ロイは写真をまじまじと見つめていた。
管制棟入口には歴代宇宙飛行士の写真が飾られている。その一番下にある三枚の写真が、第七期有人飛行計画の搭乗員達。唯一、宇宙に行けなかった人達の写真である。
先日、ソーイチがミラを落ち着かせようとしていたときに口走った「アルバート」という人は、真ん中の金髪の人物である。金髪。彫りの深い顔。白い肌。典型的なイシリアンテ人の特徴を持っていた。
隣にあるソーイチは、黒髪、のっぺりとした顔、黄みがかった肌である。名前や、スズカと同じ特徴を持つ風貌から、東方の同盟国出身であることがわかる。
人が良さそうなアルバートの笑顔にくらべて、ソーイチは何か引っかかるものを感じさせる表情だった。
「何見てるんだ?」
先輩管制官のグレイグだった。
「あ……、第七期の方々をちょっと……」
まさか、黒猫の昔の姿を、とは言えない。ひきつりながらも平静を装って笑みを見せると、グレイグは何ともいえないため息をついた。
「約一名に関しては、いい気味と思っているヤツもいるかもしれないな」
ロイは片眉を吊り上げた。
「傲慢。不遜。いい噂は聞いたことがない。オレも一杯食わされたことがある。無駄に頭は切れるから、ツボは押さえてて、上のウケはよかったけど……。アイツを上手に扱えたのは、テッドさんとアルバートぐらいじゃなかったかな」
そう言って、グレイグは黒髪の青年を指さした。
******
「ない……、ない!」
鞄や机の中を探し回る同級生を尻目に、ソーイチは廊下に出た。中身を抜き取りあたりを見回す。向こうから歩いてくる五人組と肩が当たったとき、その一人のポケットに赤い財布をねじ込んだ。
一昨日、人前で泥棒扱いをしておきながら、自分の机の中からひょっこりと財布が見つかった。当然、わびの一つもない。――言われたとおりにしてやっただけだ。文句を言われても困る。
購買でパンとコーヒーを買い、校舎の屋上まで上がる。雲一つない澄み切った青空だった。
手早くパンを押し込み、コーヒーで流し込む。カスカスした小麦の塊を何とか飲み込むは、こうするしかない。生きるためのエネルギーを詰め込むと、ソーイチはごろりと寝そべり空を仰いだ。
ズボンのポケットに四つに折りたたんでねじ込んだパンフレットを取り出す。表紙には「イシリアンテ王国軍士官学校宇宙開発局コース」と書かれていた。
「宇宙飛行士」
くすぐったいような、面《おも》はゆいような言葉を口にしてみる。
意識したのは小学生の頃だった。
生まれて初めて皆既月食というものを見た。青白く輝いていた月が赤く腫れ上がり、みるみるうちに欠けていく。そして、まただんだんと満ちていく。目の前でくり広げられる宇宙の神秘にただただ言葉を失った。
自分の国では宇宙に行くことができない。代わりに、同盟国であるイシリアンテに行けば宇宙にたどり着けることがわかった。
ぺらりとページをめくる。募集要項の条件にソーイチは目を凝らした。
「国籍を変更すること。軍へ忠誠を誓うこと。……ふん。開かれてるのは建前だけか」
鼻で笑った。
パンフレットをかたわらに置くと、ソーイチは体を起こした。周りを見渡しても、今は誰もいない。空は無駄にさわやかに晴れ渡っている。
条件がたとえどうであっても、気持ちが揺らぐことはない。パンプレットを握りしめるとすぐさま職員室に行き、手続きを始めた。
福祉施設の軒先に置かれていた自分に、足かせなどないのだから。
管制棟入口には歴代宇宙飛行士の写真が飾られている。その一番下にある三枚の写真が、第七期有人飛行計画の搭乗員達。唯一、宇宙に行けなかった人達の写真である。
先日、ソーイチがミラを落ち着かせようとしていたときに口走った「アルバート」という人は、真ん中の金髪の人物である。金髪。彫りの深い顔。白い肌。典型的なイシリアンテ人の特徴を持っていた。
隣にあるソーイチは、黒髪、のっぺりとした顔、黄みがかった肌である。名前や、スズカと同じ特徴を持つ風貌から、東方の同盟国出身であることがわかる。
人が良さそうなアルバートの笑顔にくらべて、ソーイチは何か引っかかるものを感じさせる表情だった。
「何見てるんだ?」
先輩管制官のグレイグだった。
「あ……、第七期の方々をちょっと……」
まさか、黒猫の昔の姿を、とは言えない。ひきつりながらも平静を装って笑みを見せると、グレイグは何ともいえないため息をついた。
「約一名に関しては、いい気味と思っているヤツもいるかもしれないな」
ロイは片眉を吊り上げた。
「傲慢。不遜。いい噂は聞いたことがない。オレも一杯食わされたことがある。無駄に頭は切れるから、ツボは押さえてて、上のウケはよかったけど……。アイツを上手に扱えたのは、テッドさんとアルバートぐらいじゃなかったかな」
そう言って、グレイグは黒髪の青年を指さした。
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「ない……、ない!」
鞄や机の中を探し回る同級生を尻目に、ソーイチは廊下に出た。中身を抜き取りあたりを見回す。向こうから歩いてくる五人組と肩が当たったとき、その一人のポケットに赤い財布をねじ込んだ。
一昨日、人前で泥棒扱いをしておきながら、自分の机の中からひょっこりと財布が見つかった。当然、わびの一つもない。――言われたとおりにしてやっただけだ。文句を言われても困る。
購買でパンとコーヒーを買い、校舎の屋上まで上がる。雲一つない澄み切った青空だった。
手早くパンを押し込み、コーヒーで流し込む。カスカスした小麦の塊を何とか飲み込むは、こうするしかない。生きるためのエネルギーを詰め込むと、ソーイチはごろりと寝そべり空を仰いだ。
ズボンのポケットに四つに折りたたんでねじ込んだパンフレットを取り出す。表紙には「イシリアンテ王国軍士官学校宇宙開発局コース」と書かれていた。
「宇宙飛行士」
くすぐったいような、面《おも》はゆいような言葉を口にしてみる。
意識したのは小学生の頃だった。
生まれて初めて皆既月食というものを見た。青白く輝いていた月が赤く腫れ上がり、みるみるうちに欠けていく。そして、まただんだんと満ちていく。目の前でくり広げられる宇宙の神秘にただただ言葉を失った。
自分の国では宇宙に行くことができない。代わりに、同盟国であるイシリアンテに行けば宇宙にたどり着けることがわかった。
ぺらりとページをめくる。募集要項の条件にソーイチは目を凝らした。
「国籍を変更すること。軍へ忠誠を誓うこと。……ふん。開かれてるのは建前だけか」
鼻で笑った。
パンフレットをかたわらに置くと、ソーイチは体を起こした。周りを見渡しても、今は誰もいない。空は無駄にさわやかに晴れ渡っている。
条件がたとえどうであっても、気持ちが揺らぐことはない。パンプレットを握りしめるとすぐさま職員室に行き、手続きを始めた。
福祉施設の軒先に置かれていた自分に、足かせなどないのだから。