☆本話の作業用BGMは、『時間差』(クリスタル・キング)でした。
「風神の門」(N●K)というドラマの主題歌でした。
シャバダバダ……兄貴が夕焼けで、私が小焼けだったころのドラマです(ああ、松鶴家千とせ師匠……泣)。いや、生焼けだったかもしれませんが。
この曲、販売されなかった――いえ、リリースされなかったそうです。シングルもアルバム(への収録)も。
今や、ユ●チュ●ブでしか……。
ドラマオープニング版(主人公・霧隠才蔵役の三浦浩一さんがひたすら走ってコケる)と、何故かフルバージョン版がアップされております。いずれも「善き」です。
お時間がございましたら、是非(イエ~イ)。
ーーーーー
昨年師走早々のお話。
七つ半(午後五時)を回った頃、最初のお客さんがいらさいました。
制服姿の小柄な少年です。
きびきびとした動作で真っ直ぐ歩いて来るや、質量というものを感じさせない風にソファへと腰を下ろしました。一瞬、ソファがきゅうんと音をたてます。
背筋を伸ばしてボタン群に視線を向けます。
頭髪は――五分刈り……いやどのくらいでしょう。もっと短いかも。
ひと言でいえば「青白い」球体。
濃い眉毛がキリッと走る丸顔に大きな瞳。
嘗て、「イケメンはハゲでもイケメン」と言い放った兄様の顔が頭を過りました。
どちらかといえば「可愛いらしい」と思います。
白いお顔で睨み付けるように一点を見詰め、
『♪いまの君は~ビッカ・ビッカ!』
というボタンを力強く押下いたしました。
エロエロ混在したようなボタンですね。
宮●美子さんなのか、はたまたご機嫌なピカチ●ウか。
ところで、「ラス●ル」とか動物系がラインナップにあったとしたら、どうなるのでしょうね。どうなのです? お母さま。
唇を固く引き結び、少年が徐に受話器を手にします。
【こんにちは】
「こんにちは。ツイてない御苑へよーこそ。どなたかのご紹介でしょうか」
【はい。ちょっとMっ気のある中学時代の同級生が――】
「はいはい了解でーす」
またしても晋三か。
周囲の認識が「Mっ気のある」で固まっているようですね。
アイツ、ひょっとして浮いているんじゃ……。
熱心に宣伝活動している(としたら)のは善きですけど。
「とすると三年生……受験は大丈夫なのですか」
【え、ええ。……御見逸れいたしました。なるほど流石です】
推薦でとっくに大学は確定しているそうです。
【図書館の帰りなんです。期末(考査)も近いので】
「左様でございますか(真面目だなあ)」
【最後のチャンスなので。気を緩めるわけにはまいりません】
慇懃な(?)台詞と可愛いらしい面のギャップがなんか不思議。
微動だにしない上半身に、若干力みが見受けられます。
「最後のチャンス?」
【はい。最後のチャンスです】
☆☆☆
かの高校では、中間と期末考査の成績が、毎度掲示板に公表されるそうで。
残酷ですが、全員の成績が一目瞭然なのだとか。
【今回の期末考査が、告白する最後の機会になります】
「告白? 成績がどう関係するのです?」
ポケットに手を突っ込み何やら取り出しました。
ビオ●ェルミンの小瓶です。
片手に中身をザラザラ開け、パッと口に放り込みました。
低いボリボリという音が、マジックミラー越しに届きます。
おお、大河内さんみたい。※1
「お腹の調子が?」
【いえ、遅い中食です。お気になさらず】
乳酸菌を昼飯代わりにする高校生は初見です。あ、おやつ? 夜だよ?
プロテインのような感覚なのでしょか。
【定期考査で懸想相手を上回らないと、告白できないのです】
「え? そんな縛りが? 成績なんて関係ないのでは?」
【いえ、そういう訳にはいかないのです……】
お相手の女の子は万年一位で、彼は常に二~三位だそうです。
これまで一度もお相手を上回ったことがない、とのことで。
前回のテストが最も接戦だったそうですが、
【2点差でした……ツイてない……】
☆☆☆
【大分前に……偶然、とある凡庸な男子が彼女に告白する現場を目撃しまして】
「――偶~然?」
【――偶~然です】
ほんまか?
少年が突然サングラスを取り出し、ササッと装着します。
なんで今サングラスか。しかし似合わんな。
【三階の教室から、『放課後の校庭を 走るぅ~君』を眺めておりますと――】
「『初恋』か」※2
【走行中の彼女を止めて告白した男子が――】
「そんなタイミングの告白あります?」
【あります。彼女は、「定期考査で私を上回ったら……」と返しました】
「三階の教室にいて聞こえた、と?」
【御意】
「『セ●チネル』かよ」※3
【「年配の方」に言われた事はあります、が……】
うっ。誤解されたでしょうか。
おい――はは~んて顔をするな。多分、君の認識に齟齬があるぞ。
こちとら、うら若き乙女だじょ! いや?! 乙女じゃよ?! あれ?
【……なぜ、彼女がそんな条件をつけたのかは分かりません。彼女とは幼馴染なのですが――】
「ひゅう~出たな幼馴染! セクハラだぞっ!」
【…………?】
「…………ごめんなさい。取り乱しました……」
蔑むような目はやめておくんなまし。
【これまで側にいて、一度も口にした事は無かったのに……】
それから、彼の挑戦が始まりました。
苦難を乗り越え、どうにかあと一歩という場所まで辿り着いたものの、
【そこから、一度も勝てません】
下痢(失礼)を我慢しているかのように、彼は真っ赤な顔で俯くと微かに身体を震わせました。……乳酸菌の出番では? ボーリボリ……。
膝上で揃えた両の拳はキツく握り締められ、色を失くしております。
サングラスの奥は窺えません。
――沈黙が訪れました。
打ちひしがれる彼の姿を無言で眺めながら、このお話を何度も反芻してみます。
どら焼きを食みながら。……これめちゃ美味い。
ふと。
「彼女も当然大学進学なのでしょうね」
少年はゆっくりと顔を上げ、ぼんやりと視線を向けます。
【ええ……彼女も、自分と同じ大学に推薦で……】
「差し支えなければ、どちらの大学で?」
【××大学です】
「ははあ、それはまたハイレベルな……示し合わせて?」
【いえ。その大学に入るのが彼女の昔からの夢――というのを聞いてはおりました。僕が勝手に追い掛けて――】
大学でも「勝負」は可能、という?
ふうん……?
「唐突ですが、定期考査も気合十分ですよね」
【はい、嘗てないほど気合が乗ってます】
「それは重畳――きっと、大丈夫です」
【お気遣い痛み入ります】
「社交辞令ではありません。予言といっても過言では」
【え?】
「あなたは期末で彼女を上回り、告白することになると思います」
【…………】
「願わくは、潔く……。ゴッド・ブレス・ユー」
きょとん顔の少年。
半開きの唇から、ひゅうと空気が漏れました。
☆☆☆
三週間後――。
眼前には、少女が楚々と座っております。
ショートヘアーの黒髪も艶やかな制服姿の女子高生。
長身で、歩く姿はどこぞの読者モデル風でした(知らんけど)。
【ありがとうございました】
いきなり?
「えーと?」
【「彼」から聞きました。こちらで「予言」を授かったって】
例の「万年一位」さんでしたか。
大きな黒目がちの瞳――桃色の微笑を浮かべております。
【何故、お分かりになったのですか? ひと言、お聞きしたくて……】
「では、貴女の思惑どおりに?」
【はい!】
眩しい笑顔が弾けました。
「当てずっぽうですよ……もしかすると、テスト云々は最終関門でなく――」
【その通りです。「恋人」として「同じ大学に」――長かったです。ずっと、彼が好きでした。私から告れば話は早いのでしょうけど……。肝心な所でヘタレなんです、私……】
打てば響くよな幼馴染みでも、一線を越えるには長い橋を渡らなければいけないこともあるのでしょうか。
嘗て底辺を彷徨っていた彼の成績を引っ張り上げるため――悩んだ彼女が放った渾身の一手。
「しかし、彼もよく遠間から話が聞こえたものですね」
【あれは咄嗟の閃きでしたけど……彼がいつも三階から見てるの、私も知ってましたから】
「貴女もセンチネル?」
2点差で上回り、悲願の告白を果たした彼を思い浮かべながら――。
わざと1問、間違えた――控えめに舌を出す彼女と、他愛ない話に花を咲かせたのでございます。
ーーーーー
※1 大河内春樹。ドラマ『相棒』(テレビ朝日系列)に登場。警視庁警務部首席監察官。割と特命係(というか右京さん)に協力的。しょっちゅう錠剤をボリボリ食んでます。別名「ピルイーター」(錠剤はラムネという噂)。彼のクリアファイル持ってます!
※2 村下孝蔵さんの名曲
※3 『超感覚刑事ザ・センチネル』。ロングアゴー、N●Kで放送された海外ドラマ。どこぞの原住民よろしく、やたら五感が発達しちゃった男性が主人公
「風神の門」(N●K)というドラマの主題歌でした。
シャバダバダ……兄貴が夕焼けで、私が小焼けだったころのドラマです(ああ、松鶴家千とせ師匠……泣)。いや、生焼けだったかもしれませんが。
この曲、販売されなかった――いえ、リリースされなかったそうです。シングルもアルバム(への収録)も。
今や、ユ●チュ●ブでしか……。
ドラマオープニング版(主人公・霧隠才蔵役の三浦浩一さんがひたすら走ってコケる)と、何故かフルバージョン版がアップされております。いずれも「善き」です。
お時間がございましたら、是非(イエ~イ)。
ーーーーー
昨年師走早々のお話。
七つ半(午後五時)を回った頃、最初のお客さんがいらさいました。
制服姿の小柄な少年です。
きびきびとした動作で真っ直ぐ歩いて来るや、質量というものを感じさせない風にソファへと腰を下ろしました。一瞬、ソファがきゅうんと音をたてます。
背筋を伸ばしてボタン群に視線を向けます。
頭髪は――五分刈り……いやどのくらいでしょう。もっと短いかも。
ひと言でいえば「青白い」球体。
濃い眉毛がキリッと走る丸顔に大きな瞳。
嘗て、「イケメンはハゲでもイケメン」と言い放った兄様の顔が頭を過りました。
どちらかといえば「可愛いらしい」と思います。
白いお顔で睨み付けるように一点を見詰め、
『♪いまの君は~ビッカ・ビッカ!』
というボタンを力強く押下いたしました。
エロエロ混在したようなボタンですね。
宮●美子さんなのか、はたまたご機嫌なピカチ●ウか。
ところで、「ラス●ル」とか動物系がラインナップにあったとしたら、どうなるのでしょうね。どうなのです? お母さま。
唇を固く引き結び、少年が徐に受話器を手にします。
【こんにちは】
「こんにちは。ツイてない御苑へよーこそ。どなたかのご紹介でしょうか」
【はい。ちょっとMっ気のある中学時代の同級生が――】
「はいはい了解でーす」
またしても晋三か。
周囲の認識が「Mっ気のある」で固まっているようですね。
アイツ、ひょっとして浮いているんじゃ……。
熱心に宣伝活動している(としたら)のは善きですけど。
「とすると三年生……受験は大丈夫なのですか」
【え、ええ。……御見逸れいたしました。なるほど流石です】
推薦でとっくに大学は確定しているそうです。
【図書館の帰りなんです。期末(考査)も近いので】
「左様でございますか(真面目だなあ)」
【最後のチャンスなので。気を緩めるわけにはまいりません】
慇懃な(?)台詞と可愛いらしい面のギャップがなんか不思議。
微動だにしない上半身に、若干力みが見受けられます。
「最後のチャンス?」
【はい。最後のチャンスです】
☆☆☆
かの高校では、中間と期末考査の成績が、毎度掲示板に公表されるそうで。
残酷ですが、全員の成績が一目瞭然なのだとか。
【今回の期末考査が、告白する最後の機会になります】
「告白? 成績がどう関係するのです?」
ポケットに手を突っ込み何やら取り出しました。
ビオ●ェルミンの小瓶です。
片手に中身をザラザラ開け、パッと口に放り込みました。
低いボリボリという音が、マジックミラー越しに届きます。
おお、大河内さんみたい。※1
「お腹の調子が?」
【いえ、遅い中食です。お気になさらず】
乳酸菌を昼飯代わりにする高校生は初見です。あ、おやつ? 夜だよ?
プロテインのような感覚なのでしょか。
【定期考査で懸想相手を上回らないと、告白できないのです】
「え? そんな縛りが? 成績なんて関係ないのでは?」
【いえ、そういう訳にはいかないのです……】
お相手の女の子は万年一位で、彼は常に二~三位だそうです。
これまで一度もお相手を上回ったことがない、とのことで。
前回のテストが最も接戦だったそうですが、
【2点差でした……ツイてない……】
☆☆☆
【大分前に……偶然、とある凡庸な男子が彼女に告白する現場を目撃しまして】
「――偶~然?」
【――偶~然です】
ほんまか?
少年が突然サングラスを取り出し、ササッと装着します。
なんで今サングラスか。しかし似合わんな。
【三階の教室から、『放課後の校庭を 走るぅ~君』を眺めておりますと――】
「『初恋』か」※2
【走行中の彼女を止めて告白した男子が――】
「そんなタイミングの告白あります?」
【あります。彼女は、「定期考査で私を上回ったら……」と返しました】
「三階の教室にいて聞こえた、と?」
【御意】
「『セ●チネル』かよ」※3
【「年配の方」に言われた事はあります、が……】
うっ。誤解されたでしょうか。
おい――はは~んて顔をするな。多分、君の認識に齟齬があるぞ。
こちとら、うら若き乙女だじょ! いや?! 乙女じゃよ?! あれ?
【……なぜ、彼女がそんな条件をつけたのかは分かりません。彼女とは幼馴染なのですが――】
「ひゅう~出たな幼馴染! セクハラだぞっ!」
【…………?】
「…………ごめんなさい。取り乱しました……」
蔑むような目はやめておくんなまし。
【これまで側にいて、一度も口にした事は無かったのに……】
それから、彼の挑戦が始まりました。
苦難を乗り越え、どうにかあと一歩という場所まで辿り着いたものの、
【そこから、一度も勝てません】
下痢(失礼)を我慢しているかのように、彼は真っ赤な顔で俯くと微かに身体を震わせました。……乳酸菌の出番では? ボーリボリ……。
膝上で揃えた両の拳はキツく握り締められ、色を失くしております。
サングラスの奥は窺えません。
――沈黙が訪れました。
打ちひしがれる彼の姿を無言で眺めながら、このお話を何度も反芻してみます。
どら焼きを食みながら。……これめちゃ美味い。
ふと。
「彼女も当然大学進学なのでしょうね」
少年はゆっくりと顔を上げ、ぼんやりと視線を向けます。
【ええ……彼女も、自分と同じ大学に推薦で……】
「差し支えなければ、どちらの大学で?」
【××大学です】
「ははあ、それはまたハイレベルな……示し合わせて?」
【いえ。その大学に入るのが彼女の昔からの夢――というのを聞いてはおりました。僕が勝手に追い掛けて――】
大学でも「勝負」は可能、という?
ふうん……?
「唐突ですが、定期考査も気合十分ですよね」
【はい、嘗てないほど気合が乗ってます】
「それは重畳――きっと、大丈夫です」
【お気遣い痛み入ります】
「社交辞令ではありません。予言といっても過言では」
【え?】
「あなたは期末で彼女を上回り、告白することになると思います」
【…………】
「願わくは、潔く……。ゴッド・ブレス・ユー」
きょとん顔の少年。
半開きの唇から、ひゅうと空気が漏れました。
☆☆☆
三週間後――。
眼前には、少女が楚々と座っております。
ショートヘアーの黒髪も艶やかな制服姿の女子高生。
長身で、歩く姿はどこぞの読者モデル風でした(知らんけど)。
【ありがとうございました】
いきなり?
「えーと?」
【「彼」から聞きました。こちらで「予言」を授かったって】
例の「万年一位」さんでしたか。
大きな黒目がちの瞳――桃色の微笑を浮かべております。
【何故、お分かりになったのですか? ひと言、お聞きしたくて……】
「では、貴女の思惑どおりに?」
【はい!】
眩しい笑顔が弾けました。
「当てずっぽうですよ……もしかすると、テスト云々は最終関門でなく――」
【その通りです。「恋人」として「同じ大学に」――長かったです。ずっと、彼が好きでした。私から告れば話は早いのでしょうけど……。肝心な所でヘタレなんです、私……】
打てば響くよな幼馴染みでも、一線を越えるには長い橋を渡らなければいけないこともあるのでしょうか。
嘗て底辺を彷徨っていた彼の成績を引っ張り上げるため――悩んだ彼女が放った渾身の一手。
「しかし、彼もよく遠間から話が聞こえたものですね」
【あれは咄嗟の閃きでしたけど……彼がいつも三階から見てるの、私も知ってましたから】
「貴女もセンチネル?」
2点差で上回り、悲願の告白を果たした彼を思い浮かべながら――。
わざと1問、間違えた――控えめに舌を出す彼女と、他愛ない話に花を咲かせたのでございます。
ーーーーー
※1 大河内春樹。ドラマ『相棒』(テレビ朝日系列)に登場。警視庁警務部首席監察官。割と特命係(というか右京さん)に協力的。しょっちゅう錠剤をボリボリ食んでます。別名「ピルイーター」(錠剤はラムネという噂)。彼のクリアファイル持ってます!
※2 村下孝蔵さんの名曲
※3 『超感覚刑事ザ・センチネル』。ロングアゴー、N●Kで放送された海外ドラマ。どこぞの原住民よろしく、やたら五感が発達しちゃった男性が主人公