目に溜まる水分。鼻の奥がツンと痛む。

 胸の奥からこみあげてくるように流れる涙に顔を歪ませずにはいられない。

「(ましろ)」

 そう口が動いた。

 聞こえる。

 聞こえるよ、空さんの声。

 もう堪えきれなくなって声をあげて涙を流した。

 ずっとずっと大好きだった人。

 ずっとずっと会いたかった人。

 手放したのは……私。

 逃げ出した自分をいくら悔いても、その事実は変わらない。

 けど、その微笑みはそんなこともまるでなかったかのようで、それより時間が止まっていたような錯覚さえ覚える。

 立ちすくみ肩を震わせもう落ちてくる涙を拭くこともなく一瞬も逸らさず空さんを見ていた。

 空さんはゆっくりと近付き、私の前に止まりそっと私の涙を指で拭った。

 懐かしいこの手の感覚、柔らかくて温かくて、一瞬も離したくない、そう思っていたこの手に触れられて、私の涙は余計に止むことができなかった。

「(もう、泣くな)」

 微かに出る音、それと口の動き。

 私はただただ頷いた。

 もう二度と会えないと思っていた。


 今でも愛しき人よ。



「な、なんや、……陸泣いてるやん」
「いや、泣いてねーよ」
「あ……あぁ、そうか」
「お前が泣いてんだろ、龍」
「そういう西山こそ」
「は? いや相馬もじゃん」


「もう、みんなしんみりしすぎ、せっかくの再会なんだから」


 パンパンと手を叩いてその場を変えたのは、やっぱり昔と変わらないムードメーカーの幸翔さんだった。

 あの頃に戻るのに時間はいらなかった。

 一瞬で花咲く笑顔。


「いやー超懐かしいですー」

 まるで私達はタイムカプセルに閉じ込められていたみたいに蟠りも、気まずさもなく話すことが出来た。



 もしも叶うなら、巻き戻しボタンであの頃に戻りたい。

 デビューを決めたあの日に戻りたい。そしたら失わなかっただろう

 仲間も、空さんも。


「あの」


 そう思ってた心を読み取ったかのように陸が話し出した。

 いや、心を読み取れるわけがない。

 陸はずっと前から考えていたんだ。

「難しいのは分かるんだけど……もう一度、みんなでやらない?」

 その言葉に談笑で賑わっていた店内、ピタッと全ての音が止まった。