☆本日の作業用BGMは、ついに来た!『ナンダカンダ』(藤井隆)でした。
夜明けに聞くと妙に爽快で元気出ます。とても丁寧に歌ってらっしゃいます。MV楽しい。
夜明けといえば『二人のアカボシ』(キンモクセイ)も。定番ソングであります。
ーーーーーー
しばれる毎日が続いております。
そんな中でも、開店早々お客さんです。
否、晋三でした。生意気に真っ赤なマフラーなぞ巻き付けております。
左脚を引き摺るようにして、妙なリズムで歩いてきます。
さっと椅子に腰かけるとボタン群を眺め、『がっかりすんな神宮寺!(バレンタインに死を)』というボタンを押しました。
「……お主、意外と古いマンガ知ってるな」
【こんにちは! 僕はドラマですね。「保険○窓口」でしたっけ?】
「『保健室のおば○ん』な。保険の相見積もりしてどうする。……足、ケガしてるのか?」
【いえ? 何か変でした?】
「いや、足引き摺ってたから」
【……スキップのつもりだったんですけど】
へえぇ、あれがスキップ……。
栄養失調の人が無理矢理早歩きしているみたいでしたが。
私はわざとらしく、殊更大きな溜息を零すと、
「勉強はいいのか少年」
【それどころじゃないですよ先生!】
「先生違う。少佐と呼べ」
【し……それは赤い○星ですか、攻殻の――】
「攻殻の方で。……何があった?」
少年は心持ち胸を張り、ラッピングされた小さな包みをテーブルに置きました。
鼻歌混じり、「じゃじゃーん」と小さく囁いたようです。
「私に貢ぎ物か? 殊勝な心掛けだな」
【いや、これはですね……多分チョコなんです!】
「多分?」
晋三は猫でも愛でるように、包みをとぅるんと撫でました――やらしい手つきで。
☆☆☆
聖なる日――晋三の下駄箱に入っていたそうです。
メッセージも贈り主の名も無く。
「下駄箱にチョコ」という憧れのシチュエーションに悶えた晋三も、感動の一方、得体の知れないモノを口にするのを躊躇い――未だ手を付けていないのだそうです。
「大事にしすぎだろ。もう転生してるぞ」
【え? 大丈夫でしょう?】
晋三なりに、今日までエロエロ探索したものの――結局贈り主は判明せず。
【……一体、誰なんだと思います?】
「知るか。どうでもいいだろ、女だろうが男だろうが」
【女の子じゃないと嫌ですよ】
「嘘を言うな。本心は?」
【女の子で!】
モジモジすんなって――所詮晋三だろ?
「どうせイタズラだろうけどな」
【相変わらずの塩っ辛い平常運転。何故いつも僕の心が乾くような対応をされるんです?】
「は? 『お前』のためを思うて無理しとるんじゃないの。ご褒美だろ?」
晋三がビクッと反応します。
【ふ、ふふふ。そんな事言っていいんですか? 僕は分かっっちゃったんですよ、あなたの正体が!】
「(ぎくり)な、なにおぉぉ、ちょこざいな、の○太のくせに」
【ズバリ! 雅子さん(※寺の賄い)でしょう!】
「丸○クンかよ。なんで賄いさんか」
【こんな時間に手の空いているお寺の関係者……彼女しかおりません!】
「こんな時間にここで油を売ってるんじゃ、誰がメシ作るんだよ(私は油売りだったのか)」
【はっ?! そうか】
「少しは脳味噌活性化させてみろ」
【ぐぬ……じゃあ綾女ちゃんに千点!】
「は○たいらさんに二千点じゃっ!」
【つ、強い!】
「綾女に部活させてやれよ」
【そ、それもそうですね】
しょんぼり俯きます。
……今更ながら、なんでマフラー、真っ赤なヤツをチョイスしたんかな、コイツ。
「まったく……世の中阿呆ばっかりだな」
ふっと瘧を漏らした私の前で、晋三が何故か神妙な顔で考え込んでいます。
☆☆☆
明けて月曜。
暮れ六ツ(午後六時)寸前、晋三がやって来ました。
あの妙なスキップ擬きで。
「病院行った方がいいぞ? それをスキップだと言い張るんなら、川○裕美さんの立つ瀬がないだろうが」
【それどころじゃないですよ少佐! 判明したんです!】
「………………ナニが?」
【チョコですよ!】
「ん? ……おお、そんな事言ってたなそういえば」
【少しは興味を持ってくださいよ。で、アレ、下駄箱を間違えたそうです。犯人は他高の女の子でした!】
何故か上気した顔で、晋三が捲くし立てます。
本日午後の授業をサボタージュして早退した晋三が下駄箱までやって来ると――。
【下駄箱の前で、不知火型の横綱土俵入りを繰り返している金髪ギャルがいまして】
また不知火型? まさか流行ってんの? 私が火付け役?!
女の子のオーラに慄いた晋三は、邪魔しないように回り込んで下駄箱を開け、靴を取り出したところで、ジリジリ迫り上がるギャルに声を掛けられたのだとか。
【バレンタイン当日、彼女学校サボってウチの下駄箱にチョコを入れに来たそうです。ただ、本命は僕の隣だったみたいで……今日、初めて間違いに気が付いた、と】
一連の事情を知り、ギャルはがっかりしたそうですが。
突然、彼女が晋三の真っ赤なマフラーをガッと掴み、
【「とりまアタシと付き合おうぜい!」って言い出して】
「なしてそうなる」
【朝に見た占いで、ラッキーカラーが「赤」、ラッキーポーズが「不知火型」、ラッキーアクションが「告白」だったそうです。奇跡的に全て一致したので、「ヤバたん。こりゃ運命じぇね?」って】
「偏った占いだな。そんなんでいいのか?」
【顔をどうこう言うのはアレかとは思うんですが、めちゃ可愛い娘だったんで】
「お前ぇ……ハゲはどうすんだ」
【ああ……暮れにここでアドヴァイス頂いて、割と吹っ切れたと言いますか。折角なので、「今」は高校生らしい青春を送ってみようかな、と】
晋三とギャルはつい先刻までマ○クで談笑していたそうです。
(ギャルは「マ○ドやろ?」と訂正を求めたそうですが)
「軽いな、ギャル。付き合うんか?」
【これも縁かなと思って。話してみると、想像していたより可愛らしい子でしたし。ギャルが魔女みたいな長い爪でお菓子作るの、めちゃ萌えません?(※多分個人の感想かと) 貰ったチョコも凝っていて超美味しかったです】
「喰ったんかよ。腐敗したチョコ」
【腐ってはいませんでしたよ? 彼女の目の前でいただきました】
――そんな大事に取って置いてたんだ……。
と、ギャルは感極まって(※ある種の勘違い)ポロポロ涙を零したそうです。
(この件は晋三が「盛って」いる可能性があります)
「ふーん……ザ・両刀遣いだなあ」
【きっぱり否定します!】
モニタに向き直った晋三が、ふっと微かに笑みを浮かべます。
【……今まで沢山話を聞いてもらったのが今日に繋がったんだと思います。ありがとう、×××ちゃん】
「は? なんですと?」
【×××ちゃんだったんですね。やっと分かりました】
「……何のことやら」
【この間、「世の中阿呆ばっかりだな」って言ったでしょ? あれ、小さい頃よく×××ちゃん口にしてたなあって、思い出したんです】
「………………」
【大丈夫、この事は僕の胸に仕舞っておきます。お仕事上、いろいろ塩梅もよくないでしょうから】
「………………」
【ここは、大切な場所になっちゃったんです。続けてもらいたいんです】
晋三のくせに……そんな可愛いらしい照れ笑いはよせ。
【また、ちょいちょい愚痴を零しに来ます。ではっ!】
晋三はニッコリ微笑むと、また不思議なステップを踏みながら、元気よく店を後にいたしました。
「ふん。晋三め。ゴッド――南無釈迦牟尼仏……」
不覚……。
私、あんな傲慢な事言ってたんだ、ガキの頃から……。アイツもよく覚えてるな。
結局私は、小さい頃からナニも変わっていないのですかね、お母さま。
これでも仮面の一つ二つは手に入れたかと思っておりましたが。
人間て、いつまで経っても、本質的には変わらない生き物なのでしょうか……。
――まあ、今度は上手く行くといいな、晋三。
夜明けに聞くと妙に爽快で元気出ます。とても丁寧に歌ってらっしゃいます。MV楽しい。
夜明けといえば『二人のアカボシ』(キンモクセイ)も。定番ソングであります。
ーーーーーー
しばれる毎日が続いております。
そんな中でも、開店早々お客さんです。
否、晋三でした。生意気に真っ赤なマフラーなぞ巻き付けております。
左脚を引き摺るようにして、妙なリズムで歩いてきます。
さっと椅子に腰かけるとボタン群を眺め、『がっかりすんな神宮寺!(バレンタインに死を)』というボタンを押しました。
「……お主、意外と古いマンガ知ってるな」
【こんにちは! 僕はドラマですね。「保険○窓口」でしたっけ?】
「『保健室のおば○ん』な。保険の相見積もりしてどうする。……足、ケガしてるのか?」
【いえ? 何か変でした?】
「いや、足引き摺ってたから」
【……スキップのつもりだったんですけど】
へえぇ、あれがスキップ……。
栄養失調の人が無理矢理早歩きしているみたいでしたが。
私はわざとらしく、殊更大きな溜息を零すと、
「勉強はいいのか少年」
【それどころじゃないですよ先生!】
「先生違う。少佐と呼べ」
【し……それは赤い○星ですか、攻殻の――】
「攻殻の方で。……何があった?」
少年は心持ち胸を張り、ラッピングされた小さな包みをテーブルに置きました。
鼻歌混じり、「じゃじゃーん」と小さく囁いたようです。
「私に貢ぎ物か? 殊勝な心掛けだな」
【いや、これはですね……多分チョコなんです!】
「多分?」
晋三は猫でも愛でるように、包みをとぅるんと撫でました――やらしい手つきで。
☆☆☆
聖なる日――晋三の下駄箱に入っていたそうです。
メッセージも贈り主の名も無く。
「下駄箱にチョコ」という憧れのシチュエーションに悶えた晋三も、感動の一方、得体の知れないモノを口にするのを躊躇い――未だ手を付けていないのだそうです。
「大事にしすぎだろ。もう転生してるぞ」
【え? 大丈夫でしょう?】
晋三なりに、今日までエロエロ探索したものの――結局贈り主は判明せず。
【……一体、誰なんだと思います?】
「知るか。どうでもいいだろ、女だろうが男だろうが」
【女の子じゃないと嫌ですよ】
「嘘を言うな。本心は?」
【女の子で!】
モジモジすんなって――所詮晋三だろ?
「どうせイタズラだろうけどな」
【相変わらずの塩っ辛い平常運転。何故いつも僕の心が乾くような対応をされるんです?】
「は? 『お前』のためを思うて無理しとるんじゃないの。ご褒美だろ?」
晋三がビクッと反応します。
【ふ、ふふふ。そんな事言っていいんですか? 僕は分かっっちゃったんですよ、あなたの正体が!】
「(ぎくり)な、なにおぉぉ、ちょこざいな、の○太のくせに」
【ズバリ! 雅子さん(※寺の賄い)でしょう!】
「丸○クンかよ。なんで賄いさんか」
【こんな時間に手の空いているお寺の関係者……彼女しかおりません!】
「こんな時間にここで油を売ってるんじゃ、誰がメシ作るんだよ(私は油売りだったのか)」
【はっ?! そうか】
「少しは脳味噌活性化させてみろ」
【ぐぬ……じゃあ綾女ちゃんに千点!】
「は○たいらさんに二千点じゃっ!」
【つ、強い!】
「綾女に部活させてやれよ」
【そ、それもそうですね】
しょんぼり俯きます。
……今更ながら、なんでマフラー、真っ赤なヤツをチョイスしたんかな、コイツ。
「まったく……世の中阿呆ばっかりだな」
ふっと瘧を漏らした私の前で、晋三が何故か神妙な顔で考え込んでいます。
☆☆☆
明けて月曜。
暮れ六ツ(午後六時)寸前、晋三がやって来ました。
あの妙なスキップ擬きで。
「病院行った方がいいぞ? それをスキップだと言い張るんなら、川○裕美さんの立つ瀬がないだろうが」
【それどころじゃないですよ少佐! 判明したんです!】
「………………ナニが?」
【チョコですよ!】
「ん? ……おお、そんな事言ってたなそういえば」
【少しは興味を持ってくださいよ。で、アレ、下駄箱を間違えたそうです。犯人は他高の女の子でした!】
何故か上気した顔で、晋三が捲くし立てます。
本日午後の授業をサボタージュして早退した晋三が下駄箱までやって来ると――。
【下駄箱の前で、不知火型の横綱土俵入りを繰り返している金髪ギャルがいまして】
また不知火型? まさか流行ってんの? 私が火付け役?!
女の子のオーラに慄いた晋三は、邪魔しないように回り込んで下駄箱を開け、靴を取り出したところで、ジリジリ迫り上がるギャルに声を掛けられたのだとか。
【バレンタイン当日、彼女学校サボってウチの下駄箱にチョコを入れに来たそうです。ただ、本命は僕の隣だったみたいで……今日、初めて間違いに気が付いた、と】
一連の事情を知り、ギャルはがっかりしたそうですが。
突然、彼女が晋三の真っ赤なマフラーをガッと掴み、
【「とりまアタシと付き合おうぜい!」って言い出して】
「なしてそうなる」
【朝に見た占いで、ラッキーカラーが「赤」、ラッキーポーズが「不知火型」、ラッキーアクションが「告白」だったそうです。奇跡的に全て一致したので、「ヤバたん。こりゃ運命じぇね?」って】
「偏った占いだな。そんなんでいいのか?」
【顔をどうこう言うのはアレかとは思うんですが、めちゃ可愛い娘だったんで】
「お前ぇ……ハゲはどうすんだ」
【ああ……暮れにここでアドヴァイス頂いて、割と吹っ切れたと言いますか。折角なので、「今」は高校生らしい青春を送ってみようかな、と】
晋三とギャルはつい先刻までマ○クで談笑していたそうです。
(ギャルは「マ○ドやろ?」と訂正を求めたそうですが)
「軽いな、ギャル。付き合うんか?」
【これも縁かなと思って。話してみると、想像していたより可愛らしい子でしたし。ギャルが魔女みたいな長い爪でお菓子作るの、めちゃ萌えません?(※多分個人の感想かと) 貰ったチョコも凝っていて超美味しかったです】
「喰ったんかよ。腐敗したチョコ」
【腐ってはいませんでしたよ? 彼女の目の前でいただきました】
――そんな大事に取って置いてたんだ……。
と、ギャルは感極まって(※ある種の勘違い)ポロポロ涙を零したそうです。
(この件は晋三が「盛って」いる可能性があります)
「ふーん……ザ・両刀遣いだなあ」
【きっぱり否定します!】
モニタに向き直った晋三が、ふっと微かに笑みを浮かべます。
【……今まで沢山話を聞いてもらったのが今日に繋がったんだと思います。ありがとう、×××ちゃん】
「は? なんですと?」
【×××ちゃんだったんですね。やっと分かりました】
「……何のことやら」
【この間、「世の中阿呆ばっかりだな」って言ったでしょ? あれ、小さい頃よく×××ちゃん口にしてたなあって、思い出したんです】
「………………」
【大丈夫、この事は僕の胸に仕舞っておきます。お仕事上、いろいろ塩梅もよくないでしょうから】
「………………」
【ここは、大切な場所になっちゃったんです。続けてもらいたいんです】
晋三のくせに……そんな可愛いらしい照れ笑いはよせ。
【また、ちょいちょい愚痴を零しに来ます。ではっ!】
晋三はニッコリ微笑むと、また不思議なステップを踏みながら、元気よく店を後にいたしました。
「ふん。晋三め。ゴッド――南無釈迦牟尼仏……」
不覚……。
私、あんな傲慢な事言ってたんだ、ガキの頃から……。アイツもよく覚えてるな。
結局私は、小さい頃からナニも変わっていないのですかね、お母さま。
これでも仮面の一つ二つは手に入れたかと思っておりましたが。
人間て、いつまで経っても、本質的には変わらない生き物なのでしょうか……。
――まあ、今度は上手く行くといいな、晋三。