☆本話の作業用BGMは、『新・ラーメン大好き小池さんの唄』(シャ乱Q)でした。『小泉さん』ではありません。藤●不二雄ワールドで頻繁に登場する「あの人」です、念の為。
 この曲は2000年バージョンとのこと(故に「新」)。N●Kのなんたらバトルで歌っていたオリジナルもイイです。映像で観ると、つんくさん(※当時)は魅せるセンスがおありだったんだなと実感します。
 はたけさん、イイですね。いつも楽しそう。
 ちなみに小池さん、正しくは「小池さんの家に居候していた鈴木さん」だそうです。

 締めは『上・京・物・語』(同)。
 大好きだったバラエティ番組のエンディング曲。ブレイク前でしたね。
 正直、ビジュアル的には好みではなかったですが、耳に残っちゃったんですよね、「ビョンビョンビョン」てのが……。

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 拝啓 神幸ちゃん……てのも変だよね。毎日会ってるんだし。
 神幸ちゃんが(たま)に『前略お●くろさん』調で語っているから、真似っ子してみました。
 
 暖かくなってきたよね~(多分)。今日は雲ひとつ無いよ。花粉は凄いことになっているみたいだけど。
 もう少しで桜も開花して、そうそう、来月は花祭り(※灌仏会)だね。
 神幸ちゃんがほぼ毎日連れ出してくれるから、季節の移り変わりもリアルに分かります。
 匂いも味もサッパリだけど、十分楽しいの……ほんと、ありがとう。


☆☆☆


 七ツ――午後四時。

 開店一時間前。偉い偉い、ちゃんと掃き掃除して……。
 メイド服気に入っちゃったの? 最近ソレだね毎日。凄くカワイイぞ♥
 制服姿とスウェットしか覚えがないから、ちょっと感動。
 もっと見せてほしかったよ、「女の子女の子」した格好。

 あ、掃除もう終わり? 結構丸く掃くのね。
 ああほら、埃が……壁に引っ掛かってるあたしの目の前まで漂ってる。こんな所まで飛ぶんだよね。天井に届きそうだもの。
 でも、ここ窓が無いし……あ! 蜘蛛の巣発見。

 おやつなの? 埃が舞う中で? で、またどら焼き。好きだねえ、あたしも大好きだったけど。
 でも、どら焼き食べながらエロ漫画(タブレット?)読むのはどうかと思うよ?
 行儀悪いとかじゃなくてえ、乙女の所作としてさあ。
 ……と言いつつ。一緒に見ちゃったりして。
 まあ! しゅ、しゅごいね……(ゴクリ)。


☆☆☆


 五ツ――午後八時。

 今日もお客さん来たねえ、二人も。
 週に一人、二人だった頃を思うと感慨深いわ。
 それでも確かに、こんな調子じゃ儲けなんて無いでしょうけど、お兄ちゃん(光生)は元々商売の積りはないのよね。ありがたいことだわ。

 あら、またカランて鳴ったわよ? お客さんかしら。三人目? ひょおおお。
 凄いじゃーん、ほらほら、お仕事よ神幸ちゃん。お尻掻いてる場合じゃないのよ?


 紺碧のチャイナドレスに、妙なハーフコートを羽織った長身の女性。
 年齢が――よく分からないけど、多分結構いってるんじゃないかなあ。白髪染めしたような色合いの髪、後ろですっきり一本に編み込んで……。
 何処かでお会いしたことある?

 どのボタンを押すのかしら。いつもこの瞬間は楽しみ。

『小池さーん小池さーん好き好きぃぃぃ~』

 だって。誰の歌だったかしら?
 毎回大変ねえお兄ちゃん。ご苦労様――もとい、お疲れ様です。

 優雅に腰を下ろしたお客さん。
 スリットから覗く生足が艶々。ほんと、年齢が分かんない。
 ああ、どなただったっけ……。

【こんばんは。こんな時間に悪いね】
「とんでもない。ツイてない御苑へようこそ」

 今更だけど、このネーミングはちょっちゅねー。もう慣れたけどー。

 お客さんが懐から扇子を出して扇ぎつつ、油断なく室内を窺ってる。

 ふいにニッコリ微笑んで、

【私はね、普段カップ麺など食べないんだよ。ホントだよ? 食事は家政婦が用意してくれるのでね】

 いきなり言い訳がましいのね。

「左様でございますか」
【先般、夜中に目が覚めて……魔が差したんだね。「カップ焼きそば」なるものを、生まれて初めて――】
「生まれて初めて、ですか。それはまた貴重な」

 扇子で口許を隠しながら、

【ほほほ、そうだね、貴重だった。故に、作り方がよく分からんでね】
「ああ。でも、ほぼお湯入れるだけですから」
【私も噂ではそう承知していたのさ。一応、説明書きはさらっと読んで、かやくの袋開けてお湯を注いで――】
「液体とか粉末スープの袋は――」
【面倒くさいから、全部ブチまけてお湯をイン!】
「え? うん?」
【辛うじてフタは全部剥がさなかった。そこは自分を褒めてあげたい】

 全部入れちゃ駄目よねえ。お湯捨てるのに。

【腕組んで数えたよ、180秒。緊張した】
「数えたのが羊だったら寝ちゃいますね」
【お陰ですっかり目が覚めた】
「でしょうね」
【端にあるアレをペリッと剥がしてお湯を捨てた。ほうじ茶みたいな液体が流れて消えた。とても綺麗だった。シンクはベゴン! て鳴くんだな】
「哀し気に泣きますよね……で、ヘルシーで斬新なカップ焼きそば爆誕、と」

 血圧高めの人にはいいかも。

【麺をほぐしてたら、底から小ちゃい袋が顕現した】
「ふりかけの袋とか?」
【その通り。べろんべろんになってたな。指先がぬめって中々開けられなかったが、根性で道を切り拓いた。破天荒だろう】
「手順がクールでアレですが……やっと実食ですね」
【ああ。もうその時点で、空腹感は何処かへ旅立っていたがな】
「左様で」
【味は――ほんのり塩っけが。でも流石に薄い】
「でしょうね」
【かやくの野菜連中がちよと固くてな。総入れ歯には辛い塩梅であった】
「総入れ歯……」

 こういう時こそポ●デントよねえ。
 やっぱり、どこかでお会いしたような気がするなあ……。

【結局、少し醤油を垂らして食んだ。しかし、お湯で戻すのに「焼きそば」とはどうなんだ?】
「ナンだチミは? と言はれましても」
【ツイてないだろう。こんな感じで良いか?】
「私が判定するわけでは……まあ、ツイてなかった……のかな?」

 運・不運の話じゃないわよねえ。
  
 メインのお話はあっという間に終わっちゃったけど、何気に世間話に興じたりして……なんだか楽しそう。
 神幸ちゃんがこんなお喋りだなんて、✕✕さん知らなかったんだよ。
 もっと沢山お喋りしたかったな……。
 今更だよね。


☆☆☆


 あと少しで五ツ半(午後九時)。

「そろそろ閉店のお時間なのですが」
【おお、そうか。では、迎えを呼ぶとしよう】

 チャイナさんがスマホを取り出し、ススッと滑らかに指を滑らす、と――。

 五分もしないうちにお迎えが。
 紺の作務衣姿……お兄ちゃんじゃないの。

「(あれ? ハゲ?)」
【お疲れちゃーん!】
【早いな光生(みつお)

 軽く息を弾ませるお兄ちゃん。
 チャイナさんの背後に歩み寄ると、徐に両肩を揉みだした。

【よしよし、いい子だ】
「お知り合いですか?」

 お兄ちゃんが揉み手を止めずに、

【この方は「リリィさん」と言って、六区(ろっく)(※1)の興行界では「顔」なんだ】
【昔、ロ●ク座でストリッパーを生業(なりわい)にしていてな】
【当時凄まじい人気で、ファンクラブもあったんだとよ】
【左様、光生の親父はクラブの「副会長」だった。光生のことも小さい頃から存じておる。ああ……()が小さい頃、何度か会っているのだが……覚えておらんだろな】

 あ! リリィさん――知ってる! 
 レジェンドじゃないの……。

「え? ……申し訳ございません、記憶が……」
【だろうな】

 少女のように笑うリリィさんが愛らしい。
 あーなんか思い出してきた……。


 お兄ちゃんに促されて、姿を見せた神幸ちゃん。
 暫し眩しそうに見上げていたリリィさんは、
 
【ふむ、よかった……。ああ、仕様も中々面白かったぞ光生。やはり、「例の話」はこの()に任せたいと思うが――どうかな?】

 お兄ちゃんの揉み手が止まった。
 リリィさんサッと立ち上がり、

【一夜限りではあるが……ステージに立ってくれまいか。この通りだ】

 ゆっくりと長身を折り、深々と頭を垂れ――

「ステージ? えと……ゴッド・ブレス・ユー?」

 落ち着いて神幸ちゃん。
 それはそれで可愛いけど……なんか違くね?


 神幸ちゃんがステージ……まさかストリップじゃないよね。
 頑張れ――は嫌いだったっけ。めんごめんご。
 でも××さんは、いつも勝手に応援してるゾ♥ 

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※1 浅草六区。嘗ての興行街。現在も「浅草ロック座」や映画館、寄席・演芸ホール、「花やしき」やウインズなど