☆本話の作業用BGMは、『明日がくるなら』(JUJU with JAY‘ED)でした。
某映画主題歌。男性VO(ジェイドさん)がイイね! であります。
車通勤の車内で歌うと、いつも最後は鼻声でした。
締めは、ついに来た!『つつみ込むように…』(MISIA)。
言わずとしれたデビュー・シングルであります。
ワンコーラス聴いて、しみじみ名曲!と(勝手に)思いましたとさ。
……お歌、お上手ですねえ(すんません上からで)
ーーーーー
「場所は浅●公会堂だそうです」
私のひと言に、御一同きゃるーん――じゃなくて、きょとーんでございます。
「――だそうです、と言はれましてもねえ」
ケーキのフィルムをフォークで優雅にクルクル巻きながら、美冬ちゃんが呟きました。
あむ、とフォークを口中に含ませたお顔が尊い。
いつか、舌で某かを転がす様を見せてくださいね。うふふ。
「決戦は何曜日?」
「日曜日です。金曜日じゃないのですよこれがまた」
この方の感性? が未だよく分かりませんが、桜子さんはドリ●ムがお好きなのかもですね。
「何曜日でもいいけど。何のハナシなん?」
シュークリームの屋根(?)を剥がして裏っかわをべろべろ舐めながら、綾女がアホ顔を向けます。
「ですから、ステージです」
「星屑の?」
「ノー星屑。寸劇と、5分ほどの歌唱、等々……」
浅草における伝説・リリィさんの依頼とは……。
来る三月下旬の日曜日。
チャリティコンサートなるものが催されるのだそうです。
場所は浅●公会堂――オレンジ通りと伝法院通りが交差する角っちょ。
建物脇の歩道には、芸能の世界における「スター」達の手形がびっしりと並んでおります。
台東区の成人式が執り行われたりもします。
そのコンサートに問題発生。
リリィさん曰く――トリを務める予定だったC級アイドルユニットが、
【バックれおった】
本番まで二週間あまり。
その枠を担当するリリィさんが方々掛け合ってみたものの、事態は好転せず。
ついには面倒臭くなって、
【この際、素人でもいいか! と思ってな】
近場でアマチュアを調達することにしたのだそうな。
「なんでウチらなの?」
「どうも兄様が……リリィさんに多大な『借り』があるようですね」
私一人なら冗談はヨシコさんですが、皆さんが一緒なら……柄にもない事を考えてしまったのは、ひとえに「チャリティーコンサート」という、高尚かつ血が滾る名詞に吸引力を感じてしまったから。
「要は人助けということですね? ダ●ソン関係なく」
「ええ、ダイ●ン関係なく。美冬ちゃんのお兄様なら手拍子で手を貸してくださったでしょうけど、何分『女子枠』だそうで」
兄様の様子から断るのは至難と感じた私は、皆様のご協力を仰ぐべく、急遽この寺にて「女子会」を招集したのでございます。
「サ●イを5分歌えばよいのですか?」
「別の曲です。ちよとダンスも要るそうで」
「ウチらが『三代目』みたいに踊るってか!」
「なぜ魚河岸?」
「それは漫画ですよ神幸さん」※
桜子さんが俯き、
「ダンス……サラシ巻いた方がイイかな」
「あんたのパイオツは関係ねーだろ?!」
「ひぃっ?!」
あ。美冬ちゃんのオーラがどす黒い。
「え、えと、衣装に広告入れてもいいそうです」
「「「広告?」」」
「あーほら『ほにゃららの際は●●事務所へご相談ください』て感じですかね。依頼、増えるかもしれませんよ?(知らんけど)」
三人考える人になりました。
綾女は行政書士試験にめでたく合格し、春家で補助者として勉強させてくれと懇願している最中です。やはり、いきなり独立開業する勇気はないという。
所長の主水さんは断固拒否(零細なので)、この話は全く進展がありません。
桜子さんは昨年の司法書士試験に落ちてしまい、今年の試験に背水の陣で臨む処女ンなんだとか。合格後に事務所へ合流するのだそうです。
結婚は……もう少し先になりそうですね。
美冬ちゃんは税理士の資格もゲットすべく、来年の合格を目指してお勉強中。
それと華菜ちゃん……は便宜上割愛します。
事務所は、来年には恐らく収拾のつかない「総合事務所」になります。
支えられるのでしょうか、大所帯を。端くれのくせに。
暫く悶々と各自黙考していると突然襖が開いて、
「襖をバーン! みんなお疲れちゃーん!」
火元? の兄様登場。
一同ジヌロと見やり。
ハゲ慄く。
「ど、どしたみんな、尖ったナイフみたいに……えと、人助けだヨ?」
尻すぼみに呟き、そろそろと正座すると当たり前のように項垂れます。
ドタマがじわじわ紅潮していきます。
濁りがちな空気を攪拌?するように、
「ご住職、『寸劇』とはどのような」
美冬ちゃんの問い掛けに応えたのは――
「も一度襖をバーン! もう開いてるけど! お嬢さん方のヴィジュアルからすれば『ベ●バラ』一択だろう!」
開け放った襖を掴みながら仁王立ちするリリィさん。今日は目にも鮮やかな深紅のチャイナドレスです。
しかし……この秘密の会合をどこで嗅ぎつけたものか。
「ベ?! マジすか?! じゃ、神幸ちゃんのオス●ルが――」
綾女の煩悩を右手で制したリリィさんは、ぐるりを一瞥し、
「オ●カルは――そこな乙女が良さそうだ。稀なオーラだな、山吹色とは」
ズビシと指差したのは、胡坐を掻いて呆けている桜子さんでした。
「うへへ。もう乙女じゃないんすけど。フヒッ♥」
「神幸にはア●ドレが相応しかろうよ」
「え。私? えええ……。『不動産役』しかやった事ないのですが」
「不動産の役ってナニ?」
「おおおアン●レかー! それもアリですねい!」
興奮しているのは綾女だけです。
「では、わたくしは裏方で――」
「チミはアントワネット! ただし要メガネだ! いやさ、眼鏡で出ればイイぢゃない!」
すりゃ面白い。気品といい、この中では美冬ちゃんしかこなせないでしょう。
「むふう! そうすると……参加は総意で間違いないな? 誠に忝い。恩に着る!」
ひと息に畳みかけ、すうっと膝を折ったリリィさんが深々と頭を垂れたのでございます。
一同声も無し――。
やがて顔を上げたご老体、
「ケーキ。美味かったろ? 皆の衆」
邪悪な笑みを浮かべました。
……催淫剤でも入っていたのでしょうか。
☆☆☆
翌日から、早速トレーニング(基礎的な)開始です。なにしろ時間がそうありません。
夜四ツ(午後十時)から最大二時間の予定。
場所はウチの道場です。
「土曜以外は空いてるからな」
兄様は何故か嬉し気ですが、鳥越のお二人にはご足労をお掛けすることとなります。
「誠に申し訳ございません。お二人共、勉強でお忙しいのに」
「無問題です。スケジュールには余裕がありますので」
「事務所は暇だしね」
ははは、と力無く笑う二人。思わず涙が滲みます……勿論憐れみの。
ボス(リリィさん)監視のもと、若い男性トレーナーさんを交えてのストレッチ。
まだ若干薄ら寒い道場の青畳に、暗い色合いのスウェットの花が幾つも咲いております。
「あのー。リリィさんってお幾つなんすか?」
好奇心満々に妹が突っ掛けると、
「んー。確か、数年前に初の還暦を迎えた……ような?」
遠い目をしたボスが他人事のように返します。
「二度目ってあるんですかね」
「したら120歳じゃん! ひえぇっ」
「年寄りを煽るな。興奮するだろが!」
ずっと付きっきりのトレーナーさんが、
「神幸さん、体硬すぎ。まるでジルコニア」
「紛い物みたいな言われよう……」
心底呆れたような声に恐縮。
「神幸ちゃんにダンスは無理じゃねーかなー」
ナメクジのような身体を伸ばして、綾女が気の入らない言葉を投げます。
「ふむ。二週間あっても無理かい?」
「無理ですね」
ボスの問いに兄やん即答。
私を除くお三人はなんの屈託もない柔軟を披露しております。
「仕様もないな。ダンスは諦めるか」
「リリィさん男らしいっす!」
「パラパラでお茶を濁そう」
「「「「パラパラ?」」」」
腕組みのリリィさんはひと言、
「パラパラといったら、アレよな」
スマホを取り出すと、ススッと指を滑らせたのでございます。
ーーーーー
※ 『築地魚河岸三代目』(作画 : はしもとみつお 小学館)
某映画主題歌。男性VO(ジェイドさん)がイイね! であります。
車通勤の車内で歌うと、いつも最後は鼻声でした。
締めは、ついに来た!『つつみ込むように…』(MISIA)。
言わずとしれたデビュー・シングルであります。
ワンコーラス聴いて、しみじみ名曲!と(勝手に)思いましたとさ。
……お歌、お上手ですねえ(すんません上からで)
ーーーーー
「場所は浅●公会堂だそうです」
私のひと言に、御一同きゃるーん――じゃなくて、きょとーんでございます。
「――だそうです、と言はれましてもねえ」
ケーキのフィルムをフォークで優雅にクルクル巻きながら、美冬ちゃんが呟きました。
あむ、とフォークを口中に含ませたお顔が尊い。
いつか、舌で某かを転がす様を見せてくださいね。うふふ。
「決戦は何曜日?」
「日曜日です。金曜日じゃないのですよこれがまた」
この方の感性? が未だよく分かりませんが、桜子さんはドリ●ムがお好きなのかもですね。
「何曜日でもいいけど。何のハナシなん?」
シュークリームの屋根(?)を剥がして裏っかわをべろべろ舐めながら、綾女がアホ顔を向けます。
「ですから、ステージです」
「星屑の?」
「ノー星屑。寸劇と、5分ほどの歌唱、等々……」
浅草における伝説・リリィさんの依頼とは……。
来る三月下旬の日曜日。
チャリティコンサートなるものが催されるのだそうです。
場所は浅●公会堂――オレンジ通りと伝法院通りが交差する角っちょ。
建物脇の歩道には、芸能の世界における「スター」達の手形がびっしりと並んでおります。
台東区の成人式が執り行われたりもします。
そのコンサートに問題発生。
リリィさん曰く――トリを務める予定だったC級アイドルユニットが、
【バックれおった】
本番まで二週間あまり。
その枠を担当するリリィさんが方々掛け合ってみたものの、事態は好転せず。
ついには面倒臭くなって、
【この際、素人でもいいか! と思ってな】
近場でアマチュアを調達することにしたのだそうな。
「なんでウチらなの?」
「どうも兄様が……リリィさんに多大な『借り』があるようですね」
私一人なら冗談はヨシコさんですが、皆さんが一緒なら……柄にもない事を考えてしまったのは、ひとえに「チャリティーコンサート」という、高尚かつ血が滾る名詞に吸引力を感じてしまったから。
「要は人助けということですね? ダ●ソン関係なく」
「ええ、ダイ●ン関係なく。美冬ちゃんのお兄様なら手拍子で手を貸してくださったでしょうけど、何分『女子枠』だそうで」
兄様の様子から断るのは至難と感じた私は、皆様のご協力を仰ぐべく、急遽この寺にて「女子会」を招集したのでございます。
「サ●イを5分歌えばよいのですか?」
「別の曲です。ちよとダンスも要るそうで」
「ウチらが『三代目』みたいに踊るってか!」
「なぜ魚河岸?」
「それは漫画ですよ神幸さん」※
桜子さんが俯き、
「ダンス……サラシ巻いた方がイイかな」
「あんたのパイオツは関係ねーだろ?!」
「ひぃっ?!」
あ。美冬ちゃんのオーラがどす黒い。
「え、えと、衣装に広告入れてもいいそうです」
「「「広告?」」」
「あーほら『ほにゃららの際は●●事務所へご相談ください』て感じですかね。依頼、増えるかもしれませんよ?(知らんけど)」
三人考える人になりました。
綾女は行政書士試験にめでたく合格し、春家で補助者として勉強させてくれと懇願している最中です。やはり、いきなり独立開業する勇気はないという。
所長の主水さんは断固拒否(零細なので)、この話は全く進展がありません。
桜子さんは昨年の司法書士試験に落ちてしまい、今年の試験に背水の陣で臨む処女ンなんだとか。合格後に事務所へ合流するのだそうです。
結婚は……もう少し先になりそうですね。
美冬ちゃんは税理士の資格もゲットすべく、来年の合格を目指してお勉強中。
それと華菜ちゃん……は便宜上割愛します。
事務所は、来年には恐らく収拾のつかない「総合事務所」になります。
支えられるのでしょうか、大所帯を。端くれのくせに。
暫く悶々と各自黙考していると突然襖が開いて、
「襖をバーン! みんなお疲れちゃーん!」
火元? の兄様登場。
一同ジヌロと見やり。
ハゲ慄く。
「ど、どしたみんな、尖ったナイフみたいに……えと、人助けだヨ?」
尻すぼみに呟き、そろそろと正座すると当たり前のように項垂れます。
ドタマがじわじわ紅潮していきます。
濁りがちな空気を攪拌?するように、
「ご住職、『寸劇』とはどのような」
美冬ちゃんの問い掛けに応えたのは――
「も一度襖をバーン! もう開いてるけど! お嬢さん方のヴィジュアルからすれば『ベ●バラ』一択だろう!」
開け放った襖を掴みながら仁王立ちするリリィさん。今日は目にも鮮やかな深紅のチャイナドレスです。
しかし……この秘密の会合をどこで嗅ぎつけたものか。
「ベ?! マジすか?! じゃ、神幸ちゃんのオス●ルが――」
綾女の煩悩を右手で制したリリィさんは、ぐるりを一瞥し、
「オ●カルは――そこな乙女が良さそうだ。稀なオーラだな、山吹色とは」
ズビシと指差したのは、胡坐を掻いて呆けている桜子さんでした。
「うへへ。もう乙女じゃないんすけど。フヒッ♥」
「神幸にはア●ドレが相応しかろうよ」
「え。私? えええ……。『不動産役』しかやった事ないのですが」
「不動産の役ってナニ?」
「おおおアン●レかー! それもアリですねい!」
興奮しているのは綾女だけです。
「では、わたくしは裏方で――」
「チミはアントワネット! ただし要メガネだ! いやさ、眼鏡で出ればイイぢゃない!」
すりゃ面白い。気品といい、この中では美冬ちゃんしかこなせないでしょう。
「むふう! そうすると……参加は総意で間違いないな? 誠に忝い。恩に着る!」
ひと息に畳みかけ、すうっと膝を折ったリリィさんが深々と頭を垂れたのでございます。
一同声も無し――。
やがて顔を上げたご老体、
「ケーキ。美味かったろ? 皆の衆」
邪悪な笑みを浮かべました。
……催淫剤でも入っていたのでしょうか。
☆☆☆
翌日から、早速トレーニング(基礎的な)開始です。なにしろ時間がそうありません。
夜四ツ(午後十時)から最大二時間の予定。
場所はウチの道場です。
「土曜以外は空いてるからな」
兄様は何故か嬉し気ですが、鳥越のお二人にはご足労をお掛けすることとなります。
「誠に申し訳ございません。お二人共、勉強でお忙しいのに」
「無問題です。スケジュールには余裕がありますので」
「事務所は暇だしね」
ははは、と力無く笑う二人。思わず涙が滲みます……勿論憐れみの。
ボス(リリィさん)監視のもと、若い男性トレーナーさんを交えてのストレッチ。
まだ若干薄ら寒い道場の青畳に、暗い色合いのスウェットの花が幾つも咲いております。
「あのー。リリィさんってお幾つなんすか?」
好奇心満々に妹が突っ掛けると、
「んー。確か、数年前に初の還暦を迎えた……ような?」
遠い目をしたボスが他人事のように返します。
「二度目ってあるんですかね」
「したら120歳じゃん! ひえぇっ」
「年寄りを煽るな。興奮するだろが!」
ずっと付きっきりのトレーナーさんが、
「神幸さん、体硬すぎ。まるでジルコニア」
「紛い物みたいな言われよう……」
心底呆れたような声に恐縮。
「神幸ちゃんにダンスは無理じゃねーかなー」
ナメクジのような身体を伸ばして、綾女が気の入らない言葉を投げます。
「ふむ。二週間あっても無理かい?」
「無理ですね」
ボスの問いに兄やん即答。
私を除くお三人はなんの屈託もない柔軟を披露しております。
「仕様もないな。ダンスは諦めるか」
「リリィさん男らしいっす!」
「パラパラでお茶を濁そう」
「「「「パラパラ?」」」」
腕組みのリリィさんはひと言、
「パラパラといったら、アレよな」
スマホを取り出すと、ススッと指を滑らせたのでございます。
ーーーーー
※ 『築地魚河岸三代目』(作画 : はしもとみつお 小学館)