☆本話の作業用BGM、スタートは『「フラッシュ」のテーマ』(クイーン)でした。
映画『フラッシュ・ゴードン』の主題歌であります。
自分(のイメージでは)、クイーン=「フラッシュ」になってしまいます。
PVのラストで、フレディさんのお茶目な姿がちょこっと♥
歌詞がよう分からんので、「フラッシュ!」しかハモれません。
で、締めは唐突に『アイ・ライク・ショパン』(ガゼボ)でした。
やはり歌詞がよう分からんので、大概、ラストの「……マイウェイ」しかハモれません。
ーーーーーーー
★★★
とうとう師走も半ばです、お母さま。
今まさに、年賀状の「宛名書き」で使役されております(ハゲに)。
まあ季節モノですから。
宛名だけは手書きに拘る兄様のせいで……それは素晴らしい……ような気もいたしますので、文句を漏らさずシコ●コ(※禁句)筆ペンを走らせております。
今年は「小筆」を免除していただいたのです(ほっ)。
暇を持て余している綾女も動員されております。
ただ、彼女、そんなに「字が綺麗」なワケでもないのです。なんだか丸っこい字を著します。
偉いもので、兄様はそれについては文句を言いません。
綺麗云々より、「丁寧であること」が大事なのだとか。
綾女は、電マでもあてたような小刻みに波打つ丸っこい字を、額に嫌な汗を掻きながら一所懸命……。
淡い桃色に染まるその顔を見やり、私はなんとなく「ほっこり」してしまうのです。
☆☆☆
街全体が年末年始のお休みに入ったような塩梅です。
交通量も人通りもぐっと減り、歩行者や自転車が、そこかしこで堂々と信号無視を繰り返しております。
この辺も無法地帯でございます。
【いつもより町が静かで、なんか余計薄ら寒い感じするよね】
久し振りに来店した茂森(仮)さんが、両腕を擦りながら零しました。
「枯れた寒さ、て感じですよね」
相槌を打つ私の声は、茂森(仮)さんが選択した『アトランティスから来●男』の主人公です。※1
結局、池田(秀一)さんの声になるわけで。
余程お好きなのでしょうねえ。
【パート仲間とお茶した帰りさ】
「お疲れ様でございます」
【最近さあ、皆で集まると「クイズ大会」みたいになっちゃって】
「クイズ大会ですか」
何か思い出したように、腕組みして難しい顔になりました。
【ちょっとした事がすぐ出て来ないんだよ。ド忘れっていうのか。パート仲間は大概あたしより年上でさ、「そんなのアルアルでしょ」って言うんだけど】
「茂森(仮)さん、まだ二十代半ばですよね」
【そう! そこはハッキリさせとくよ。けど……出て来ねンだあ】
ぽっと溜息をつきながら、橙色の蓋をしたミニペットボトルをキリキリ開けると、
【ダンナがさ、「そりゃ、『デジタル記憶喪失』だよきっと」って言うわけ】
「デジタル記憶喪失?」
【別名『デジタル性健忘症』なんだと。ひどくね?!】
「ち、ちょっとお待ちください。すぐヤホーで検索いたしますので」
【それそれ! その「すぐ検索」がよくないんだって!】
――デジタル性健忘症。
現代は便利なもので、ちょっとした事でも「すぐ検索」する癖がついて、脳が自分で覚えようとしない現象——なんですと。
エネルギー消費を節約しようと、脳が横着(?)しているのでは、とも考えられているそうです。
「横着は負け」(敵)ということですかね。
【——だ・か・ら。パート仲間が集まると、すぐ「アレなんだっけ?」とか「それ何ていうんだっけ?」ってカミングアウト大会(?)になっちまうんだよ】
ひとしきり皆で頭をめぐらせるらしいです。
【さっきもさあ――あっ、思い出した! 第一問! キエェェェーイッ!】
「え?」
【あなた割と古い事良く知ってるじゃん】
「まあ、そうですね」
【Jリーグ草創期、鹿●の助っ人選手で、大人気になったブラジル人の名はなんでしょう!】
「……アル●ンド?」
茂森(仮)さん、「最後列の席から黒板を睨み付ける目が悪い生徒」のようなお顔になりました。
殺し屋か?
【…………………………正解】
「なぜ。そんな。テンション?」
【第二問!】
「さあ~来え~ッ」
野球部のノリで受けて立ちましょう。
【くっ……天気予報でさ、台風が近づいた時よく耳にする言葉で、気圧の単位『ミリバール』って昔あったじゃん?】
「……………………………………ええ」
【あれ、今は何と言うでしょーか!】
「逆、逆ですよ茂森(仮)さん。普通は「ミリバール」をクイズにするでしょう?」
【?】
「ヘクトパスカルは皆知ってますよ。「ミリバール」はちょっと出て来ないです、私も」
【…………】
静止画像になる彼女。
瞬きもありません。
やがて、表通りにゆっくり顔を向けると、遠い目で何処かをぼんやり眺め出します。
ここ、窓は無いのですが。
「終わりですか、クイズ」
【第三問……】
「無理しなくていいですよ?」
【昔、『花●ゆめ』って少女漫画雑誌で連載してた大好きな漫画があってさ……】
「……忘れちゃったんですか、大好きだったのに」
【…………】
「ごめんなさい。続きを」
【……タイトル……どう?】
「どう? ってアンタ。雑にブン投げないでください。何のヒントも無しじゃ分かりませんよ」
ぼんやり天井を見上げると、
【すごい線が綺麗でさ。Gペンって、あたしらじゃサラッとした線が中々引けないもんなのよ】
「でしょうね」
【その人の線はとっても滑らかで】
「ヒントにならんですばい」
【主人公は自分が異星人になった夢をよく見るんだけど、それは夢じゃなくて、自分の「前世」の記憶だったわけ――】
あ、なんか分かった気がする。
「ズバリ! 『ぼくの地球●守って』ですねッ! 通称『ぼく地球』!」※2
【……ほんと、ナンデそんな古い漫画知ってるんだよお……】
顔をくしゃくしゃにした茂森(仮)さんは、小さく震える声で呟いたのでした。
☆☆☆
【あんたは健忘症とは無縁かもね】
「偶々ですよ、そんな」
【ふうん……よく言うぜ】
「ちょい忘れした事を必死に思い出そうとすることは、脳にとって大層な栄養になるそうです。自称・脳科学者のナントカってヤツが言ってました」
【それじゃ誰か分からん】
「その『ナントカさん』が思い出せないんですよねえ……」
同時にゲラゲラ笑ってしまいました。
まあいいかな、思い出さんでも。
「ゴッド・ブレス・ユ―。よいお年を、茂森(仮)さん」
【おう。よいお年を! また来るよ!】
元気良く片手を振りながら、笑みを浮かべて日の暮れた外界へと消えて行ったのでございます。
☆☆☆
もうすぐ年が明けます。
綾女の成人式どうしましょう、お母さま。
そうそう、これはオフレコですが。
兄様。自身の成人式は不参加だったそうです。
上野あたりのテレ●ラに籠っていたのですって。ふふふ。
---------------------------------------------------------------------------------------
※1 『アトランティスから来た男』。
某国営放送の海外ドラマ。アトランティス最後の生き残りである超人の主人公が、バサロみたいなフォームで泳ぎますよ! 手と足に水掻きあり。
※2『ぼくの地球を守って』(日渡早紀 白泉社刊)
映画『フラッシュ・ゴードン』の主題歌であります。
自分(のイメージでは)、クイーン=「フラッシュ」になってしまいます。
PVのラストで、フレディさんのお茶目な姿がちょこっと♥
歌詞がよう分からんので、「フラッシュ!」しかハモれません。
で、締めは唐突に『アイ・ライク・ショパン』(ガゼボ)でした。
やはり歌詞がよう分からんので、大概、ラストの「……マイウェイ」しかハモれません。
ーーーーーーー
★★★
とうとう師走も半ばです、お母さま。
今まさに、年賀状の「宛名書き」で使役されております(ハゲに)。
まあ季節モノですから。
宛名だけは手書きに拘る兄様のせいで……それは素晴らしい……ような気もいたしますので、文句を漏らさずシコ●コ(※禁句)筆ペンを走らせております。
今年は「小筆」を免除していただいたのです(ほっ)。
暇を持て余している綾女も動員されております。
ただ、彼女、そんなに「字が綺麗」なワケでもないのです。なんだか丸っこい字を著します。
偉いもので、兄様はそれについては文句を言いません。
綺麗云々より、「丁寧であること」が大事なのだとか。
綾女は、電マでもあてたような小刻みに波打つ丸っこい字を、額に嫌な汗を掻きながら一所懸命……。
淡い桃色に染まるその顔を見やり、私はなんとなく「ほっこり」してしまうのです。
☆☆☆
街全体が年末年始のお休みに入ったような塩梅です。
交通量も人通りもぐっと減り、歩行者や自転車が、そこかしこで堂々と信号無視を繰り返しております。
この辺も無法地帯でございます。
【いつもより町が静かで、なんか余計薄ら寒い感じするよね】
久し振りに来店した茂森(仮)さんが、両腕を擦りながら零しました。
「枯れた寒さ、て感じですよね」
相槌を打つ私の声は、茂森(仮)さんが選択した『アトランティスから来●男』の主人公です。※1
結局、池田(秀一)さんの声になるわけで。
余程お好きなのでしょうねえ。
【パート仲間とお茶した帰りさ】
「お疲れ様でございます」
【最近さあ、皆で集まると「クイズ大会」みたいになっちゃって】
「クイズ大会ですか」
何か思い出したように、腕組みして難しい顔になりました。
【ちょっとした事がすぐ出て来ないんだよ。ド忘れっていうのか。パート仲間は大概あたしより年上でさ、「そんなのアルアルでしょ」って言うんだけど】
「茂森(仮)さん、まだ二十代半ばですよね」
【そう! そこはハッキリさせとくよ。けど……出て来ねンだあ】
ぽっと溜息をつきながら、橙色の蓋をしたミニペットボトルをキリキリ開けると、
【ダンナがさ、「そりゃ、『デジタル記憶喪失』だよきっと」って言うわけ】
「デジタル記憶喪失?」
【別名『デジタル性健忘症』なんだと。ひどくね?!】
「ち、ちょっとお待ちください。すぐヤホーで検索いたしますので」
【それそれ! その「すぐ検索」がよくないんだって!】
――デジタル性健忘症。
現代は便利なもので、ちょっとした事でも「すぐ検索」する癖がついて、脳が自分で覚えようとしない現象——なんですと。
エネルギー消費を節約しようと、脳が横着(?)しているのでは、とも考えられているそうです。
「横着は負け」(敵)ということですかね。
【——だ・か・ら。パート仲間が集まると、すぐ「アレなんだっけ?」とか「それ何ていうんだっけ?」ってカミングアウト大会(?)になっちまうんだよ】
ひとしきり皆で頭をめぐらせるらしいです。
【さっきもさあ――あっ、思い出した! 第一問! キエェェェーイッ!】
「え?」
【あなた割と古い事良く知ってるじゃん】
「まあ、そうですね」
【Jリーグ草創期、鹿●の助っ人選手で、大人気になったブラジル人の名はなんでしょう!】
「……アル●ンド?」
茂森(仮)さん、「最後列の席から黒板を睨み付ける目が悪い生徒」のようなお顔になりました。
殺し屋か?
【…………………………正解】
「なぜ。そんな。テンション?」
【第二問!】
「さあ~来え~ッ」
野球部のノリで受けて立ちましょう。
【くっ……天気予報でさ、台風が近づいた時よく耳にする言葉で、気圧の単位『ミリバール』って昔あったじゃん?】
「……………………………………ええ」
【あれ、今は何と言うでしょーか!】
「逆、逆ですよ茂森(仮)さん。普通は「ミリバール」をクイズにするでしょう?」
【?】
「ヘクトパスカルは皆知ってますよ。「ミリバール」はちょっと出て来ないです、私も」
【…………】
静止画像になる彼女。
瞬きもありません。
やがて、表通りにゆっくり顔を向けると、遠い目で何処かをぼんやり眺め出します。
ここ、窓は無いのですが。
「終わりですか、クイズ」
【第三問……】
「無理しなくていいですよ?」
【昔、『花●ゆめ』って少女漫画雑誌で連載してた大好きな漫画があってさ……】
「……忘れちゃったんですか、大好きだったのに」
【…………】
「ごめんなさい。続きを」
【……タイトル……どう?】
「どう? ってアンタ。雑にブン投げないでください。何のヒントも無しじゃ分かりませんよ」
ぼんやり天井を見上げると、
【すごい線が綺麗でさ。Gペンって、あたしらじゃサラッとした線が中々引けないもんなのよ】
「でしょうね」
【その人の線はとっても滑らかで】
「ヒントにならんですばい」
【主人公は自分が異星人になった夢をよく見るんだけど、それは夢じゃなくて、自分の「前世」の記憶だったわけ――】
あ、なんか分かった気がする。
「ズバリ! 『ぼくの地球●守って』ですねッ! 通称『ぼく地球』!」※2
【……ほんと、ナンデそんな古い漫画知ってるんだよお……】
顔をくしゃくしゃにした茂森(仮)さんは、小さく震える声で呟いたのでした。
☆☆☆
【あんたは健忘症とは無縁かもね】
「偶々ですよ、そんな」
【ふうん……よく言うぜ】
「ちょい忘れした事を必死に思い出そうとすることは、脳にとって大層な栄養になるそうです。自称・脳科学者のナントカってヤツが言ってました」
【それじゃ誰か分からん】
「その『ナントカさん』が思い出せないんですよねえ……」
同時にゲラゲラ笑ってしまいました。
まあいいかな、思い出さんでも。
「ゴッド・ブレス・ユ―。よいお年を、茂森(仮)さん」
【おう。よいお年を! また来るよ!】
元気良く片手を振りながら、笑みを浮かべて日の暮れた外界へと消えて行ったのでございます。
☆☆☆
もうすぐ年が明けます。
綾女の成人式どうしましょう、お母さま。
そうそう、これはオフレコですが。
兄様。自身の成人式は不参加だったそうです。
上野あたりのテレ●ラに籠っていたのですって。ふふふ。
---------------------------------------------------------------------------------------
※1 『アトランティスから来た男』。
某国営放送の海外ドラマ。アトランティス最後の生き残りである超人の主人公が、バサロみたいなフォームで泳ぎますよ! 手と足に水掻きあり。
※2『ぼくの地球を守って』(日渡早紀 白泉社刊)