☆本話の作業用BGMは、『アカシャ』(カシオペア)でした。
フュージョン・バンドとのことで(フュージョンてなんですかね)。
タイトルの意味は……多分、本文中にちょろりと出とるヤツかなあと。
「アーカーシャ」ちゅうのがサンスクリット語にあるそうです。ふふふ(?)
キーボードの向谷さん(※当時。現在は脱退)は、ちょいちょいタ●リ俱楽部なんかでお見かけしたような……。
この曲は「ボーカル(ゲスト)有り」です。ベース大変です、のノリノリ。
ーーーーーーー
とある日曜日。
少し早いかなとは思いましたが、炬燵を出すことにいたしまして。
なぜか綾女が手伝ってくれました。
まあ、たいした作業でもないのですが。
朝から晴れて、過ごしやすい気温なのです。炬燵日和とは言い難い。
綾女はそのまま、炬燵に寝そべってラノベ(※私の所有物)を読み耽っております。
どこぞ出掛けたりしないのでしょうか。
私は炬燵の反対側から足を伸ばし、綾女の足裏を擦ってみたのでございます。
「あふん♥」
「――あふん? とな?」
「…………」
綾女の耳たぶが桃色に染まります。
「なんですかその反応は。ドン引き」
「え……真面目に返されると恥ずいんですけど」
「感じやすい……敏感なのよ、というアピールですか」
「言い直されるのも恥ずい。マジ敏感なんだってぇ」
申し訳ございません。ここまでで。ゆるゆりな展開は一切ありえひんのです。
「あ、夕方、桜子さんと美冬さんがウチ来るよ」
「桜子さん……ああ、美冬ちゃんの『お兄様』の……」
「打ち上げするの、神幸ちゃんも是非! すき焼きだよ!」
先月終えた受検(※国家試験)の打ち上げだそうです。
今頃? というか、私が同席してよいものでしょうか。
「女子会みたいなもんだからさ」
――女子会。なんと甘美な響きでしょう。
自分がそのようなイベントに絡む日が来るとは……。
ふうん。
☆☆☆
翌日の開店後、早々にいらっしゃったお客さんは、色黒のボンバヘッドでした。
めちゃ背が高い……。ふわっふわなヘッドが天井を掃除しちゃいそうです。
新型のル●バかな? 人力ですけど。
ひょろっとした体躯に、小さな童顔。
コスモくんのような愛らしさがございます。※1
ダボっとした作業着姿。
それでも一応オシャレに見えてしまうのは何故でしょう。
恐る恐る……という感じで腰を下ろした彼は、即座にボタンを押下いたしました。
それは――
『ソネ●トのマリコ』
という。
なんとなく……ギリ記憶にあります。
可愛らしいCMでしたね。
【は、ハロー】
「(ん?)こんにちは。ツイてない御苑へようこそ」
【ソーリー、ゆっくりオネシャス。日本語、あまり慣れてない】
「あ。失礼。お国はどちらで?」
【ベイコク】
「そこは『アメリカ』だろ?」
あ、「欧米か?」の方が上品だったでしょうか。
或いは少し捻って、♪ボ~ンインザユーエス――(以下略)。
なんと、出稼ぎ(短期)にいらしているそうです。
円安なのに……?
とある建設現場で肉体労働(じゅるり)に勤しんでいるとのこと。
会話がままならない所為か、ちょいちょいミスって怒鳴られる毎日なんだとか。
会社の寮で、夕飯を終えた彼が賄いのおばちゃんにカタコトで愚痴を零していると、そのおばちゃんが、
【シアワセになる、魔法のコトバ、オシエテクレタ】
だそうで。
おばちゃんはローマ字で紙に認め、何度か暗唱したらしいのですが、
【オボエラレナイ。カミモナクシタァ……】
「また、教えて、もらえば……」
私はご老体を相手にするイメージで、はっきり大きな声(マリコさんの)で短いセンテンスの言葉を掛けます。
【オバチャン……ツギノヒ、転生、シタ……イナクナタ】
ガックリと項垂れました。
——転生?
ふと。
外国の方が「カタコト」なのは、「助詞」を上手く選択できない所為なのかな、と思い当たりました。
日本人が英会話する際はどうなのでしょう。
結局、単語を繋ぎ合わせるしかないですけど。
彼は、おばちゃんの言った「魔法の言葉」が気になって仕様がなく、どうしても知りたいと伝手を頼って(何故か)ここにいらしたのだとか。
ミステリーは苦手なのに……。
彼が覚えているのは、
【ノウ……】
という頭の二文字だけ。
うーん……。
☆☆☆
ひとしきり、片言の英語と日本語で、当時の様子をじっくりと聞き込み(?)ました。
言葉そのものは、さほど長いモノではなかったようです。
突然、
【Oh!】
「どした?」
【オバチャン、ナンカ……コウシテタ!】
両手を奇妙に組み合わせます。
わちゃわちゃ指を動かし、本人も自信無さげですが――。
【IN……シテミル、イッタ……ヨウナ?】
しきりに首を傾げながら呟きました。
それじゃ小説のタイトルだよ、ジョージ(かどうか名前知りませんが)。
ん? IN——?
私はインカムを外して裏口を出ると、そのまま表口から店内へと足を踏み入れました。
もはや仕様がないでしょう、会話だけでは埒が明かないですから。
振り向いたジョージ(もう、仮で)が驚いて硬直しますが、私は構わず、両手を組んで彼の目の前に翳し、
「こんな、感じ、だた?」
顎を引き、目を寄せてじっと手を見詰めた彼は、
【Oh……ジャストライッ!】
「あんだって?」
私の両手を掴み、ボンバヘッドを激しく震わせました。
「IN」は、「印」では……?
おばちゃんが、彼の目の前で「印を結んで」見せたとしたら……。
その前提で「ノウ……」から私が導き出した(推測した)答えは。
『ノウボウ アキャシャキャラバヤオン…………ボリソワカ』
という真言(マントラ)です。
真言ちゅうのは、仏様の「真の」お言葉、だそうで。
人間には意味がわからないですよね。「君●代」の方がまだ理解できそう。
ちなみに、ネットで「幸せになる」系のマントラを検索するとエロエロ出て来ますが……。
先の「ノウボウ――」は、「虚空蔵菩薩」のマントラだそうです。
ざっくりとした説明を読む限り、「記憶力」が上がる系に見受けられますけど……。
目の前で暗唱してみせると、ジョージ(仮)は身じろぎもせず聞き入り、
【……ニテル……メイビー……】
やはり確信は持てないようです。
これを1日1万回×100日(計100万回)唱えるという修行法があるらしいです。
あらゆる経典を「瞬時に」理解して記憶することが出来るようになる――とか。
「必殺スピン回答」みたいなものでしょうか。※2
これが正解かは不明ですが、一応、ローマ字とカタカナで紙に書いて渡し、何度も繰り返し声に出して練習してみました。
流石に一万回は……。
☆☆☆
ついでに動画サイトもいくつか覗いてみました。
ひとしきり動画を眺めたジョージ(仮)。ちょっと引き気味でしたね。
妙な迫力ありましたから、動画。
紅潮した顔でほっと息を吐くと、目をクリっとさせて、まじまじと私の顔を眺めました。
「あ、女の人だ」って顔してますね。今更ですが。
【……サンクス、マリコ】
「マリコ違う、みゆき」
普通に名乗っちゃったよ。
【Oh……ミユキ、ユーアーマイエンジェル……】※3
某アニメ主題歌の歌詞みたいに呟くと、立ち上がって私の両手を握り締めました。
【アリガ……トゥ……】
なんで「トゥ」になっちゃうのか分かりませんが、目を潤ませて真っ直ぐにこちらを見詰めるジョージの小さな冒険は、(一応)終わりを告げたようです。
「ごっど・ぶれす・ゆー」
大きなカリフラワーのような黒いボンバヘッドが、ゆっくりと揺れながら外界へと消えて行ったのでございます。
彼曰く――最低限の意思疎通は可能でも、やはり母国語で会話出来ないのは結構な「ストレス」なのだと。
今後の事を考えると、私も英語を話せた方がいいでしょうか、お母さま。めんどいな。
……「転生した」らしいおばちゃん、何者だったのでしょう。
ーーーーーーー
※1 アニメ『伝説巨人イデオン』の主人公。イデオンのパイロット。
※2 漫画 『ギャルがライバル!』(集英社・前川K三)一巻より。
※3 アニメ『みゆき』OP『10%の雨予報』(H2O)より。
フュージョン・バンドとのことで(フュージョンてなんですかね)。
タイトルの意味は……多分、本文中にちょろりと出とるヤツかなあと。
「アーカーシャ」ちゅうのがサンスクリット語にあるそうです。ふふふ(?)
キーボードの向谷さん(※当時。現在は脱退)は、ちょいちょいタ●リ俱楽部なんかでお見かけしたような……。
この曲は「ボーカル(ゲスト)有り」です。ベース大変です、のノリノリ。
ーーーーーーー
とある日曜日。
少し早いかなとは思いましたが、炬燵を出すことにいたしまして。
なぜか綾女が手伝ってくれました。
まあ、たいした作業でもないのですが。
朝から晴れて、過ごしやすい気温なのです。炬燵日和とは言い難い。
綾女はそのまま、炬燵に寝そべってラノベ(※私の所有物)を読み耽っております。
どこぞ出掛けたりしないのでしょうか。
私は炬燵の反対側から足を伸ばし、綾女の足裏を擦ってみたのでございます。
「あふん♥」
「――あふん? とな?」
「…………」
綾女の耳たぶが桃色に染まります。
「なんですかその反応は。ドン引き」
「え……真面目に返されると恥ずいんですけど」
「感じやすい……敏感なのよ、というアピールですか」
「言い直されるのも恥ずい。マジ敏感なんだってぇ」
申し訳ございません。ここまでで。ゆるゆりな展開は一切ありえひんのです。
「あ、夕方、桜子さんと美冬さんがウチ来るよ」
「桜子さん……ああ、美冬ちゃんの『お兄様』の……」
「打ち上げするの、神幸ちゃんも是非! すき焼きだよ!」
先月終えた受検(※国家試験)の打ち上げだそうです。
今頃? というか、私が同席してよいものでしょうか。
「女子会みたいなもんだからさ」
――女子会。なんと甘美な響きでしょう。
自分がそのようなイベントに絡む日が来るとは……。
ふうん。
☆☆☆
翌日の開店後、早々にいらっしゃったお客さんは、色黒のボンバヘッドでした。
めちゃ背が高い……。ふわっふわなヘッドが天井を掃除しちゃいそうです。
新型のル●バかな? 人力ですけど。
ひょろっとした体躯に、小さな童顔。
コスモくんのような愛らしさがございます。※1
ダボっとした作業着姿。
それでも一応オシャレに見えてしまうのは何故でしょう。
恐る恐る……という感じで腰を下ろした彼は、即座にボタンを押下いたしました。
それは――
『ソネ●トのマリコ』
という。
なんとなく……ギリ記憶にあります。
可愛らしいCMでしたね。
【は、ハロー】
「(ん?)こんにちは。ツイてない御苑へようこそ」
【ソーリー、ゆっくりオネシャス。日本語、あまり慣れてない】
「あ。失礼。お国はどちらで?」
【ベイコク】
「そこは『アメリカ』だろ?」
あ、「欧米か?」の方が上品だったでしょうか。
或いは少し捻って、♪ボ~ンインザユーエス――(以下略)。
なんと、出稼ぎ(短期)にいらしているそうです。
円安なのに……?
とある建設現場で肉体労働(じゅるり)に勤しんでいるとのこと。
会話がままならない所為か、ちょいちょいミスって怒鳴られる毎日なんだとか。
会社の寮で、夕飯を終えた彼が賄いのおばちゃんにカタコトで愚痴を零していると、そのおばちゃんが、
【シアワセになる、魔法のコトバ、オシエテクレタ】
だそうで。
おばちゃんはローマ字で紙に認め、何度か暗唱したらしいのですが、
【オボエラレナイ。カミモナクシタァ……】
「また、教えて、もらえば……」
私はご老体を相手にするイメージで、はっきり大きな声(マリコさんの)で短いセンテンスの言葉を掛けます。
【オバチャン……ツギノヒ、転生、シタ……イナクナタ】
ガックリと項垂れました。
——転生?
ふと。
外国の方が「カタコト」なのは、「助詞」を上手く選択できない所為なのかな、と思い当たりました。
日本人が英会話する際はどうなのでしょう。
結局、単語を繋ぎ合わせるしかないですけど。
彼は、おばちゃんの言った「魔法の言葉」が気になって仕様がなく、どうしても知りたいと伝手を頼って(何故か)ここにいらしたのだとか。
ミステリーは苦手なのに……。
彼が覚えているのは、
【ノウ……】
という頭の二文字だけ。
うーん……。
☆☆☆
ひとしきり、片言の英語と日本語で、当時の様子をじっくりと聞き込み(?)ました。
言葉そのものは、さほど長いモノではなかったようです。
突然、
【Oh!】
「どした?」
【オバチャン、ナンカ……コウシテタ!】
両手を奇妙に組み合わせます。
わちゃわちゃ指を動かし、本人も自信無さげですが――。
【IN……シテミル、イッタ……ヨウナ?】
しきりに首を傾げながら呟きました。
それじゃ小説のタイトルだよ、ジョージ(かどうか名前知りませんが)。
ん? IN——?
私はインカムを外して裏口を出ると、そのまま表口から店内へと足を踏み入れました。
もはや仕様がないでしょう、会話だけでは埒が明かないですから。
振り向いたジョージ(もう、仮で)が驚いて硬直しますが、私は構わず、両手を組んで彼の目の前に翳し、
「こんな、感じ、だた?」
顎を引き、目を寄せてじっと手を見詰めた彼は、
【Oh……ジャストライッ!】
「あんだって?」
私の両手を掴み、ボンバヘッドを激しく震わせました。
「IN」は、「印」では……?
おばちゃんが、彼の目の前で「印を結んで」見せたとしたら……。
その前提で「ノウ……」から私が導き出した(推測した)答えは。
『ノウボウ アキャシャキャラバヤオン…………ボリソワカ』
という真言(マントラ)です。
真言ちゅうのは、仏様の「真の」お言葉、だそうで。
人間には意味がわからないですよね。「君●代」の方がまだ理解できそう。
ちなみに、ネットで「幸せになる」系のマントラを検索するとエロエロ出て来ますが……。
先の「ノウボウ――」は、「虚空蔵菩薩」のマントラだそうです。
ざっくりとした説明を読む限り、「記憶力」が上がる系に見受けられますけど……。
目の前で暗唱してみせると、ジョージ(仮)は身じろぎもせず聞き入り、
【……ニテル……メイビー……】
やはり確信は持てないようです。
これを1日1万回×100日(計100万回)唱えるという修行法があるらしいです。
あらゆる経典を「瞬時に」理解して記憶することが出来るようになる――とか。
「必殺スピン回答」みたいなものでしょうか。※2
これが正解かは不明ですが、一応、ローマ字とカタカナで紙に書いて渡し、何度も繰り返し声に出して練習してみました。
流石に一万回は……。
☆☆☆
ついでに動画サイトもいくつか覗いてみました。
ひとしきり動画を眺めたジョージ(仮)。ちょっと引き気味でしたね。
妙な迫力ありましたから、動画。
紅潮した顔でほっと息を吐くと、目をクリっとさせて、まじまじと私の顔を眺めました。
「あ、女の人だ」って顔してますね。今更ですが。
【……サンクス、マリコ】
「マリコ違う、みゆき」
普通に名乗っちゃったよ。
【Oh……ミユキ、ユーアーマイエンジェル……】※3
某アニメ主題歌の歌詞みたいに呟くと、立ち上がって私の両手を握り締めました。
【アリガ……トゥ……】
なんで「トゥ」になっちゃうのか分かりませんが、目を潤ませて真っ直ぐにこちらを見詰めるジョージの小さな冒険は、(一応)終わりを告げたようです。
「ごっど・ぶれす・ゆー」
大きなカリフラワーのような黒いボンバヘッドが、ゆっくりと揺れながら外界へと消えて行ったのでございます。
彼曰く――最低限の意思疎通は可能でも、やはり母国語で会話出来ないのは結構な「ストレス」なのだと。
今後の事を考えると、私も英語を話せた方がいいでしょうか、お母さま。めんどいな。
……「転生した」らしいおばちゃん、何者だったのでしょう。
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※1 アニメ『伝説巨人イデオン』の主人公。イデオンのパイロット。
※2 漫画 『ギャルがライバル!』(集英社・前川K三)一巻より。
※3 アニメ『みゆき』OP『10%の雨予報』(H2O)より。