「なんであんなに煽ったの?」

 帰り道、僕は空に聞いた。

「んー? あの真ん中にいた奴、陸だっけ? あいつちょっと俺に似てるな」
「シンパシー感じたのね」
「聞いた? あいつらさ、まだ結成して一年くらいしか経ってねーらしい」
「まじで?」
「しかもバンド形式になって十ヶ月とかだって。そんな奴らに負けんのかよ、負けらんねーよな」

 空は少し焦ってたんだと思う。それと同時に嬉しかったんだと思う。

 いつも一番でトップを走っていた空にとってこの上ないライバルが現れて戦える事にわくわくしてたんだと思う。

「ぜってー勝とうな」
「あぁ」
「俺らだったら絶対天下取れるよな」

 空がこんなに“勝ち”に拘るのには理由がある。それは単に負けず嫌いな性格ってのもあるんだけど、それ以上にもっと複雑な理由があるんだよ。



「あのー……」
「うわっ、びっくりしたー」

 誰もいないと思っていたのに背後から聞こえた少し甲高く触りのいい声が飛び込んできて一瞬三人ビクリと肩を上げた。

「なに、いたの」
「あ、はい、ずっといましたー」
「どうしたの?」
「デビュー曲なんですけどー、三十曲ほど書いてきてほしいんですー」


「はぁ? 三十曲?」
「ごめんなさいですー。上からの命令でー」
「空、書けるの?」
「書くしかねーだろ、一週間で書いてやるよ」
「ありがとうございますー」

 こうして僕達は半年間のデビューの準備期間に入った。