☆本話の作業用BGMは、『生まれ来る子供たちのために』(オフコース)でした。
オフコース、いっときハマッてました。小田さんの奇跡の高音……裏返るのもお構いなしで良く歌いました。主に布団の中で♥
高校の時、部活の送別会にて「さよなら」をアカペラで歌ったのは、黒い歴史か青春か……
引退・卒業する先輩方へ向けて、「もう……終わりだね♪」はないだろ、てなもんで。
曲のチョイスについては、思い出すだに悶えるほど後悔です。
ーーーーー
開店まもなく、店内を覗いた小さな顔を見て、私は思わずデコをぴしゃんと叩いたのであります。
やがておずおずと歩いてきて椅子に腰かけたそのお人、小学校高学年と思しき、男の子でした。
はいーただ働き決定(※中学生以下は初回無料を謳っているため)。
見覚えのあるジャージ。
「委員長」が確か、同じものを召していらしたことが……。
説明書きもろくに読むことなく、パッと押したボタンが『リアル峰●●子(※二代目)』。
これは……確かグラビア用語(?)と記憶しておりますが。違ったかな。
「二代目」……声優の二代目? というと増山さん? なのでしょうか。
【こんちは!】
「はい、こんにちは。ツイてない御苑へようこそ。学校帰りですか」
【うん。ちょっと遠回りだけど】
卓の下で、両足が忙しなく動きます。
少し猫背気味。広いおでこが艶々光っております。
【ほんとうだ。不●子ちゃ~んの声だ】
「というと、アニメの?」
【父ちゃんが昔のアニメ大好きで、よく一緒に観るんだ】
「左様で。不●子ちゃんが好きなの?」
【うん! パ●オツかいでーな女の人が好きなんだ。……内緒だぜ?】
口に指をあて、わざとらしくキョロつきます。ほっぺが少しだけ紅潮します。
パイ――お父様の言がうつった……と好意的に解釈しておきましょう。
「お●ぱい星人」というものは、こうして小さい頃から醸成されるものなのかもしれませんね。
「お父さん、ここへいらしたことが?」
【さあ? 聞いた事ない】
「どなたかのご紹介でしょうか」
【『シンユウ』がここ行ってみたら、って。何回か来た事あるんだってさ】
「……左様でございますか」
少年がやや顔を顰めて視線を落とします。
「シンユウ」ね……。
【んあ!】
「どうしました?」
【鼻ほじってもいい?】
「え。なんで? なんで、ってこともないか。……我慢してルパン♥」
【鼻ン中痒いんだもん】
「……小指で優しくお願いいたします」
【心得た!】
時代劇も一緒にご覧になるのでしょうか。
ここ(御苑)は、鼻を穿りたくなる何かがあるのですかね、お母さま。
あ、「鼻穿ってお母さま♥」という意味ではありませんよ?
☆☆☆
力加減を誤ったのか、男の子が鼻血を流したのですよ。優しくねってご忠告申し上げたのに。
今、ティッシュを詰め終わったようです。片方の小鼻がモッコリしております。
「今日はどうされたのですか」
彼はあほ顔(失礼)を上げ、口をパカッと開きました。
口で呼吸しているのか、ヒーハーという音が微かに聞こえます。
【……体育の授業、100メートル走だったんだ。整列すると一番前の小さいやつが――わりとドンくさいんだけど――めっちゃ遅いんだ。まあいつものことだけどさ】
なんとなく耳が痛い……。
「そう……」
【軽く揶揄ったら、先生がさ――『バッカもーん! 「一寸の虫にも五分の魂」だぞっ!』って言ったの】
「ははあ」
【あ! あと「バッカモーン! あいつがルパンだ! 追えー!」って言った!】
「嘘はいけない」
【うん、嘘。アハハ】
「それで?」
【……なんか鼻ン中痒い……】
「まだイッちゃダメッ!」
【我慢できないよぉ、中――】
「中はダメッ! ……ご、ごめんね、お薬とかゴムとか置いてないのココ」
ひとしきり、鼻を押したり引いたり落ち着かない様子でしたが、
【一寸て3センチ? 4センチ? くらい?】
「そうですね。そんなものでしょうか」
【五分って、五分五分の五分?】
「ええ、そうですね」
【体の半分が魂ってことでしょ?】
「……そう、ですかね」
【オレ、「魂でかくね?」って先生に言ったんだ。したら、みんなドッカーン! て……ややウケだったかな?】
「…………」
【……爆笑じゃなかったんだよなあ……】
俯いてぽっと溜息をつきます。
「……それでそれで?」
【ツイてないでしょ?】
――えーと……?
「一寸の虫にも……の意味はご存知でしたか?」
【知らなかった。そのあと先生が教えてくれた】
どんな小さな虫にも相応の魂がある――小さく弱い者でも、相当の思慮や意地を持っているのだから、小さいからといって馬鹿にしてはいけない――という意味合いだそうです。
検索してみますと、「字面からすると『魂は身体の半分』となり、魂の大きさを強調する表現となっている」とも記載があります。
趣旨としては「馬鹿にしちゃいかん」でしょうが、
「あなたの感想は、あながち的外れでもないようですね」
【え、ホント?!……そうなんだ……。「シンユウ」が言ったんだ。「ほんとだ。魂ってデカいんだね!」って。アイツだけだよ、そう言ったの。みんなバカにしたけどさ】
「左様ですか。その子は意味を全て理解していたのでしょうか」
【多分わかってたんだね。そっか……アイツ頭いいけど偉そうにしないし、誰かを馬鹿にしたり悪口言ったりしないんだ。かっけーだろ? アイツがここに行ったらって言って……】
……なるほど。わかってきましたゾ。
【わわっ?! ティッシュ真っ赤っか! 交換交換♪】
鼻に詰めたティッシュを抜き取りテンション上げたあと、新たに丸めて詰め直しております。
鼻歌混じりですよ。
血を見ても特に慌てる様子がありません。強い子ですね。
ここに来る必要があったのかなかったのか……。
「お話は以上ですか?」
【うん。以下でもないよ?】
片方の鼻の穴から、荒い空気が勢いよく飛び出しました。
「ゴッド・ブレス・ユー」
――お代をお返しすると、嬉しそうにダッシュで店を後にしたのでございます。
☆☆☆
店じまい寸前に、裏口から爽太くんがやって来ました。
明日から道場の合宿が催されるので、彼は前乗りで寺へ泊まり込むことになっております。
そう、今日は家まで一緒に帰るのです。
「恋人繋ぎ」しても、いいかな? いいともぉー! テーレッテーレッテッテッテレ~……
挨拶もそこそこに少年は私の胸に飛び込み、熱いハグ(?)を交わします。
――愛いやつめぇ。
「ああ。今日、男の子がいらっしゃいましたよ。『シンユウ』に勧められたそうで」
爽太くんは顔を上げると、微笑を向けます。
「来ましたか。彼は素直な人なんです。意外と繊細なところがあるので、神幸さんにフォローしてもらおうと思って」
「左様でしたか」
「口コミでココの評判が広まって繁盛するかもですし」
にぱっと笑うご尊顔が尊い……。もうもうもうっ!
「小学生は初回無料なんですけどね」
「あっ?! そ、そうでした。失念してました。……小学生のお客さんが増えてもアレですよね……」
軽く項垂れる彼に、
「いえいえ。お心遣いがとても嬉しいです。ありがとうございます。さすがは未来の夫です」
本心からそう申し上げますと、再び顔を上げた彼は秒で真っ赤になり、
「精進いたします。先は長いですけど、待っていてください!」
今更ですけど。
知り合った頃は、爽太くんの美しい旋毛がいつも眼下にありましたのに、今は少し見えづらくなってしまいましたね……。
光陰矢の如し、ということでしょうか。
――お待ち申し上げるのは仕様がないことなのですけど……私の体が我慢できるかとても心配なのですよ、お母さま……。
外へ出て希望どおりチョメチョメ繋ぎをしたところで、爽太くんがこちらを見上げてひと言。
「あ、あの、神幸さん……」
「はい! なんでしょう♪」
「……鼻血が……」
台無し……ぎゃふん!
オフコース、いっときハマッてました。小田さんの奇跡の高音……裏返るのもお構いなしで良く歌いました。主に布団の中で♥
高校の時、部活の送別会にて「さよなら」をアカペラで歌ったのは、黒い歴史か青春か……
引退・卒業する先輩方へ向けて、「もう……終わりだね♪」はないだろ、てなもんで。
曲のチョイスについては、思い出すだに悶えるほど後悔です。
ーーーーー
開店まもなく、店内を覗いた小さな顔を見て、私は思わずデコをぴしゃんと叩いたのであります。
やがておずおずと歩いてきて椅子に腰かけたそのお人、小学校高学年と思しき、男の子でした。
はいーただ働き決定(※中学生以下は初回無料を謳っているため)。
見覚えのあるジャージ。
「委員長」が確か、同じものを召していらしたことが……。
説明書きもろくに読むことなく、パッと押したボタンが『リアル峰●●子(※二代目)』。
これは……確かグラビア用語(?)と記憶しておりますが。違ったかな。
「二代目」……声優の二代目? というと増山さん? なのでしょうか。
【こんちは!】
「はい、こんにちは。ツイてない御苑へようこそ。学校帰りですか」
【うん。ちょっと遠回りだけど】
卓の下で、両足が忙しなく動きます。
少し猫背気味。広いおでこが艶々光っております。
【ほんとうだ。不●子ちゃ~んの声だ】
「というと、アニメの?」
【父ちゃんが昔のアニメ大好きで、よく一緒に観るんだ】
「左様で。不●子ちゃんが好きなの?」
【うん! パ●オツかいでーな女の人が好きなんだ。……内緒だぜ?】
口に指をあて、わざとらしくキョロつきます。ほっぺが少しだけ紅潮します。
パイ――お父様の言がうつった……と好意的に解釈しておきましょう。
「お●ぱい星人」というものは、こうして小さい頃から醸成されるものなのかもしれませんね。
「お父さん、ここへいらしたことが?」
【さあ? 聞いた事ない】
「どなたかのご紹介でしょうか」
【『シンユウ』がここ行ってみたら、って。何回か来た事あるんだってさ】
「……左様でございますか」
少年がやや顔を顰めて視線を落とします。
「シンユウ」ね……。
【んあ!】
「どうしました?」
【鼻ほじってもいい?】
「え。なんで? なんで、ってこともないか。……我慢してルパン♥」
【鼻ン中痒いんだもん】
「……小指で優しくお願いいたします」
【心得た!】
時代劇も一緒にご覧になるのでしょうか。
ここ(御苑)は、鼻を穿りたくなる何かがあるのですかね、お母さま。
あ、「鼻穿ってお母さま♥」という意味ではありませんよ?
☆☆☆
力加減を誤ったのか、男の子が鼻血を流したのですよ。優しくねってご忠告申し上げたのに。
今、ティッシュを詰め終わったようです。片方の小鼻がモッコリしております。
「今日はどうされたのですか」
彼はあほ顔(失礼)を上げ、口をパカッと開きました。
口で呼吸しているのか、ヒーハーという音が微かに聞こえます。
【……体育の授業、100メートル走だったんだ。整列すると一番前の小さいやつが――わりとドンくさいんだけど――めっちゃ遅いんだ。まあいつものことだけどさ】
なんとなく耳が痛い……。
「そう……」
【軽く揶揄ったら、先生がさ――『バッカもーん! 「一寸の虫にも五分の魂」だぞっ!』って言ったの】
「ははあ」
【あ! あと「バッカモーン! あいつがルパンだ! 追えー!」って言った!】
「嘘はいけない」
【うん、嘘。アハハ】
「それで?」
【……なんか鼻ン中痒い……】
「まだイッちゃダメッ!」
【我慢できないよぉ、中――】
「中はダメッ! ……ご、ごめんね、お薬とかゴムとか置いてないのココ」
ひとしきり、鼻を押したり引いたり落ち着かない様子でしたが、
【一寸て3センチ? 4センチ? くらい?】
「そうですね。そんなものでしょうか」
【五分って、五分五分の五分?】
「ええ、そうですね」
【体の半分が魂ってことでしょ?】
「……そう、ですかね」
【オレ、「魂でかくね?」って先生に言ったんだ。したら、みんなドッカーン! て……ややウケだったかな?】
「…………」
【……爆笑じゃなかったんだよなあ……】
俯いてぽっと溜息をつきます。
「……それでそれで?」
【ツイてないでしょ?】
――えーと……?
「一寸の虫にも……の意味はご存知でしたか?」
【知らなかった。そのあと先生が教えてくれた】
どんな小さな虫にも相応の魂がある――小さく弱い者でも、相当の思慮や意地を持っているのだから、小さいからといって馬鹿にしてはいけない――という意味合いだそうです。
検索してみますと、「字面からすると『魂は身体の半分』となり、魂の大きさを強調する表現となっている」とも記載があります。
趣旨としては「馬鹿にしちゃいかん」でしょうが、
「あなたの感想は、あながち的外れでもないようですね」
【え、ホント?!……そうなんだ……。「シンユウ」が言ったんだ。「ほんとだ。魂ってデカいんだね!」って。アイツだけだよ、そう言ったの。みんなバカにしたけどさ】
「左様ですか。その子は意味を全て理解していたのでしょうか」
【多分わかってたんだね。そっか……アイツ頭いいけど偉そうにしないし、誰かを馬鹿にしたり悪口言ったりしないんだ。かっけーだろ? アイツがここに行ったらって言って……】
……なるほど。わかってきましたゾ。
【わわっ?! ティッシュ真っ赤っか! 交換交換♪】
鼻に詰めたティッシュを抜き取りテンション上げたあと、新たに丸めて詰め直しております。
鼻歌混じりですよ。
血を見ても特に慌てる様子がありません。強い子ですね。
ここに来る必要があったのかなかったのか……。
「お話は以上ですか?」
【うん。以下でもないよ?】
片方の鼻の穴から、荒い空気が勢いよく飛び出しました。
「ゴッド・ブレス・ユー」
――お代をお返しすると、嬉しそうにダッシュで店を後にしたのでございます。
☆☆☆
店じまい寸前に、裏口から爽太くんがやって来ました。
明日から道場の合宿が催されるので、彼は前乗りで寺へ泊まり込むことになっております。
そう、今日は家まで一緒に帰るのです。
「恋人繋ぎ」しても、いいかな? いいともぉー! テーレッテーレッテッテッテレ~……
挨拶もそこそこに少年は私の胸に飛び込み、熱いハグ(?)を交わします。
――愛いやつめぇ。
「ああ。今日、男の子がいらっしゃいましたよ。『シンユウ』に勧められたそうで」
爽太くんは顔を上げると、微笑を向けます。
「来ましたか。彼は素直な人なんです。意外と繊細なところがあるので、神幸さんにフォローしてもらおうと思って」
「左様でしたか」
「口コミでココの評判が広まって繁盛するかもですし」
にぱっと笑うご尊顔が尊い……。もうもうもうっ!
「小学生は初回無料なんですけどね」
「あっ?! そ、そうでした。失念してました。……小学生のお客さんが増えてもアレですよね……」
軽く項垂れる彼に、
「いえいえ。お心遣いがとても嬉しいです。ありがとうございます。さすがは未来の夫です」
本心からそう申し上げますと、再び顔を上げた彼は秒で真っ赤になり、
「精進いたします。先は長いですけど、待っていてください!」
今更ですけど。
知り合った頃は、爽太くんの美しい旋毛がいつも眼下にありましたのに、今は少し見えづらくなってしまいましたね……。
光陰矢の如し、ということでしょうか。
――お待ち申し上げるのは仕様がないことなのですけど……私の体が我慢できるかとても心配なのですよ、お母さま……。
外へ出て希望どおりチョメチョメ繋ぎをしたところで、爽太くんがこちらを見上げてひと言。
「あ、あの、神幸さん……」
「はい! なんでしょう♪」
「……鼻血が……」
台無し……ぎゃふん!