「んあ……? なんだ?」

 奏でられる笛の音色は明るく、刻まれるリズムも軽やかだ。カウンターでうたた寝していたソーイチは耳をピクリと窓の外に向けた。

「パレードの最終調整だって」
「祭りは賑やかでいいんだけどよ、パレードが夜ってのがつらいな」

 眠りかけたときに笛の音が飛び込んでくる。それが一週間続くのである。当然、ほとんどの店は休む。だが、猫にそれは関係ない。

 タマネギを刻んでいたミラが、そうだ! と手を叩き店の奥へ行く。戻ってくると何か黄色いものを持っていた。

「子どもたちがね、チビにどうぞって」

 目の前に出されたのは、目尻がつんと上がった黄色のマスクだった。目元だけを隠すことができるそれは、縫い目は粗く、糸もところどころほつれている。子どもたちが手作りしたのは一目瞭然である。
 目元に押し当てられると、両端についているリボンを頭の後ろで結ばれる。驚くほどサイズが合っていた。

「これでチビもパレードに参加できるって」
「猫にマスクつけても、オレだって一発でわかるだろうが」

 クスクス笑うミラに、むっつりとにらんでみる。が、胸の内にほわんと浮かんだぬくみは消えそうになかった。
 
 ミラがまた、タマネギを刻み始める。

 笛の音。
 太鼓のリズム。
 刻む音。

 全てが消えた一瞬、ソーイチはぽつりと言った。

「なんで、置いてくれてるんだ?」
「……私にも、わからない」

 黄色の仮面はあの日と同じ色だった。