館内を回り終えて、入り口付近へ戻って来た。繋いだ手は緊張で湿っていて、それでもお互いに離そうとしない。
 これはデートをするミッションの一部で、宮凪くんのやりたいことは達成される。
 今日が終われば、この指先がもう一度触れることはないと、分かっているから。

 タッタッタッと背後から足音が聞こえて、振り返るより早く誰かがぶつかって来た。私たちの手を引き裂いたのは幼稚園くらいの子どもで、後ろから親の声がする。
 バランスを崩して転びかけた小さな体を、宮凪くんが抱きとめた。

「すみません! あの、服が」

 宮凪くんの袖から手にかけて、びっしょり濡れている。子どもが持っていた水風船が割れたらしい。
 泣き出す子どもを抱えて、母親がカバンからタオルを取り出した。申し訳なさそうに、どうしたらいいかと眉を下げて。

「大丈夫なんで」

 言いながら、宮凪くんが左手を覆う。
 行こうと促されて、足早にその場を去る時には、指の隙間から宝石のような光が漏れていた。

 長い階段を降りて、しばらく行くと港の展望台が見えて来る。その近くで、なるべく人目を避けれるところに身を潜めた。まばらだけど、周りに人がいたから。
 隠していた手を離すと、きらきらと光る肌が現れた。さっきのくらげより美しくて、息を呑む。

「あんま知られたくねぇんだよな、これ。特殊だから、みんな興味本位でじろじろ見るんだ」
「……うん」

 どう返したらいいのか。
 初夏の風と走ったおかげか、手の甲の水分は飛んでほとんど乾いていた。輝きは、散りばめたラメのように薄くなっていく。