小さな旗をいくつもぶら下げたひもが、建物と建物の間を行き交う。さまざまな国の旗の最後尾には、空色の地に七つの星をちりばめた旗がひらりとはためく。開発局の旗だ。
 店先には「祝・第八期有人飛行」と書かれた看板や幕が掲げられ、それを記念した商品などが置かれている。
 子どもたちは学校で作ったのだろうか、ロケットの模型を手に、口をとがらせエンジン音を上げ、何度も走り去っていく。昨日、イステアの姉が言っていた。発射当日は学校が休みになるそうだ。

 この間の移転騒ぎがうそのように、町は賑わいを見せている。いや、むしろ考えたくないのだろう。今は、この打ち上げを喜ぼう、そんな空騒ぎにも似た感情も見え隠れした。

「自分の時は、町を見る余裕なんてなかったからなぁ」

 眼下に広がる色鮮やかな町をながめながら、ソーイチはピクリとひげを上げた。
 この騒ぎにもかかわらず、あの老人は、いつもの通り、町の入口で水煙草を吹かしている。先日の不気味な笑い声を聞いてから、ソーイチはますます気になってしかたなかった。

 あれ以来、妙に険しくなった気がする。

 表向きはいつも通りである。のんびりと水煙草を吹かし、子どもたちを見守っている。ただ、目だけが鋭いのだ。
 また煙に巻き込まれないうちに、ときびすを返し、ソーイチは店に向かった。

 店では、タリムが野菜を運び込んでいた。全てを運び終えると、両手でソーイチの顔を挟み込み、ぐしぐしと顔を真ん中に集めるようにしてなでて行く。普段、何かと役に立ってもらっているため、ソーイチはいつも我慢することにしていた。
 ソーイチが品定めし、サラダにするもの、スープにするものに分ける。きちんと分類して奥に運び込むと、ミラはタマネギを刻み始めた。

「ミラ」

 声をかけてみる。小さくうなずきながら、ミラはまた刻み始める。すとん、と刃が木を叩く音が、ほんのわずか乱れている。

「ミラ」

 また、声をかける。やはり、小さくうなずき、刃を当てる。かすかに乱れる節奏の中、ソーイチは言った。

「大丈夫だ。今度は、大丈夫だから」

 ミラはまた、小さくうなずいた。