「今週の土曜日空けといて」

 そう龍から連絡が来たのは、あの再会からたった二日後の事だった。

 西山さんも真菜さんも出世をして多忙な毎日を送っているみたい。

 相馬さんも音楽が忘れられずライブハウスを立ち上げて音楽を目指す若者たちと日々奮闘しているみたい。

 楓雅さんは歌を歌ってたんですね。
 全然知らなかったです。

 聞いてみたいな、空さんが作って楓雅さんが歌う曲。

 龍だって売れっ子の俳優で陸だって消防士になってみんな忙しいのにこんなに早く集合してくれたのはきっと、私の気が変わらないうちに、ってことなんだろう。


 空さん、あの日、西山さんに空さんが手術をしたことを聞きました

『とりあえず成功した』ずっと引っかかっていた“とりあえず”の言葉。

 それを確かめるのも怖くてどうか上手くいっていて欲しい、ただそう願うだけだった。

 結局……それは最善なものではなかった。


「ましろー! 美鈴ちゃん!」

 ひっそりと隠れるように建っている貸し切りされてるそのお店のドアを美鈴ちゃんに促されるようにゆっくり開くといつもに増して大きな声の龍が手をあげていた。

「迷わなかった? 大丈夫?」
「うん」

 不安と緊張で声が上ずる。

「ましろさーーーんお久しぶりですーーーーーー!」
「真菜さん!」

 あの時と何も変わらない真菜さんの笑顔がそこにはあって、その隣に穏やかに笑うのはいつも私を守ってくれていた人達だった。

「西山さん、相馬さん」

「久しぶり」
「元気そうじゃん」

 それ以上深く聞くこともなく、ただ、そう言うと椅子を引いて座るよう促してくれた。


 まだレドモンのみんなはいないみたい。残念なようなよかったような……少し安堵している自分もいる。



 トントン、肩を叩かれて


「え、あ、ん?」
「何飲む?」

 龍に耳元でそう聞かれた。

 多分ずっと聞いてくれてたんだろう。相手の顔を見てないと唇も読めないし聞き逃してしまうことが多い。

「あっ、うん、ごめんね」

慌ててメニューに目を落としたら、背後にふわっと感じた風。

顔を上げるとみんなの視線が入口の方に向かっていて、誰かが到着したことに気付いた。


また心臓が高鳴りそれを落ち着かせるようにゆっくりと一つ息を吐き振り返った。


「ましろちゃん!」


そこにはあの時となんにも変わらない屈託のない笑顔の幸翔さんがいた。

「ごめんね、仕事抜けられなくて、遅くなっちゃった」
「幸翔、相変わらずイケメンだなー」

相馬さんにわしゃわしゃと頭を撫でられる幸翔さんは、相馬さんより背が高いのにまるで子供みたいになっている。

「楓雅と空は?」
「楓雅がファンの子に見つかってちょっと巻いてるみたい」


「ちょっとあたし迎えに行ってきますー」
「そうしてあげて」


真菜さんが車の鍵を手にしてドアを開けた瞬間

「うわっ、びっくりした」

ちょうど外から開いたのか真菜さんの大きな声が部屋の中、響いた。

「楓雅さん、大丈夫でしたか?」
「うん、遠回りしてきたから遅くなっちゃった……」

ゆっくり振り向くと、やっぱりあの時と変わらない、年月が経っても可愛らしい楓雅さんが。


そして、その隣、目が合うと吸い込まれそうになる。

「空さん……」

そう声を出すと空さんの口角が少し上がり、目じりが少し下がった。大好きだったあの優しい微笑みで目の前に立っている。



これは……夢じゃない。