「…げ」
手に持った教科書たちが、階段から落ちていきそうになり両手に抱え込んだ。
目の前にはまだ私の存在に気づいていない男が、
真っ白なギブスが右足に分厚くとりつけられ、片方には松葉杖をもってモタモタと階段を降りていた。
ーーー最悪。
次の授業がはじまるまであと10分。
私はこいつに手を貸すほど優しい女じゃない。
「つ、」
そう思ったのに、そいつが蹴躓いて前に倒れそうになったとき、とっさにその腕を掴んだ。
その顔が驚いたように私に向けられる。
「…ひかる」
「大丈夫?なんて言わないから、自業自得だか
ら。邪魔だからさっさと階段降りてくれない」
その腕を支えて、その男を睨みつければその男は弱々しく笑った。
「ごめん、ひかる」
あえてその顔を見ずに、前を向く。
「さっさと歩いて、ゆう、徳江くん」
「雄太って、呼んでくれないの」
ほんとに、この男は。