ミラがスープを差し出す。今日は白くトロッとしたスープだ。相変わらず、ニンジンもイモも規則正しく並んでいる。よく見ると前より少し具材が多い。顔を上げると、無口な飼い主の代わりに黒猫が答えた。

「ま、口止め料ってところだな」

 こら、とミラがたしなめても知らん顔である。

「先日は驚かせてしまったので、おわびです」

 今も動揺は続いているのだが、そういうことならとありがたくもらうことにした。ひとさじ口に含む。クリームのまろやかさと自然な甘みが、こわばる心をゆっくりと溶かしていく。勝手に目じりが下がった。

「人があったかいものを食べている顔は、いいねぇ」

 ごろりと横たわった黒い塊から、そんなつぶやきがもれた。

「食べればいいじゃないか」

 するとソーイチがむくりと起き上がった。

「てめぇ、ケンカ売ってんのか?」

 にらみつけられる意味がわからずきょとんとしていると、ミラが自分の口を指さした。

「あ! そうか! 猫舌か!」

 話せる事実に困惑し、つい相手が猫だということを忘れていた。込み上げてくるおかしさと理解を、カウンターを叩きながら、そうかそうか、と押さえ込もうとする。すると、肩越しに気配を感じ、見上げた。片眉をピクリとつりあげたソーイチが、前足を皿にかけている。

「このあっつーいスープ、かけてやってもいいんだぜ」
「わ! 猫が皿に足かけてる!」
「ソーイチ! 食べ物を粗末にするのは許しません!」

 やあ、と扉を押し開けたテッドが見たのは、驚き、いすから転げ落ちたロイと、ミラに高々と持ち上げられながらも、必死に足をばたつかせているソーイチの姿だった。

   ******

 ゆっくりと味わい尽くすように皿を舐めるソーイチの横で、テッドは、食後の紅茶に花の香りのするジャムをたっぷり注いでいた。二人きりの店内は、ミラが点けた灯りの中で光と影を描いている。

「やっぱり、冷めるとどうしてもクリームが濃くなる」

 ぺちゃ、っと舌なめずりをするとソーイチが言った。

「こればっかりはどうしようもねぇなぁ……。舌が受けつけてくれねぇんだもんな」
「年取って、体質が変わったのとよく似てるねぇ」
「オレはそんな年じゃない」

 しっぽでピシャリとテッドをはたいた。