☆本日の作業用BGMは『TRUTH』 (T-SQUARE) でした。テンション上がります。
ーーーーーー
正月気分も大分落ち着いてまいりましたよ、お母さま。仄かに寂しい……。
そうそう、先日、兄様からお年玉を頂戴いたしました。
三が日も過ぎていましたが、忘れた頃唐突に、
「金杯当たったから!」
ホクホク顔で私と綾女にポチ袋を。
本年一発目の中央競馬「金杯」にて、中山競馬場(千葉)のメインでしこたま儲けたらしいです。
「中山の芝二千には自信がある」そうで。
当たらなかったら、
『母さん……私たちのあのお年玉、どうしたんでせうね?』
となるところでした。
詳しくはツッコまず、ひったくるようにして有り難くいただきましたが。
馬券に左右されるお年玉の命運について、お母さまは何とお思いになりますか?
☆☆☆
夕方七つ半(午後五時頃)に来店したお客さんは、スーツ姿の若い男性でした。
椅子に腰掛けた、短く刈り揃えた黒髪のその男性は、見覚えのある方です。
説明書きを見ることも無く押下したボタンは、『ナンデモないような事が幸せだったんダナ』というものでした。
関係ありませんが、「光生」というハゲの得度前の名は「みつお」です。だからナンダという話ですが。
私はすぐ様、引き出しを開けハーモニカを取り出します。
【こんばんは。ご無沙汰です】
「プワーパパーピュルピュル~」
【……♪ ちょうど○年前にぃ~……って、客がこれ歌う仕様なんですかね?】
「そこはご自由に。お歌いになるなら、是非最終章までお願いいたします」
【何章まであるかも分からんのですが……】
「あらためまして、ツイてない御苑へようこそ。今日はスーツなのですね。お休みですか?」
あの宅配の兄やんです。
【あ、この間の方です?! ド○ンジョ様ッ!!】
「私は違います。あの人は臨時のお助け要員で、もうここに来ることはないのですよ」
【そ、そうなんですか……】
カクンと頭を垂れます。
兄やん、よく考えろ。あんなハレンチな格好したお助けマンが居るかよ。
【……今日はデートに誘うつもりで……。俺、一目ぼれだったんですよ】
「あのう、ここは恋愛相談所ではナイのですよ残念ながら。……蛇足ですが、彼女結構オバサンですよ?」
【そんな事ねえっす! 膝とか肘とかテカって無かったっす!】
あんな僅かな時間で……変態でしょうか。
「変態ですか?」
普通に漏れておりました。
【否定は出来ねえっす!】
「潔いっ!」
【俺、ドロ○ジョ様が初恋で……あんな美しい女が悪者だなんて――タ○ノコプロ最高でーす!】
「ほう、二次元が初恋ですか。あ、タツ○コプロの件は激しく同意です」
【憧れの人がいきなり目の前に現れたんで、「これは運命?!」って動揺しちまって……】
「……なるほど左様な設定(?)が……」
それは罪な事をしてしまいましたね。出来心(?)とはいえ、心からお詫び申し上げます。
【ドライブデートにお誘いしようと……】
「車お好きなのですね。お仕事も車で」
【免許取ってすぐ峠へ繰り出しましたからね。頭文字がDらー言う(ディーラー?)漫画が大好きで、憧れてましたから】(※正しくはドリフトの『D』だそうです)
「左様ですか」
【初っ端はノーマル仕様でブッ飛ばして涅槃に行きそうになったらー】
ああ、ふっつーに出ましたね、「らー」が。
ご本人自覚がないのでしょうか、中空に飛ばす視線はきらっきら輝いております。
【中古のワンダーシ○ック買って、週末の度に峠へと繰り出しました】
「ああ、そういう――系のマンガなのですか」
【段々と装備も弄り出して……主人公の家が豆腐屋なんですけど、商い絡みで毎朝峠を往復してるんです(※中坊の頃から無免で)。で、親父が毎度出発前に、紙コップに水入れてカップホルダーに置くんですよ】
「……?」
【その水を零さないように車を転がさないといけねんす。修行っす】
「え……可能なんですか?」
【まあマンガですから。それが出来りゃ(峠の走り屋として)一人前っつー】
「あー……(察し)」
【オイラ真似してやってみたら、毎度毎度車内が水浸しだらー! あんなん出来っこねーらー!】
チャレンジャーですね。一度で気が付きましょうね。
「まあマンガですから」って言ったよな? な?
「今もそのお車に?」
【そうっす。ドライブデートはオイラのワンダーシビ○クっす】
——私は想像いたしました。
にっこにこ顔で運転席に収まる彼。助手席には憧れのドロ○ジョ様。
時折見つめ合う二人——ソッコーでビショ濡れです。ばっしゃーん。
「逢引きのたんびに風邪を引く二人……」
【デートのたんびに紙コップ乗っけねえらーっ!】
彼がダンダンッと地団駄を踏みます。
喧嘩はやめてくださいよ(床と)?
「残念ですね。彼女、結婚するそうです(※最短で八年後)」
真顔になった彼の顔から表情が落ち、視線が陰りました。
【……さ、左様だらー……】
「さよ――もうお帰りですか? ゴッド・ブレス・ユー」
【「さようならー」じゃねーらーっ! まだ5分も語ってねーらーっ!】
途端、顔を真っ赤にしてバンバン机を叩きました。
ああ、ねーらーねーらー喧しいですねえ……。
☆☆☆
【……イイ人がいらっしゃったんですね。そりゃそうですよね……】
顔を天井に向けて、彼が呟きました。
「上○向○て○○う」という感じです。伏字が多すぎる? ごもっとも。
【……上を◯~いて あ~る……】
まんま歌い出しました。辛うじて「零れて」はおりません。
【……俺、近い将来、赤○で独立しようと思ってるんす。それまで佐○で金貯めようと……】
「それはデッカイ野望でござんすね。佐○は激務でもお金は貯まると聞きます」
【嫁さんと二人三脚で……夢だなあ……】
「ド○ンジョ様と一緒に、というお積りだったのですか?」
【流石にあの格好で助手席には乗せられねっす】
「一日中あの格好なのですか? そりゃありえんてぃ」
「らー」が影を潜めました。彼は大きく深呼吸すると、俯いて寂しげな笑みを浮かべます。
「『らー』はお仕舞いですか?」
【鬱陶しいでしょ? 多分、女の子にも引かれちゃいますよ】
なんだ。コントロール可能でしたか。
意外と、合コンなどでは「武器」になるかもしれません。合コン自体よく知りませんが。
暖房の効いた店内でも、彼の周囲だけなんとなく秋に戻ったような空気が取り巻いております。
青白い顔を眺めているうち、よく考えないで言葉が漏れてしまいました。
「……ドロ○ジョ様が初恋……SMくらぶなら、沢山在籍していそうですね……」
彼がゆっくりと顔を上げて、キョトンとなります。
【……SMクラブ?】
「え、ええ。『女王様』が多数生息しているという噂のダンジョン……」
――沈思黙考を始めました。
眉毛が西郷○彦さんのようにキリッと整い、目が強い光を帯びています。
むむ。迂闊なひと言だったか、も。
「ダンジョン」と聞けば攻略せんとするのが「冒険者」の性なのに……。
突然立ち上がった彼は、
【――ありがとうございました。彼女に会う事があったら、伝えてください】
「え、えと、ナンと……」
【お幸せに、って】
ニッコリ笑ったその口端から、きらんと光る犬歯が覗きます。
「あ、ありがとうございます。きっと伝えますゴッド・ブレス・ユー……」
☆☆☆
思い付きで妙な入れ知恵を……彼が去ったあと、椅子に深く腰掛けた私の口から、後悔のドス黒い溜め息が漏れました。
まさか、とは思いますが――彼、嵌ったりしないですよね。
SかMかも分からないのに……。え、そこじゃない?
そこ大事ですよね? お母さま。
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正月気分も大分落ち着いてまいりましたよ、お母さま。仄かに寂しい……。
そうそう、先日、兄様からお年玉を頂戴いたしました。
三が日も過ぎていましたが、忘れた頃唐突に、
「金杯当たったから!」
ホクホク顔で私と綾女にポチ袋を。
本年一発目の中央競馬「金杯」にて、中山競馬場(千葉)のメインでしこたま儲けたらしいです。
「中山の芝二千には自信がある」そうで。
当たらなかったら、
『母さん……私たちのあのお年玉、どうしたんでせうね?』
となるところでした。
詳しくはツッコまず、ひったくるようにして有り難くいただきましたが。
馬券に左右されるお年玉の命運について、お母さまは何とお思いになりますか?
☆☆☆
夕方七つ半(午後五時頃)に来店したお客さんは、スーツ姿の若い男性でした。
椅子に腰掛けた、短く刈り揃えた黒髪のその男性は、見覚えのある方です。
説明書きを見ることも無く押下したボタンは、『ナンデモないような事が幸せだったんダナ』というものでした。
関係ありませんが、「光生」というハゲの得度前の名は「みつお」です。だからナンダという話ですが。
私はすぐ様、引き出しを開けハーモニカを取り出します。
【こんばんは。ご無沙汰です】
「プワーパパーピュルピュル~」
【……♪ ちょうど○年前にぃ~……って、客がこれ歌う仕様なんですかね?】
「そこはご自由に。お歌いになるなら、是非最終章までお願いいたします」
【何章まであるかも分からんのですが……】
「あらためまして、ツイてない御苑へようこそ。今日はスーツなのですね。お休みですか?」
あの宅配の兄やんです。
【あ、この間の方です?! ド○ンジョ様ッ!!】
「私は違います。あの人は臨時のお助け要員で、もうここに来ることはないのですよ」
【そ、そうなんですか……】
カクンと頭を垂れます。
兄やん、よく考えろ。あんなハレンチな格好したお助けマンが居るかよ。
【……今日はデートに誘うつもりで……。俺、一目ぼれだったんですよ】
「あのう、ここは恋愛相談所ではナイのですよ残念ながら。……蛇足ですが、彼女結構オバサンですよ?」
【そんな事ねえっす! 膝とか肘とかテカって無かったっす!】
あんな僅かな時間で……変態でしょうか。
「変態ですか?」
普通に漏れておりました。
【否定は出来ねえっす!】
「潔いっ!」
【俺、ドロ○ジョ様が初恋で……あんな美しい女が悪者だなんて――タ○ノコプロ最高でーす!】
「ほう、二次元が初恋ですか。あ、タツ○コプロの件は激しく同意です」
【憧れの人がいきなり目の前に現れたんで、「これは運命?!」って動揺しちまって……】
「……なるほど左様な設定(?)が……」
それは罪な事をしてしまいましたね。出来心(?)とはいえ、心からお詫び申し上げます。
【ドライブデートにお誘いしようと……】
「車お好きなのですね。お仕事も車で」
【免許取ってすぐ峠へ繰り出しましたからね。頭文字がDらー言う(ディーラー?)漫画が大好きで、憧れてましたから】(※正しくはドリフトの『D』だそうです)
「左様ですか」
【初っ端はノーマル仕様でブッ飛ばして涅槃に行きそうになったらー】
ああ、ふっつーに出ましたね、「らー」が。
ご本人自覚がないのでしょうか、中空に飛ばす視線はきらっきら輝いております。
【中古のワンダーシ○ック買って、週末の度に峠へと繰り出しました】
「ああ、そういう――系のマンガなのですか」
【段々と装備も弄り出して……主人公の家が豆腐屋なんですけど、商い絡みで毎朝峠を往復してるんです(※中坊の頃から無免で)。で、親父が毎度出発前に、紙コップに水入れてカップホルダーに置くんですよ】
「……?」
【その水を零さないように車を転がさないといけねんす。修行っす】
「え……可能なんですか?」
【まあマンガですから。それが出来りゃ(峠の走り屋として)一人前っつー】
「あー……(察し)」
【オイラ真似してやってみたら、毎度毎度車内が水浸しだらー! あんなん出来っこねーらー!】
チャレンジャーですね。一度で気が付きましょうね。
「まあマンガですから」って言ったよな? な?
「今もそのお車に?」
【そうっす。ドライブデートはオイラのワンダーシビ○クっす】
——私は想像いたしました。
にっこにこ顔で運転席に収まる彼。助手席には憧れのドロ○ジョ様。
時折見つめ合う二人——ソッコーでビショ濡れです。ばっしゃーん。
「逢引きのたんびに風邪を引く二人……」
【デートのたんびに紙コップ乗っけねえらーっ!】
彼がダンダンッと地団駄を踏みます。
喧嘩はやめてくださいよ(床と)?
「残念ですね。彼女、結婚するそうです(※最短で八年後)」
真顔になった彼の顔から表情が落ち、視線が陰りました。
【……さ、左様だらー……】
「さよ――もうお帰りですか? ゴッド・ブレス・ユー」
【「さようならー」じゃねーらーっ! まだ5分も語ってねーらーっ!】
途端、顔を真っ赤にしてバンバン机を叩きました。
ああ、ねーらーねーらー喧しいですねえ……。
☆☆☆
【……イイ人がいらっしゃったんですね。そりゃそうですよね……】
顔を天井に向けて、彼が呟きました。
「上○向○て○○う」という感じです。伏字が多すぎる? ごもっとも。
【……上を◯~いて あ~る……】
まんま歌い出しました。辛うじて「零れて」はおりません。
【……俺、近い将来、赤○で独立しようと思ってるんす。それまで佐○で金貯めようと……】
「それはデッカイ野望でござんすね。佐○は激務でもお金は貯まると聞きます」
【嫁さんと二人三脚で……夢だなあ……】
「ド○ンジョ様と一緒に、というお積りだったのですか?」
【流石にあの格好で助手席には乗せられねっす】
「一日中あの格好なのですか? そりゃありえんてぃ」
「らー」が影を潜めました。彼は大きく深呼吸すると、俯いて寂しげな笑みを浮かべます。
「『らー』はお仕舞いですか?」
【鬱陶しいでしょ? 多分、女の子にも引かれちゃいますよ】
なんだ。コントロール可能でしたか。
意外と、合コンなどでは「武器」になるかもしれません。合コン自体よく知りませんが。
暖房の効いた店内でも、彼の周囲だけなんとなく秋に戻ったような空気が取り巻いております。
青白い顔を眺めているうち、よく考えないで言葉が漏れてしまいました。
「……ドロ○ジョ様が初恋……SMくらぶなら、沢山在籍していそうですね……」
彼がゆっくりと顔を上げて、キョトンとなります。
【……SMクラブ?】
「え、ええ。『女王様』が多数生息しているという噂のダンジョン……」
――沈思黙考を始めました。
眉毛が西郷○彦さんのようにキリッと整い、目が強い光を帯びています。
むむ。迂闊なひと言だったか、も。
「ダンジョン」と聞けば攻略せんとするのが「冒険者」の性なのに……。
突然立ち上がった彼は、
【――ありがとうございました。彼女に会う事があったら、伝えてください】
「え、えと、ナンと……」
【お幸せに、って】
ニッコリ笑ったその口端から、きらんと光る犬歯が覗きます。
「あ、ありがとうございます。きっと伝えますゴッド・ブレス・ユー……」
☆☆☆
思い付きで妙な入れ知恵を……彼が去ったあと、椅子に深く腰掛けた私の口から、後悔のドス黒い溜め息が漏れました。
まさか、とは思いますが――彼、嵌ったりしないですよね。
SかMかも分からないのに……。え、そこじゃない?
そこ大事ですよね? お母さま。