目の前に二人、左右の少し離れたとことに一人ずつ。ガサリという音と共に、背後の集合住宅からもう一人、姿を見せる。人数の多さに、ロイはこっそりとため息をついた。
「何の用ですか?」
あえて、そう言った。
「ロイ・アストン大尉相当官。今までどちらに?」
「先輩のところです。仕事でわからないところがあったので」
「先輩とは、イーハン・ザキィ大尉相当官ですね」
淡々と返事をする。と同時に、兵の腰回りに目をやった。装備は手錠に警棒、拳銃、といったところか。
「お手数ですが、お話をお聞かせいただけませんか」
「今も言いました。仕事のことです」
目の前にいる若い兵がわずかに身構えるのを、もう一人が手で制した。
「具体的な内容は?」
あくまで食い下がる気か。大きく一つ息を吐くと、ロイは早口でまくし立てた。
「IE―F4の軌道上におけるデブリ回避手順について、前回のことをふまえて、新たにF―3Cという手順を検討したので、それを見てもらっていたんです。IE―F4が……」
「もういい!」
身構えた兵がこらえきれずにさえぎる。冷ややかに見つめると、ロイはその隣の兵をにらみつけた。
「もうよろしいですか?」
すると、その兵はすうっと目を凝らした。
「なるほど。お互い、建前はなしのほうがよろしいようですな。……イーハン・ザキィ大尉相当官には反乱罪の容疑がかけられている。貴様がその構成員かどうか、調べさせてもらう」
「嫌だと言ったら?」
答える前に若い兵が飛びかかってきた。右襟首をつかもうとした手を軽く払い、すっと懐に入り込むと、ロイは若い兵を軽々と投げ上げた。
「このっ……!」
背後にいた兵が後ろからつかみかかる。身を縮めると、そのままみぞおちに肘をめり込ませた。うめく二人を地に転がしながら立ち上がる。身構える三人をギロリと射すと、正面の兵をにらみつけた。
「忘れてないか? 開発局には二種類の局員がいる。一つは、戦闘訓練のない開発局コースを修了した局員。もう一つは、全うに士官学校を修了した局員だ」
正面の兵が足をすらせ重心を変えようとするのを、ロイが目線で制す。
「オレ、白打戦はいつも成績トップだったんだ。これ以上、オレに訳のわからないことをゴチャゴチャ言うなら……わかるな?」
動けない三人をにらみつけながら、ロイは後ろに下がる。全員を視界におさめ、動かないことを確認すると、さっときびすを返した。
******
「なんだよ! あれは!」
そのままミラの店につくと、叫びながら扉を引き開ける。あっけにとられるソーイチとミラを放って、怒りをぶちまけた。
「誰が何を考えようがいいじゃないか! 実際に何もしていないのになんだってんだよ!」
「お前なぁ……、一応士官学校出だろ? 上官には従うっていうのが筋じゃねぇか」
呆れながら言うソーイチからそっぽをむくと、ロイはカウンターに突っ伏す。「まずはお腹を満たしてくださいね」とミラが食卓を調えてくれても、ロイは心を占めるもやもやをおさめる術がなかった。
「いつまでもイーハンさんがいなかったら、仕事が回らない。みんなへとへとなのにさ。八期の打ち上げはもうすぐなのに……」
自分でつぶやいて、はっと目を見開いた。
「そうだ……。これだ!」
ガバリと顔を上げる。目があった黒猫はお手並み拝見といわんばかりに、ピクリとひげを跳ね上げた。
「何の用ですか?」
あえて、そう言った。
「ロイ・アストン大尉相当官。今までどちらに?」
「先輩のところです。仕事でわからないところがあったので」
「先輩とは、イーハン・ザキィ大尉相当官ですね」
淡々と返事をする。と同時に、兵の腰回りに目をやった。装備は手錠に警棒、拳銃、といったところか。
「お手数ですが、お話をお聞かせいただけませんか」
「今も言いました。仕事のことです」
目の前にいる若い兵がわずかに身構えるのを、もう一人が手で制した。
「具体的な内容は?」
あくまで食い下がる気か。大きく一つ息を吐くと、ロイは早口でまくし立てた。
「IE―F4の軌道上におけるデブリ回避手順について、前回のことをふまえて、新たにF―3Cという手順を検討したので、それを見てもらっていたんです。IE―F4が……」
「もういい!」
身構えた兵がこらえきれずにさえぎる。冷ややかに見つめると、ロイはその隣の兵をにらみつけた。
「もうよろしいですか?」
すると、その兵はすうっと目を凝らした。
「なるほど。お互い、建前はなしのほうがよろしいようですな。……イーハン・ザキィ大尉相当官には反乱罪の容疑がかけられている。貴様がその構成員かどうか、調べさせてもらう」
「嫌だと言ったら?」
答える前に若い兵が飛びかかってきた。右襟首をつかもうとした手を軽く払い、すっと懐に入り込むと、ロイは若い兵を軽々と投げ上げた。
「このっ……!」
背後にいた兵が後ろからつかみかかる。身を縮めると、そのままみぞおちに肘をめり込ませた。うめく二人を地に転がしながら立ち上がる。身構える三人をギロリと射すと、正面の兵をにらみつけた。
「忘れてないか? 開発局には二種類の局員がいる。一つは、戦闘訓練のない開発局コースを修了した局員。もう一つは、全うに士官学校を修了した局員だ」
正面の兵が足をすらせ重心を変えようとするのを、ロイが目線で制す。
「オレ、白打戦はいつも成績トップだったんだ。これ以上、オレに訳のわからないことをゴチャゴチャ言うなら……わかるな?」
動けない三人をにらみつけながら、ロイは後ろに下がる。全員を視界におさめ、動かないことを確認すると、さっときびすを返した。
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「なんだよ! あれは!」
そのままミラの店につくと、叫びながら扉を引き開ける。あっけにとられるソーイチとミラを放って、怒りをぶちまけた。
「誰が何を考えようがいいじゃないか! 実際に何もしていないのになんだってんだよ!」
「お前なぁ……、一応士官学校出だろ? 上官には従うっていうのが筋じゃねぇか」
呆れながら言うソーイチからそっぽをむくと、ロイはカウンターに突っ伏す。「まずはお腹を満たしてくださいね」とミラが食卓を調えてくれても、ロイは心を占めるもやもやをおさめる術がなかった。
「いつまでもイーハンさんがいなかったら、仕事が回らない。みんなへとへとなのにさ。八期の打ち上げはもうすぐなのに……」
自分でつぶやいて、はっと目を見開いた。
「そうだ……。これだ!」
ガバリと顔を上げる。目があった黒猫はお手並み拝見といわんばかりに、ピクリとひげを跳ね上げた。