☆本日の作業用BGMは『男たちのメロディー』(某ドラマのOP)でした!
「俺たちは!天使だ!」のポージングが好きだった……。
運が悪けりゃ○ぬだけさ~……喜多條忠先生、格好いい詞をありがとうございました。合掌――。
ああ、もっかい見たい……死ぬ前に!
DVDBOX買うべきだろか……
ーーーーー
檀家さんから頂戴したという寄席のチケットを二枚、目の前でチラつかせ、
「俺ぁ生憎、その日は用事が入っていてな。よかったらどうだ?」
頭に手拭いを巻き付けたハゲが言いました。
何も言わずにチケットを受け取った私が番組表に目をやりますと。
十二月中席(十一日から二十日の番組)夜の部でした。漫才がひと組だけ組まれております。
そこには、いまや漫才協会の要職にある「ナ●ツ」の名が。
これはヤホーで検索するまでもありません。是非にも行かねばなりますまい。
しかし、習い事に忙しい爽太くんを誘うわけにも……。
思案しておりましたら、いつの間にか覗き込んでいた綾女が、
「ラッキー! アタシがお供いたしやしょう」
皆迄言うなという顔で、ひとりウンウン頷きました。
☆☆☆
日曜の夜五つ半(午後九時)を回った、番組終了後の上野・鈴本演芸場のまん前。歩道端のガードレールに浅く腰を掛け、花を摘みに寄った綾女を待っております。
緩い寒風にダッフルコートの身を竦めていると、演芸場からわらわらとお客さんがはき出されてきます。みな一様に紅潮したお顔で、頭上にほっこりした空気を乗せています。
「仁●なき戦い」を見終えたお客さん方とは決定的に違いますね。キツイ目付きの方は一人もいらっしゃいません。
お客さんが途切れる寸前、綾女が外へ出て来ました。
濃いグリーンのダッフルコートが逆光で真っ黒に見えます。
人並みが捌けると、道路端で蹲る人影が目に留まりました。
和装姿の女性に見えます。
「神幸ちゃんお待ちっ! 帰るべー」
綾女が手を振りながら二歩あゆみ寄ったタイミングで、その女性が正面から被るようにすっと立ち上がりました。
重なるように立つ綾女の、鼻から上だけが覗いて見えます。とすると、かなり小柄な女性のようです。
後ろ姿の女性は、うす紫の羽織に結い上げた日本髪、淡い桃色の巾着を提げております。
「卒爾ながら……」
目を丸くした綾女へ向けて古風に問い掛ける後ろ姿を、少し不思議な心持ちで眺めました。
私も歩み寄り、綾女の隣へと立ちます。
「天神様まで連れて行ってはいだだけまいか」
いきなりそう告げた彼女の顔を、まじまじと見詰めました。
ぱっと見、中学生? のような……。
羽織の下は黒色系の紬に薄色の名古屋帯。照明の加減か、大きな黒目がちの双眸が、時折猫の如くキラリと光ります。
多少気圧されていた感の綾女が、
「天神様って、湯島の? すぐそこだよ?」
じっくり視認出来て安心したのか、砕けた口調で南を指差します。
「……足が痛い」
「へ?」
「どうも挫いたようじゃ……です」
綾女と私は無意識に顔を見合わせました。
「あの……私たちにどうしろと?」
つっけんどんだったかな。
「おんぶして連れて行ってほしいのじゃ――です」
縋りつくよな潤む目を寄越す少女が言い直すのを、二人奇異な眼差しで眺めたのです。
☆☆☆
「これ、ちょいと、これは何の真似じゃっ?!」
少女が慌てて咎めます。
「おんぶ」にまるで自信の無い私たちは結局、少女を間に置いて、「リトル・グレイ方式」で連れて行くことにいたしました。
三人手を繋ぎ、時折大きく腕を上げ、彼女をぶらぶらブランコのようにして運んだわけです。
小さい子のいる核家族に見受けられる、「幸せのレク」と言えるでしょう。
「思いがけず人助けしてるじゃんアタシたち。徳を積んじゃったよ!」
「き、貴様ら、ワシを誰だと……く、くちゅじょくぅ」
「喋ると舌噛んじゃいますよ? 酔うかもしれませんし」
少女の目がバタフライで泳いでおります。朧げな瞳に後悔の色が漂って見えました。
この通りを少し南下して右手に切れ込み、「男坂」に至るのが近道かと思いますが、あの急坂をリトル・グレイを吊りながら登り切る自信がございません。
やや遠回りですが、北へ向かい上野広小路を左へ折れ、春日通りの緩い登り坂を進み、坂上から天神の大鳥居を目指しました。
「こんな時間じゃもう閉まってんじゃん?」
「……つ、連れと、ま、待ち合わせ……」
「こんな時間に、ですか?」
やがてリトル・グレイは喋るのを諦め、ぐったりと身を任せます。
私たちも、そろそろ腕が……。
行き交う人々が「宇宙人を見るような」視線を投げかける中、やっと鳥居前に着きました。
「到着! お嬢お疲れ!」
「あー、腕が棒のようです」
達成感に気持ち良く汗を拭う私たちの脇で――。
少女は言葉も無く石畳に四肢をつき、荒い息を整えております。
天神の賽銭箱前には既にバリケードが鎮座し、お賽銭を投げ入れることも出来ません。
「お嬢さん、お連れさんは何処に?」
問い掛けに返す元気もない少女。ちらと上げた顔に、獣のような光る双眸。
なんとなく背筋に寒いものを感じた瞬間、
「お疲れ様です姫様。遅かったですねえ~」
場違いな緩い口調と共に、暗がりの中ぬっと姿を現した背の高いそのお人は、何故か――メイド姿でございました。
☆☆☆
メイドさんは、くっと膝を折り、
「わざわざありがとうございました。お手数をお掛けいたしまして」
「いえいえ、困った時は相身互いですから」
メイドさんが少女を引き起こし、着物をぱんぱん軽く叩くと、
「……喉が渇いたのじゃ」
少女がポツリ零しました。
「ああ、そこに休憩所があります、自販機もございますから、存分にどうぞ」
声を掛けると、何故か少女はガックリと項垂れました。
メイドさんがその肩にそっと手を添えると、
(うまく誘導出来なかったのですか?)
(アホたれ、それどころではなかったわえ! 非道い目に会うたのじゃっ)
何やら顔を寄せてひそひそ囁き合います。
「よ、良ければ、じ、じゅーすなど馳走しようではないか。礼と言うのもアレじゃが」
少女のたどたどしい提案に、すかさず綾女が、
「いいってことよお嬢。礼に及ばず……だよーーーんっ!」
シュタッとグリコのポーズを決めます。
「そうですそうです。礼など無用に。……では、私たちはこれで」
「あ、もし――」
引き留める素振りのメイドさんを軽くいなし、くるり背を向けると、
「――ゴッド・ブレス・ユー」
決め台詞を置いて、二人男坂へと向かいました。
何気に渋く決まりました。なかなかこうはいきませんよ、お母さま。
私たちはひと仕事終えた清々しい心持ちで、一度パンッとハイタッチを交わすと、急な石段をゆっくりと降りて行きました。
◇◇◇
……のんびり石段を降りてゆく二人を見送りながら……少女は我知らず、腹の底から諦めにも似た細長い息を吐いた。
「今冬も、寂しい釣果になりそうだのう……恐ろしいおなごどもめぇ。まさか、ブランコで運ばれるとは思わなんだ」
「このままですと、美冬ちゃんだけで終わりそうですねえ。あ、あとお友達も」
「都合の良いお人好しは中々おらんの……仕様も無い。またコツコツいちからやり直しだわえ」
「雪見●福でも買って帰りましょうか~」
少女が溜息を吐くと一瞬空気が揺らぎ――次の間には、猫耳付きのキャップを被った幼女がその場に佇んでいた。
師走だというのに上下ピンクの半袖短パン姿。どう見ても就学前の児童。
幼女は、キャップから覗く金髪の前髪を整えると、ピョンとメイドの背に飛び乗り、
「トメ。なるはやで頼むぞえ」
「あい! 心得ました!」
「コンビニに寄るのを努々忘れるでないぞ」
ボンッと小爆発が一発——メイドの姿は既に無く。
大柄な白狐が幼女を背負いつつ、白く煌めく尻尾を靡かせ、さっと風の如くに奔り去った。
「俺たちは!天使だ!」のポージングが好きだった……。
運が悪けりゃ○ぬだけさ~……喜多條忠先生、格好いい詞をありがとうございました。合掌――。
ああ、もっかい見たい……死ぬ前に!
DVDBOX買うべきだろか……
ーーーーー
檀家さんから頂戴したという寄席のチケットを二枚、目の前でチラつかせ、
「俺ぁ生憎、その日は用事が入っていてな。よかったらどうだ?」
頭に手拭いを巻き付けたハゲが言いました。
何も言わずにチケットを受け取った私が番組表に目をやりますと。
十二月中席(十一日から二十日の番組)夜の部でした。漫才がひと組だけ組まれております。
そこには、いまや漫才協会の要職にある「ナ●ツ」の名が。
これはヤホーで検索するまでもありません。是非にも行かねばなりますまい。
しかし、習い事に忙しい爽太くんを誘うわけにも……。
思案しておりましたら、いつの間にか覗き込んでいた綾女が、
「ラッキー! アタシがお供いたしやしょう」
皆迄言うなという顔で、ひとりウンウン頷きました。
☆☆☆
日曜の夜五つ半(午後九時)を回った、番組終了後の上野・鈴本演芸場のまん前。歩道端のガードレールに浅く腰を掛け、花を摘みに寄った綾女を待っております。
緩い寒風にダッフルコートの身を竦めていると、演芸場からわらわらとお客さんがはき出されてきます。みな一様に紅潮したお顔で、頭上にほっこりした空気を乗せています。
「仁●なき戦い」を見終えたお客さん方とは決定的に違いますね。キツイ目付きの方は一人もいらっしゃいません。
お客さんが途切れる寸前、綾女が外へ出て来ました。
濃いグリーンのダッフルコートが逆光で真っ黒に見えます。
人並みが捌けると、道路端で蹲る人影が目に留まりました。
和装姿の女性に見えます。
「神幸ちゃんお待ちっ! 帰るべー」
綾女が手を振りながら二歩あゆみ寄ったタイミングで、その女性が正面から被るようにすっと立ち上がりました。
重なるように立つ綾女の、鼻から上だけが覗いて見えます。とすると、かなり小柄な女性のようです。
後ろ姿の女性は、うす紫の羽織に結い上げた日本髪、淡い桃色の巾着を提げております。
「卒爾ながら……」
目を丸くした綾女へ向けて古風に問い掛ける後ろ姿を、少し不思議な心持ちで眺めました。
私も歩み寄り、綾女の隣へと立ちます。
「天神様まで連れて行ってはいだだけまいか」
いきなりそう告げた彼女の顔を、まじまじと見詰めました。
ぱっと見、中学生? のような……。
羽織の下は黒色系の紬に薄色の名古屋帯。照明の加減か、大きな黒目がちの双眸が、時折猫の如くキラリと光ります。
多少気圧されていた感の綾女が、
「天神様って、湯島の? すぐそこだよ?」
じっくり視認出来て安心したのか、砕けた口調で南を指差します。
「……足が痛い」
「へ?」
「どうも挫いたようじゃ……です」
綾女と私は無意識に顔を見合わせました。
「あの……私たちにどうしろと?」
つっけんどんだったかな。
「おんぶして連れて行ってほしいのじゃ――です」
縋りつくよな潤む目を寄越す少女が言い直すのを、二人奇異な眼差しで眺めたのです。
☆☆☆
「これ、ちょいと、これは何の真似じゃっ?!」
少女が慌てて咎めます。
「おんぶ」にまるで自信の無い私たちは結局、少女を間に置いて、「リトル・グレイ方式」で連れて行くことにいたしました。
三人手を繋ぎ、時折大きく腕を上げ、彼女をぶらぶらブランコのようにして運んだわけです。
小さい子のいる核家族に見受けられる、「幸せのレク」と言えるでしょう。
「思いがけず人助けしてるじゃんアタシたち。徳を積んじゃったよ!」
「き、貴様ら、ワシを誰だと……く、くちゅじょくぅ」
「喋ると舌噛んじゃいますよ? 酔うかもしれませんし」
少女の目がバタフライで泳いでおります。朧げな瞳に後悔の色が漂って見えました。
この通りを少し南下して右手に切れ込み、「男坂」に至るのが近道かと思いますが、あの急坂をリトル・グレイを吊りながら登り切る自信がございません。
やや遠回りですが、北へ向かい上野広小路を左へ折れ、春日通りの緩い登り坂を進み、坂上から天神の大鳥居を目指しました。
「こんな時間じゃもう閉まってんじゃん?」
「……つ、連れと、ま、待ち合わせ……」
「こんな時間に、ですか?」
やがてリトル・グレイは喋るのを諦め、ぐったりと身を任せます。
私たちも、そろそろ腕が……。
行き交う人々が「宇宙人を見るような」視線を投げかける中、やっと鳥居前に着きました。
「到着! お嬢お疲れ!」
「あー、腕が棒のようです」
達成感に気持ち良く汗を拭う私たちの脇で――。
少女は言葉も無く石畳に四肢をつき、荒い息を整えております。
天神の賽銭箱前には既にバリケードが鎮座し、お賽銭を投げ入れることも出来ません。
「お嬢さん、お連れさんは何処に?」
問い掛けに返す元気もない少女。ちらと上げた顔に、獣のような光る双眸。
なんとなく背筋に寒いものを感じた瞬間、
「お疲れ様です姫様。遅かったですねえ~」
場違いな緩い口調と共に、暗がりの中ぬっと姿を現した背の高いそのお人は、何故か――メイド姿でございました。
☆☆☆
メイドさんは、くっと膝を折り、
「わざわざありがとうございました。お手数をお掛けいたしまして」
「いえいえ、困った時は相身互いですから」
メイドさんが少女を引き起こし、着物をぱんぱん軽く叩くと、
「……喉が渇いたのじゃ」
少女がポツリ零しました。
「ああ、そこに休憩所があります、自販機もございますから、存分にどうぞ」
声を掛けると、何故か少女はガックリと項垂れました。
メイドさんがその肩にそっと手を添えると、
(うまく誘導出来なかったのですか?)
(アホたれ、それどころではなかったわえ! 非道い目に会うたのじゃっ)
何やら顔を寄せてひそひそ囁き合います。
「よ、良ければ、じ、じゅーすなど馳走しようではないか。礼と言うのもアレじゃが」
少女のたどたどしい提案に、すかさず綾女が、
「いいってことよお嬢。礼に及ばず……だよーーーんっ!」
シュタッとグリコのポーズを決めます。
「そうですそうです。礼など無用に。……では、私たちはこれで」
「あ、もし――」
引き留める素振りのメイドさんを軽くいなし、くるり背を向けると、
「――ゴッド・ブレス・ユー」
決め台詞を置いて、二人男坂へと向かいました。
何気に渋く決まりました。なかなかこうはいきませんよ、お母さま。
私たちはひと仕事終えた清々しい心持ちで、一度パンッとハイタッチを交わすと、急な石段をゆっくりと降りて行きました。
◇◇◇
……のんびり石段を降りてゆく二人を見送りながら……少女は我知らず、腹の底から諦めにも似た細長い息を吐いた。
「今冬も、寂しい釣果になりそうだのう……恐ろしいおなごどもめぇ。まさか、ブランコで運ばれるとは思わなんだ」
「このままですと、美冬ちゃんだけで終わりそうですねえ。あ、あとお友達も」
「都合の良いお人好しは中々おらんの……仕様も無い。またコツコツいちからやり直しだわえ」
「雪見●福でも買って帰りましょうか~」
少女が溜息を吐くと一瞬空気が揺らぎ――次の間には、猫耳付きのキャップを被った幼女がその場に佇んでいた。
師走だというのに上下ピンクの半袖短パン姿。どう見ても就学前の児童。
幼女は、キャップから覗く金髪の前髪を整えると、ピョンとメイドの背に飛び乗り、
「トメ。なるはやで頼むぞえ」
「あい! 心得ました!」
「コンビニに寄るのを努々忘れるでないぞ」
ボンッと小爆発が一発——メイドの姿は既に無く。
大柄な白狐が幼女を背負いつつ、白く煌めく尻尾を靡かせ、さっと風の如くに奔り去った。