★本日の作業用BGMは、『なんだったんだ? 7DAYS』(バービーボーイズ)でした。このバンドの曲で一等好きです。ウキウキです。
ーーーーーー
仕事始を終え、真っ直ぐ離れへ帰り着いた私は、一応足だけ洗い(香しい足は避けたい)、炬燵に潜り込んで横になると、そのまま寝オチしたようです。
——目が覚めたのが八つ時(深夜二時頃)。
綾女に譲られた小さな液晶テレビから、ガヤ芸人達のバカ笑いが微かに聞こえます。
☆☆
黒のダッフルコートを羽織って表へ出ると、
「おっはー。ちゃんと起きれたじゃん」
白い息を吐きつつ、綾女が既に待っておりました。
濃い緑色のダッフルコート(私のお下がり)に両手を突っ込み、ほっぺをほんのり桃色にして。
☆☆☆
公園の側で、屋台のボンボリが淡く灯っているのが見えました。
「おじさま、あけまして――」
「大将あけおめ!」
息の合わない姉妹の挨拶に、
「おお、二人共あけおめ。今年もよろしくな!」
「ずっとお店開けていたのですか?」
「元旦は休んじまった。てへっ♥」
ここで腹拵えを済ませた私たちは、真っ暗な初春の街へと繰り出しました。
★★
「お正月だし、七福神でも廻ろうぜい!」
意外にも、そんな提案をしてきたのは綾女でした。
彼女は毎年、「四大七福神」――と勝手に呼んでいる――を一人で廻っているそうで。
ほんとに今時のJKなの? お婆ちゃんみたいな趣味ね。
これまで、浅草・隅田川・日本橋・下谷の七福神を、時に友達と(できたお友達です)踏破してきたそうです。
他にやる事もない身なので(※明けて二日はそう思っていました)、私自身否やはなかったのですが、
「夜中なら。昼間は絶対嫌」
正月の人混みだけは勘弁してほしいとお願いして――このような仕儀と相成りました。
浅草名所七福神は、近所の矢先稲荷を皮切りに、終点・浅草寺&浅草神社まで、おおよそ三時間ほどの道行きだそうです。
うまくいけば、浅草寺の「時の鐘」に間に合うんですって(明け六つの鐘)。
☆☆☆
二か所目の鷲神社を過ぎ、裏手へ回って吉原神社へ向かう途中、右カーブに差し掛かる辺り。
人影が二つ、暗闇の中ヌッと通りへ現れました。
女性の二人連れのようです。背の低い方が、こちらをチラと見て「げっ」と漏らしました。
「ありゃ? あの時のお嬢じゃん」
綾女がいち早く気が付き、疑問形で女性に声を掛けました。
まさしく、暮れに運んだ「リトル・グレイ」の少女その人です。
「ほんに。あの時より大人っぽい感じですねえ」
「お、おお、あの時の姉妹かえ。その節は世話になったのう」
「お知り合いですか、支――」
お嬢が隣に立つ女性を、無造作に「ぺちんっ」と平手打ちしました。なして?
並び立つ姿はパッと見姉妹のようです。
「ご姉妹ですか?」
「くりそつ!」
お嬢に耳打ちされた女性が口を開き、
「あ、あの、お、叔母……叔母ですあたし」
「姉妹ではないぞよ?」
ぎこちなく、二人は生温かい笑みを浮かべて「ははは」と声を揃えたのでございます。
☆☆☆
待乳山聖天に用事があるという少女とその叔母は、途中まで同道することに相成りました。
「あ、あたしは時の鐘を見たら――」
桜桜子さん(自称叔母)はその後、鳥越の婚約者宅へ向かうそうです。婚約者……勿論成人ですよね。ふぐっ。
「成人です! 星人でもあるけど。なんちゃって!」
星人……最近耳にしたような?
ジーンズにモコモコのダウンジャケットを羽織り、前は全開でガハハと笑いました。
結構な美人なのに、おやぢみたいな笑い方。胸前が異常に盛り上がっております。
「桜さんパイオツかいでーだねー、何カップさ!」
拗ね気味にツッコむ綾女に、
「じ、Gです。92モンドです」
「モンドて何?」
桜さんと腕を組むお嬢は「ミケ」というお名前だそうで(苗字?)、
「モンド=センチと思うがよい」
ミケちゃんが不機嫌そうにぺっと吐き捨てました。
暮れにお会いした時とは違い、今日は洋装です。
グレーのハーフコートに黒いキュロット、黒いタイツに足元は可愛らしいショートブーツという出で立ち。
桜さん同様黒髪ショートで、並ぶと段差はありますが本当に双子のような塩梅です。
果てには吉原の歓楽街が待ち受けるさして広くない無人の通りを、四人てくしーで元気よく進みます。
次の目的地は石浜神社です。
軒先に白い花が五本飾られた家の前に差し掛かると、何やら清々しい香りが鼻をくすぐりました。雪中花だそうで。
顔を寄せたミケちゃんが、
「ふむ、良い香りじゃ。正月らしいではないか」
「やっぱババくさいねお嬢」
「バ――いけません、し――ミケさんはババアじゃないんですよ? き、キュートでしょ?」
桜さんが慌てて不可思議なフォローを入れます。
ふいに。
「……足痛ぇ」
ミケちゃんがボソリ呟きました。
「お嬢またかよ?! 五分と歩いてないじゃん! 情けないぞガキンチョのくせに(?)」
「子供扱いは止せい!」
「お嬢中坊だろ?」
「ワシはこう見えて三百(歳)越えじゃ!」
「うはは! ウケる!」
「ウ……は、ははは、な、なあ~んちゃって、なのじゃ」
「江戸時代のお生まれでしたか」
「そこは驚けよノッポ」
ノッポ? ……ノッポさん? ※
「私の事ですか?」
「左様。できるのか? 貴様はデキルのか! でっきるっかな?」
……意味わからん。
ひとしきり歩道上で喚き合い、
「仕様がないですねえ。今日は体調万全ですし……」
私がしゃがむと、同時に綾女もしゃがみました。ほう?
「おお?! 今日はおんぶしてくれるのかえ?」
背後でミケちゃんの弾むような声が聞こえたかと思うと、
「し、支部長っ!」
桜さんが叫んだような――と思った途端、目の前が急に暗転したのでございます……。
☆☆☆
――気が付くと、ベンチに仰向けで寝ておりました。
遠目に、綾女と桜さんがお詣りしている姿。
「気が付いたかえ。ごくろうさんじゃったな」
ミケちゃん曰く、ここは石浜神社の境内だそうで。
煙管を咥え、愉し気に紫煙を輪っかにしています。
「……一体何が……って、中坊が煙草はまずいでしょう」
「煙草じゃないもん。ネ○シーダーだもん」
眉根を八の字にして、あざとくアヒル口でアピールします。「だっちゅーの」のポーズ付き。
ネオ○ーダーとしてもあかんやろ中坊が。
ミケちゃんがカンッとひとつ、煙管を叩きつけ、
「のう? 時に、行政書士というのを知っとるケ?」
妙な問い掛けを。
鼻をつく微かな磯の香りで脳が覚醒していくのを感じながら、
「遣隋使?(確か美冬ちゃんのお兄様……)」
「ちがう。行政書士」
戻って来た綾女と桜さんを交え、ミケちゃんが軽くレクチャーを。
彼女の母が台東支部長だそうで。
「桜子も有資格者じゃ。興味あらば、こやつに詳細を聞いてくれろ」
「……丸投げですかミケさん」
綾女と顔を見合わせた私は、めんどくせー事言い出したなあと思いながら、鋭い舌打ちをかましました。
「チッとはなんじゃ、チッとは!」
少女は顔を真っ赤にして煙管をぶんぶん振り回したのでございます。
☆☆☆
順に回り、聖天様でミケちゃんとはお別れです。
少女はいつの間にか大根を手にし、元気よく振り回しながら見送ってくださいました。
夜が明けかかる中――。
無事、浅草寺で時の鐘を一身に受けました。清々しい心持ちで三人ベンチに居座ります。
隣の桜さんがスニーカーを脱いでクンクンやっております。
「少し臭うかな? 新品なのに……」
ブツブツ囁くのを眺めつつ、
(あ、週刊体臭……)
なんとなく、「お兄様」の姿を思い浮かべたのでございます。
……何故か私と綾女も靴を向けられましたが、丁重にお断りいたしました。
ーーーーーー
☆待乳山聖天では、「大根」をお供えするのがデフォらしいです。
※某教育テレビで長い事放送された『できるかな?』に於ける伝説の天才おじさん。何でも工作しちゃいます(ひとっ言も喋らん!)。
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仕事始を終え、真っ直ぐ離れへ帰り着いた私は、一応足だけ洗い(香しい足は避けたい)、炬燵に潜り込んで横になると、そのまま寝オチしたようです。
——目が覚めたのが八つ時(深夜二時頃)。
綾女に譲られた小さな液晶テレビから、ガヤ芸人達のバカ笑いが微かに聞こえます。
☆☆
黒のダッフルコートを羽織って表へ出ると、
「おっはー。ちゃんと起きれたじゃん」
白い息を吐きつつ、綾女が既に待っておりました。
濃い緑色のダッフルコート(私のお下がり)に両手を突っ込み、ほっぺをほんのり桃色にして。
☆☆☆
公園の側で、屋台のボンボリが淡く灯っているのが見えました。
「おじさま、あけまして――」
「大将あけおめ!」
息の合わない姉妹の挨拶に、
「おお、二人共あけおめ。今年もよろしくな!」
「ずっとお店開けていたのですか?」
「元旦は休んじまった。てへっ♥」
ここで腹拵えを済ませた私たちは、真っ暗な初春の街へと繰り出しました。
★★
「お正月だし、七福神でも廻ろうぜい!」
意外にも、そんな提案をしてきたのは綾女でした。
彼女は毎年、「四大七福神」――と勝手に呼んでいる――を一人で廻っているそうで。
ほんとに今時のJKなの? お婆ちゃんみたいな趣味ね。
これまで、浅草・隅田川・日本橋・下谷の七福神を、時に友達と(できたお友達です)踏破してきたそうです。
他にやる事もない身なので(※明けて二日はそう思っていました)、私自身否やはなかったのですが、
「夜中なら。昼間は絶対嫌」
正月の人混みだけは勘弁してほしいとお願いして――このような仕儀と相成りました。
浅草名所七福神は、近所の矢先稲荷を皮切りに、終点・浅草寺&浅草神社まで、おおよそ三時間ほどの道行きだそうです。
うまくいけば、浅草寺の「時の鐘」に間に合うんですって(明け六つの鐘)。
☆☆☆
二か所目の鷲神社を過ぎ、裏手へ回って吉原神社へ向かう途中、右カーブに差し掛かる辺り。
人影が二つ、暗闇の中ヌッと通りへ現れました。
女性の二人連れのようです。背の低い方が、こちらをチラと見て「げっ」と漏らしました。
「ありゃ? あの時のお嬢じゃん」
綾女がいち早く気が付き、疑問形で女性に声を掛けました。
まさしく、暮れに運んだ「リトル・グレイ」の少女その人です。
「ほんに。あの時より大人っぽい感じですねえ」
「お、おお、あの時の姉妹かえ。その節は世話になったのう」
「お知り合いですか、支――」
お嬢が隣に立つ女性を、無造作に「ぺちんっ」と平手打ちしました。なして?
並び立つ姿はパッと見姉妹のようです。
「ご姉妹ですか?」
「くりそつ!」
お嬢に耳打ちされた女性が口を開き、
「あ、あの、お、叔母……叔母ですあたし」
「姉妹ではないぞよ?」
ぎこちなく、二人は生温かい笑みを浮かべて「ははは」と声を揃えたのでございます。
☆☆☆
待乳山聖天に用事があるという少女とその叔母は、途中まで同道することに相成りました。
「あ、あたしは時の鐘を見たら――」
桜桜子さん(自称叔母)はその後、鳥越の婚約者宅へ向かうそうです。婚約者……勿論成人ですよね。ふぐっ。
「成人です! 星人でもあるけど。なんちゃって!」
星人……最近耳にしたような?
ジーンズにモコモコのダウンジャケットを羽織り、前は全開でガハハと笑いました。
結構な美人なのに、おやぢみたいな笑い方。胸前が異常に盛り上がっております。
「桜さんパイオツかいでーだねー、何カップさ!」
拗ね気味にツッコむ綾女に、
「じ、Gです。92モンドです」
「モンドて何?」
桜さんと腕を組むお嬢は「ミケ」というお名前だそうで(苗字?)、
「モンド=センチと思うがよい」
ミケちゃんが不機嫌そうにぺっと吐き捨てました。
暮れにお会いした時とは違い、今日は洋装です。
グレーのハーフコートに黒いキュロット、黒いタイツに足元は可愛らしいショートブーツという出で立ち。
桜さん同様黒髪ショートで、並ぶと段差はありますが本当に双子のような塩梅です。
果てには吉原の歓楽街が待ち受けるさして広くない無人の通りを、四人てくしーで元気よく進みます。
次の目的地は石浜神社です。
軒先に白い花が五本飾られた家の前に差し掛かると、何やら清々しい香りが鼻をくすぐりました。雪中花だそうで。
顔を寄せたミケちゃんが、
「ふむ、良い香りじゃ。正月らしいではないか」
「やっぱババくさいねお嬢」
「バ――いけません、し――ミケさんはババアじゃないんですよ? き、キュートでしょ?」
桜さんが慌てて不可思議なフォローを入れます。
ふいに。
「……足痛ぇ」
ミケちゃんがボソリ呟きました。
「お嬢またかよ?! 五分と歩いてないじゃん! 情けないぞガキンチョのくせに(?)」
「子供扱いは止せい!」
「お嬢中坊だろ?」
「ワシはこう見えて三百(歳)越えじゃ!」
「うはは! ウケる!」
「ウ……は、ははは、な、なあ~んちゃって、なのじゃ」
「江戸時代のお生まれでしたか」
「そこは驚けよノッポ」
ノッポ? ……ノッポさん? ※
「私の事ですか?」
「左様。できるのか? 貴様はデキルのか! でっきるっかな?」
……意味わからん。
ひとしきり歩道上で喚き合い、
「仕様がないですねえ。今日は体調万全ですし……」
私がしゃがむと、同時に綾女もしゃがみました。ほう?
「おお?! 今日はおんぶしてくれるのかえ?」
背後でミケちゃんの弾むような声が聞こえたかと思うと、
「し、支部長っ!」
桜さんが叫んだような――と思った途端、目の前が急に暗転したのでございます……。
☆☆☆
――気が付くと、ベンチに仰向けで寝ておりました。
遠目に、綾女と桜さんがお詣りしている姿。
「気が付いたかえ。ごくろうさんじゃったな」
ミケちゃん曰く、ここは石浜神社の境内だそうで。
煙管を咥え、愉し気に紫煙を輪っかにしています。
「……一体何が……って、中坊が煙草はまずいでしょう」
「煙草じゃないもん。ネ○シーダーだもん」
眉根を八の字にして、あざとくアヒル口でアピールします。「だっちゅーの」のポーズ付き。
ネオ○ーダーとしてもあかんやろ中坊が。
ミケちゃんがカンッとひとつ、煙管を叩きつけ、
「のう? 時に、行政書士というのを知っとるケ?」
妙な問い掛けを。
鼻をつく微かな磯の香りで脳が覚醒していくのを感じながら、
「遣隋使?(確か美冬ちゃんのお兄様……)」
「ちがう。行政書士」
戻って来た綾女と桜さんを交え、ミケちゃんが軽くレクチャーを。
彼女の母が台東支部長だそうで。
「桜子も有資格者じゃ。興味あらば、こやつに詳細を聞いてくれろ」
「……丸投げですかミケさん」
綾女と顔を見合わせた私は、めんどくせー事言い出したなあと思いながら、鋭い舌打ちをかましました。
「チッとはなんじゃ、チッとは!」
少女は顔を真っ赤にして煙管をぶんぶん振り回したのでございます。
☆☆☆
順に回り、聖天様でミケちゃんとはお別れです。
少女はいつの間にか大根を手にし、元気よく振り回しながら見送ってくださいました。
夜が明けかかる中――。
無事、浅草寺で時の鐘を一身に受けました。清々しい心持ちで三人ベンチに居座ります。
隣の桜さんがスニーカーを脱いでクンクンやっております。
「少し臭うかな? 新品なのに……」
ブツブツ囁くのを眺めつつ、
(あ、週刊体臭……)
なんとなく、「お兄様」の姿を思い浮かべたのでございます。
……何故か私と綾女も靴を向けられましたが、丁重にお断りいたしました。
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☆待乳山聖天では、「大根」をお供えするのがデフォらしいです。
※某教育テレビで長い事放送された『できるかな?』に於ける伝説の天才おじさん。何でも工作しちゃいます(ひとっ言も喋らん!)。