☆本話の作業用BGMは、『Get down』(野猿)でした。
 カラオケで歌ってみたら意外な高得点で。
 と●ねるずさんと番組スタッフのユニットですね。デビュー曲であります。
 テルりん(アクリル装飾担当)はいい声してました。アルバムでもソロ曲があったり……。
 今でも、多摩の「野猿街道」を走るたび、当たり前のように思い出します。

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 先般、晋三がやって来まして。まあしょっちゅう来るんですけど。
 表口脇の掲示板に写真を貼りつけやがったのですよ、お母さま。
 ヤツと彼女のツーショット写真です。何故か彼女はア●顔ダ●ルピース。
『僕たち・私たちは! 御苑が縁で付き合い始めました!』なんてわざわざ韻を踏んだひと言が添えられております。方便にしてもこれはどうかと思います。
 写真では二人共に目線が入っているので、ぱっと見は指名手配写真のような趣もあります。

「きっとお客さん増えますよ!」

 根拠の無い自信を振り撒きつつ、ヤツはお得意のスキップ(擬き)で去って行きました。

 眉唾モノではありますが、目にした兄様は気に入ったようなので、今もそのまま放置プレイ続行中です。へっ。
 折角なので、店内の説明書きと同じものを、写真の隣に貼ってみました。
 今更ですけどね。


☆☆☆


 陽が落ちてから来店されたのは、巫女装束姿の女性でした。
 赤い袴姿が脳の奥を刺激いたします。ひょっとして、矢●稲荷の関係者?

 ふと、美冬ちゃんは今でも週末、神社のバイトを続けていらっしゃるのだろうか……女子高の頃は制服で窓口に座っていたと仰ってましたが、今はどのようなお姿なのか……などとぼんやり考えているうち、巫女さんは既に目の前に座り、ボタン群を眺めていらっしゃいました。
 
 視線を落とした顔には何某かの憂いが感じられ、ボタンを見詰める視線は虚無の色が浮かんでおります。

 やがて押下したのは、『関係ないネッ!(なんとな~く~ク●スタル)』というボタン。
 なんとな~く……ああ、小説のタイトル―—確か映画化もされて、曲も……柴●の恭兵さんが歌ってらっしゃいましたね。

【こんばんは。お初にお目に掛かります】
「ようこそツイてない御苑へ。神社にお勤めで?」
【ああいえ、私のアバターが『大正む●め』というやつで、家にそれらしき衣装がなかったものですから】
「アバター?」
【とあるサイトで小説を投稿しているんです。未だにシステムがよく分からないんですが、そこのアバターです】
「ははあ、小説を。勿論ペンネームですよね、よろしければタイトルなど」

 あれ? じゃこれはコスプレでしょうか。ふうん。
 野生のラノベなら私でも読めるかもしれません。嗜好が合えばよいのですが。

 彼女、一瞬ピクンと反応し、微かに身を捩ります。

【ちょっと恥ずかしいな……晴子というPNで、『はる・この部屋♥』という小説擬きを……】
「『徹・子の部屋』みたい。パクリですか?」
【そ、そうですね。そうとも言います】

 テレテレモジモジ、身をくねらせるそのお姿に、何某かの違和感。
 細めた目の尾っぽに薄っすら小皺があるのを、私は見逃しませんでした。

【あの……この事は何とぞ、ご内密に……】
「左様で。でも、不特定多数の方に読んでいただくために投稿されているのでは?」
【いやまあ、結果的にはそうなっちゃうんですけど。クオリティは大したことないので……】

 じわじわ猫背に移行する巫女さん。

「今日はどうされたのですか?」

 問い掛けるとハッとなって、

【あのう……ある日投稿した話の中で、『なん●なくクリ●タル』という曲をネタにしたんです】
「関係ナイねッ!」
【くりそつ! 恭●さんその人です! わあ、感動……】
「で?」
【ああ! その、「なんとなく」「クリスタル」って、「く」「ク」って続くでしょ?】
「しょうがナイねッ!」
【いや仕様がないんですけど。続くのがくどいから、『なんとなくりすたる』でいいんじゃね? ってネタを……】
「なんでまたそんな無茶(?)を」
【昔から思ってたんです、ほんと意味はないんですけど……何度もネタにしてたら、一部クレームが――】
「言わんこっちゃナイねッ!」
【うう……。数件なんですけど、元々豆腐メンタルなもので、いっとき参っちゃって……】

 ここに至って、彼女は深~い溜息を吐き出しました。

【「お前のネタの方がクドいわ!」「『りすたる』てなんじゃい!」「アチチッ!」とかエロエロ――】
「最後の誰? GOさん?」
【今、心を整えるために、ちょっと更新を休んでいるんです。ひたすら仕事に集中してまして】
「お勤めされているのですか」
【お(つぼね)ですっ! ――ゲフン、OLです。いたって普通の】

 お局という役職があるのかと思っちゃいましたよ。
「いたって」のひと言に、なんぞ必死さが感じられます。

「関係ナイねッ!」
【……そんな何回も三回も……】
「万人受けする話を創るのは無理でしょう」
【……まあ、そうですよね。そりはわかってはいるのですが】
「創れちゃったら直木賞……の候補になっちゃいます」
【……はあ】
「プロを目指しているのならともかく……」
【あーそれは無理です】
「諦めないでッ!(※真矢みき風に!)」
【どうしたらイイんですか?!】


「創作を続ける理由——そもそも、どんな気持ちで書き始めました?」
【…………】
「よ~く思い出してごら~ん……」

 頭の中で「イマ●ン」が流れ出します。サンキュー、ジョン。
 ——て、そんな曲だったでしょうか。


【……楽しいんです。キーを叩いてる間じゅう、ずっと……】

 お局がポツリ漏らしました。

【下手は下手なりに……すっっごく、楽しいんです。「自由」な気持ちになって……】

 犬井ヒ●シみたいに? 「自由だあああ~」って?

 言葉とは裏腹に、彼女の目尻に涙が滲みます。

 涙を拭くんだ、お局……ティッシュは控え目でよろ。勿体ないからね(キリッ)。
 原材料高騰の折り……。

「ご自分のために、楽しくやりましょうよ。楽しくなくなったらやめてもいいのですから。もう●なんてしないなんて言わずに」

 一段首を傾けて、巫女さんはこくっとひとつ、頷いたのです。


☆☆☆

 
 頃合いと見た私は締めにかかり、

「では、ゴッド・ブレス――」
【もう一ついいですかっ?!】

 被せ気味に叫ぶお局。

「お、OKユージ」
【? ああ、『あ●刑事』ですね! ユージは恭兵さんですよ?】
「間違えた! OKタカ!」

 くっ、恥ず。

【私よく物真似するんですけど。あ、大体楽屋落ちネタです。この間、うちのボスの物真似を――】

 彼女のオフィスは、前と後ろに出入り口があるそうで。
 数日前——休憩時間に一服を終えた彼女が、後ろのドアからオフィスに戻りつつ、

【ボスのモノマネしながらドアを潜って――】
「どのような?」
【「ごくろごくろ」って、他愛のない口癖というか。みんな分かってる鉄板ネタで】
「それで?」
【言いながらオフィスに戻ったら、丁度、前のドアから「ごくろごくろ」ってボスが入ってきて】
「……」
【ハモっちゃったんです……】
「ハモっちゃったかぁ……」

 ひとしきり、職場に張り詰めた空気が漂ったそうで。

【きっとバレバレです。私、どうしたらいいんでしょうっっっ?!】
「謝れば? はい、ゴッド・ブレス・ユー」

 棒を飲み込んだような青い顔で目を剥いた彼女に、私は短いひと言で背中を押したのです。


 久々に「ツイてないな」と思いました。
 おしまい~・ける。