スイーツ店を出てから、少し歩いたことろにあるショッピングモールへ入った。天井までぎっちりと並んだ本棚に圧倒されつつ、背表紙を目で追う。
 初心者でも読みやすい本を選んでくれと、宮凪くんが言うのだ。

 ライト文芸のコーナーで、何冊か手にしては戻してを繰り返す。人気のある作品はそれなりに評価されているから、万人受けしやすいのだろう。
 なかなか決められないでいると、隣でラベルを眺めていた宮凪くんと、同じ本に手が触れた。

「……あっ」

 反射的に離した本を、宮凪くんが取る。

「これ、面白い?」
「あ、うん。あまりメジャーじゃないけど、文章も読みやすいし。でも、悲しい話だから……どうだろ」

 時間を巻き戻すいわゆるタイムリープもので、何度やり直しても上手くいかない。そのうちに、元とは全く別の世界になってしまって、主人公は大切な人のいない時間線を生きることになる。
 正直、読む側からしたらハッピーエンドとは言い難い。だけど、私は彼女の考え方が好きで勇気をもらえた。

「じゃあこれにする」
「えっ、すごく暗い話だよ? こっちの方が笑えて」

 そばにあったベストセラーを持ち出してみるけど、宮凪くんは見ようとしない。


「蛍が好きなのはどっち?」

 ──心を動かされたオススメの本ってない?

 全て見透かされている気がした。
 暗くて堕ちていくような物語に惹かれると言ったら、引かれるかもしれない。薦めて宮凪くんの好みに合わなかったら……そんなことばかり考えて選んでいた。

「蛍が見てる世界を、俺も経験してみたいなーって。そう思うの、変?」

 ううんと首を振って、本を差し出す。

「私は、すっごく好き。素敵な話だから、世界観に浸ってみて」
「そうする」

 初めてだった。私の見る世界を経験してみたいだなんて、告白でもされた気分で、今になって気恥ずかしくなる。