側からは苦情が来ているようなのだが、テッドは適当に受け流しているという。
 黙りこくっているロイを気にしてか、イーハンが話題を変えた。

「そういえば、スバル? ちゃんと会ってるの?」

 ぐっと目を見開いた。

「な……なんで、そんなこと……!」
「え? みんな知ってるよ。あれだけただならぬ雰囲気出して見つめ合われちゃ、さすがにね」

 パクパクとおかしな形に口が動くのを見て、イーハンが天井に届きそうなくらい高く笑う。今、耳まで真っ赤になったのがわかった。
 いつから? 何がきっかけ? と、尋問が始まる。いつになくニヤニヤと笑いながら問いかけてくるイーハンに、無防備になってしまった口からは、素直に言葉が出てしまった。
 暴言を吐いて寮を出た。嫌われたと思っていた。が、先月気にしていないと言われ、心が動かなかったといえば、うそになる。

「なんで、会わないの?」
「お互いに大事な時期ですから」

 会えば、何かにほだされてしまう。そういう緊張感のないことは、今、心が受けつけなかった。

「ボクは、そういうときだからこそ、リラックスが必要だと思うけどな」

 さーて、戻るか、とイーハンが紅茶を飲み干す。
 さっきの、ゆがめた鳶色の目が、気になった。