ショッピングモールをふらふらしていたら、時刻は十六時を過ぎていた。
 電車に乗って、港の方まで行くことになった。あまり訪れたことのない場所。ここに小さな水族館があるらしい。
 入場ゲートのお姉さんに、宮凪くんがなにか尋ねている。少し残念そうにチケットを買っていたから、どうしたのか聞いてみると。

「発光実験は予約いるんだって。夜の部チケットは買えたけど、これじゃ意味ねぇ」
「ナイトアクアリウムのこと?」
「うん、海ほたるが見れるはずだったんだ。あー、予定狂った。だっせぇ」

 その場にしゃがみ込んで、この上なくショックを受けている。
 どうやら私のために、下調べをしてくれていたようだ。詰めが甘かったと、テンションの低い宮凪くんと館内へ入った。

 思いの外お客さんは少なくて、私たちを含めて五組ほど。ライトアップされた魚は神秘的で、白昼とは違う雰囲気に胸が躍った。
 知っている景色が、まるで違うものに変身したみたい。

「宮凪くん、こっちはクラゲだって!」

 はしゃぎ過ぎた手が、ぐっと後ろへ引かれた。そのまま絡まる指に、呼吸のタイミングがわからなくなる。

「もう少し、ゆっくり見よう」
「そ、そうだね。ごめんね、私ばっかり、楽しんじゃって」

 ドキドキと波打つ音を誤魔化すように、目の前の水槽へ目を向けた。どれも息を呑むほど美しいのに、繋がれた右手にしか意識がいかない。
 腕がぴったり触れたまま、宮凪くんが隣に立つ。緊張で動けない。
 黄色や青に発光するくらげを眺めながら、ふと思う。

 ──このまま、時が止まってしまえばいいのに。

「なんか、すげぇドキドキしない? 俺だけ?」

 宮凪くんの目は、前を向いていた。きらきらと波打つ水が反射して、私たちも水槽の中にいるみたいだ。

「……私も」

 すごくドキドキしてる。
 この先訪れるはずの運気を、全て使ってしまっているのではないかと思うほど、心は幸福に満ちている。

「生きてるって感じする」

 心臓に手を当てて、宮凪くんは目を閉じた。
 胸の奥が締め付けられるような切なさが込み上げてくる。
 深い意味などないかもしれないけど、言葉のひとつひとつが突き刺さる。よくない方向へ捉えてしまう。